確か、ナックと呼ばれていた気がするのだが。
わけもわからないまま、このトリフェルズに連れてこられて……最初はなんだかなあと思っていたけど。
良かったと思う。
同室のノイシュは、少し変わってるけどいいやつだ。
ネルトのやつは、ちょっとお調子者だけど、親友だって思える。
スタンベルクは……まあ、嫌味なやつだとは思うが、尊敬できる部分もある。
バイケルは、ちょっとひねくれてるかな。でもまあ、商人になるという夢を語るあいつは、悪い奴じゃないと思った。
コーは、頑張り屋だ。
モリッツに、フェルデンに、カステル、リンデル……まあ、クセはあるけど、知り合いがたくさんできた。
柄じゃないなと思う。
でも、ここに連れてこられてもうすぐ3年。
このトリフェルズ校初等部も卒業だ。
先日の進路指導で、校長に言われた。『進学先を選べ』と。
その言葉の意味が分かるまで、少し時間がかかった。
そして、言葉の意味を理解したら、たまらなくなった。
初等部を卒業したら……みんなそれぞれに進路を選んだら、離ればなれになってしまうんだ。
中等部を卒業して、そこでさらに高等部への進学を希望すれば、また会える奴もいるだろう。
でもそれは……きっと。
お前の道を歩めと親父には言われたけど。
それは、誰もが、自分の道を歩んでいくことなんだろう。
だったら、同じ道を歩いていきたい相手がいるときは、どうしたらいい?
最初の印象は、怪我をした山猫だった。
こちらのことなんて、これっぽっちも信用していないって感じ。
自分だけを信じているから、自分しか信じられないから、思い込みが激しい。
なのに、本当は優しい。
優しくて、不器用で、誰かを信じたいのに、信じられなくて。
ほっとけなかった。
クラスから孤立しかけたこともあった。
女優を目指していることを知った。
父親がいなくて、母親に育てられたことを知った。
わかりあえる、なんて言うつもりはない。
この3年で、彼女が変わったように、自分もまた変わった。
毎日、新しい自分が生まれてくる。
毎日、新しい彼女と出会える。
学長室を出て、歩き始めていた。
走り始めていた。
彼女の姿を探して。
「エルツ!」
彼女の名を呼びながら、走った。
変な奴だと思われているだろう……今更だな。
ああ、そうだ。
こういう時はモリッツだ。
「エルツなら……ふふふ、ごちそーさまってね」
グラウンドを走る、彼女がいた。
走る彼女の姿を見つめていた。
彼女のことを、『可愛い』ではなく、初めて『綺麗だ』と感じた。
エルツは、マンハイムに進学するらしい。
ああ、そうか……と呟くしかできなかった。
エルツを見て、すぐに目をそらす。
エルツもまた、俺を見たと思ったらすぐに目をそらす。
日が暮れていく。
強くならなきゃ、と思う。
勉強もしなくちゃ、と思う。
そして、何よりもしっかりしなくちゃと思える。
お互いに逸らしていたはずの視線が、タイミングを計ったように重なった。
高等部で。
そう言って、俺が伸ばした手を……彼女はじっと見つめ、おそるおそる手を伸ばして、こわごわと握ってきた。
もう一度言う。
高等部で、また。
ぎゅっと、手を握られた。
「うん、うん……うん」
何度も頷きながら、エルツが涙をこぼす。
約束。
このさよならは、約束のさよならだ。
寮の自室に戻り、ベッドに寝転んだ。
そんなつもりはなかったが、ウトウトとしていたらしい。
気が付くと、俺の体に覆いかぶさるようにして、ノイシュがじっと俺の顔を見ていた。
の、ノイシュ……?
昏い目をしたまま、ノイシュが呟く。
『きみのせいで、世界が滅んだよ』
ベストエンディングを迎えて、プレイヤーが初めて知る世界の理不尽。(笑)
ちなみに、エーベルージュはシステムとか、シナリオとか、色々ともったいなあと思ってます。
ああ、スペシャルとか『2』とか、ラジオドラマは知らないです。