不祥事発覚。
ここぞとばかりに叩き、煽るマスコミ。
便乗する民衆。
水に落ちた犬は、叩いて叩いて叩きまくって、わけがわからなくなって、反射的に謝罪の言葉を口にするようになるまでさらし者にするのは当たり前。
暴力的な魔手は、その家族や交友関係にまで及ぶ。
……異世界の話である。(強弁)
そんな世界に、ひとりの男が転生した。
ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の成長をし、ごく普通の学歴を経た彼は……なぜか、国内トップクラスの大企業の内定をゲットした。
しかし。
人生そんなに甘くはない。
卒論もなんとか終わらせた3月。
この春から働く企業の、不祥事が発覚したのだ。
内定者から辞退者が続出。
それも無理はない。
不祥事を起こした企業は、いわば絶対悪とみなされる。
その企業に関わっただけで白い目で見られ、そこの社員ともなれば、本人のみならず、家族にまで社会生活に支障が出るぐらいに敵視されるのだ。
600名を超える内定者のうち、辞退しなかったのは彼一人。
社員すら辞めていく中で、彼は一人、轟然と顔を上げて立ち向かう決意を固めた。
チートを使う時が来た。
この時のために、自分のチートは与えられたのかもしれない。
不祥事発覚からの内部調査。
そして、正式な記者会見の場。
マスコミが、国民が、舌なめずりして獲物を待ち構えている、そんな場所。
そこに現れたのは、明らかに場違いな、新入社員の彼。
まだ、新人研修も終わっていない、ピカピカの新人。
ただ一人の新人。
既に会場は怒声が飛び交っている。
人生で生まれて初めての鉄火場。
向けられる敵意、悪意のスゴさに、冷や汗を流す。
それでも、彼は唇を噛み締め、その場に立った。
社長、会長、重役からは、すべてを任されている。
就職して最初の……そして、できれば最後になって欲しい大仕事。
『このたびは……』
声を絞り出す。
全身全霊。
すべてを込めて。
『まことに、申し訳ありませんでした!』
土下座。
彼でなければ、ただのパフォーマンスとみなされただろう。
しかし、彼の謝罪の言葉が。
彼の土下座が。
世界の認識を変えた。
額を床に打ち付けたまま動かない彼を、マスコミが抱き起こそうとする。
これまで、数えきれないほどの人間を、社会的に抹殺してきたマスコミが、彼の土下座をやめさせようとする。
彼は。
企業は許されたのだ。
あそこまで反省しているのならと、世界が許すことを覚えた日。
げに恐ろしきは、彼のチートである。
謝罪スキル。
問答無用の謝罪スキル。
「よく……やってくれた」
社長が、流れる涙も拭わずに、彼の肩を抱いた。
社長は、半年前に外部から招聘されて社長の座に就いた。
そして、今回発覚した不祥事は、3~7年前のもの。
しかし関係ないのだ。
本来、不祥事とは関係のない社長を謝罪させ、社会的に抹殺し、その家族をも押しつぶすのが当たり前の世界だったのだ。
不祥事が発覚した時点で、社長は妻と離縁し、親権も全て妻に渡した。
「ありがとう……ありがとう」
もう、社長の家庭は壊れてしまった。
それでも、礼を繰り返す姿に、涙が出そうになる。
「しゃ、社長は……悪くないじゃないですか」
周囲を見る。
誰もいない。
「父さんは、何も悪くないじゃないか!」
息子は、涙を流しながら叫んだ。
今ならわかる。
大した学歴もない自分が、この会社から内定を貰えた理由。
父への、餌。
そして、不祥事の責任を押し付けるためだけの、社長の椅子。
「父さんは……悪くないだろう……」
「……ありがとう、ありがとう……」
父と息子の抱擁は続いた……。
うむ、この二転三転させる展開が、ショートショートの肝だ。