高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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まあ、夢物語です。(笑)
野球ネタ、スタート。
わりとだらだら続きます。


41:悲運の大エース。(オリジナル)

 絶望した!

 なんかいろいろ絶望した!

 

 そして俺は、神様と出会った。

 

「少年よ、怪我をして野球ができなくなったからといって、何も死ぬことはなかろう?『たかが野球』じゃないか……」

 

 ブチギレたのは覚えているが、気が付くと神様が半裸で土下座していた。

 

「すみませんでした……人は誰でも心の中に聖域を持っているって忘れてました。ごめんなさい」(震え声)

 

 どうやら、俺の中の野球に対する熱い思いが、神様を動かしたらしい。(目逸らし)

 

 

 まず、再起不能と診断された俺の怪我を治療。

 そして。

 

「君、絶望するとまた私のところに来そうだから……ちょっと贔屓してあげる」

「あ、チートとか間に合ってますんで。俺の能力で、俺の努力で、野球選手として成り上がりたいなって」

「うん、大概めんどくさいよね、君って」

 

 神様が言うには、才能のコップの傾きを変更するということらしい。

 ゲームで言うなら、ボーナスポイントの振り分けか?

 

「野球選手として1流なのに運動音痴とか、サインを覚えられないバカとかありえないだろう?」

「それは、確かに……」

「持って生まれた天運とか、星の巡りとか……まあ、そのあたりだね」

 

 たゆまぬ努力を続ければ、俺は世界でも最高レベルの投手としての能力までたどり着けるらしい。

 年齢による衰えはもちろんおとずれるが、怪我をしない丈夫さと運を持つことになった。

 

 そして。

 

 代償とも言うべき呪いを。

 

「君が登板すると、味方打線は最高1点しか援護しないから」

「……」

「君のチームがどんな強力打線でも、相手がどんなに弱くても、絶対に最高1点しか奪えない」

「……ムエンゴ(無援護)の呪い」(震え声)

 

 勝つときは、完封勝利(相手を0点に抑えて勝つ)のみなんですね、わかります。

 いやまて。

 最高1点ってことは、1点も取ってもらえないことも普通にあるってことか。(震え声)

 

「あ、自分で打てば話は別だよ。3打席ホームラン打てば、3点も入るね」

「そ、走者がいた場合は……」

「それはノーカウント。君が打って入った点数は、味方が奪う得点には入らない」

「な、なるほど……」

「(ぼそっ)……まあ、そんな場面は回ってこないと思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、高校では1年の夏からエースナンバーをつけたが、甲子園の土を踏むことはなかった。

 

 プロのスカウトの目にとまったが、運良くとは言わない。

 15回を投げても速球が140キロ以下に落ちないスタミナと、キレのある変化球、精密なコントロール……超高校級どころか、そのままプロでも10勝以上できるだろうと評価されているからだ。

 

 ちなみに、高校時代に俺がマウンドに立って負けたのは5試合で、全て0対1のスコア。

 そのうち4つは、味方のエラーによる失点だ。

 つまり、俺が高校時代に打たれて失点したのは1点のみ。

 味方打線に非難が集中したが、俺はチームメイトをかばい続けた。(震え声)

 さすがに、良心が痛む。

 

 たぶん、俺が投げてなかったら、あいつらももっと打てたと思うんだ。

 ある意味、俺があいつらの運命をねじ曲げた。

 

 

 しかし、俺もとうとうプロ入りか。

 20年に1人の選手とか言われているけれど……。

 

 俺、プロで勝てるかなあ……。(遠い目)

 

 

 開幕1軍。

 そして初登板。

 1回に味方のエラーが出て、1失点。

 はいはい、いつものいつもの。

 

 もう、勝てないんだよなあ。(震え声)

 

 俺の打席がないから。(パ・リーグ)

 息詰まる接戦。

 そして、チャンスらしいチャンスも生れず、俺はそのまま9回を投げ切った。

 

 悲運のルーキーの文字が、次の日のスポーツ新聞を飾ったのは言うまでもない。(目逸らし)

 

 

 初勝利は4試合目。

 1対0の完封勝利。

 しかも、ノーヒットノーランのおまけ付きだ。

 先輩たちがみんなでお祝いしてくれた。(震え声)

 これまで3試合、ファンから罵声が飛びまくったから、俺に勝利をプレゼントできてほっとしたんだろう。

 

 

 怪我をすることもなく、2軍に落ちることもなく、俺は先発ローテーションを守り抜き、1年目のシーズンを終えた。

 32試合に登板し、9勝23敗。(すべて完封勝利)

 防御率は驚異の0.78。(9回を投げて自責点が平均0.78)

 防御率トップのタイトルを獲得し、新人王に選ばれた。

 

 このシーズンはチームの成績が振るわなかったこともあり、優勝したチームにいたなら夢の30勝に届いていたはずなどと、ファンのあいだでは噂された。

 

 

 俺、先発じゃなくて、抑えのほうがいいんじゃね?

