高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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コメディにするつもりが、鬱話一直線に。(笑)


19:詰ンデレラ。(原作:シンデレラ)

 父が再婚しました。

 

 母を失ってから半年も経っていません。

 まあ、私もそれほど子供ではないので、『死なないため』には仕方のないことだって理解できます。

 

 新しい義母さまと、新しい義姉が2人。

 彼女たちも、父や私の事情を知った上での再婚なので……優しくしてくれます。

 

 娘である私が言うのもなんですが、お母様はたいそう美人でした。

 王様が、お父様から奪い取るぐらいには。

 

 まあ、逆らったら、殺された上でお母様を奪われるだけですからね。

 娘の私が殺されるかどうかはわかりませんが、お父様は確実に殺されます。

 顔で笑って、心で泣いて。

 お父様は、お母様を大人しく奪われました。

 

 すぐに再婚したのは『別に王様のことなんか、全然恨んでないんだからね!』というアピールです。

 

 まあ、生きているだけでありがたいというか……。

 お母様は、どうなるんでしょう。

 

 王様が飽きて、家臣に褒美として下げ渡されるか。

 王様が飽きて、城のメイドにでもならされるか。

 王様に気に入られて、王妃様に殺されるか。

 

 え、王様が飽きて、家に戻ってくるパターンはないのかって?

 

 あはははははははは。

 

 王様のお手つきの女性を下げ渡されるって、表面上は栄誉とか褒美って感覚ですよ?

 ただの民でしかないお父様が、王様に褒美を与えられる状況って、どんな?

 

 

 こんな国、滅んじゃわないかなあ。

 

 ……私に、もっと力があればなあ。

 

 とりあえず、刃物の扱いに慣れようと思います。

 

 

 

 

 夢のように2年の月日が過ぎました。

 

 お義母様と、お義姉様たちが、私を見て首を振ります。

 

「そろそろ現実を見ましょうか……」

「そうですわ、お母様」

 

 お母様には及ばないものの、私は美しく成長したみたいです。

 

「……シンデレラ。クソ王様の慰みものと、クソ王子の慰みもの、どっちがいい?」

「とりあえず、最初はおとなしくして、油断したところをナイフで刺して、私も死に……」

 

 言葉の途中で、お義姉様2人に、肩を揺さぶられてしまいました。

 

「気持ちはすっごく分かるけど!」

「それやったら、一家揃って殺されちゃうから!」

 

 お義母様が、申し訳なさそうに頭を下げます。

 

「ごめんなさい、シンデレラ……私も、死にたくないのよ」

 

 料理の合間に、ナイフさばきは随分上達したつもりだったけど……冷静に考えたら、家族のみんなが人質状態でした。

 汚い、さすが権力者、超汚い。

 

 

「家族なんて、持つもんじゃないですね……」

 

「やめてシンデレラ、心をえぐるようなこと言わないで!」

「……子供にこんなセリフを言わせるこの国って、ろくな国じゃないわね」

 

 お義姉様達の言葉が、どこか虚しく聞こえます。

 

 やがて、お義母様が、ため息混じりに呟きました。

 

「問題の先送りでしかないけど……シンデレラを人前に出すのはやめましょう。服装も粗末なものを着せて……」

「……そんなことすると、お義母様たちが、みんなに悪く言われるのでは?」

 

 馬鹿ね。

 家族でしょ。

 気にしないで。

 

 そう言って、お義母様たちに、抱きしめられました。

 多少自己保身が混ざっているのでしょうけど、私は家族の愛を感じられて幸せでした。

 

 

 3年が過ぎ。

 4年経ちました。

 

 クソ王子が色気づいたらしく、お城の舞踏会に街のみんな……15歳以上の女性を招待するとかなんとか。

 盛り上がっているのはクソ王子だけで、街のみんなは、完全に白けています。

 

 まあ、行かなければ行かなかったで、兵士による美女狩りが行われるんですけどね。

 そして、お母様のように……。

 

「シンデレラ」

「わかってるわね」

「あなたは何歳?」

 

 12歳と40ヶ月です。

 

「……いや、お義母様にお義姉様。さすがに無理があります。私が行かなかったところで、どうせ、誰かに密告されておしまいですよ」

 

 みんな、自分の身がかわいい。

 誰かを差し出すことで、自分の安全を買える。

 人の情なんて、紙切れ同然です。

 金貨の重みに、勝てる人間などいないのです。

 

 そして、みんな殺されて……私はひとりぼっちになります。

 そのときは。

 

「……シンデレラ、ナイフは置きなさい」

「ひとりぼっちになったら、ためらわずに使います」

 

