トラック。
神様。
異世界転生ですね、やったー。
現実は小説よりも奇なりというけれど、異世界転生って逆もありうるよね?
別の世界のからこの世界にやってきて、それをもとに転生小説を書いたとか……そう思うと夢が広がる。
ただちょっと気になるのは、僕の目の前にいる自称神様が10人ほどいるってことかな。
ついでに言うと、ほぼ全員、笑顔が不自然。
異世界転生に名を借りた、ブラック業務でも課せられるのかと思ったけど……。
「ああ、いやいや。できる限りそなたの希望にそった転生ライフをおくってもらおうと思っての?」
「そうそう。ならば、転生できる世界の選択肢は多い方が良かろうて」
「まあ、そういうわけで……希望を聞かせてもらうよ」
……ああ、うん。
嘘は言ってないけど、余計なことは喋らないって感じかな。
しかし、転生の希望か。
あまり文明が発達した世界だと、窮屈なイメージがするし。
5分ほど考え、ポツリとつぶやいた。
吟遊詩人になってみたいです。
旅から旅への三度笠。
現代人にはできないというか、憧れのようなもの。
命を粗末にしようとは思わないけど、どうせボーナスチャンスみたいなものだしね。
英雄になんてなりたいとは思わない。
でも、英雄の存在そのものには憧れる。
街から村へ、村から街へ。
酒場で、街の広場で、お祭りで、楽器を手に、英雄譚を歌い上げる。
そんな吟遊詩人に、なってみたいです。
神様サイド。
吟遊詩人ときおったか。
とすると、情報媒体が発達、拡散した世界は除外じゃな。
まあ、本人のイメージからして、剣と魔法の世界を望んでいると思っていいじゃろ。
ふむ、楽器の演奏及び、歌唱能力は必須じゃの。
楽器の手入れというか、作成もできるクラフト技術も必要か。
その世界というか、地域にあった曲、フレーズ……作曲や作詞、文学的センスに……。
ああ、旅から旅への生活になるから、サバイバル技術も必要じゃな。
吟遊詩人という職業が成立するということは、治安は決して良くないし、旅そのものが気軽に行えるものでもないだろう。
旅から旅への存在が警戒されるのはもちろん、排除される可能性は高い。
とすると、人をひきつける魅力というか、カリスマも必要じゃろう。
いや、待て。
英雄を語るということは、英雄が何をしたかを知る必要がある。
情報伝達が未発達の世界で、それを知るということは……。
ふむ、やはり英雄とともに冒険をこなす程度の力は必要だろう。
足でまといだと、同行を断られるの。
むしろ、英雄を救うことが出来る程度の力は必要か。
そうして英雄の為したことを間近で目撃することにより、吟遊詩人としてのオリジナリティというか、名や生活が保証されるだろう。
ふむふむ、これらを満たすだけの能力を付与して……やはり、加護を与える神は一人では不足だの。
さあ、みなのもの。
これから異世界で新たな生を得る若者に、必要な力を与えよう!
「くそっ!」
男が、酒場のテーブルを拳で叩く。
「……あなた、飲みすぎよ」
「飲まずに、いられるか……」
吐き捨てるように言って、男は酒をあおった。
王都の酒場。
勇者は荒れていた。
国を救った英雄。
龍を倒した勇者。
数々の名誉、賞賛の声。
その全てが煩わしい。
今も酒場では、英雄譚が歌われていた。
勇者の勇ましさを。
聖女の慈愛を。
賢者の英知を。
だが、もうひとり。
彼らの冒険に同行した、もうひとりの男が語られることはない。
「……それが、彼の望みだったから」
「
「もう、よせ。忸怩たる思いを抱いているのはお前だけではない」
勇者が、聖女が、賢者が、それぞれ背を丸めるようにして俯く。
やがて、ぽつりと。
「確かに嫉妬の気持ちはあるさ、でも、俺たちだけが賞賛されて、あいつの功績が語られないのは嫌なんだ」
勇者が、聖女が、賢者が。
自分たちの命を救った恩人の希望を考慮して、ひっそりと手記を残す。
せめて、自分たちの死後に、真実が伝わるようにと。
そしてそれは、この国に限った事ではない。
こうしている今も、吟遊詩人の功績を書き連ねる存在がいる。
吟遊詩人は、今日も旅の空。
吟遊詩人は歌う。
吟遊詩人は戦う。
吟遊詩人は、誰かを救い、誰かに感謝され、そしていつものように口止めをする。
そして、盛大に心をもにょらせながら、旅を共にしたある国の勇者や、ある国の英雄や、ある国の冒険者などに、英雄譚を押し付ける。
彼の作った英雄譚は数多く、様々な形で模倣され、吟遊詩人といえば、と名を挙げられるほど。
なお、自分の死後、はかったように世界各地で多くの手記が発表され、長い時を経たあと『究極のマッチポンプ勇者』『英雄譚を歌うために英雄になった男』などと呼ばれることを知る由もない。
異世界で始めるハローワークというネタでなんか書けそう。
異世界で食堂を開くために必要なスキルは、とか。
神様が、必要なスキルをこれでもかと付与して、結果としてみんなチートになっていく。(笑)