高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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野球とループもの。


14:おーる・ゆー・にーど・いず・うぃん。(オリジナル)

 劇的なサヨナラ勝利は、観客を魅了する。

 しかし、劇的なサヨナラ勝利の裏には、惨めなサヨナラ負けがある。

 

 負けて悔いなし、なんて言葉を俺は信用しない。

 負ければ悔いしか残らない。

 負けて悔しくないというのは、『どうやっても自分が勝てない』ということを受け入れてしまったことだと俺は思う。

 負けて当然。負けても仕方ない……それはつまり、『勝負じゃなかった』だけの話だろう。

 10年経っても、20年が過ぎても、受け入れられない負けがある。

 俺は、『勝負』というのはそういうものだと思っている。

 

 野球に限った事じゃないと思うが、『負ける』ってことは悲惨だ。

 

『なぜ、あの場面であんな球を投げた?』

『何年野球やってきたんだ?』

『打者がカーブを待ってたのは見え見えだったじゃないか』

 

 あの1球、あの1球、あの1球……俺はずっと言われ続けてきた。

 速球を投げて打ち取れる保証があるのかよ?

 そんな反論は意味がない。

 俺が投げた最後のカーブが、三塁線を抜けていった……その結果が全てだ。

 

 身体の感覚がもうない。

 目がかすんでいく。

 こんな気持ちを抱いたまま、俺は死んでいくのか……。

 ああ、チクショウ。

 最後に願いが叶うなら、あの場面からやり直してえよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 願いが叶った。

 9回裏二死、走者満塁。

 スコアは3対2。

 ああ、あのシーンだ。

 身体が軽い。

 くたびれた中年オヤジの身体じゃない。

 あの時の配球は完全に覚えてる。

 

 初球は、人を食ったようなスローカーブ。

 2球目は、アウトローに速球。

 3球目はボールになるスライダー。

 4球目は、胸元にハーフスピードのボール球。

 

 そして、運命の5球め……の状況。

 

 ……どう考えても、アウトローの速球で決める配球なんだよな。

 俺なら決め打ちするわ。

 ここでカーブを待つとか無いだろ。

 

 でもまあ、これで俺は、あの1球を乗り越えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サヨナラホームランじゃねえか!

 かんっぺきに、アウトローの速球を待ってた打ち方じゃねえか!

 でもまあ、それは打者のあいつがよくやったって話だから仕方がない。

 何よりもムカつくのがこいつらだ。

 

『なぜ、あの場面であんな球を投げた?』

『何年野球やってきたんだ?』

『打者がアウトローの速球を待ってたのは見え見えだったじゃないか』

 

 ふざけんな!

 お前ら、結局打たれたことだけが問題であって、理由は全部後付けなんじゃねえか!

 チームメイトから罵られるのはまだ耐えられるが、観客席から見てた人間に、グランドの中のことをグダグダ言われたくねえよ!

 

 もちろん、そんなこと言えないけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とか思ってたら、またあのシーンに舞い戻った。

 じゃあ、コースの問題か。

 意表をついて、インハイに最高の速球を投げ込んでやるぜ。

 

 

 

 

 レフトスタンドです、ありがとうございました!

 

 強く踏み込んだ分だけバッティングの体勢が崩れてたが、肘をたたむのではなく抜くようにしてバットを振り切りやがった。

 悔しいが、上手いと唸らざるを得ない。

 でも、あの打者が速球を待ってたのは間違いない。

 

 ああ、うるせえ、うるせえ。

 カーブは、打たれたんだよ。

 つーか、体勢崩してたの見えなかったのかよ。

 インハイの速球を待ってるのが見え見えとか、そんなこと言ってると笑われるぞ!

 

 やっぱ、こいつら、打たれた俺に、ケチをつけたいだけの連中だ。

 野球のことなんか、ろくにわかっちゃいねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ?

 

 ひょっとして、これって勝つまで終わらない?

