高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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この物語には、ヤンデレが『複数』存在します。
それを前提に、想像しながらお読みください。


26:日常に潜むヤンデレ。(オリジナル)

 バイトを終えて、家に帰る。

 郵便受けから、チラシと封筒を取り出した。

 

 ん?

 

 通り雨でも降ったのかな。

 少し湿っていた。

 

 

 家の鍵は開いていた。

 いや、別に慌てるようなことじゃない。

 

「おかえり」

 

 し、親しい友人の杏子だ。

 レポートとノートの借りを返すということで、今日は手料理を振舞ってくれる。

 あらかじめ鍵を渡してあった。

 

「待っててくれなくても良かったのに」

 

 そう言って、わざとらしく笑い。

 

「お前は所詮、飯だけの関係だからな」

 

 ……叩かれた。

 ノリが悪い。

 

「ご飯作って、はいさよならってのもね……一応、反応を直に確認はしたいし」

 

 ちょっと照れたように杏子。

 騙されるな。

 こういう態度の後に、『一生のお願い』をぶつけてくるのが、コイツのスタイルだ。

 

「待ってる間に、勝手に部屋とか掃除したわよ」

 

 ……べ、別に、困ることなんてない。

 大丈夫だ、問題ない。(震え声)

 

「案外きれいにしてるのね」

 

「あー、そうかも。最近、目に見える部分は片付けたりしてたから」

 

 などと適当な事を言っておく。

 ちょくちょくコイツが部屋にやってくるから気をつけている……とは言わない。

 

「あ、そういや……雨とか降ったか?」

「たぶん」

「なんだよ、たぶん、って?」

「いや、ベランダに干してある洗濯物、ちょっと湿ってるのがあったから、そうなのかなって」

「乾かなかっただけじゃなくて?」

 

 杏子が顔をしかめた。

 

「ジーンズが乾いて、トランクスが乾かないってことある?あと、干してある場所」

 

 ああ、と思う。

 靴下やパンツは、ベランダの隅だな。

 雨が吹き込んできたわけだ。

 

「洗い直しかよ……」

「ちゃんと洗っておいたわよ」

 

 しれっと。

 

「汚いから」

「おい」

「捨てたほうがよかった?」

「いや、そうじゃなくてな……俺の存在が汚いって言われた気がして、ちょっと、心がひゅってなっただけ」

 

 つーか、雨に降られただけで、洗濯物捨てるとかあるのかよ。

 綺麗ずきにも程があるだろ。

 

 確かにこいつ、料理だけじゃなく、掃除とかも上手だしな。

 

「あなたは汚くないけど、汚物は消毒レベルの存在はいるわね、確かに」

 

 汚部屋ってやつか。

 俺のつぶやきに、杏子が反応する。

 

「ゴミは処分しないと」

「そうだな」

 

 

 杏子の作った飯を食う。

 やはりうまい。

 自分で作らなくていいってのが、さらに美味しく感じさせる。

 

「ふふ……」

 

 俺を見て、杏子は笑う。

 

 まんざらじゃ……ないんだよな、きっと。

 そろそろ、頑張らなきゃいけない時期……なのか。

 

「そういや、この前はサンキューな」

「ん?」

「いや、弁当の差し入れだよ。マジでうまかったし、助かった。バイト代が入る前だったし」

 

「……」

 

 なに、その沈黙。

 

「……あ、あの時の」

 

 杏子が、ぽん、と手を叩く。

 

 そうですか、忘れるぐらいの些細なことですか。

 ぐぎぎ。

 男に弁当の差し入れって、一大イベントじゃないんですかねえ……。

 

 こういうとこだよ。

 こういうとこが、今ひとつ踏み切れない理由なんだよ。

 

 心のやりどころを探すように、部屋の中を見回した。

 

 ああ、やっぱり、俺の掃除とは違うわ。

 なんか、壁とかも綺麗だし……。

 

「なによ、あのゴミ袋」

「チリ箱のゴミと、生ゴミが溜まってたから。この辺って、明日は燃えるゴミでしょ」

 

 オカンや。

 オカンがおる。

 

