虹輝の蛇   作:ラーム将軍

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原生大陸レムリア
虹色の蛇


それは無数の星が輝きを放ち、月の光が降り注ぐ夜、寝床である岩床にて眠りに着こうととぐろを巻いていた時に突然現れた。

 

「こんばんわ!」

 

何だ?と思いながら声がした方に頭を向けと、其処には此方を見上げる小さな生物がいた。それは、肩まで伸びた薄い緑色の髪と清んだ赤い瞳、夜でも目立つ白い衣服に焦げ茶色の革の長靴を身に付けた人間の少年だった。

 

──何故、人間が此処に?──

 

"彼"は疑問に思った。この地に生まれてから長い年月各地を隅々まで旅して回ったが、此処、正確にはこの大陸には人間はいない筈だ。いや、別にそれは自分が知らない間にこの大陸にやって来ていたと考えればなんら不思議じゃない。一番の疑問は、"何故、危険な夜行性の生物が蠢く夜に人の子が一人で此処まで来れて、更に何故、自分に話しかけてきたのか"だ。

 

 

 

「何故此処に来れたかって?、簡単だよ。こう見えて僕は生物学者なんだ。この辺りの生物の生態をしっかり頭に叩き込んで油断さえしなければ、一人でも此処まで辿り着けるよ。しかも君、とっても大きいし若干虹色に輝いてるから道に迷わないし」

 

無邪気な笑顔で答える少年に、"彼"は驚愕の余り目を見開いた。どうして頭の中で思った言葉がわかったのか?。そもそも"自分"の言葉がわかるのか?

 

「あ、驚かせてごめんね!。僕…いや、僕達の種族は昔からモンスターの言葉や思っている事とかがわかる特殊な能力も持ってるんだ」

 

──そのような能力の持つ人間が居るとは……──

 

「あはは…信じられないよね、でも事実だよ」

 

にわかに信じがたいが、現に少年と"自分"が会話しているのだから信じざるおえない。

 

「あと、僕が一人の理由は、この一帯の動植物生態調査を僕一人で担当からだよ」

 

──何?──

 

こんな小さな子供が一人で調査をしてるだと?

 

──それは、どういう事だ?──

 

「詳しく話すと長くなるから後で説明するよ。それより君に話しかけた理由は、生物学者として凄く興味が湧いたからだよ!。だって、生物史上最大の蛇王龍ダラ・アマデュラやラヴィエンテを遥かに超える超極大生物なんだもの!!」

 

それから少年は、興奮気味に熱く語り始めた。本来、聞く義理なんて無いので無視しても良かったのだが、この大陸で最も大きな"自分"を前に臆することなく喋る少年に不思議と興味を抱いていた。

 

 

喋り続けて四十分ほどたった時、突然少年があっ!と声をあげた。

 

「いけない!、自己紹介するの忘れてた!!」

 

──なんだ突然………自己紹介?──

 

何を訳のわからん事を言ってるんだこの少年は?

 

──そんなものやる必要無いだろう?──

 

「そうはいかないよ。これは僕らが"声を観る"前にやらなきゃいけない事だからね」

 

そう言うと少年は、真剣な、されど優しい人懐っこい表情で言った。

 

 

 

「では改めて。初めまして、僕の名は『ピギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

 

少年が名前を言おうとした次の瞬間、頭上からけたたましい叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、微かに光を帯びた水平線と星が瞬く薄暗い夜空が広がっていた。どうやらまだ夜明け前のようだ。

 

──…………夢か──

 

随分と懐かしい内容だった。少年と出会ってからもう千年以上の時が経過しているだろうか。もっと見ていたかったが、それは頭上で喧嘩する二体の竜によってそれは叶わぬものとなった。

 

その二体とは、鳥竜種のイャンクックとホロロホルルである。

 

──またお前らか──

 

二年前、ライゼクスに追われていたこの二体は、偶然"彼"の寝床に入り込み、助けを求めるかのようにその巨体の影に隠れた。それを無視するほど"彼"は冷酷では無いため、追ってきたライゼクスを軽く睨み付けて森に追い返した。

 

それ以来、彼らは此処に住み着くようになり、遂にはどういう訳か、"彼"の頭上に寝るというとてつもない行動をとり始めた。別に気にしてはいないが、時より寝る位置をめぐって喧嘩をするのは勘弁してほしい。