 打者が待ってるのはアウトローの速球。

 インハイも打たれた。

 元々は、意識を外に持ってる打者の読みを外すつもりで、インコースのボールからストライクになるカーブを投げたら、3塁線を抜かれた。

 じゃ、じゃあ、内へのスライダーで、ボールからストライクを……。

 

 センター前ヒットでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、速球も、スライダーも、カーブも、全部打たれる。

 コースとか関係ねえ。

 そういや、ど真ん中は投げてなかったな……とかやったら、試合のあとの大ブーイングがすごかったわ。

 とにかく、打たれると俺が責められることはよくわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 うん、どうやらチェンジアップもダメだな。

 

 あ、もう1球ボール投げて、フルカウントで勝負してねえな。

 満塁、フルカウントで勝負とか、渋すぎるだろ。

 フルカウントで、ボールになるスライダーとか、通好みの配球だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チクショウ、バットの先っぽでフラフラとライト前に落とされた。

 でも、一番打ち取った当たりだった。

 手応えはある。

 

 まあ、当然のように試合のあとに罵声を浴びせられたけどな。

 

 そういや、『変化球で逃げるからあんな結果になるんだ!』って罵声は、初めてだったな。

 罵声も奥が深いぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうなってんだ?

 全部打たれるじゃねえか。

 まさか、神様は俺の心を折りに来てるのか?

 どうあがいてもお前が負けるんだよってか?

 ふざけんな。

 俺は勝つまでやるぞ。

 勝つまで諦めん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 9回裏二死、走者満塁。

 スコアは3対2。

 カウント2エンド2。

 

 さあ、ここで……『敬遠』だ!

 

 押し出しで同点。

 でも、この状況で負けない選択はこれしかなかったんだよ、チクショウ!

 牽制球で走者をアウトにできないか、とかもやってみたけどな!

 当然、味方の観客席からは罵声が飛んでくる。

 敵の観客席からは、笑い声と、馬鹿にする言葉が飛んでくる。

 知るか!

 次の打者を討ち取って、初めての延長戦突入だ。

 

 そしてベンチ裏で監督に殴られた。

 

 知るか!

 

 11回表に、勝ち越しに成功。

 そして11回裏。

 10回裏は普通に抑えたから、やり直せる保証はない。

 俺は、当たり前のことだが、この結末を知らない。

 何もわからない。

 暗闇の中を、ゴールを目指して歩いていく。

 

 

 エラーとヒットと四球で、二死満塁。

 

 高く舞い上がる白球。

 セオリーだと、投手の俺じゃなく、内野手に任せる。

 でも俺は、自分でこの勝負にケリをつけることを選んだ。

 落球したら、大ブーイングだろうな。

 そんな馬鹿なことを考えながら、俺は落ちてきたボールを受け止めた。

 

 ついに勝った。

 勝ったのはいいんだが、やはり自ら同点にする押し出し敬遠が問題になった。

 色々と言われたが、一番笑えたのはこれだ。

 

『高校生らしく、正々堂々と勝負を……』

 

 死ぬほど勝負したわ。

 そして全部負けたぜ、チクショウ!

 

 結局、勝とうが負けようが、批判にさらされる運命だったってことか。

 まったく、やってらんねえぜ。

 ああ、でも……な。

 

 

 勝ったから、笑って聞き流せるわ。

 どうってことない。

 

 ありがとよ、神様。

 いい夢見れたぜ。

 どうせ、死ぬ前の走馬灯みたいなもんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なあ、いつまで続くの、これ?

 次の決勝でも勝って、甲子園出場決まったんだけど?

 もしかして、負けるまで?

 いや、痩せても枯れても、高校球児だったからね。

 わざと負けるなんてできないし、やらないよ?

 というか、甲子園で負けたら、またあのシーンからやり直しなんて言わないよね?

 

 

 

 それとも。

 人生までやり直さないとダメなの?  

 

 




まあ、勝たなきゃ始まりません。
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