高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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知 人:「高任さん、異世界転生者のグルメモノを書くなら、どんな話を書く?」
 私 :「……ハードル高いから、こんな感じでごまかす」


51:異世界で飯を作る。(オリジナル)

 赤。

 炎が揺れる。

 

 強火の遠火。

 沸騰させない火加減。

 表面を焼き、肉汁を閉じ込める。

 

 知識はある。

 経験もある。

 

 だが、『俺』の経験はあくまでも現代日本を基準とした経験だ。

 

 

 

 いやぁ、薪で料理するのってキツイっす。

 

 焼くか煮る。

 料理の手段は、おのずからこの二つに収束されていく。

 

 一定しない火力。

 そもそも、薪が豊富とも限らない。

 

 

 じゅっ。

 

 肉から落ちた脂が、炎に落ちる。

 

 漂う香り。

 そして、唾を飲む音。

 

「お、おい、まだか?」

「もうちょっと我慢しろ」

 

 香草を細かく刻み、肉の表面に振り掛ける。

 

 香草が熱せられ、へにゃりと肉にへばりついた瞬間、俺は肉を火から遠ざけた。

 肉を回しながら、表面を薄く削り取っていく。

 焼けているのは表面だけだ。

 内部までは、まだ火が通っていない。

 

「ほらよ。喧嘩するなよ」

 

 3枚の葉にとりわけ、仲間に回した。

 そしてまた、肉を火にかざす。

 

 焼けた肉を口にする仲間たち。

 俺もまた、一切れ。

 

 うん、まあ……こんなもんか。

 少なくとも、仲間たちは美味そうに食っている。

 

 ここは、異世界。

 俺は、現代日本で死に、この世界で生まれ変わった。

 

 前世の記憶。

 そして、今の俺の肉体。

 当然だが、味覚の発達度合いは別物だ。

 というか、味覚そのものが別物である可能性が高い。

 

 同じ日本人でも好みは分かれる。

 日本人が美味いと喜ぶ食物も、外国人には苦痛に感じることもある。

 

 もしかすると、今の俺は……味噌の香りに、吐き気を催すかもしれない。

 グルタミン酸、イノシン酸……感じ取れる旨み成分が別物だったなら。

 いや、間違いなく別物だろう。

 

 なんせ、この世界には『塩』がない。

 

 

 ……この時点で、俺の前世の記憶や経験の多くがふっ飛んだ。

 

 言葉が違うとか、そういうレベルじゃない。

『塩』のようなものもないし、その代替物のような存在も見当たらない。

 

 もちろん、俺の調査不足とか、そういう部分はあるのだろう……が。 

 

 この世界の人間は、俺の前世での人間に対して、生物としての成り立ちとか、そういうものが別種の可能性が高い。

 

 とはいえ……デザインにおいて何らかの共通性はあるのだろうと、気を取り直して生きてきた。

 ものを食べなければ死ぬ。

 身体を鍛えたら、それなりに強くなる。

 子供はある程度親に似る。

 

 たぶん、大まかな骨組みに関しては類似性があるんだろう。

 そして、世界の成り立ちや、構成などで、何らかの変化がある。

 

「しっかし、すごいよな」

「まったくだ。焼いた肉に草を振りかけるとか、ちょっと考え付かないぜ」

 

 ……ただ振り掛けるだけじゃダメなんだよな。

 

 この香草、そのまま口にするととんでもなく苦い。

 細かく刻み、水分を出す。

 そして、火であぶる。

 

 そうすると、動物の肉の脂分と反応して……たぶん、反応してるんだと思う。(目逸らし)

 

 ちなみに、魚はダメだ。

 そして、動物の肉なら全部大丈夫かというとそうでもない。

 大型の、肉食獣とは相性が悪い気がする。

 

 ……蒸し物とかもダメなんだよなあ。

 

 正直、使い勝手が悪い。

 保存も利かないしな。

 

 

 また、肉の表面を削り取った。

 仲間に回す。

 あくまでも、これは前菜。

 

 

 鍋に目をやった。

 

 穀物……のようなもの。(目逸らし)

 

 一応、この世界の、この地域の主食ってことになっている。

 正直、美味しくない。

 

 まあ、この世界……塩も砂糖もないしな。

 というか、調味料がない。

 少なくとも、『調味料』という概念がない。

 

『食べても死なないモノ』を、焼くか、煮る。

 

 前世でもそうだったように、多くの人間がチャレンジを繰り返し……食べられるものを開発してきた。

 俺もまた、この世界で死ぬまでに、積み上げることになるだろう。

 

 

 穀物の鍋を、仲間たちがまずそうに食う。

 そして俺も、食べる。

 

 この穀物。

 焼いても煮ても、まずい。

 粉にして、水でねって焼いてもまずい。

 蒸してもまずい。

 

 動物の肉と一緒に煮込んだら、肉までまずくなる。

 

 俺も、これまでに色々と試してみた。

 

 いわゆる、アクが強いのかと、茹で汁を交換したりしてみた。

 植物の汁ならどうか。

 動物の血液はどうだ。

 

 前世の記憶からすると、炭水化物の塊のはず。

 熱を加えれば、何らかの変質が……と思ったのだが、どうにもならなかった。

 

 煮ても焼いても食えないというが、これは煮ても焼いても生でも食える。

 

 ただ、まずいだけ。

 それでも、栄養はあるんだ、きっと。

 

 この穀物の栽培方法が確立したのが、300年ほど前のことらしい。

 それから、人口が増えた。   

 人口を支える栄養源であることは間違いない。

 

 

 ちなみに、XO醤とかも考えはしたんだ。

 まあ、味の〇でもいい。

 いわゆる、旨み調味料。

 

 異世界だろうと、味覚が別物だろうと、『美味い』と感じる食べ物があるならば。

 その、『美味い』と感じる物質を抽出して調味料にすれば……ってね。

 

 

 ……色々やったなあ。(遠すぎる目)

 

 

 この世界、単純に旨みを混ぜると喧嘩する。

 文字通り喧嘩するんだろうなあ。

 

 そして、不味みに変わる。

 

 

 ……俺は、異世界に生きている。

 

 旨みと不味み。

 または、不味みと不味み。

 

 この組合わせに、未来を求めた。

 

 だから、あの穀物はきっと……何かあると信じたい。

 まだ試していない手段。

 まだ見ぬ何か。

 

 肉と香草のような。

 

 

(飲食的に)ひどい世界だなあと思うと同時に、ワクワクしている自分がいる。

 

 この世界は、まだ見ぬ空がたくさんある。

 知らないもの。

 知らない世界。

 

 

 この、異世界の空の下で。

 俺は、飯を作り、食べ、生きていく。   

 




塩がない世界は、一度書いてみたいとは思うんですが……。
ただ、塩が生物にもたらす恩恵を別物に置き換えるだけでも、生物学から生態系にいたる部分まで考えなきゃいけないから、書き手の知識はもちろん、読み手に説得力を感じさせる部分でかなりハードルが高いですね。
一番楽なのは『魔力』でごまかすことでしょうけど、そうすると『魔力の多い動物の肉が美味い』なんて安直な話になりそう。
結局それは、食材に関係なく旨み調味料をぶっかけるのと変わらない気がします。

異世界の食事事情の意外性と新鮮さを、言葉で読み手に説得力を与える……考えただけでも、そのハードルの高さに目がくらみます。

しかし、異世界グルメというジャンル……難易度は激しく高いけど、チャレンジのし甲斐がありますね。
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