高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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こういう店、たまにあるよね。


46:泣いたラーメン屋。(オリジナル)

 脱サラしてラーメン屋。

 5年後の生存率は、確か5%未満と聞いた記憶がある。

 

 自分は20人の中の1人。

 

 そう思い込めるものが、飛び込んでいくのだろう。

 あるいは、ラーメンが好きでどうしようもない者。

 

 前者は、緩やかに閉店への道を歩んでいくことが多いらしい。

 そして後者は、ラーメンへの愛が仇となって大失敗するものが多数を占め、極小数が生き残ると。

 まあ、立地条件や仕入れ、そして利益率など……様々な要素が絡むので、一概にはいえまい。

 

 俺はそのどちらでもなかった。

 料理は好きだったが、さほどラーメンにこだわりはない。

 ラーメン屋を選んだのは、失敗例が数多くデータとして存在したことと……俺の中のどこか投げやりな部分がそうさせた。

 案外、そういう冷めた部分が有利に働いたのかもしれない。

 

 俺のこだわりや、味の好みは、客にとってはどうでもいいことだろう。

 客商売である限り、優先されるのは客のニーズに応えることだ。

 その上で、俺自身のキャパシティと相談する。

 

 強いて言うなら、『じゃあ、この店でいいか』と客が妥協できるラインを探した。

 そこそこの味、そして値段、あとは食物としての安全性の確保。

 客層に合わせて味を調え、値段を調整し、仕入れを決めた。

 味の決め手などない。

 

 水になれ、とはブ〇ース・リーの言葉だったか。

 形にとらわれず、変化し続ける強み。

 だから、俺は……正しいとはいえなくとも、間違ってはいないはずだ。

 

 そして、5年経った今も……店をたたまずにすんでいる。

 運が良かったのだろう。

 

 

「いやぁ、ここの飯はホントに美味いよな」

「値段も手ごろだし」

「俺、ここの中華丼なら毎日でも飽きない」

「ばかかお前。餃子とスープ、そしてご飯の組み合わせに野菜炒めをつければ、1年中いけるわ」

 

 ……間違っていないはずだ。(震え声)

 

「うふふ、この店のスープは、毎日店長が何時間もかけて仕込んでますからね」

「マジかよ、このみちゃん?」

「ええ、このスープこそが、店の味の基本です。この店だけの万能調味料と言ってもいいですね」

「へええ……」

 

 このみちゃん(バイト)……そのスープってね、ラーメンスープなんだ。

 そりゃあ、旨み成分をたっぷり含んでるから調味料として使えるし、使ってるよ。

 

 でもさ、確かにラーメンにこだわりはないけどさ……。

 

「店長ーっ!餃子2枚と焼きそばに八宝菜、そして中華丼入りました」

 

 そういって、ビールの用意をするこのみちゃん。

 明るくて、働き者の、いい子だ。

 

 

 

 

 そして、1日が終わる。

 

 今日も、ラーメンは注文されなかった。

 もちろん、俺に、こだわりはない。(震え声)

 

 一番の人気メニューは、日替わり定食。

 ご飯と餃子、そしてスープに、日替わりのもう一品。

 中華丼をはじめとした、丼ものも定番で人気だ。

 

 もう一度言う。

 俺に、こだわりは、ない。(震え声)

 

 俺は、ラーメン屋の、店主だ。   

 

 




なお、近所では定食屋として認識されている。
そして、2番人気は少し変わった焼きそばだ。(麺をラーメンスープで軽くゆでてから焼くのだが、麺そのものが美味いと好評)
スープと麺は、ちゃんと消費されてます。(震え声)
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