それは、いきなり視界に現れた。
ギョッとするほど、ウブじゃない。
そして、『見えないフリ』をするほど薄情にもなれない。
『お人好しも、程々にしておきなさい』
彼女の言葉がよみがえる。
ああ、あれからもう……30年以上過ぎたのか。
名状しがたい生き物が、しばらく何も言わずに私を見つめていた。
昔は猫が多かったな。
まあ、『使い魔』のイメージなのか、小動物が基本なのは変わらないけど。
「……失礼しました。現地の協力者としてあなたを推薦されたのですが、正直意外だったもので」
「ああ、もっと若い男だと思っていたんだろう?」
皮肉とも、ジョークとも取れる返し。
これの対応で、大体見当がつく。
魔法少女のパートナーも、最近は腹黒系が少なくない。
時代の流れというやつだろうか。
いや、昔もひどかったか。
少し、笑ってしまった。
魔法の世界から、この世界に修行にやってくる……私が初めて出会った、魔法少女もそうだった。
当時はまだ少年だった私は、修行場所にこの世界を選んだことを不思議に思ったものだった。
まあ、その理由というのが……なかなかに痺れたが。
魔力の制御、魔法の習熟……未熟な場合は、事故が起きる。
魔力の多い者の事故は、周囲に大きな被害をもたらしかねない。
そういって、『魔法世界の女王候補の付き人(?)』である、あのクソ猫は普通に笑ったね。
『この世界で事故が起きても、私たちの世界には被害が出ませんから』
俺は生まれて初めて猫に暴力を振るった。
そして、『彼女』も、俺と一緒になって猫を虐待してた。
今となっては、いい思い出だ。
この世界に不慣れな彼女のサポート。
その過程で、彼女のライバルである女王候補とも出会い……どちらとも、いい関係を築けたと思う。
彼女たちは、自分の正体を世界に晒すことなく、修行を終えて帰っていった。
誰が女王に選ばれたのか……俺はその結末を知らないままだ。
あれを皮切りに、俺の前には数え切れない程の魔法少女が現れ、通り過ぎていった。
別の世界からやってくるのではなく、この世界の人間に力を貸して便利につかわれるタイプの魔法少女が増えたのはいつごろからだったか……。
と、いうか……この世界って、頻繁に滅びそうなピンチに見舞われてる。
3ヶ月おきに世界の危機とか、ざらだ。
一度に3人というか、3つのグループの魔法少女のサポートをしたこともある。
まあ、最初は何度も死にかけたし、いわゆる悪堕ちした魔法少女を拳で改心させたことも数え切れない。
拳以外のもので改心させたことも少なくない。
敵に怪しげな術や薬を使われ、ヤバイ状態になった彼女たちを……いや、この話はよそう。
あのクソ猫のセリフじゃないが、『別の世界からやってきた魔法少女相手だとさほど後腐れもない』が、この世界出身の少女の場合は、後で痛い目を見る。
まあ、私も……どこに出しても恥ずかしくないクズ野郎ってことだ。
歳を取って、多少丸くなり、道理をわきまえるようにはなったがね。
人外を改心させたこともある。
というか、人外相手が一番後腐れがない。
しかも、一度改心させれば、ずっと忠実に従ってくれるからな。
さて、いつまでだんまりを続けるのかな?
小動物に、微笑みかけた。
「あ、あの……現地人と聞いていたのですが?」
私は、笑う。
「魔法がない世界だからって、好き勝手できると思うなよ」
「いや、あなた使えますよね?魔法、使えますよね?」
ふたたび、私は笑う。
「そいつは気のせいだ。ずっと魔法少女やそれに類する存在と接した生活を続けていたからな……ちょっとばかり、魔力を帯びた存在にはなっているが、魔法そのものは使えない」
と、20年以上昔に言われた。
どうも、人外を改心させる過程が、本格的にまずかったらしい。
あのクソ猫が言ったように、魔法が使える世界の存在にとって、魔法が使えないこの世界はいいカモだ。
基本は、他人の命よりも自分の命だ。
それはつまり、よその世界よりも、自分たちの世界を優先する。
この世界は、魔法世界にとって、ゴミ処理場のようなものなのだろう。
魔法世界は、魔法世界同士で何らかの繋がりを持っており……『実は、便利な場所があるんだ』と口コミで広がったらしい。
空前の魔法世界ラッシュ。
それが、今のこの世界の実情だ。
本来、自分たちの世界の厄介者をこの世界へと誘い込んで、その上で倒せればよし、倒せなくても『自分たちの世界が犠牲にならないなら問題なし』ってことだ。
そして今は、戦う人材まで、現地調達……が主流だ。
じわりと、私の中で渦巻く感情を少しだけ解放する。
魔力やら霊力やら、仙力に闘気、プラーナやら……気を練り上げたりチャクラを開いたり……いろんなものをまとめて身体の中を満たし、少し、溢れさす。
「ひ、ひぃっ!」
あ、こいつ……ここ数年では、まだマシな部類か。
でも、とりあえず、確保。
おう、魔法少女どこだよ。
ちょっと跳ねてみろ。
世間ずれしてない子供をだまくらかして、何やらせようとしたのかな?
