原作は、印税生活を夢見る少女が主人公のコミカルな漫画です。
限界集落。
過疎化、高齢化が進み、共同体としての機能が衰え、限界を迎えている……そういう概念から発生した日本の言葉である。
最初は緩やかに、そして急速に悪化するため、それを自覚した時には手遅れということも少なくない。
それを知ったところで何ができるのか?
しかし、何らかの形でその実態を国民に知らせるべき。
私は、複数の様々な思惑が絡んだ上で企画が通った番組を制作するクルーの一員である。
「……これは」
よく、田舎の風景を映像で見て『のどかでいいところ』などという意見が出るが、それはあくまでも『手入れされた風景』だからそんなことが言える。
いわゆる、限界集落、本当の田舎、本当の過疎地域の風景は、自然の前に膝を屈した人類を想起させるものがほとんどだ。
人類が一度切り込み、その上でバランスを取っていた秩序が崩壊すると……こうなる。
私の故郷も、他人事ではない。
村の老人に話しかけるのも、少し気が重い。
多くの人に話を聞き、そして、編集されると薄っぺらなものが残る。
だからといって、前もって模範解答みたいな物を渡すと、『やらせ』だと叩かれる。
難しい時代だ。
それでも、私は話を聞く。
仕事だ。
「……若者はみんな、異世界いっちまっただ」
公園のベンチに腰掛け、猫を抱いた老人がつぶやく。
私は、曖昧に、しかし同情心を忍ばせながらあいづちをうち……うん、うん?
今、なんて言いました?
「わしらの頃とは、時代が違うだ……わしらの頃は、都会だ、東京へいくだ、言うて村を飛び出したもんだったが……今はみんな、異世界へいっちまう」
遠い目をした老人の言葉を聞いていると、私の意識が遠のきそうに感じる。
「三好んところの、コウちゃん。幸村んところのセッちゃんもそうだ……もう、村に戻ってこれねえと引きとめようとしてもダメなんだぁ」
す、すみません。
ちょっとお名前を詳しく。
はい、はい……。
私は、クルーの一人にメモ用紙を渡して調べるように頼んだ。
老人の話は続く。
が、その話が右から左へ、綺麗に抜けていく。
大丈夫、音と映像は拾ってるから大丈夫。(震え声)
調べてもらった2人は、まだ学生で……『異世界に行く』と言い残して、それっきりらしい。
いやちょっと?
家族の方、捜索願とか出してないんですか!?
「いやあ、このあたりでは珍しくないことですから……」
調べた、調べましたよ!
いや、ホント。
このあたりでは珍しくないことだったわ!
この地域だけじゃなく、よそからもここにやってきて異世界へと旅立ってる若者がいるっぽい。
私たちは、村の人間に案内されて、その場所に向かった。
「ここだ、ここから異世界に出るだ」
そう言って指さしたのは、山裾の洞穴。
洞穴といっても、奥行は3メートルほどか。
ただ、その突き当たりには……黒々とした深い闇が。
「十数年前だったか……悪ガキが、度胸試し言うてこの中に飛び込んだのよ。それっきり、帰ってこん」
待って。
それはそれであれだけど、待って。
『異世界』の根拠は?
異世界につながっているって根拠は?
ツッコミが追いつかない。
というか、ここに飛び込める子供たちを、ある意味尊敬してしまいそうになる。
村の人間が、私を見て笑った。
「……ここに飛び込んだほうがマシと思う若者を、止められはせんよ」
深く、心をえぐられる言葉。
かつては、都会へ、東京へと向かった。
それは、希望だったのか。
それとも、村からの逃亡だったのか。
もし、逃亡だったのなら。
都会が、東京が、逃亡先として成立しないと思ったのなら。
私は、もう一度振り返って、深い深い闇を見た。
異世界へと旅立った若者は、この闇の中に何を見たのだろう。
『若者はみんな、異世界いっちまっただ』というセリフを使いだけのネタだった。
もう一度言っておきます。
原作は、印税生活を夢見る少女が主人公のコミカルな漫画です。(震え声)