高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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うわあ、もう20年も昔になるのか、このゲーム。
わりとメタなネタが多く、人を選ぶ、育成スポ根、恋愛もあるよの、ゲーム。
選ばれた人間の評価は総じて高い。
敢えて言おう、傑作であると。
ちなみに、バレー界でラリーポイント制に移行しつつあった時期。
なので、ゲームではサーブ権有りかラリーポイントかを選択できました。


5:誰もいないコート。(原作:プリズムコート)

 4月1日。

 キュッキュッと、床を踏む音が、ただ広がって、消えていく。

 掛け声はない。

 ボールが床に弾む音もない。

 ボールを叩く音も、ボールを体に叩きつけられる音も、何もない。

 誰もいない体育館の床に、教師はモップをかけていく。

 

 モップがけを終えると、教師は床にワックスを広げ始めた。

 乾くまでの時間を考慮する必要はない。

 今日、この体育館を使用する部活はないからだ。

 

 全てを終えた教師の額には、薄く汗が浮いている。

 まだ肌寒いこの時期、体育館の床の一人清掃、ワックスがけはなかなかの重労働なのだ。

 むしろ、少し汗をかくぐらいで収まっている教師を褒めるべきか。

 いや、彼にとっては褒められるには値しないだろう。

 かつて、大学時代に全日本男子バレーのメンバーに選ばれ、世界選手権では大車輪の活躍を見せて、数十年ぶりの栄光を日本にもたらした男だ。

 まだ20代後半の男の肉体は、超一流アスリートのそれを維持している。

 

 ただ、その右肩を除いて。

 

 大学4年時に、バレー選手としての彼は死んだ。

 当時のコネというより、彼を心配した周囲が、私立朝霧高校という女子高の教師という立場を彼に与えた。

 ご丁寧に、朝霧高校にはバレー部が存在していなかった。

 それは、せめてもの配慮だったのだろう。

 そうして3年。

 教師としては可もなし不可もなし、プライベートでは厳しいトレーニングと節制。

 選手生命を奪われてなお、己にトレーニングを課したのは、未練だっただろうか。

 

 そこに現れたのが、彼女たちだった。

 

 熱血バレー少女でありながら、何故かバレー部のない朝霧高校に進学してきたうっかりさん。

 身長の低さから、走り高跳びの選手の道を諦めた、ちびっこ。

 仲間に裏切られ、バレーから距離をとろうとした、傷ついた少女。

 名門中学でセッターとして鳴らしていたのに、何故かここにやってきたおっとり少女。

 背の高さに悩み、女らしくなりたいと願う、どこか抜けた女の子。

 将来を嘱望されるバイオリニストでありながら、道に迷う少女。

 

 努力が才能を凌駕するなどという甘いことは言わない。

 彼女たちには才能があった。

 しかし、彼女たちの才能を正しく伸ばし、磨き上げたのが彼だ。

 

 彼女たち6人は、様々な日常イベントをこなし、ライバルと出会いながら、高2、高3と、全国大会連覇を果たす。

 全国連覇を果たしてなお、朝霧高校バレー部は消えた。

 彼女たち6人の卒業によって。

 

 

 

 誰もいないコートを眺めながら、彼は思う。

 東洋の魔女は、遠くなった。

 この国で野球が絶対ではなくなっていくように、バレーもまた競技人口が減少し続けている。

 

「先生」

 

 振り返る。

 

「中西先生に、黒崎先生……どうしました?」

 

 中西先生は、バレー部の部長。

 バレーの経験こそなかったものの、少女たちの熱意に負けて、男が監督を引き受けるまで、四苦八苦しながら部員の面倒を見ていた。

 黒崎先生は、養護教論。

 バレー経験者で、膝をやった……そのせいで、人一倍怪我には敏感だ。

 

「いや、誰もいないコートを見て黄昏てる誰かさんが気になってな……こいつが」

「……ワックスがけしてたんですね」

「……スルーかよ」

 

 男は、コートに目を向けながら呟く。

 

「怖いですからね、怪我は」

 

 中西先生が何かを言いかけ……黙る。

 彼女は、男の過去を知らない……有名なバレー選手だったという認識程度。

 おそらくは、『もう、怪我をする部員はいない』というところか。

 

 男が、苦笑を浮かべた。

 

「また、突然にバレー馬鹿が現れないとも限らないでしょう……現れてからでは、遅いかもしれませんから」

「そう、ですね……本当に、あの子達は突然現れて、すごい勢いで走り去ってしまいましたから」

「いや、あんな連中、そうそう現れるもんでもないだろ」

「もう、縁先輩は、そんなことばっかり……」

 

 風が、吹く。

 

 桜の花びらが、ワックスの乾いていない体育館の床に……それを、男の手が素早く掴んだ。

 桜の花は、別れの花か。

 それとも、出会いの花か。

 

 私立朝霧高校の体育館(コート)は、新たな出会いを待っている。

 伝説を残して去った少女たちの、後輩が現れるのを待っている……。

 

 




作者はまだ、長編を書き上げる夢を捨ててはいない。
そういや、リベロシステムもこの頃か……。
ブラジルが、立体Dスパイクを披露した時期ですね。
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