 チームがリードしてる時に登板すれば、ムエンゴの呪いも関係ない。

 

 だが、9回を投げきってくれる先発投手というのはチームにとって貴重だ。

 そもそも、ムエンゴの呪いなんて、どう説明すればいいのか。

 

 

 

 2年目。

 8勝26敗。

 防御率0.45。(タイトル獲得)

 なお、完全試合を1つ、ノーヒットノーランを2つ達成した。

 

 

 3年目。

 10勝25敗。

 防御率0.82。(タイトル獲得)

 ノーヒットノーランを1つ達成。

 

 そろそろ、ファンが慣れてきた。(震え声)

 俺が投げていて1点取られると、ファンが帰り始める。

 

 

 4年目。

 9勝26敗。

 防御率0.63。(タイトル獲得)

 完全試合を1つ達成。

 

 この年、俺は史上最速で通算100敗に到達した。

 通算100勝は1流投手の証と言われる時代だが、通算100敗もそれに準ずる。

 それだけの登板数を任せられるということは、力を認められている証拠だからだ。

 

 しかし、ルーキーイヤーの開幕から先発ローテーションを守り続け、通算で36勝100敗と、勝敗記録だけを並べると、目を覆いたくなる。(白目)

 このペースで40歳まで現役を続ければ200勝に届くが、負けが600に届く可能性がががが……。

 

 俺の投手としての評価は間違いなく超一流で、既にメジャーからの接触もある。

 しかし、俺にムエンゴの呪いがある限り、メジャーでも同じことが……いや、失点の可能性が上がると、全く勝てなくなる恐れも……。

 

 恐ろしいことに、このムエンゴの呪いは、俺がほかの投手にマウンドを譲っても継続するようなのだ。

 リードされた状態で俺が降板しても、絶対に逆転できない。

 もちろん、追加点が入ることはない。

 

 完全に悪循環なのだが、1点取られると負けという認識が定着してしまったせいなのか、俺が投げる試合は味方のエラーの数が多い。

 そして、相手チームは絶対にあきらめない。(ここ重要)

 

 

 5年目。

 11勝25敗。

 防御率0.61。(タイトル獲得)

 ノーヒットノーランを1つ達成。

 

 11勝か……一応、キャリアハイってことになるのか。

 

 年俸交渉で、目を逸らしながら提示された額が、9000万とタイトル料1000万。

 便宜上だが、ようやく1億円プレイヤーの仲間入りだ。(白目)

 

 俺のファンは球団という枠を超えて存在している。

 こう、お国柄というか、報われない人間に対する同情票に近い気もするが。(震え声)

 ただ、俺の存在は縁起が悪いとされていて、グッズがあまり売れないから球団の利益に貢献できていない。

 

 一時期、厄落としとして、購入した俺のグッズを燃やすというのが流行ったのだが、もったいない精神と、選手の気持ちになって考えろ的な意見が優勢になって、封殺された。

 

 そして、いくらムエンゴの呪いと言っても、俺1人でチームの借金というか、負け越し数を12も稼いでいる計算になる。

 0対10で負けようが、0対1で負けようが、負けは負け。

 俺は、チームの勝利に貢献できていない。

 この成績で、年俸が上がり続けてきたのも、ある意味奇跡と言えるだろう。

 

 なので、俺も目を逸らしながら契約書にハンコを押した。(震え声)

 

 ファンの間では、俺の年俸が妥当かどうかで、争いが起きているそうだ。

 というか、さっさと今のチームを飛び出して、別のチームに移れとの声が大きい。

 

 ははは、ムエンゴの呪いがある限り、どのチームでも……いや、セ・リーグなら、俺の打席がある分、確率が上がるか?

