バカゲーであり、懐ゲーであり、そして一世を風靡した名作でもあり。
単位が『トン』なのがまた、心の琴線に。
「おめでとう、地獄行きだよ!」
軽快すぎるミュージックとともに、そんなことを宣告された。
死にたい。
あ、もう死んだのか、俺。
しかし、地獄行きなのか……マジかよ。
ニコニコと笑顔を絶やさない存在に、ちょっとだけ、自己弁護。
「俺、なんか悪いことしましたっけ?」
「いやあ、キミは確かに失点こそ少ないけど、特にいいこともしてないから」
なん、だと……?
「悪いことをしたら地獄行きって認識が主流だけど、正しくは『有言実行の優等生』以外は、もれなく地獄めぐりの運命だよぉ!」
「それはつまり……ひとにぎりの人間を除いて、地獄へゴーってことで」
「そうそう」
ニコニコと。
「ほら、キミの育った国の道徳授業でもあったじゃない。『僕たちに何もしてないよ。見てただけだよ』からの『だから悪い』ってやつ」
せ、政治が悪いとか……。
「あはは、民主主義で、主権が国民にある国の人間が何を言ってるかな?」
うわあ、この人、俺の心読めるんじゃねえか。
「そうだよ……というか、時間も押してるから、処理するね。キミは、派遣される地獄でヒーローとして、人を助けて助けて助けまくって、最後は世界を救って死になさい」
ひでえ。
「だいじょーぶ。ちゃんと力はあげるけど、鍛えなきゃ使えないよ。まあ、地獄の中では、随分とイージーな地獄だから。ほら、がんばれ、がんばれ……からのシュート!レッツ、エキサイティン!」
……って、なんか足元に闇が、吸い込まれる!
のわぁー!!
地獄……ねえ。
なんか、転生したってイメージなんだが。
子供時代を過ごし、学校に通って友人もできた。
まあ、周囲の評価は、『変人』なんだけど。
部活をやってないのに、早朝からトレーニングに勤しむ俺は、確かに変人なのだろう。
何度も、色んな部の人間に誘われたが、断った。
「じゃあ、お前。なんでそんなに鍛えてるんだよ?」
何かをしたいと思ったとき、自分の力が足りなかった……じゃ、後悔しきれないからな。
そんな風に答えて誤魔化す。
いや、俺がスポーツなんかやったら……大惨事だから。
俺も、随分と手加減が上手くなった。
周囲に人がいないことを確認し、何気なく拳を振るう。
風切り音。
尋常じゃない。
しかし、これ……ヒーローとしてはどうなの?
例えば、垂直跳びで3メートル飛べるとしよう。
いや、例え話な、例え話。
これはもう、一流のアスリートに混じっても、飛び抜けている。
逸般人だ。
でも、ヒーローとしてはどうだろう?
その力をうまく使えば、誰かを助けることはできるかも知れない。
しかし、なあ……。
まだ、鍛錬が足りないってことか?
悪いことはできない。
変人だが善人、そしてお人よし。
それが、俺に対する評価。
でも、ここは地獄。
あの言葉がよみがえる。
『ヒーローとして、人を助けて助けて助けまくって、最後は世界を救って死になさい』
助けられるのか?
そして俺は、卒業して働き出していた。
日常が続いていく。
世界が続いていく。
ここが、地獄であることを忘れてしまいそうなほど、平和なままで。
そんなある日。
外回りの仕事中に、不思議な感覚に襲われた。
なんていうか、そう、『スイッチが入った』って感じ。
『キャー、助けて!』
助けを求める女性の声。
周囲を見渡す。
ちがう、声は、頭の中に直接。
力が溢れる。
自分が自分ではないものへ変わっていく。
不思議な力が集い、自分の体へとまとわりつき……俺は、いや『私』は飛んでいた。
身体のラインがぴっちり浮き出るスーツに、マスク、そしてマント。
出来損ないの、アメコミヒーロー。
その姿に、既視感があった。
おい、待てよ。
おいおいおい、これって、まさか……。
耳にこだまする、あの言葉。
『ヒーローとして、人を助けて助けて助けまくって、最後は世界を救って死になさい』
あ、あの野郎、ぶっ殺してやる!
『残念、私に性別はない。説明の必要はなさそうだね。ほら、がんばれ、がんばれ』
見てるのかよぉ!
