特定の艦娘をイメージしたものではありません。
終わりの見えない戦い。
不足しがちの物資。
昼夜を問わない警戒態勢。
戦いの中で、傷ついていく仲間たち。
そんな中でも、彼女たちは自分たちの幸運を感じていた。
全滅もやむなしと思われた戦いで、傷つきはしたが生還できたこと。
ままならない補給を、大胆で、繊細な作戦でカバーしてきたこと。
綱渡りどころか、今にも切れそうなクモの糸。
それを、渡りきる。
渡りきってしまう。
何度も。
繰り返し。
奇跡ではなく、手腕なのだと。
幸運ではなく、提督の才覚なのだと。
そのような提督の下で戦えること。
彼女たちは自らの幸運に感謝し、別の鎮守府や泊地で戦っているであろう姉妹たちを憂いた。
壊したのは、彼女たちが憂いた姉妹たちの言葉。
『それって、ブラック鎮守府じゃないの?』
出撃頻度。
物資状況。
休暇状態。
別の鎮守府の、泊地の、『ホワイト』な状況。
ひとつなら聞き流せた。
ふたつなら、そういうこともあるかと思えた。
みっつ、よっつ、いつつ。
揺れる彼女たちの心にとどめを刺したのは、姉妹たちの、『心配する』言葉。
『大変だと思うけど……がんばって』
『私たちを、モノとしてみる提督ばかりじゃないから』
『いつかきっと、状況も変わるよ』
信じていた幸運は。
心配され。
哀れまれる状態だったこと。
全てではない。
しかし、少なくはない彼女たちが……『状況を変えるために』立ち上がった。
最初は、『穏やかに』要求を。
しかし、突っぱねられる。
『そんな余裕は無い』と。
戦いはある。
物資は不十分。
それが現実。
『なぜ、この提督の下の自分たちだけが、こんな状態にあるのか?』
自然な疑問。
その理由を、彼女たちは提督に求めた。
提督が悪いのだ、と。
どこかにごまかしがある。
うそがある。
欺瞞がある。
提督を支持する仲間は、きっとだまされている。
目に見える、崩壊が始まった。
「提督!提督!」
自分を守ろうとした艦娘を、逆にかばうことで……提督は、緩やかに生を手放しつつあった。
人を傷つけない。
その原則を図らずも破ってしまった彼女たちは、動揺して静まり返っている。
部屋の中に響くのは、提督にかばわれた艦娘の絶叫のみ。
提督の目が開く。
「あぁ……無事でよかった」
「提督、しゃべらないで……貴様ら!医者だ、早く医者を呼べ!」
「報告せよ。誰も……大きな怪我をしたものはいないな?」
秘書艦が、姿勢をただして口を開く。
「は。未確認ではありますが、いないと思われます」
「ならば、よし」
「……提督、ひとつよろしいですか?」
「何かな?」
「何故、こんなまねを……」
提督が、微笑む。
「歯車だからだよ」
「……?」
「提督だって、歯車のひとつに過ぎないんだ……」
小さな声で、提督が語る。
提督は、艦娘と違って深海棲艦と直接戦う力は無い。
提督の役割は、艦娘を戦いに送り込むこと。
敵と戦い、戦力を失わずに、戦い続けられる状態を維持すること。
自分は、提督として、戦争の歯車として役立たずになった。
それゆえに、敵と戦うことのできる艦娘を守った。
歯車として。
壊れた歯車として、最後にできること。
別の、歯車を守ること。
そして、最後に一言。
「みんな、無事でよかったなぁ」
命を落とした提督に罪があるとすれば。
他人の苦境を、バカ正直に信じたことだろう。
自らが苦境にあるからこそ。
国が苦境にあるからこそ。
彼は、他人の苦境を信じた。
援助を願う鎮守府や泊地への、物資の融通。
援軍。
戦場には出ないものの、眠る暇も惜しんで職務に忠実だった男は……『ブラック』の烙印を押された。
鎮守府の管理不行き届き。
深海棲艦と戦う艦娘を、ひどく扱ったと。
真実を知るものも、それを表ざたにする危険を重視した。
それでも、その家族をかくまう程度のことはしたようだが。
新たに提督がやってくる前に、2人の艦娘が姿を消した。
そして、提督に引継ぎを済ませてから、秘書艦もまた姿を消した。
新しい提督は、『ホワイト』な提督だった。
その結果、全てが壊れ始めた。
艦娘を轟沈させるような、危険な戦場には手を出さない。
援軍も出さない。
物資にも余裕は無い……あくまでも、彼らの考える余裕、だが。
ホワイトが、グレーに。
グレーが、ブラックに。
転げ落ちていくのに、そう時間はかからなかった。
南の海。
戦いの海。
3人の艦娘が、暗く冷たい、重油の香りのする海に向かって灰をまく。
壊れた3つの歯車。
そんな彼女たちが。
黒い提督の、白い灰をまく。
涙を流しながら。
フィクションなので、リアルに重ねて読まないでね。(震え声)
でも、課金勢と無課金勢にあてはめたら、いきなりギャグ風味に。