 

ちなみに、彼らが此処に住み始めてから三ヶ月ほどたつと、いつの間にか寝床周辺の森林にイャンクックとホロロホルルの群れが暮らし始めるようになり、今でもお互い仲良く共存している。

 

 

 

………住み着くといえばもう一体、この寝床に住み着いたモンスターが居た。

 

それは先程から、"彼"の頭の横で二体の喧嘩を見ながらグフグフとくぐもった声で笑う巨戟龍ゴグマジオスである。通常の二倍もある巨体だが、極大の"彼"と比べるとその大きさは"彼"の頭部の半分にも満たない。また、あの黒い油を体に纏っていない珍しい個体である。

 

このゴグマジオスは、イャンクックとホロロホルルが住み始めて二週間後の早朝、今回のように"彼"の頭上で二体が喧嘩をしてる時に突如この場所に飛来し、彼らを見てくぐもった声で笑うとそのまま住み着くようになったのだ。

 

余りに意味不明かつ唐突なので、何故来たのか?聞くと、何とも単純な答えが帰って来た。

 

──暇つぶしに散歩してたらお前達を見つけて、此処に居れば退屈しそうにないから──

 

その答えに呆れながらも、危害を加える様子も無いため追い出す事はしなかったが、二体が喧嘩する度に止めもせず笑って様子を見るようになった。

 

──毎回見てて飽きないのか?──

 

──全く飽きんな。いやー此処に来て本当に良かったよ──

 

──……何度も言うが、私が起きる前に止めてもらいたいのだが?──

 

──断る。何度も言うがそれではつまらんからな──

 

何と性格の悪い龍だろうか。思わず此処から追い出してやろうかと思ったが、それはそれで居なくなったら寂しいし根は優しいため止めておいた。

 

とりあえず、まだまだ寝足りないので、二度寝をするために目を閉じる。喧嘩する二体はもはや無視だ。

 

それよりもあの夢をまた見る事はできるだろうか?もし見れるなら、続きが見たい。例え夢の中だとしても、またあの少年と喋りたい。

 

 

 

"自分の名を授けてくれた、かけがえのない友人"と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では改めて。初めまして、僕は声観族のアンセス。声観族って言うのは、さっき言ったモンスターの言葉と思考がわかる特殊能力を持つ人種だよ」

 

──アンセスか…………………ん?──

 

何故だろうか?、何処かで聞いた事があるような気がするがいったい……。

 

「あの、良ければ君の名前を教えてくれないかな?」

 

──私か?。悪いが私に名前は無い。龍は基本的に名は持たないからな──

 

「そうなんだ…いや、そうだよね。今まで出会ったモンスターもそうだったし、何よりお母さんもそう言ってたし…」

 

そう言ってアンセスは、俯いて暫く考え込んだ後、何かを思いついたのか顔を上げて"彼"を見た。

 

「あのさ、失礼を承知で言うけど、僕が君の名前を考えてもいいかな?」

 

──私の名前を?──

 

「うん、だって君って呼び続けるのも変って言うか、やだなって言うか……」

 

──別に構わないぞ。変な呼び名でなければな──

 

「ホント!。実は、姿見た時から頭の中にぴったりの名前を考えてたんだ!!」

 

──早いな──

 

「かなり安易なんだけど。君のその色を見たらそれしか思い付かないんだ」

 

──色?──

 

"彼"は自分の体を見る。蛇のような長大な胴体に巨大な翼腕。

 

 

そして、周囲を神秘的に照らす、輝く虹色の羽毛。

 

アンセスが言う色とは、間違いなくこの虹色の事だろう。"自分"では何とも思わないが、アンセスにとってはとても幻想的で魅力的に見えたようだ。

 

──安易でも構わない。聞かせてくれ、君が考えた私の名前を──

 

「う、うん。それじゃあ言うよ。君の名前は……」

 

 

 

確かに安易な名前だった。

 

 

 

誰にでも思い付きそうな、単純な名前だった。

 

 

 

 

 

でもそれは、小さくても優秀な生物学者が着けてくれた立派な名前であり………

 

 

 

「虹輝龍《こうきりゅう》ケテル・アマデュラだよ!」

 

 

大事な友人が着けてくれた、かけがえのない宝物だった。

 

 

 

 

 

 

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