 

 

 8年目のシーズンが終了。

 俺は通算200敗を引っさげて、FA宣言した。

 球団関係者や、チームメイトから活躍を祈られて、心がモヤモヤしたが、セ・リーグに移籍。

 ファンのあいだでは、悲運の大エースが、真の大エースとなって夢の30勝に挑戦などと言ってるが……ははは、ムエンゴの呪いはそんなに甘くない。(震え声)

 

 

 心機一転。

 移籍したその年に開幕投手を任せられ、俺は完全試合で開幕勝利を飾るという劇的なセ・リーグデビューを果たした。(なお、スコアは1対0)

 この歓声が、ため息と罵声に変わっていくんだ。(震え声)

 

 9年目。

 10勝26敗。

 防御率0.57。(タイトル獲得)

 1シーズンに完全試合を2つ達成し、特別表彰を受けた。

 

 年俸交渉は、お互いに目を逸らしながら終えた。

 気にしなくても、ええんやで。(白目)

 

 さて、今までも手を抜いていたわけではないが、俺も30歳が近づいたことで、トレーニングのやり方を少し変え始めた。

 栄養摂取も、専門家の意見を聞きながら変えていく。

 

 来年は10年目のシーズン。

 13勝すれば、通算100勝を達成できる。

 ちなみに、この9年間で通算87勝227敗だ。

 

 超一流の評価が、煤けて見える。

 

 

 10年目のシーズン。

 いわゆる、勝運に恵まれたとでもいうのだろうか……。

 

 21勝14敗。(最多勝獲得)

 防御率0.28。(タイトル獲得)

 完全試合が1つとノーヒットノーランが3つ。

 沢村賞に、年間MVP……まあ、覚えきれないぐらいに表彰された。

 

 俺、死ぬのかなあ……。

 

 一応、『防御率が0.28で14敗もするのがおかしい。結局は何も変わっていない』などのツッコミがあってホッとする。

 また来年から、10勝に届くか届かないかのシーズンになるんだろう。

 

 年俸は気にしない。

 たぶん、来年は下がるだろう。

 そして、俺は複数年契約には興味はない。

 

 

 11年目。

 6勝30敗。

 防御率0.56。(タイトル獲得)

 完全試合を1つ、ノーヒットノーランを2つ達成。

 

 夢の1シーズン30敗達成。(白目)

 これが揺り戻しだ。

 

 目を逸らしながら年俸ダウン提示され、俺は目を逸らさずにハンコを押した。

 

 

 12年目。

 15勝20敗。

 防御率0.64。(タイトル獲得)

 完全試合とノーヒットノーランを1つ達成。

 

 打撃が好調で、このシーズンはホームランを6本打った。

 それがそのまま勝利に結びついたと言えるだろう。

 いわゆる、ムエンゴジエン(無援護自援)というやつだ。

 

 球団関係者が目をぐるぐるさせながら、現状維持の年俸を提示してきたので、黙ってハンコを押した。

 正直、どうでもいい。

 

 

 13年目。

 11勝25敗。

 防御率0.98。(タイトル獲得)

 通算10回目となる完全試合を達成、表彰された。

 

 セ・リーグに移籍して5年、63勝115敗か。

 成績はアップしたと言えるだろう。(震え声)

 なんといっても、自分が打てば勝利につながるという希望がある。

 

 気のせいかもしれないが、最近はほかの球団の投手にも同情の視線を向けられることが多い。

 技術的なアドバイスを求められたときは、できるだけ真面目に対応しているのだが。

 

 

 16年目。

 シーズン半ばに通算400敗を達成。

 日本では前人未到、そしてこれ以後誰も到達できない記録となるだろう。

 ちなみに、16年目を終えて通算173勝で、200勝まではあと27勝だ。

 球団には、200勝を達成したら、メジャーに挑戦したいと告げてある。

 

 正直、俺って取り扱いに困る投手なんだろうな。

 メジャーでは、抑えを希望したい。(震え声)

 

 

 19年目。

 200勝達成。

 前々から発表していたメジャー挑戦を、ファンに向かって正式に発表する。

『500敗を達成してから行け』の声に、苦笑するしかなかった。

 

 日本球界で19年。

 通算203勝490敗。

 防御率は0.67。

 

 俺は、ついにメジャーに挑戦する。

 悲運の大エースの名と、ムエンゴの呪いを引っさげて。(震え声)

 

 

 

 

 メジャーでは、投手の役割分担がしっかりしている。

 だが、俺のムエンゴの呪いの前では、すべてが無意味だ。

 投球数を少なく、そして、俺を交代できない状況へと……。

 

 俺のメジャー生活は、完全試合で始まった。

 1勝できたことにほっとする。

 さあ、ここからだ。(震え声)

 

 ムエンゴの呪いが炸裂する。

 俺がマウンドを降りても、味方は点を取れない。

 逆転も、勝ち越しもできない。

 俺の後続が打たれて試合が壊れることもある。

 

 ここまで防御率0.38。

 6回を3失点以内に抑えることが、先発投手の役割分担とされ、クオリティスタートと呼ばれるのだが、俺は先発した12試合全てでそれを達成して7回か8回に降板し、勝ち星は完全試合を達成した時の1つのみ。

