脱サラしてラーメン屋。
5年後の生存率は、確か5%未満と聞いた記憶がある。
自分は20人の中の1人。
そう思い込めるものが、飛び込んでいくのだろう。
あるいは、ラーメンが好きでどうしようもない者。
前者は、緩やかに閉店への道を歩んでいくことが多いらしい。
そして後者は、ラーメンへの愛が仇となって大失敗するものが多数を占め、極小数が生き残ると。
まあ、立地条件や仕入れ、そして利益率など……様々な要素が絡むので、一概にはいえまい。
俺はそのどちらでもなかった。
料理は好きだったが、さほどラーメンにこだわりはない。
ラーメン屋を選んだのは、失敗例が数多くデータとして存在したことと……俺の中のどこか投げやりな部分がそうさせた。
案外、そういう冷めた部分が有利に働いたのかもしれない。
俺のこだわりや、味の好みは、客にとってはどうでもいいことだろう。
客商売である限り、優先されるのは客のニーズに応えることだ。
その上で、俺自身のキャパシティと相談する。
強いて言うなら、『じゃあ、この店でいいか』と客が妥協できるラインを探した。
そこそこの味、そして値段、あとは食物としての安全性の確保。
客層に合わせて味を調え、値段を調整し、仕入れを決めた。
味の決め手などない。
水になれ、とはブ〇ース・リーの言葉だったか。
形にとらわれず、変化し続ける強み。
だから、俺は……正しいとはいえなくとも、間違ってはいないはずだ。
そして、5年経った今も……店をたたまずにすんでいる。
運が良かったのだろう。
「いやぁ、ここの飯はホントに美味いよな」
「値段も手ごろだし」
「俺、ここの中華丼なら毎日でも飽きない」
「ばかかお前。餃子とスープ、そしてご飯の組み合わせに野菜炒めをつければ、1年中いけるわ」
……間違っていないはずだ。(震え声)
「うふふ、この店のスープは、毎日店長が何時間もかけて仕込んでますからね」
「マジかよ、このみちゃん?」
「ええ、このスープこそが、店の味の基本です。この店だけの万能調味料と言ってもいいですね」
「へええ……」
このみちゃん(バイト)……そのスープってね、ラーメンスープなんだ。
そりゃあ、旨み成分をたっぷり含んでるから調味料として使えるし、使ってるよ。
でもさ、確かにラーメンにこだわりはないけどさ……。
「店長ーっ!餃子2枚と焼きそばに八宝菜、そして中華丼入りました」
そういって、ビールの用意をするこのみちゃん。
明るくて、働き者の、いい子だ。
そして、1日が終わる。
今日も、ラーメンは注文されなかった。
もちろん、俺に、こだわりはない。(震え声)
一番の人気メニューは、日替わり定食。
ご飯と餃子、そしてスープに、日替わりのもう一品。
中華丼をはじめとした、丼ものも定番で人気だ。
もう一度言う。
俺に、こだわりは、ない。(震え声)
俺は、ラーメン屋の、店主だ。
なお、近所では定食屋として認識されている。
そして、2番人気は少し変わった焼きそばだ。(麺をラーメンスープで軽くゆでてから焼くのだが、麺そのものが美味いと好評)
スープと麺は、ちゃんと消費されてます。(震え声)