ふと、目が覚めた。
しかし、ゆめうつつ。
物音。
意識の覚醒。
お隣さんが、出かけていく。
枕元の時計を確認。
深夜、二時過ぎ。
……うん。
タイミングが良かったのか悪かったのか、眠気も消えてしまった。
仕方なく、読みかけの小説に手を伸ばす。
静かな夜。
20分ほど過ぎて、また眠気が戻ってきた。
本を閉じる。
ライトを消す。
目をつむる。
フォウフォウフォウ!!
異様な音。
電子音。
電話?
目覚まし時計?
耳を澄ます。
フォウフォウフォウ!!
『ガスが、漏れています』
にょわー!?
飛び起きる。
右か、左か?
あるいは上か?
鳴り響く警告音。
止まる様子はない。
こっちか。
壁に耳を当てる。
間違いない、こっちだ。
しかも、さっき出かけたばかりのお隣からだよ、これ。
加齢とともに衰えを感じつつある脳細胞をフル活動。
どうする?
どうしよう?
ガス警報機の異常。
それが一番平和だ。
笑い話ですむ。
だが、それにチップを全賭けして眠りにつく度胸はない。
というか、チップは私の命だ。
動かねばならぬ。
守護らねばならぬ。
草木も眠る、深夜の2時過ぎだけどな!
この時間帯に、眠りについているアパートの住人に声をかけて回って……チクショウ、動きたくねえ。
どうあがいても、俺が感謝される道筋が見えない。
感謝されるケースは、アパートがふっ飛んで『命があって良かった』ケースのみか。
しかしその場合、家とか家財道具を失うわけで。
ひらめいた!
責任を他人に押し付けよう。
専門家にアドバイスを受け、アドバイスされたように行動する。
いや、だって専門家に住人を起こして避難させてくださいって指示されたんですよ。
仕方ないですよね。
これだ。
これが日本人のあるべきメンタルで、行動規範だ。
えっと、消防局でいいのか?
まずは落ち着く。
住所。
現状説明。
短く簡潔に頭の中でまとめる。
よし。
連絡。
ほぼ、想像通りに物事が動いていく。
一応、貴重品はバッグに入れて持った。
さあ、立てよ住人!
起こして回るぜ!
仕方ないんだ、そう指示されたんだ。
深夜2時過ぎという時間帯。
言葉の通じない住人の存在。
明らかに胡散臭い視線で見られる俺。
というか、たぶん俺の部屋のガス漏れと勘違いされてるかもしれない。
人類の、知恵と勇気と博愛が、苦戦を強いられる。
深夜の大騒ぎ。
笑い話で終わってくれ。
部屋を出てきた住人が、ガス警報機が鳴り響く部屋のドアをどんどん叩くことを繰り返す。
いないって言ってるだろ!
だから慌ててんだよ!
未だに、部屋から出てこない強者もいる。
こんな時間にうるせえぞと言われたらそれまでだ。
良くも悪くも、この騒動が終わった後のアパートの住人間の人間関係は複雑なものとなるだろう。
無事に済めば、騒いだ俺は悪者だ。
平和な日常を、ガス警報機がぶち壊した。
チクショウ。
ここにはいない、お隣さんへのヘイトが溜まる。
鳴り響くガス警報機。
ふと、気づく。
これ、ガスの元栓というか、部屋の外にそういうバルブがあるんじゃね?
専門家に任せるべきだ。
いや、出来ることはやるべきだろう。
というか、一番大事なのは自分の命の安全を確保することではなかろうか。
肩をつかまれる。
罵られる。
いわれのない暴力が俺を襲う。
だから俺の部屋じゃねえって言ってんだろ!
とうとう悪者探しの開始だ。
ああ、チクショウ。
なんでこんなことに……。
爆発オチにはしない。