高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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インベーダーとかギャラクシアンとか、平安京エイリアンなんかはともかく、ある意味私が一番最初にハマったゲームがこれですね。
2面以降の、鉄アレイとか看板が落ちてくる殺意の高さに痺れた。

若い子おいてけぼりのネタなので、ネタを知らなくても読める話にしました。


23:クレイジーなやつら。(原作:クレイジークライマー)

 4時起床。

 腹筋と腕立て伏せ50回を2セット。

 そして1杯の牛乳。

 まだ暗い街を、30分ほど走って軽く汗を流す。

 シャワーを浴び、着替えてから朝食を取る。

 

 空が明るくなってきた頃、ホテルを出た。

 仲間と、連絡を取る。

 

「俺だ」

『よう、相棒。条件はパーフェクトと言っていい。気圧も安定していて、登山なら最高のアタックチャンスってやつだ』

 

 まあ、山には山の、街には街の風が吹く。

 いつだって自然は、気まぐれだ。

 人間が気を抜いた瞬間に、命を奪いに来る。

 

「そうか。俺も、コンディションは悪くないよ」

『おかしいのは、頭だけってか』

「はは、違いない」

 

 相棒と、笑い合う。

 姿は見えなくても、容易にその姿を思い浮かべることができた。

 

 何でもない会話を続けながら、街を歩いていく。

 

 ……見えてきた。

 

 そびえ立つ高層ビル。

 でかい、と思うんだろうな、普通の人間は。

 山に行ってみろよ。

 200メーター、300メーターを超える岩壁が、ゴロゴロしている世界だ。

 アルプスの、1000メートル超の岩壁のことを聞いたことはないか?

 目の前に、超高層ビルが次々と現れる……そんな世界だ。

 

 まあ、岩壁を避けてルートを取るのもアリの世界だが。

 

 じっと手を見る。

 いや、指を見る。

 指一本で、己の体重を支え、持ち上げる。

 手がかりさえあれば、どんな岩だって登れた。

 岩壁の覇者と呼ばれたこともある。

 

 この手が、この指が、支え、持ち上げることができなかった相棒の顔を思い出す。

 

 あの日、あの時、あの山の、あの壁で、俺は相棒(バディ)と一緒になにかを落としてきたんだろう。

 山の世界から去った俺が、なんの因果か……街で、ビルを相手にしている。

 

 ああ、街が目覚めると面倒なことになる。

 

「今からいく」

『オッケーだ!空で待ってるぜ、ケチャップのなりそこない』

 

 特に気負いもなく、俺はビルの壁面に指を掛けた。

 命綱なんてものは、当然ない。

 死ぬ時は死ぬ。

 それは、山も、街も、同じこと。

 ただちょっとばかり、確率が違うだけの話だ。

 

 指に力をいれ、身体を引き上げる。

 足が地面を離れ、生と死の境界が曖昧な世界へと飛び込んだ。

 

 

 両手、両足。

 4つのうち3つで身体を支え、残りの1つを休息させる。

 これを繰り返しながら、俺は登っていく。

 

 ああ、そろそろか。

 残念なことに、有名税ってやつだ。

 俺がビルを登っている映像を、誰かがネットにあげたらしい。

『リアルス〇イダーマン』などとタイトルをつけてね。

 おそらく、この人間には悪意なんてなかったのだろう。

 ただただ、びっくりしたからみんなに教えたかったとか、そんなところだと思う。

 

 そして、今さら説明するまでもなく、俺の行為は違法で、いわゆる犯罪者ってやつだ。

 

 つまり、犯罪者が、馬鹿なことをやっている。

 それを邪魔するのは正しいことだ。

 

 そんなところか。

 

 そういうやつらが、ビルを登る俺に向かって、モノを落としてくる。

 

 落ちたら死ぬ。

 当たり前のことだが、殺人という意識はないのだろう。

 そして俺もまた、そうした妨害をのみこんだ上で、この犯罪行為に身を投じている。

 

 風が吹く。

 落石がある。

 

 山も、街も変わらない。

 

 俺は、ビルを登る。

 それだけだ。

 

 

 突風が吹く。

 これは、山も街も変わらない。

 ぺたりと身体を壁面にはり付けてやり過ごす。

 

 強風が吹く山の稜線で、地面との隙間を空けて伏せるとどうなるか知ってるか?

 腹側と背中側で、気圧の差が生じる。

 つまり、飛行機の翼と同じだ。

 ふわっと、身体が持ち上げられて……飛ばされる。

 

 

 ビスケットをかじり、空を見上げる。

 世界のどこでも、空は同じという奴もいるが、俺はそうは思わない。

 さっきみた空と、今見上げている空は、もう別物だ。

 

 ここまで来ると、もう妨害はない。

 いや、なぜか鳥が襲って来ることもあるが。(笑)

 ただ、風が強い。

 そして、ビル登りを始めてから知ったことだが、ゆらりゆらりと、ビル自体が揺れる。

 もちろん、登るペースは落ちる。

 

 一歩一歩、いや、一手一手か。

 俺は登っていく。

 空に向かって。

 アンナプルナの空で見た渡り鳥を思い出す。

 人は、鳥にはなれないのだと思った。

 エベレストの夜空で見た、人工衛星を思い出す。

 あの時俺は、無意識に、空に向かって手を伸ばしていた。

 

 空へ、空へ。

 人が住めない場所へ。

 なのに俺は、その場所で生を実感する。

 落ちれば死ぬ。

 それが一層、空に生を感じる理由だろうか。

 

 

 やがて、右手が、縁を掴む。

 目の前から、壁が消える。

 ほんの一瞬だけ、自分が空にいるという錯覚を感じる。

 

 周囲を見渡し、ここより高い場所がないことを実感する。

 俺は今、世界を踏みつけているのだ。

 

 

 

 東の空から、相棒の乗ったヘリが近づいてきた。

 長居は無用だ。

 

 俺はまた、ビルを登るだろう。

 

 

 

 

 

 

 一度だけ受けた雑誌のインタビューの内容を、ここに記す。

 

 

『なぜ山に登るのですか?』

『そこに山があるからだ』

 

 有名すぎるやりとりだ。

 しかし、俺はこのやりとりにどうしようもない悲しみを感じてしまう。

 正確に言うと、この疑問を投げかけた人間に対して、『まあ、どう答えたところで理解されることはないな』という諦念がうかがえるからだ。

 

 登山に限った事ではなく、野球だろうが、ボクシングだろうが、はたまたどんなジャンルにせよ、あるレベルを突き抜けた人間に対し『なぜそこまでやるのですか?』という疑問をいつだって世間は投げつけてくる。

 そういう意味では、生活費を稼ぐという意味での『プロ(職業)』は便利な言葉だ。

 金と名誉のためと答えれば、なんとなく納得してもらえる。

 

 疑問に思うのは相手であって、相手の疑問を解消したいとは思っていない。

 ただ、そのてのやりとりが煩わしいと思うから、『相手が納得しそうな答えを与える』だけのことじゃないか。

 

 金も、名誉もなく。

 厳密に言えば、『犯罪者』というレッテルを貼られるだけの行為に身を投じる俺は、どうしようもない。

 無理に理解しようとしないでくれ。

 肩をすくめて、こう言えばいいのさ。

 

『クレイジー』と。

 

 




知人に言われた一言。
『上海で何か書けない?』

……むちゃぶりにも程がある。(泣)
だから、むちゃぶりで応えてやったぜ。
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