「こ、子供じゃないです!26歳です!魔法少女(笑)です!」
あ、そういうの初めてじゃないから。
あれだろ?
薄い本が厚くならないために、魔法少女には精神力の高い大人を起用すべきだ、とか、そういうのだろ?
「そう、そうです!相手は大人!きちんとした契約です!」
契約、ねえ。
そういうタイプか。
でも、ピュアなハート(笑)をもってないと、魔法少女になれないってオチだろ?
二十歳を超えて、白馬に乗った王子様が……とか、考えてる、ピュアっピュアなハートの持ち主なんじゃないの?
髪をひっつめにした、黒縁メガネをかけた女が、陰鬱な雰囲気を漂わせながら現れた。
「……身体は大人、心は子供。ピュアなハートの26歳です」
……もう、自分が騙された自覚があるのか。
まあ、私に言わせれば、まだ『マシ』な方だがな。
相手を倒す手段が、性行為のみとか……邪気を回収する器が、魔法少女の存在とか。
道具以下の扱いの魔法少女も、嫌になるぐらい見てきた。
「そこの生き物のせいで、身体がピュアじゃなくなりましたけどね」
「魔法を使えないあなたを魔法少女(笑)にするためですが、なにか?」
こういうとき、どっちに突っ込めばいいんだろうな。
俺もまだまだ、人生経験が足りない。
「というか、あんた。まさか魔法少女に憧れて……なんて理由じゃないよな?」
「契約金が500万、敵を一体倒すたびに1000万のボーナスが出ると」
金銭契約はちょっと、新鮮だな。
いや待て。
「それ、敵の確認はしたか?指定した相手じゃないと……とか、最後のボスしかボーナスが出ないとか、普通にありそうだぞ」
「ぎっくう」
俺は小動物を睨んだ。
余裕あるなあ、おい。
「お約束かと」
したり顔で言いやがる。
「まあ、契約の不備を承知で、後でごねて有利な条件を引き出すつもりだったんですけどね」
「それでこそ、僕が見込んだ魔法少女(笑)です」
どいつもこいつも世知辛いな。
ん、待てよ?
「契約金が500万ってことは、もうもらったのか」
「現金は誠意です」
「もう、複数の銀行に分けて預けましたよ」
昔は、良かったなあ……。(遠い目)
「んじゃ、こいつぶっ殺して、契約解除もできそうだが」
「僕は死にませぇぇぇん!ネタじゃないです!ほんと、死にませんから!」
じたばたと暴れる小動物。
死なないなら、やってみても問題ないってことだよな。
「とりあえず、1000万のボーナスは手に入れたいので、やめてください」
……騙されたんじゃないのかよ。
「いえ、サポート役のあなたが、見るからに強キャラムーブですし。時間経過で敵が増えるケースなら、ボロ儲けができそうだなと」
「ハハハ、早く倒さないと、世界がピンチですよ」
「それ、私の死のリスクと、どっちが上ですかね?」
うん、ホント、昔は良かったわ……。(遠すぎる目)
何も知らず、魔法の暴走以外は世界の危機もなく、この世界での生活をサポートするだけ。
そして、相手は異世界のかわいこちゃん(死語)だ。
いやまあ、えげつない連中が増えた分、役得っぽいことも増えたがな。
歳を取ると、ピュアだった頃を懐かしむようになる。
「……ん?」
気配。
「大変だよ!〇〇ちゃんが、奴らに捕まっちゃったんだ!」
いまサポート中の魔法少女の危機を知らせる小動物が現れる。
たまに、思うんだがな。
助けを求める俺を、最初から連れていけ。
「ダメだよ。それじゃあ、〇〇ちゃんが成長しない!彼女には、経験が必要なんだ!」
綺麗事を鵜呑みにするつもりはない。
敵の攻撃にさらされる魔法少女のダメージや、負の感情。
それらの回収が主目的、なんてケースもあった。
魔法少女は、発電所みたいなものだとかな。
『お人好しも、程々にしておきなさい』
また、彼女の言葉を思い出し……うすく笑う。
そんなんじゃないさ。
この世界は、魔法世界によって食い物にされ続けている。
俺はただ、それが気に入らないだけなんだ。
ボーナスの金額について交渉を始めていた二人に一言残して、俺は地を蹴った。
ピュア(笑)なハートを笑えはしない。
俺は、厨二の心を持ち続けている。
そういや、この前はじめて某魔法少女のアニメ見て、吹いた。
なんの作品とは言わんけど。