ひと仕事を終え、缶コーヒー片手に空を見上げた。
春、夏、秋、冬……と、季節が巡るこの国で、俺はこの時期の空が一番好きだ。
まあ、地域差は勘弁な。
コーヒーを一口。
その、俺の好きな空が……少しばかり、くすんで見えた。
5月病ってのは、こういう感じなのかね。
もう一口。
人生と同じで、苦くなけりゃ、コーヒーじゃない……だったか?
……ビールだったかも。
「ほう、大したもんだ」
振り返る。
「訓練からの出撃、その後に平然としていられる新入りを見たのは、この15年で二度目だ」
「……そうなんですか?」
「まあ、な……そもそも、訓練の後にそのまま出撃とか、新入りに痛い目を見せるための儀式みたいなもんだ」
何も言わず、コーヒーを飲む。
「本当なら、きちんと休息をいれて、万全の態勢をとる」
「……まあ、ブラックなのは覚悟してたんで」
「ブラックだったか?」
「いえ」
首を振った。
勤務シフト。
週休二日制。
超過勤務手当。
残虐行為手当。
びっくりするほど、ホワイトな集団だった。
だからこそ。
余計に、怪しい。
怪しいと思ったから、調べた。
下っ端でも、それなりに調べられることはある。
「……お前さんは、出世するよ」
「どうですかね?」
「こんなとこに就職するのは、たいていろくでなしさ……ほかに行き場所もなく、言い訳を繰り返しながら、その手を悪事に染める」
沈黙。
微かな緊張。
ああ、新入社員らしくないんだろうな、俺は。
『余計なこと』に気づいた俺は、さて、どうなるのかね?
「お前さん、何が目的でここに来たんだ?」
「子供の頃からの夢でしたからね」
銃を構えた男に向けて、笑う。
「世界征服ってやつに、本気で憧れてましたから」
銃を構えたまま、男も笑う。
「どうだった?下っ端とは言え、悪の組織の一員になった気分は?」
息を吐く。
撃つなら撃てとばかりに、コーヒーを飲む。
そして、空を見る。
「今日の出撃……ヒーローの対応が遅かったですよね?」
「……作戦勝ち、とは思わねえのか?」
組織の破壊工作。
少し遅れて、ヒーローの登場。
戦闘行為。
作り笑顔ではない、腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「いや、ちょっとばかりヒーローに同情しましたよ」
「ほう?」
今日の戦闘で、破壊工作で、それなりの被害が出た。
いや、出せた。
多くの建物が崩壊、あるいは何らかの損傷を受けた。
あの、被害を受けた地域は……国の『再開発計画』が進められている場所。
建物が壊れ、少なくないインフラが傷ついた。
ああ、高く売りつけようとしていた土地の持ち主は、今、どんな気持ちなんだろうな。
この出来事で、間違いなく土地の評価額はがた落ちだ。
少なくとも、低く評価せざるを得なくなる。
たぶん、ヒーローは何も知らされてないんだろ。
茶番だ。
ただ強いだけの、猿回しの猿。
「……」
「いやあ、惚れ惚れするような『邪悪な組織』じゃないですか、ウチは」
ヒーローは戦う。
しかし、数が少ない。
どうしても御手に回る。
悪の組織は戦う。
ヒーローにはかなわないが、今日のように、そこそこ被害を与えることもある。
世界の征服を目指す、ホワイトな勤務形態の悪の組織。
笑う。
笑うしかない。
公務員かよ。
俺が入社したのは、公務員だったってことだ。
政治を行う上での、裏の仕事というか、国の便利屋だ。
コーヒーを飲む……空っぽだった。
ああ、空っぽだ。
俺には、何もない。
「……殺してくれ」
男と目が合う。
不意に、激情のようなものが湧き出た。
「殺せよぉっ!」
衝撃。
自分の身体が跳ねる。
俺を見つめる男の目が、少しだけ悲しそうに見えた。
空っぽの俺が消えていく……。
個人的には、残虐行為手当でクスッと笑ってもらいたい。(笑)