このお話、たぶん、似たようなネタを誰かがやってるとは思います。
転生したら、人生ハードモードだった。
ラノベのタイトルっぽい説明で悪いが、つまり、そういうことだ。
というか、ぶっちゃけ異世界とは思えない。
イメージは、高度成長期の日本か。
公害や学歴社会など、さまざまな形で社会の歪みが問題となって噴き出してくるそんな時代背景っぽい。
まあ、ガチの異世界とか、悪人がヒャッハーしまくってるとか、そういうのに比べたらマシだけど……人権意識や社会保障の意識の低い世界で、孤児スタートは厳しい。
もちろん、悪いことばかりでもない。
メリットとデメリットはコインの裏表のようなもの。
『力こそパワー』
悪いことをすればぶん殴られるし、悪いことをしているやつはぶん殴って注意する。
弱きを助け、強きをくじく。
ブラウン管の中のヒーロー像を、現実世界に投影してもあまり叱られない。
もちろん、大きな怪我をさせないように、という注意書きがつくが。
正直、前世では学校生活の変化に驚き、自分には耐えられないと思っていた。
なので、子供の世界でこれがある程度通用するのは、昭和世代の人間にとってはありがたい。(震え声)
そして幸い、この身体……優秀だ。
優秀すぎるぐらい優秀だ。
金がかかるのがネックだが、どうにかして、どこかの野球特待生あたりにもぐりこめないものだろうか。
前世ならともかく、現状でプロスポーツとして成立しているのは野球と、大相撲と……意外だがボクシング(キックボクシング含む)もなんだが、歴史を振り返ると廃れていくんだろう。
でもまあ、今は子供たちの『無邪気な』暴力に立ち向かうのが優先だ。
そして、俺は無体な悪ガキ連中を叩きのめす。
場所は、動物園の虎の檻の前。
あれ?
心の中に広がる得体の知れない不安感。
私の所属する孤児院の名前は、『ちびっこハウス』
あれれ?
私の名は、『なおと』。
そして今、私をスカウトしようとしているのが、悪役レスラー養成機関『虎の穴』。
……タイガーマスクだ、これ。(白目)
前世でも運動には自信があったけど、そりゃこの身体には負けるわ。(震え声)
『虎の穴』の殺人的トレーニングというか、『的』はいらねえよ。(震え声)
まさしく、殺人トレーニングだ。
でも……良くも悪くも、突き抜けた何かを持たない人間は、早めに脱落させたほうが良いから、すべてが間違っているってわけでもない。
猛練習に耐えられることと、それに応えられる身体というのも才能だ。
野球で150キロの速球を投げようと思ったら、その負担に耐えられる身体が必須となるのと同じことだ。
少し、悩ましいが……仕方ない部分はある。
とりあえず、飯というか、栄養摂取的な意見だけは、死ぬ気でごり押しした。
ははは、仲間と一緒にクソなコーチの太ももの肉を食いちぎってやったぜ。
そうしたら、食事に肉が大量に出てくるように……違う、間違ってはいないが、そうじゃない。(震え声)
これ以降……俺が口を開くと、コーチが一瞬おびえるようになった。(目逸らし)
ははは、ちゃんと食べてますって。
心配ない、心配ない……怖くないよ、ホントだよ。
虎の穴には俺と同じような境遇というか、孤児が多かった。
原作のこのあたりはうろ覚えだが、主人公が孤児院に寄付するっていうのは、自分の境遇や仲間を見て、何かしら思うところがあったんだろう。
力が強くなる。
身体が大きくなる。
成長することは、やはり楽しい。
さすが主人公のボディといいたいが、俺なりに努力はしたつもりだ。
スクワット。
腕立て。
前世で慣れていたつもりだったが、平然と4桁の数を要求されたときは動揺した。
でもまあ、前世でスイミングクラブに通ってた知人も、中学生で腕立て800回とか普通に言ってたし、競技が違えばトレーニング方法も違うってことだろう。(震え声)
プロレスラーってすげえや。(白目)
リングのマットは、硬くて荒かった。