「まあ、私たちが死んだあとのことは知ったこっちゃないけど」

「そりゃそうよね」

 

 お義姉様、クールです。

 

 ああ、それでも。

 商人としてほかの国のことを知っているお父様が言うには、『この国は、周辺の国に比べたら随分とましな国』なんだとか。

 

 こんな世界、滅んじゃわないかなあ。

 

 ……私に、もっと問答無用なまでの力さえあれば。

 

 ナイフ片手に、兵士や騎士、そして王家の連中を、スッパスパ斬り殺す想像をして、心を落ち着けます。

 でもまあ、現実は非情ですし。

 

 精々、油断しきったところを、数人ほど殺って、おしまいでしょう。

 たった数人では、私のナイフは世界はおろか、国にも届かない。

 

 

 そして私は、家でお留守番。

 

 早ければ明日にも、金貨で転んだ人間に密告されて、家族崩壊の現実にさらされます。

 

 そうですね。

 世界とか国とか、王家の人間を殺すなんて夢を見るよりも、金貨に転んだ人間を確実に仕留める方が、現実味がありますね。

 

 つまり、私の存在を知っている近所の人間か。

 それとも、パーティーが始まっている時間に、街を見て回る薄汚い連中か。

 

 ……どっちにしろ、こんな時間に私の家に近づく存在は、ろくな人間じゃないでしょう。

 

「ヒィッ!!」

 

 よく避けた。

 だが、二度目はない。

 

 ナイフを構えてますが、これは脅しです。

 殺すなら、声なんてかけませんよ。

 殺してから考えればいいんです。

 

「待って!待って待って待って!」

 

 我が家に現れた老婆は、明らかに胡散臭かった。

 それゆえに、怪しくはないとも言える。

 変な人ではあるだろうけど。

 

「お、お城のパーティに行きたいのかい?いや、行きたいよね?」

 

 少し考えた。

 私がパーティーに行けば、家族は助かるかも知れない。

 

 なるほど。

 この胡散臭い外見といい、これが悪魔というものですか。

 

 どうせ死ぬか、慰みものになるかなら……それもいいかもしれません。

 

「わかったわ。その代償に、何を望むの?」

 

 胡散臭い老婆が、いい笑顔を浮かべました。

 逆に、信用できます。

 

「お前の美しさをもらおう」

「わかった」

「……え、いいの?」

 

 逆に問いたい。

 美しさが、何をもたらす?

 私の母は、その美しさゆえに家族と離ればなれになった。

 美しいがゆえに、目をつけられる。

 美しいがゆえに、モノとして扱われる。

 

 王が、美しい宝石を持っていても問題はないかもしれない。

 でも、民がそれを持っていたなら災いをもたらすだろう。

 ああ、王もまた『美しすぎる宝石』を持っていたならば、災いに見舞われるのかもしれない。

 

 人には、分というものがある。

 足らなくても、足りすぎてもいけない。

 私は、母からそれを学んだ。

 

 強く、意思を込めてナイフを振る。

 

 母には遠く及ばないと思っているが、私はモノとして扱われるのはまっぴらだ。

 喜びも、苦しみも、悲しみも、痛みも……自分で選んで生きたいと願う。

 

 

 気が付けば、胡散臭い老婆はいなくなっていた。

 悪魔は、人の心の弱さに忍び寄るもの。

 

 そして私は、理解した。

 

 父の財産。

 母の美貌。

 義母の愛。

 義姉の情。

 

 自分の分を超えたものを、持ちすぎている。

 だから、選べない。

 だから、どこにも行けない。

 

 母譲りの髪を、ナイフで切った。

 

 ドレスはいらない。

 ただ、動きやすい服を。

  

 

  

 

 お城に乗り込む。

 正面から堂々と。

 ナイフを片手に、歩いていく。

 

 人が割れた。

 兵士が避けた。

 騎士が退く。

 

 私は既に死人。

 

 何を勘違いしたのか、鼻の下を伸ばして近寄ってきた王子を、蹴り飛ばす。

 もっとろくでもない外見を想像していたけど、そこそこ見られた外見だった。

 

 靴が脱げてしまったが、どうでもいい。

 

 視線の先に王がいた。

 私を見つめている王がいた。

 

 あの日から。

 ずっと。

 口にしたかった言葉。

 

「返せ……母を返せ!私の母を返せ!」

 

 あの日。

 母を失った日にかけられた魔法(のろい)が、ようやく解けた。

 止まっていた私の時間が、ようやく時を刻みだしたのを感じる。

 

 私はシンデレラ。

 

 お母様、今会いに行きます……。

 

 




ちなみに、母親は早々と王妃に殺されるルートで。

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