あまり気持ちのいい話ではなくなりました。
ヤンデレと狂気が少々、苦手な方はご注意を。
よく聞いて。
女の子はね、男の子が持ってない権利を生まれつき持っているの。
どこかで泣いてたら、助けに来てくれる男の子が、世界に必ず一人いる……そういう権利。
でもね、この世界は広すぎるの。
世界でたった一人の男の子に巡り会えない女の子がたくさんいるのよ。
ねえ。
泣いてる女の子を助けてあげてね。
たった一人に巡り会えない女の子を、助けてあげて。
あなたにつけた、名前に恥じないように生きていってね。
人は死ぬと仏様になる。
死んだ人間とは触れ合うこともできないし、言葉を交わすこともできない。
だから、死んだ人間の言葉は、『絶対』になる。
新たな言葉を加えることができないから、それまでの言葉を何度も何度も、自分の中で繰り返し続けて……そうなってしまう。
それは、遺言じゃなくて、呪いって言うんじゃないの?
少女は、墓と向かい合ったまま心の中でつぶやく。
呟く相手は、少女にとってはおばさん。
幼馴染の母親は、どこまでいっても他人でしかない。
少女が幼馴染と結婚に持ち込めれば、『お義母さん』になるのだが。
ちなみに、幼馴染の少年の名は騎士。
騎士と書いて、ナイトと読む。
少年の母親が、父親をはじめとして親戚連中の反対も全て押し切って、産後の体を引きずるようにして役所に持ち込んだ。
病弱だったくせに、バイタリティに溢れすぎていた。
『だって、姓が
心の中で20回ほど繰り返す。
『ナイトなら許せる、ナイトなら許せる、ナイト……』
そして少女は、自分の両親に感謝した。
普通って素晴らしい。
そう、少女は『普通』だった。
あくまでも、自称、普通だった。
一部では、何故か『ヤンデレ』と呼ばれている。
そして、一部では『あれはヤンデレじゃないだろう』と評されている。
まあ、少年の名前について少々不満を持っているが、少し愛が重たいタイプなのは間違いない。
やがて、墓に祈りを捧げていた少年、
名前については、子供の頃からさんざんいじられたのは言うまでもない。
しかし、少年にとっては……母親が死んでからは、周囲の雑音など、何の意味も持たなくなっている。
もちろん、周囲の雑音を聞かないわけではない。
聞いて、判断して、切り捨てるだけ。
いらないゴミを捨てるように、少年はそれらを切り捨てることができる。
無関心。
少年は、母親の呪いにガッツリやられていた。
泣いている女の子を助ける。
慰めるのではなく、助けるのだ。
理由があれば、その原因を取り除こうとする。
当然、無理が出てくる。
力が必要だ。
子供の頃から問題児一直線だ。
高校生ともなると、周囲も少年のヤバさを察して、それなりの対応をするようになる。
いや、それだけではない。
少年の周りの、女たちがヤバイ。
少年が関わった、『泣いている女の子』の数からすれば、少数に過ぎない。
感謝はしても、少年を知れば離れていく。
好意が受け入れられなかったので離れるケースもある。
つまり、少年の周りにいる女たちはみんな、『少年のあり方を受け入れているか、離れられないぐらい執着しているか』の二択。
少年のあり方を受け入れている方は、自分を助けてくれた、助けてくれようとしたことについての感謝の念の比重が高めか。
なので、少年のそれを助けようと動く。
その一方で、『執着』組はおおまかに3つに分かれる。
まずは、『この人の優しさを自分だけのものにしたい』という勘違い系。
そう、勘違い。
幼馴染の少女に言わせれば、少年が女の子を助けるのは、優しさや愛なんかじゃないというわけだ。
次に、『この人はいろんなものが欠けすぎている。私が支えないとダメになっちゃう』という、だめんず系。
幼馴染の少女は、たぶん、ここ。
最後が、『崇拝系』。
かなり悲惨な状況から救われた女が、色々とこじらせた感じ……というか、少々ぶっ壊れている。
気が付けば、少年は女たちの檻の中。
檻の中でも、女たちの牽制がある。
経験を重ね、女たちのそれも巧みになっていく。
少年は、檻の存在を感じることもなく、泣いている女の子を捜す。
周囲の雑音は聞こえない。
いや、むしろ周囲は女たちしかいない。
鈍感ではない。
少年の周囲の女たちは、見える変化が現れないから感じようがない。
難聴でもない。
少年の耳に入るのは、コントロールされた情報のみ。
母親の狂気が、少年を狂わせた。
少年の狂気は、泣いている女の子を狂わせた。
正気の人間は弾かれていく。
あるいは、狂気に侵されていく。
一見、鈍感難聴系主人公による、ハーレム物語。
しかし、その実態は女たちのチキンレース。
先に動いたものが潰される。
狂気の宴が、始まる……。
もう一度言う、どこかで筆が滑った。