1ヶ月で〇〇キロ痩せた。
被験者の98%が、何らかの効果を得ています。
……。
……。
西暦20××年。
ダイエット関連サービスおよび食品、書籍などに対する苦情の対応量に業を煮やした政府は、ダイエットを国家資格扱いとすることを決定した。
ダイエットレシピはもちろん、運動やカロリー計算、ダイエット食品に至るまで、国家資格を持たない者は、企画、販売に関われないという、暴挙に出たのである。
え?
何が暴挙かって?
『いやー辛いわ。痩せなきゃいけないけど、資格持ってないからダイエットできないわ。いやー、まじつらたん』
全国各地で、こういうバカが出現したからである。(強弁)
「いいかげん、モノ食うのやめろ、ババア!」
「ほんなん言うたって、母ちゃんダイエットの国家資格持ってないもん。痩せなきゃあかんけど、ダイエットしたら、国に怒られるからなあ」
「ダイエットしろって言ってんじゃねえんだよ!量を控えろ!減らすんじゃなくて、控えろ!」
「痩せなきゃっていうんは、ダイエットやわなあ?いやー、母ちゃんも辛いけど、国の方針には逆らえんわぁ」
ぬかに釘。
のれんに腕押し。
息子は激怒した。
この、肉だるまババアを、必ず痩せさせねばならぬと決意した。
息子には政治は分からぬ。
だが、この肉だるまが、このままでは健康を害することは痛いほど理解していた。
「言うたなババア!俺が国家資格とるからな!ダイエットさせるぞ!泣き喚こうが、痩せさせるぞ!資格保持者は、他人にダイエットを強要する権利があるんだから、その時になって慌てても遅いぞ!」
「うわー、母ちゃんたのしみー(むしゃむしゃ)」
他人にダイエットを強要する権利を持つ資格。
むろん、その審査は厳しい。
専門学校で4年学び、ようやく受験資格を得る。
この間に、あらゆる理論を覚え込むのはもちろんだ。
この中には、人間の心理学などを入ってくる。
もちろん、入学したはいいが、卒業できる割合は低く2割ほどと言われる。
そこから、資格試験合格まで、平均で4年。
資格を取ってからも、研修として2年の期間が設けられている。
ダイエットというのは、戦いである。
自分のダイエットならば、自分との戦い。
そして、他人のダイエットならば、それは他人との戦いであり、戦争とも言える。
褒め、なだめ、叱り、導き、時には飴を、時にはムチを。
なまやさしい道ではない。
それゆえに、これほどまで厳しい道のりが設定されているのだ。
だが、息子はその険しい道へと踏み込んだ。
息子は否定するが、その原動力は母への愛情である。
決して、外見が見苦しいとか、そういう理由ではない。
そういう理由ではないのだ!(強弁)
そして。
息子は、最短の4年で資格試験に合格。
2年の研修期間を経て、ダッシュで実家へと舞い戻った。
そこで息子が見たものは……。
「……なんだよ、それ」
「……おかえり」
肉だるま体型の名残もなく、やせ細った母の姿。
「なんでや……?」
「もう年やから……って言いたいけど、病気やわ」
「はぁ?そんなん、聞いてへんぞ!」
「……連絡させへんかったからなあ。アンタの勉強の邪魔しとうなかったし」
「邪魔って……ババア、俺、……なんで……だって……」
母が、笑う。
「人間は、いつか死ぬんよ」
「……」
「アンタ……『死ぬ前に好きなだけ食べさせてくれ!』て泣き叫ぶ人間相手に、ダイエットさせられるか?その覚悟はあるか?」
「俺が……ダイエットさせたかったんは……母ちゃんだけなんやぞ……」
「アホ言いなや……母ちゃんはな、食べるん大好きなんやで」
「……」
「人の嫌がることを、無理やりさせる言うんは……ちゃんと考えや?傲慢ちゅう言葉を、愛情とかいう耳障りのいい言葉に変えたら許されるわけでもないんやで?」
母の笑顔に。
兄夫婦の表情に。
母の命が、残り少ないことを……息子は悟った。
「なあ、母ちゃん……何食べたい?」
「……美味しいもんがええなあ……でもなあ、母ちゃん、食が細うなってなあ」
「そうか……わかった」
ダイエット国家資格には、調理技術も含まれる。
息子は、優れた調理技術をもって……母のために料理を作った。
「美味しいなあ……でも、ええんか?これ、太るんとちゃうん?」
「ダイエットってのは、痩せさせるためだけじゃない。人を健康にするための方法なんや……なあ、母ちゃん。食ってくれ……健康になってくれ」
母が亡くなるまでの1年間。
息子は、母のために料理を作り続けたという。
死の間際。
母が息子に向けて贈った言葉。
母ちゃんは、幸せにしてもろうた。
今度は、いろんな人を幸せにしてきなよ。
後に、『炎のダイエッター』と呼ばれる男の誕生秘話であった。
私の母親とは一切関係ありません。(震え声)
まだ生きてるし。