20年ぐらい前のゲームですねえ。
「……手をつなぐって、どうやればいいんだ?」
これが高校生ではなく、小学生同士のお付き合いと思えば、微笑ましいのだけれど。
私の
ちらりと、先輩を見る。
落ち込んでいたみやこに、優しい言葉をかけてくれた悠介先輩。
この『どうやって手をつなぐのか?』であたふたしている人が、知らない
3年の先輩が引退して、1年も、2年も、レギュラー入りを目指して必死になる時期。
遅くまで練習している私のために、おにぎりを作って待っていてくれたみやこが教えてくれた。
『誰かが誰かを必要とするから、人は生きてるんじゃないかって、そう思うんだ』
なんでもいいんだと。
その、大事な友達のために、何かをしてあげる。
何かをしてあげたいという気持ち。
見ず知らずの下級生に、そういう優しい言葉をかけることができる先輩。
ちょっと頼りない感じもするけれど、悪い人ではない……きっと。
まあ、みやこがちょろいのだけは間違いないけど。
みやこにとっての『誰か』になってくれたこの人が。
私の大事な友達のみやこの『誰か』になった先輩が。
私の助言を必要としているのも……まあ、巡り会わせなんだろう。
ため息をつき、すっと手を差し出した。
「……え?」
きょとんとした表情を浮かべる先輩に。
「練習しましょう」
「え、いや……?」
「手のつなぎ方がわからないなら、練習するしかないでしょ!」
「え、でもそれって……みやこちゃんに……というか、千枝ちゃんにそんなことをさせるわけにも」
あ、面倒くさい人だ。
また、この人のことが少しわかった気がした。
「フォークダンスで手をつないだら、恋人ですか?すごいですね」
「は?俺が言ってるのはそういう……」
「はぁ、半ボッチ先輩は、これだからなぁ」
「で、できらぁ!」
差し出した手をぎゅっと握られる。
はいはい、子供子供。
と、先輩がびっくりしたように私の手を放した。
「……どうしました?」
「あ、いや……ちっちゃくて柔らかくて、なんか壊れそうで怖くなった」
「……はぁ?」
「……女の子って、壊れものなんだなぁって実感した」
この人、中学生の妹さんがいるのよね?
なんで、こんな面倒くさい育ちかたしてるんだろう?
……まあ。
がさつで男っぽいって言われ続けてるから、悪い気はしなかったわ、うん。
ちょっとだけ、だけどね。
……知ってた。(白目)
先輩だけじゃなく、みやこも結構馬鹿だったって。
学校からの帰り道……川沿いの土手の道。
みやこも、先輩もそっぽを向いて。
それでいて、手をひらひらさせている。
指がかすめるたびに、2人の足が止まる。
身体が硬くなっているのもわかる。
たぶん、2人とも手に全神経を集中しているのだろう。
ねえ、2人の肩が触れ合ってるのはいいの?(ため息)
肩を寄せ合い、不自然に手をひらひらさせながら。
初々しいカップルのフォークダンスは始まらない。
5分。
10分。
かすめるだけだった2人の小指が、どうした拍子にかそっと絡んだ。
動きが止まる。
息を呑む、私『達』。
人のことは言えないけど、お人よしが多い。
2人を追い抜かないようにして、距離を保ちながら生暖かい視線で見守っている……十数名。
そっぽを向いていた2人の視線が、ゆっくりと……。
お互いを見る。
そして。
先輩の手が、ぎゅっと。
そして、みやこが。
握り返した。
そのとき、大歓声があがった。
私は、あげてない。
ガッツポーズはしたけどね。
……あとで、激おこ状態のみやこに、チョコレートサンデーをおごらされたけどね。
まあ、それを食べながら、みやこが小さく『ありがとう』って呟いたのが聞こえたけどね。
……馬鹿がいる。
「……みやこちゃんに嫌われたかもしれない」
私の目の前に、馬鹿がいる。
いやもう、先輩とか関係ないから。
馬鹿で、子供よ。
まあ、私も誰かと付き合ったことなんかないけどね。
それでも、これはない。
今はそんなこと考えられないけど、いつかは私も誰かと恋人同士になったりするはずだけど。
この、悠介先輩とみやこよりはうまくやれるはずよ。
そうね、とりあえず。
私は、思いっきり大きなため息をついた。
「いや、マジで悩んでるんだ……こういうこと相談できる相手がほかにいないんだよ」
「……半ボッチじゃなくて、完ボッチ先輩」
「みやこちゃんみたいなかわいい彼女ができたら、男友達はほぼ敵に回るからな」
「みやこはいい子だもの、多少の嫉妬は諦めて」
「諦めたから、千枝ちゃんに聞きに来てるんだよなあ……」
そう言って頭を抱える先輩に、もう一度大きなため息を聞かせてあげた。
まあ、仕方ないから話は聞いたけど。
帰り道、距離が遠くなったんですって。(ため息)
あのとき、手をつないだのがいけなかったんじゃないか、ですって。(大きなため息)
『無理やり』手をつないだせいかもしれない、ですって。(ものすっごい大きなため息)
……なんで、みやこが恥ずかしがってるって発想が出てこないのかしら?