 むろん、負けも3つしかつかなかったが。

 

 勝ち星はほとんど増えなかったが、数字を重視するせいか、俺はシーズン終了まで先発ローテーションの柱としてあり続けた。

 

 結局このシーズンは40試合に登板し、5勝7敗。

 防御率は0.46。(タイトル獲得)

 

 

 40歳のシーズンだ。

 本当なら20勝以上、サイヤング賞が獲得できてもおかしくないという評価だが、年俸と、年齢の兼ね合いで、サクサク首を切られるのがメジャーだ。

 球団が俺を使うメリットは、安定して試合を作ること。(ように見える)

 さあ、サバイバルの始まりだ。

 

 38試合に登板し、9勝7敗。

 防御率は0.76。(タイトル獲得)

 ノーヒッターを2回達成。

 プロ生活において、2度目の勝ち越し。(震え声)

 

 俺が登板すると『ミスター・アンラッキー』のプラカードが、観客席で踊る。

 敵も味方も。

 ははは、俺って愛されてる。(白目)

 

 

 ドキドキしたが、来年も契約を結べた。

 まあ、シーズン中でも容赦なく首を切られるのがメジャーの世界だが。

 俺の年俸は、比較的安い。

 

 

 メジャー3年目のシーズン途中に、先発投手として、連続100試合クオリティスタートを達成した。

 大記録らしい。

 ははは、勝ち星がついたのは3割未満ですけどね。

 なんせ、俺が先発で登板した以上、俺が打たない限り味方は最高1点しか取れないのだ。

 リードしたまま交代できるのが4割ぐらい。

 そこから追いつかれるのが半々とすれば、俺の勝率は2割と少しぐらいに落ち着いてしまう。

 

 このシーズン、俺は40試合に登板し、5勝8敗。

 防御率は0.63。(タイトル獲得)

 

 年俸が上がると、首を切られる可能性も上がる。

 目標は45歳だ。

 ただ、7回、8回まで95マイル(152キロ)を維持するのが辛くなってきた。

 引退の時が近づいている。

 

 

 

 メジャー7年目。

 当年とって45歳。

 勝ち星が増えないせいか、年俸があまり上がらなかった。

 所属チームが全体的に若かったのもあるだろう。

 

 悲運の大エースの名に偽りあり、だ。

 俺はラッキーだ。

 

 既に、今シーズン限りで引退を表明してある。

 ワイルドカードで勝ち上がり、ワールドチャンピオンを決める一番で、こんな役が回ってくる。

 勝てば優勝、負ければ地獄だ。

 

 丁寧に。

 打たせて取る。

 7回を終えて、1対0。

 球数は70ちょうど。

 8回。

 そして、9回のマウンドへ。

 

 踊るプラカード。

 

 そういえば、メジャーデビューは完全試合だった。

 

 1人。

 2人。

 最後の、1球。

 

 うん……チームが若い。

 打ち取った打球が、完全試合を達成するはずの打球が、二塁手の股間を抜けていく。

 

 球場の雰囲気。

 味方チームの動揺。

 

 これを、ねじ伏せる若さが、今の俺にはない。

 

 そして、3塁手のエラーが、試合を振り出しに戻した。

 

 俺は笑みを浮かべ、チームメイトに語りかける。

 

『レッツ、プレイツー!(もう1試合やろうぜ)』

 

 俺の引退が延びた。

 なのに、さっきまで踊っていた『ミスター・アンラッキー』のプラカードが伏せられていた。

 敵も味方も。

 

 おいおい、ここはメジャーだろ?

 派手にやろうや。

 

 観客席に向かって手を叩き、歓声を要求する。

 ここからもう1試合、もう1試合だ。

 

 俺は、次のバッターを打ち取り……球数が100球を超えた。

 うん。

 ムエンゴの呪いだ。

 この試合は勝てない。

 

 そう思っていたのだが、監督が俺をそのまま打席に向かわせた。

 

 ラストチャンスか。

 ホームランを狙って、1、2の、3!

 

 

 

 静寂。

 そして、大歓声。

 

 味方だけじゃなく、敵の選手にももみくちゃにされた。

 アンラッキーかもしれないが、決してアンハッピーではなかった。

 それだけは言える。

 

 

 

 ムエンゴジエン。

 それが、俺の引退試合。

 

 

 

 ところで、俺の結婚って……ムエンゴの呪いと何か関係あるよね?

 そっか、私生活までムエンゴか……。(震え声)

 

 




ムエンゴの呪い……恐ろしい。

チャンスに打てない呪いをかけられた、史上最高の打者とかどうだろう?(ゲス顔)
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