急上昇からの、急降下。
バタ臭い金髪女性が、暴漢に襲われそうになっている。
俺の口が勝手に動く。
「私の名前は、スーパーソニックブラストマン!」
やつが、腹を抱えて爆笑してる気配を感じた。
……クールに行こうぜ。
女性を助け、暴漢と対峙する。
そう、退治する、だ。
羞恥心とか、どうでもいいじゃないか。
俺は、ヒーローとして、人を助けて助けて助けまくって……悪くないだろ。
はっ、これで地獄とか言ってたら、現世は地獄すら生ぬるい場所じゃねえか。
「私のパンチを受けてみろ!」
このパンチングマシーンのことはよく覚えている。
前世で、ダチと良く競ったもんだ。
この暴漢は、最弱のステージ。
ノルマとなるパンチ力の合計を2発でオーバー出来る程度に弱い。
まあ、もうクリアしてボロボロの暴漢に向かって、もう一発殴るのはお約束。
1ゲームで3発殴るというシステムが生んだ悲劇だな。
そうそう、そして最高レベルの敵は、地球に迫る隕石で……。
待って。
ちょっと待って、お願い。(心の中で、震え声)
『ほら、がんばれ、がんばれ』
精神状態は、身体能力に激しく影響を与える。
私は、いや、俺は暴漢に負けてしまった……。
暴漢にボコボコにされた俺に、やつが言う。
『おめでとう。ちゃんと女性は助かったよ。ほら、これからも、がんばれ、がんばれ』
楽しそうに、嬉しそうに、そして……。
『イージーとは言っても地獄だよ。なめんな』
『キャー、助けて!』
スイッチが入る。
私は飛ぶ。
車道に飛び出たベビーカー。
それに迫るのは、トレーラーだ。
私はベビーカーを抱えて、歩道へと降り立ち。
うん、そのまま帰ろうぜ。
頼むから帰ろうぜ、なあ。
願いもむなしく、『私』は車道へと舞い戻り、迫り来るトレーラーを前に、拳を固めて構えを取る。
「私のパンチを受けてみろ!」
意味ねえ!
ゲーセンでダチとバカ笑いしてたシーンだが、我が身にこんな形で降りかかると笑えないし、悲しくなるわ。
というか、トレーラーは、普通に道を走ってただけじゃないか!
これがヒーローのやることか!
『ヒーローとして、人を助けて助けて助けまくって、最後は世界を救って死になさい』
……あっ。(察し)
私は、拳に空を切らせた。
3発。
そして私の体が宙に舞う。
子供は助かった。
母親も無事だ。
そして……。
俺は、『トレーラーの運転手』を救った。
あとついでに、トレーラーも壊さずにすんだ。
そうか。
あの暴漢を……俺は結果的に、死なせずに、助けることができたんだな。
悪の組織が作った、要塞ビルに挑む私がいる。
要塞ビルの中には、当然人がいた。
船舶を狙う、巨大怪獣(カニ型ロボ)に挑む私がいる。
カニ型ロボットを操縦している人がいた。
私は、俺は、自分の身を犠牲にしながら、人を救っていく。
救って救って救って……その先にたどり着く。
私は飛ぶ。
空の彼方、
地球に衝突するであろう、巨大隕石。
物理的衝撃と、大気圏突入における衝撃波。
地球を、人類を、滅亡へと導くもの。
私の体は、力に満ち溢れている。
それは、頼もしく、悲しい。
破壊する力を、守るために使う。
そして、その力を十分に発揮できる場面は、驚くほど少ない。
ようやく訪れた機会が、今だ。
スーパーソニックブラストマンが描く、物語の終焉。
軽く、
「頼むぜ、私のげんこつよ」
さあ、行くぜ。
迫り来る隕石に向かって高らかに宣言する。
「私のパンチを受けてみろ!」
1発!
地球に向かってはじき飛ばされる身体を支え、拳を固める。
2発!
表面に穿たれるクレーター。
ああ、ここが地球を、人類を守る最終ラインだ。
再び、叫ぶ。
最後の叫びだ。
「私のパンチを受けてみろ!」
衝撃。
抜けろ、抜けてくれ!
私の体に宿る力を、魂を、全て持っていけ!
ねじり、こむ。
私の全てが、右拳へと集い、抜けていく。
全てが、抜けていく。
砕けた。
隕石が。
そして、私が。
隕石の破片とともに、私は遠ざかっていく。
青い地球から……。
遠く、消えていく……。
薄れゆく意識の中で……『君のパンチを見せてみろ!』という声を聞いた気がした。
私は、隕石をクリアできませんでした。
1発平均150のパンチ力が必要なのですが、私のパンチはいつも140台の前半で。
地球を救えず、人類滅亡ルートを何度も見せられました。