みやこみたいな、おとなしい女の子が相手なんだから、いつもは困るけど、時には強気で引っ張っていくぐらいじゃないとだめに決まってるじゃないの。
「ち、千枝ちゃん、聞いてぇ……悠介さんのことなんだけど」
ははは、『無理やり』手をつながれて嫌がっているみやこが、頬を染めてのろけてくるんだけど。
帰り道で、車からかばってくれたとか、色々。
ああ、うん。
私の話題、減ったなあ。
以前は、私の部活の話とか、聞かれることばかりだったのに。
みやこの趣味は読書だから、私はそっちにはついていけなかったから。
そっか。
あの、何気ない会話も……みやこが私に気を使ってくれていたのね、きっと。
そして今は。
私と、みやこの、共通の話題。
あの人、そうなっちゃったなあ。
……ん?
「みやこ、あんた今、先輩のことを『悠介さん』って言った?」
「……ぁ」
あはは、かわいいなあ、みやこは。
でも、あの先輩にはむかついたから、今度殴っとこう。
先輩の話を聞く。
みやこの話を聞く。
2人の距離を、お互いが望む、ちょうどいい距離を模索しながら。
私は、悩み、考え、3人一緒に遊んだ。
先輩が変わっていく。
みやこが変わっていく。
私に相談することなく、2人がデートをした。
楽しかったらしい。
うん、良かった。
それでいいはずだ。
だって、2人は恋人同士なんだもの。
先輩と帰る日。
私と帰る日。
3人で帰る日。
この3つをバランスよくローテーション。
うん、生真面目なみやこらしい。
今日は、2人が一緒に帰る日。
苦笑しつつ、私はひとりで帰る。
土手の道を歩きながら、心の中でつぶやく。
ねえ、みやこ。
私もね、この道で先輩に車からかばってもらったことがあるよ。
そこにいない、誰かに、手を伸ばしながら、心の中でつぶやく。
ねえ、みやこ。
私、あなたより先に……先輩と手をつないだよ。
何度も、何度も。
土手の道を過ぎ……駅へと向かう、いちょう並木を歩く。
彩られた葉に、季節の移り変わりを感じた。
ひらひらと、いちょうの葉が落ちてきた。
それを、つかむ。
握り締めた。
ねえ、みやこ。
私は、この場所で。
あなたを傷つけてもいいかなって、思ったことがあるよ。
このいちょう並木を、先輩の隣で幸せそうに微笑むあなたを見て、そこにいるのが私だったらなあって。
大事な友達のあなたを。
傷つけてもいいって、決意したことがあるよ。
『千枝ちゃん、ありがとうな。みやことうまくいってるのは、千枝ちゃんのおかげだと思うよ、本当に』
笑って、自然にあなたを呼び捨てにした先輩に。
あなたと先輩が、感謝の気持ちだといって渡してくれたプレゼントに。
私は、笑ってそれを受け取るしかなかったけどね。
また一枚。
いちょうの葉が舞う。
握り締めたいちょうの葉を意識した。
いちょうの葉がすべて散る頃、ここからは冬の空が見えるだろう。
私、さっきはがんばって笑って見せた。
だから、いいよね。
いちょうの葉を投げ捨てて、私は泣いた。
あの日。
みやこが、そうしていたように。
声を出さず、ただ、涙を流して泣いた。
また一枚。
もう一枚と。
いちょうの葉が、私に向かって舞い降りてきた……。
エロゲーの主人公でありながら、女の子とどうやって手をつなぐのか苦闘する主人公のピュアさがまぶしいゲームでした。
ちなみに、みやこは由緒正しい眼鏡娘。
千枝は、ショートカットのラクロスっ娘。
真のヒロインは、妹。(ゆさゆさゆさ……)