もっと柔らかいと思っていたけど、大男が暴れまわる足場だもんな……甘く見てた。
それに、柔道の初心者が、畳にこすって血が出るのと同じことだろう。
まだ、皮膚が弱く、レスラーの皮膚になっていないということだ。
最初は一発背中からたたきつけられただけで、皮がむけて血がにじんだ。
文字通り血だらけになりながら、ペアの仲間と交互にリングにたたきつけ合う。
血と汗でぬめって抱えあげるのが難しくなると、コーナーポストに上って、飛び落ちたりした。
飛び降りるじゃなくて、飛び落ちるんだ……受身をとらずに背中から。
皮膚を鍛えると同時に、痛みへの耐性を得る。
そうして、強い身体を作り上げていく。
プロレスラーってすごい。(目がぐるぐる)
当然だけど、プロレスラーとして要求されるだけの身体ができなかった連中は、姿を消していった。
スポーツの世界はどこもこんなもんだし、ましてや虎の穴は慈善事業ではない。
後ろ盾のない孤児である自分をスカウトし、トレーニングと教育を施し、飯を食わせてくれた。
この、虎の穴に対する恩みたいなものを確かに感じている。
少なくなった仲間と、ようやくプロレスの技を学んでいく。
虎の穴は、悪役レスラーの養成所。
悪役レスラーの需要があり、金になるということだ。
プロレスラーとしての教育に加え、悪役レスラーとしての教育。
それぞれのルールがあり、禁じ手がある。
禁じ手を防ぐためには、禁じ手を学ばなければいけない。
悪役レスラーの道は厳しい。
また1人、仲間が去っていく。
そして、新しくやってくる後輩たちがいる。
強くなれ。
強くあれ。
そんな言葉をかけるしかできない俺がいる。
ついに、俺がこの虎の穴を卒業するときがきた。
提示された契約書。
うん。
う……ん?
あれ、ものすごくまっとうな……契約だな。
俺のファイトマネーの半額を上納と聞けば眉をひそめるだろうが、それは試合の斡旋などの、マネジメント料を含めた金額だ。
しかも、子供の頃から10年近く養育されてきたという背景がある。
ついでに言うなら、新人悪役レスラーのギャラなんてしれている。
そして、俺に人気が出てギャラが増えれば……上納金の割合も減る。
芸能人というか、アイドルのギャラを考えれば……むしろ恵まれているか。
ギャラの半分をもらえる新人の芸能人がいるか?
あれ?
ここは、悪役レスラー養成機関であって、単純に商売で……。
少なくとも、悪ではない……な。
え、何やってんの、タイガーマスク?(震え声)
養育してもらって、手に職をつけてもらって、試合のマネジメントもしてもらって、自分がいた孤児院に援助したいからって『虎の穴』との契約を無視して……。
ああ、うん、そりゃ怒るわ。(震え声)
裏切り者というか、契約不履行の犯罪者じゃん。
好意的に考えたら、刺客という名を借りて対戦相手を送り込んで……せっせとファイトマネーを稼がせてくれたともいえる、か。
……。
……。
……うん、相談してみよう。
虎の穴のマネジメント部の人に、相談してみた。
俺がお世話になった孤児院の現状を説明し、援助したいのだと。
将来、俺のギャラがアップしても、上納金は半額の割合で……そのかわり、手を貸してもらえないかと。
俺は、今日もリングの上で戦う。
悪役レスラーとして。
得意技は噛み付きだ。
あと、爪(隠し武器)の引っかきな。
ははは、タイガーマスクだからな、噛み付いてナンボよ。(震え声)
『ちびっこハウス』の後輩にはあまり見せられないパフォーマンスではあるが、気にしない。
プロだから、気にしないったら、気にしない。(震え声)
でもまあ、俺を育ててくれただけでなく、相談にも親身になってくれた虎の穴には感謝だ。
俺が金になる悪役レスラーだということを考えても、良くしてくれている。
恩は返さなければいけない。
絶対に。
子供の頃に見たアニメ、大人になってから原作を読んで愕然とする。
ああ、悪役レスラーって、そういう……。(震え声)