高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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たまにはこういう話も書かないと。(笑)


25:おじさんと少女の、心が震えるお話。(オリジナル)

 その男は、善人とは言えない。

 

 家族との仲はほどほどだ。

 仕事はほどほどにこなす。

 愚痴に近い形で、他人の悪口を言うこともある。

 買い物で多くお釣りを貰い、それに気づいていながら懐に入れたりもする。

 他人もやってるからという理由で、ちょっとばかり社会のルールを破ったりもする。

 

 どこにでもいる小市民だ。

 罰せられるのが怖いから、悪いことはしないというタイプ。

 まあ、悪人ではないだろう。

 

 

 ある日、男にはいいことがあった。

 気分がいい。

 それゆえに、普段ならやらないことをした。

 浮かれていたとも言えるだろう。

 

 泣いている女の子に、声をかけた。

 

 外見が10歳そこそこの泣いている少女に、中年オヤジの声かけ。

 

 おまわりさん、こいつです。

 

 後でその状況を思い返し、男は冷や汗をかいた。

 根っからの小市民である。

 

 しかし、まあ……。

 この男のおかげで、少女が泣き止んだのは事実だ。

 別れる時には、笑顔を取り戻した。

 いいことだ。

 大人として、胸を張っていいこと。

 

 男は知らないが、事実、少女は男の存在に救われたのだ。

 声をかけてくれたこと。

 話を聞いてくれたこと。

 不器用ながらも、話をしてくれたこと。

 

 何でもないようなことに、人は、心を救われたりもする。

 

 

 

 

 

 男に、不幸が訪れた。

 働いている会社が、なくなったのだ。

 完全なる不意打ち。

 不祥事に、行政指導やら、不調が続いていた経営やら、様々な要素が絡んだ結果だった。

 

 まあ、一言で言うなら、運が悪かった。

 よくある、よくある。

 どんまい。

 

 男は、ふらふらと公園へ。

 奇しくも、以前少女が泣いていた場所。

 公園は、心が弱った人間を惹きつける何かがあるのかもしれない。

 

 ベンチに腰掛ける。

 空を見上げ、ため息をつく。

 失業保険、再就職、養うべき家族……頭の中をぐるぐる回る言葉が、男の心を削り続ける。

 会社がなくなることを覚悟はしていた。

 しかし、実際になくなると。

 

 視線を地面に落とし、ため息をつく。

 心が沈んでいく。

 

 

 少女が、現れた。

 あの時にくらべて、少し大人になった少女。

 声をかけてくれた。

 話をしてくれた。

 

 現状は変わらないが、男はそのことに救われた気持ちになった。

 

 社会に出ると、結果で語られることがほとんどだ。

 それでも、と男は思う。

 

 少女が自分に声をかけてくれたこと。

 

 それは、決して意味のないことじゃない。

 無意味なんかじゃない。

 

 男はぎこちなく微笑み、感謝の言葉を告げた。

 手を振って、少女と別れる。

 

 男の背中を見送りながら、少女がつぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちょっと早かったかな。

 

 

 

 

 

 

 うまくいかない。

 再就職は果たしたが、いわゆる金銭面における条件が悪かった。

 決してそれだけではないが、家族との仲がこじれた理由に、経済的な側面があったのは確かだろう。

 

 やがて、男の家族はバラバラになった。

 

 守るものをなくすと、途端に精神的な張りをなくすタイプは、男性に多い。

 男も、そのタイプだった。

 

 仕事にも身が入らない。

 引っ越したアパートでの一人暮らし。

 生活が荒れていく。

 

 ふ、と。

 あの公園のことを思い出す。

 声をかけた少女。

 声をかけてくれた少女。

 

 男の心は弱っていた。

 なにか、すがるものを探していた。

 

 足を伸ばしてしまう。

 かつて、自分の家があった町。

 自分の家族があった場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……待ってた。

 

 いろいろと頑張った。

 お金も、人もたくさん使った。

 ようやく、報われる。

 

 来る。

 あの人が来る。

 心が踊り、笑みがこぼれる。

 

 弱りに弱ったあの人を。

 優しく受け入れてあげよう。

 あの時、あの人が私にしてくれたように。

 

 

 




こ、こういうのでいいんだよ、こういうので。(震え声)
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