高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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タダのカオスの書き散らし。
山もオチもない。
世界の終末と、深淵のかけらと、精神世界。


15:雨が止むとき。(原作:怪異?神話)

 今日も雨は降り続く。

 世界から青空が奪われて……3ヶ月程になろうか。

 世界中で雨を観測。

 気象衛星から送られてくるデータで、青い星を包み込む厚い雲を確認できたという。

 ありえない。

 1週間で、各国の海岸線の侵食が始まった。

 海面の上昇。

 雨は降り続く。

 降り続く雨の、水分はどこから来たのか?

 物質保存の法則の崩壊。

 どんな理論も、降り続く雨という現実の前には無力だった。

 

 専門家が、知識人が、普通の人が、空を見上げながら、終末を感じた。

 

 陸が沈んでいく。

 人が追われていく。

 秩序の崩壊。

 インフラの崩壊。

 都市の崩壊。

 国の崩壊。

 そして、人の崩壊が始まった。

 

 空を見上げる人はもういない。

 見るのは足元だ。

 ひたひたと、侵略を続ける水の暴力。 

 人が死んでいく。

 早いか遅いかだけの違い。

 投げ出される命。

 奪われる命。

 世界が滅ぶより先に、人が滅ぶ。

 いや、人の世界が滅ぶのか。

 

 

 

 少女は、窓から降り続く雨を見つめた。

 標高1500mを超える都市の、8階建てのビルの7階。

 細々と続いていたラジオ放送が途切れて、何日が過ぎたのか。

 物理的に考えるなら、世界には3000メートルを超える標高の都市だっていくつもある。

 人はまだ、生きている。

 

「水と食料、調達完了」

 

 どこかすっとぼけた明るさを感じさせる声とともに、少年が現れた。

 全身ずぶ濡れである。

 

「いやー、ヤバイヤバイ、マジでヤバイ。もう、本気でヤバイよ……つーか、もう無理。食料調達とか、無理の無理無理」

 

 少女がちらりと少年を見る。

 

「昨日も、一昨日も、同じこと言ってたよね」

「だって、どうにかしないと、お前死ぬじゃん」

 

 そう言って、少年が犬のようにブルブルと顔を振って水気を飛ばした。

 

「あなたが食べろって言うから」

「つーか、言われなくても食べろよ、飲めよ」

 

 少女が、少年を見つめた。

 名前も知らない関係。

 世界の終末らしい、歪な関係の二人。

 

「もしも、明日、晴れたなら」

 

 少女が、歌うように。

 

「キスしてもいいわ」

 

 照れもせず、醒めた表情で少年に言う。

 そして少年が言い返す。

 

「初めてなので、愛情とかムードを要求する」

「馬鹿ね……何もできないうちに死ぬわよ」

「それでも、最低限、愛情を要求する」

「じゃあダメね。そんなものはないし、雨もやまないから」

 

 そう言い放って、少女は再び雨を眺め始めた。

 

「雨、やまないのか?」

「やまないわ。ずっと降る。降り続ける。最期まで」

「そっか」

 

 少年がため息をついた。

 世界が終わっている。

 世界には生きるつもりがない。

 そして本当に、世界が終わる。

 彼女の世界が終わる。

 

「みんな、君が目を覚ますのを待ってる」

「具体的に」

「……みんなはみんなです」

「嘘が付けないところは、評価してもいいわ」

 

 少女は、雨を見ながら会話を続ける。

 

「お医者さんなの?」

「微妙」

「……気になるわね」

「それが、手なんだ」

「そう」

 

 雨はやまない。

 小降りになることもなく、激しくなることもない。

 一定の、同じペースで降り続ける。

 悪い意味で、少女の精神は頑なに安定している。

 怒らせようと試みた。

 笑わせようと試みた。

 少年が何をやっても、少女の心は動かない。

 雨は振り続ける。

 少女は死に向かい続けている。

 

 少年は、少女の隣に並んで雨を眺めた。

 分厚い雲から、降り続く雨。

 悲しみがそれを降らすのか。

 苦痛がそれを降らすのか。

 もしくは、絶望がそうさせるのか。

 

「なあ、何があったんだ?」

「……もしかして、警察の人?」

「まあ、関係者というかそういうことになる」

 

 少女は少し考え、呟いた。

 

「人がいっぱい死んだわ」

「それは知ってる」

「生き残った人は?」

「君だけだ……と言っても、生きていると言っていいのかな、これは」

「じゃあ、死亡確認して」

 

 わずかに、雨足が強まった。

 

「責任を感じてるのかい?」

「理解できないことに、責任を感じろと言われても困る」

「君が関与したわけではない?」

「たまたま立ち寄っただけ。そして絶望を知った」

「現場を見て、何人もの警察官が発狂した……半分が自殺した」

「残りの半分は?」

「仲間を殺してから自殺した」

「あの場所はどうなったの?」

 

 少年が、困ったような表情を浮かべた。

 

「消滅した」

「ああそう、仕方ないわね……この世のものでないものが、元の世界に帰ったんじゃないかしら」

「……オカルトは信じてないんだけどなあ」

 

 不意に、少女が手を伸ばした。

 手のひらで、雨を受け止める。

 

「雨が止んだら、世界が滅びるわ」

「君が目を覚ましたら、世界が滅ぶと言ってるように聞こえる」

「そう言ってる」

「うん、厨二病って言うんだよね、それ」

「異物は世界を侵食するの。私の精神は、異物に侵食された……つまり、私が目覚めると、肉体の侵食が始まり、世界の侵食が開始される」

「うわあ、なんだかすごいことになってきちゃったぞぉ」

「……まあ、信用されるとは思ってなかったけど」

 

 そして少女が笑った。

 

「ねえ、もうあなたも侵食されたのよ」

「はい?」

「どういう方法を使ったのか知らないけど、あなた、ずっと私の精神に接触してたから」

「えーと……」

「じゃあ、試しに雨を強くしてみたら?」

 

 ここは、彼女の世界だ。

 苦笑しつつ、少年がそれを試す。

 

「いやいや、君がやったんだよね?」

「じゃあ、雨を止めてよ……それを望んでたんでしょ」

 

 少女の微笑みに、少年は喉が張り付くような感覚を覚えた。

 不意を突いて、雷雨をイメージ。

 

 雨が雷雨となった。

 

 少女が笑う。

 静かに笑い続ける。

 少女の笑い声に耐えられなくなって、少年は耳をふさいだ。

 耳をふさいでなお、その声は妖しく鼓膜を震わせ、頭の中に響く。

 

「ねえ、雨が止んだら……キスしてもいいわよ」

 

 囁くような声。

 興味も、好意も感じない、少女の瞳。

 少年は、『死』を感じた。

 

 

 

 

 

 

 雨はやまない。

 降り続ける。

 そして、少年と少女は二人きり。

 少女は相変わらず、世界の終りを待っている。

 少年は、深淵に囚われて、動けずにいる。

 

 




とにかくカオスを書きたかった。
夢も現実も精神世界もヴァーチャルも、ご自由に想像してください。(無責任)

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