 

 

 

 

 食べたら洗い物。

 いや、料理に洗濯に、部屋の掃除。

 洗い物までさせられねえよ。

 

「じゃ、そろそろ帰るわ」

「おい、もうちょっと待ってろ。送るから」

「子供じゃないからいいわよ」

 

 杏子は俺の言葉をさらりとかわして……ふっと、窓の方に視線を泳がせた。

 

「どうした?」

「……いえ、虫かなにかでしょ、きっと。あ、そうそう返しとくわ、これ」

 

 杏子が、俺にカギを渡す。

 

 あ、合鍵だから、もらってくれてもいいんやで。(心の声)

 

 まあ、言えない。

 カギを受け取り、なんとなく見つめる。

 

 微かな違和感。

 いつも使ってる方じゃなく、予備の鍵だからか?

 

 は、もしやこれは杏子の家の合鍵というパターン……なわけないか。

 

「じゃあね。また試験前にはお世話になるわ」

「へいへい。どーせ勉強するんだから、お前のうまい飯が食えるぶん、役得だわ」

 

 

 杏子が帰り、洗い物も終わる。

 

 女々しいとは思ったが、ハンガーにかけたジャケットから家のカギを取り出して、返されたカギと比べてみたり。

 

 同じ鍵です。

 妄想、乙。

 

 

 

 しばらくして、電話が鳴った。

 スマホじゃなく、家電のほう。

 

 杏子だな。

 

『ちゃんと無事に帰ったわよ。おやすみ』

 

 言葉が少ないのは、照れだと思いたい。

 

「ああ、おやすみ」

 

 

 最初は、杏子らしくないなとは思ったが、もう慣れた。

 正直、家電なんてもう必要ないと思うんだが、気まぐれのようにおこる杏子とのやり取りが、それをためらわせる。

 

 それに、普段のスマホじゃなくて、家電でのやりとりの際、杏子の声が少し甘えて聞こえるのだ。

 

 それがたまらん。

 

 それを言ったら二度とやってくれなくなる気がするので、この件については俺は口をつぐむと決めている。

 メルヘンらしく、二人だけの秘密だな。

 

 

 

 頭を抱えて悶えた。

 俺、ちょっとやばい。

 

 性欲もあるが、この気持ちは恋愛だ。

 

 

 ん、なんだこれ?

 ゴミ袋の中が透けて……値札?

 

 なんとなく、ゴミ袋を開けてみた。

 

 

 

 ……綺麗好きですね、杏子さん。

 トランクスの値札やんけ。(ハサミでカット済み)

 おう、トランクスの入ってた袋かこのビニールは。

 

 

 

 えっと。

 これはつまり、『その時、汚いトランクスなんか履いてたら殺す』ってことか。

 

 いやいやいや、まだ慌てるような時間じゃない。

 

 その時が来たら、当然新品なんてのは、男子高校生の価値観だ。

 大学生ともなれば、綺麗だけど新品じゃない……程よい下着を身につけて臨むものだよ。

 

 つまり、このトランクスに馴染んでおけ、と。

 

 

 なんとなくカレンダーを見る。

 2ヶ月後には、クリスマス、か。

 

 くそう、罪な女だぜ、杏子。

 

 

 

 

 

 

 さて、寝るか。

 と、横になったところで、ふと気づく。

 

 あれ、ゴミの中に、捨てたトランクスはなかったよね?

 

 

 

 ま、いいか。

 

 




たぶん、レベルの高い人は私が想像もしない行間を読むと思います。(笑)
例えば、『見せたくないゴミはあらかじめ出してある』とか『郵便物は、誰が、どういう理由で濡らしたのか』とか。

敢えて、正解というか、私の想定は公表しません。

ヤンデレという名の怪物は、みんなの心の中におるんやで。(投げっぱなし)

追記。
私の知人が震えるような意見を出してくれました。

杏子のセリフ「案外きれいにしてるのね」を。
      「案外(女関係は)きれいにしてるのね」に。

杏子さん、どんな男を相手にしてきたんですかねえ。(震え声) 
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