高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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やや、鬱話です、ご注意を。


21:選択(オリジナル)

 商店街の福引で、妻が1等を当てた。

 某温泉旅館、2泊3日の宿泊旅行。

 はは、豪勢なものじゃないか。

 

 うん、豪勢なのはいいんだが……核家族化の流れなのかな。

 その旅行券が、家族4人を想定していたというのは。

 我が家は、娘3人の5人家族。

 1人分足して全員で、といきたいところだが……どうにも、私のスケジュール的に日程が厳しい。

 仕事を終わらせて直接現地に向かって中途合流ということも考えなくもなかったが、妻と、娘3人……女ばかりの旅行の方が、娘たちも気兼ねせずにすむんじゃないかと思った。

 まあ、末の娘ももう、父親離れをする年頃……というか、父親という存在を疎み始める年頃だ。

 

 亭主が留守番で、妻と娘が元気……それでいいじゃないか。

 男という生き物は寂しがり屋だが、独りの時間が必要な生き物でもある。

 そういうことにしておこう。

 

 

 妻や娘たちは旅行の2日目、そして自分は休日。

 ゴロゴロしていても何も言われない。

『あなた、掃除の邪魔ですから』などと、居間から台所、そして台所から廊下へ、などと追い払われたりしない。

 

 ああ、良い休日じゃないか。

 

 気兼ねなく、トイレで立ち小便だ。

 便座に座って小便するという行為が、どれだけ男にとってストレスか……女性はわかってくれないんだよなあ。

 まあ、女性は女性で、男性に対して言いたいことは山ほどあるんだろうが。

 ……でも、ちゃんと掃除はしておこう。

 

 よーし、ベランダじゃなくて家の中でタバコ吸っちゃうぞ。

 後で臭い消し撒いておかなきゃな。

 

 昼間なのに、とっておきのウイスキーを一杯。

 ここでもう一杯とやらないのが、男の節度ってもんさ。

 酒を味わうんじゃなく、昼間の飲酒という味を楽しむんだ。

 

 外食なんかしない。

 カロリーだの、減塩だの、コレステロールだの、健康健康、もうケッコーってね。

 もちろん妻には感謝しているが、それはそれ、これはこれ。

 男の料理だ、脂と塩。

 

 ああ、本当に良い休日だ……。

 

 

 私は、妻と娘のいない休日を心ゆくまで堪能した。

 

 その夜、私は夢を見た。

 変な夢だ。

 周囲は真っ暗。

 そこにすっと、妻の姿が現れる。

 いつもどおりの妻だ。

 普段通りの口調で、こんなことを聞いてくる。

 

『ねえ、あなた。私と娘3人……この4人のうち誰か1人しか助からないとしたら、誰を助けたい?』

 

 馬鹿な事を言うんじゃない。

 みんな助けたいに決まってるだろ。

 私と、お前と、千春に千花、千夏の5人揃っての家族じゃないか。

 

 ちょっと困ったように妻が苦笑する。

 

『それでも敢えて1人をあげるなら?』

 

 困った。

 こういう究極の選択みたいなものが一時流行ったけど……本音を言えば、選ばせるなよそんなもの。

 まあ、『仕事と私、どっちが大事』なんて選びようのない選択を投げかけてくる女性は少なくないしね。

 仕方ないなあ。

 そもそも、妻と二人きりという状況で、ほかの名前をあげることもできないだろ……。

 

 そして私は、妻の名をあげた。

 

 

 

 妻の姿が消え、長女の千春が現れた。

 同じことを聞かれた。

 

 いや、仕方ないだろ?

 面と向かっては、お前が一番大事だよとしか言えないじゃないか。

 

 

 千春の姿が消え、次女の千花が。

 

『お母さんもお姉ちゃんもいないから、正直に答えても平気だよ、お父さん』

 

 お前がユダか。(笑)

 苦笑しながら、お前が大事と答えるしかなかった。

 

 

 そして最後に、三女の千夏が。

 私とは目を合わせず、そっぽを向いたまま、同じ質問をしてくる。

 

 そういえば、最近あまり会話もしてなかったか。

 子育てに正解はないとはいうけれど、ちゃんと気にかけているという姿勢だけは、いつも示すべきだと思う。

 

 私が答えると、千夏は睨んできた。

 難しい年頃だなあ。

 

『お父さん。さよなら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、電話でたたき起こされた私に、残酷な現実が突きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 火葬場で、空へとのぼっていく煙を眺めながら、埒もないことを考える。

 あの時私は、1人だけなら助けられたのだろうか。

 

 選択するということは、選ぶということは。

 どの痛みを受け入れるか、覚悟を決めることなのか。

 だとすれば、あの時、私は何も選ばなかったと言えよう。

 

 心が弱っているのだろう。

 あれは、ただの夢だ。

 

 それでも、あの、私を睨んだ千夏の眼差しを忘れることができそうもない。

 

 

 




そういや、『あ〇たの知らない世界』っていつごろまでやってたんだろう。
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