高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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昔話系は、状況説明がほとんどいらないのがいいよね。(独断と偏見)


44:鶴の恩返し。(原作:本当は怖い昔話)

 気分が悪かった。

 それが必要なことだと理解はしていても、気持ちの良い話ではない。

 

 根元の曲がった木。

 それが普通なんだと思っていた。

 村から出る機会があって、まっすぐに伸びる木を見て驚いた俺に、行商人が教えてくれた。

 木の根元を歪めたのは雪の重みなんだと。

 

 俺も、あの木と同じか……。

 

 村が望む形に、俺の心を合わせる。

 ただ、それだけ……。

 

 空を見上げた。

 今にも雪が落ちてきそうな、鉛色をした空を。

 

 悲しげな鳴き声に、目をやった。

 

 罠にかかった鶴。

 まだ、若い。

 

 ふっと、親の姿を思い出した。

 姉を身売りして得た金を、地面に投げつけた親の気持ちが今なら理解できる気がする。

 そして、泣きながらそれを拾い集めた気持ちもまた。

 

 

 鶴を罠から外してやる。

 傷ついた脚に、サラシを巻きつけただけの手当て。

 所詮は気休めだ。

 鶴は暴れることもなく、ただじっと俺をやることを見つめていた。

 

 鶴が空へと帰っていくのを見送ったあと、猟師の家へと足を運んだ。

 俺も、猟師も、村の一員。

 勝手なことはできない。

 鶴を逃がした事を話す。

 鶴を逃がした理由を話す。

 そして、その代価を差し出した。

 猟師は黙ってそれを受け取り……ポツリと呟いた。

 

(かかあ)が死んだあと、おらも獲物を逃がしたことがある」

 

 返事も、頷くこともせず、俺は猟師の家を出た。

 

 空を見上げる。

 鉛色の空は、変わらない……が。

 白いものが落ちてきた。

 

 長い、冬がやってくる。

 独りきりの、冬が。

 

 

 

 

 

 雪がひどく、日中なのに暗い……そんなある日のこと。

 

 とんとん、と。

 戸を叩く音。

 雪や、風ではない。

 人の手によるもの。

 

 俺は、戸を開けた。

 

 まだ若い、かろうじて童ではないと思える年頃の女の子が立っていた。

 

「……先日、助けていただいた鶴です。私に、何かできることはありませんか?」

 

 震える身体。

 真っ赤になった手足。

 

 俺は、家の中に迎え入れた。

 まずは火に当たらせてやる。

 

 湯を飲ませた。

 それから、粥の上澄みを。

 

 飛びつこうとする気配。

 しかし、それを思いとどまったのか、俺の方をちらりと見る。

 

「ゆっくりでええ……慌てずにな」

 

 痩せた身体。

 こけた頬。

 

 飢えた状態で急に腹いっぱい食わせてはいけない。

 

 俺は、囲炉裏に薪を足した。

 

 

 

 

 眠ってしまった女の子を眺め、俺は呟いた。

 

「口減らし……か」

 

 この村のものではない。

 

 さほど器量も良くない。

 おそらくは、売れなかったのか。

 

 いかなる伝手をたどったのか。

 村の者が俺のところに、送り込んできたのだろう。

『鶴』を口にするあたり、猟師も一枚かんでいるのか。

 

 この子は、運が良いのか悪いのか、俺にはわからない。

 

 この子は、俺に対する一種の踏み絵だ。

 この冬を越し、俺が落ち着いたと思えば……村の者は、俺に再婚を勧めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 地面に投げつけた金を泣きながら拾い集める夢だ。

 

『鶴』を見る。

 頬に肉がついてきた『鶴』を見る。

 

 俺は、泣いていた……。

 助けられなかった両親を、かかあを、想って泣いた。

 村に迷惑をかけないために、俺が殺した両親とかかあを想って泣いた。

 

 どのぐらいそうしていたのか。

 気が付くと『鶴』に背中をさすられていた。

 俺の涙は止まらなかった……。

 

「おまえ、怖くないのか?」

「……なにが、ですか?」

「この家は、流行病が出た家だ……俺の親も、かかあも、みんな死んじまった」

「……でも、生きてます」

 

『鶴』を見る。

 

「お前が病気になったら、俺が殺さなきゃいけねえ」

 

『鶴』が俺を見る。

 

「……私は、おじさんを、殺すのは嫌です」

「……」

「嫌がっても……やらされるんですね」

 

 そう言って、『鶴』が泣いた。

 

 ああ、この子は……ようやく泣くだけの元気が出てきたのか。

 俺は、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 長い冬が明けた。

 

 久しぶりに、村の者と話をした。

 身内から流行病を出した村の人間以外の村の者。

 

 隔意がないとは言わないが、まあ仕方がないと思う程度には割り切っている。

 

「おう、その娘っ子はなんぞ?」

「ああ、鶴だ。罠にかかってたのを助けてやったら、恩返しにやってきた」

「そんな、馬鹿な話があるかい」

「あるんだ、これが」

 

 のらりくらりと。

 再婚話をかわしていく。

 

 そして『鶴』も、俺に合わせてくれる。

 

「私、鶴の化身ですから」

 

 にこりと笑って。

 

「何かあれば、祟りますよ」

 

 年に似合わず、しっかりとしている。

 いや、冬を越えて……大人っぽくなった、か。

 子供だと思っていたのは、痩せていたからなのかも知れない。

 

 

 空に目を向け、『鶴』を探す。

 あの日、『鶴』を助けていなければ、俺は『鶴』を受け入れていただろうか。

 

 地面に投げつけた金を拾い集める俺がいる。

 金を拾い集めるようにして、生きる理由を拾い集める俺がいる。

 

 あさましい男だ、俺は。

 あさましく、生きている。

 

 




口減らしの口実というアイデアにひどく感心した記憶があります。
それをひとひねり。

『鶴』が『鶴』なのか、口減らしなのかは、みなさんのお好みで。(ゲス顔)
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