高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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なんか上手く話が膨らまなかった。


53:ニコポ(レベル1)。(オリジナル)

「えっ、マジで?マジでいいの?」

「はい。その程度なら、お礼としては足りないぐらい」

「というか、ニコポで通じるんだ?」

「もちろん」

 

 ダメでもともと、半ば冗談で口にした要求。

 それが通ってしまった。

 たぶん、俺の人生にはリーチがかかったのだろう。

 通ればリーチ、これは宇宙の真理だからな。

 

 狼狽する俺を、ニコニコと微笑みながら見つめる黒髪ロングの絶世の美少女……いや、美女?

 まあ、その中間ぐらいか。

 といっても、見た目だけで言うならば、だが。

 

 なんせ、人間じゃないからなあ。

 この世のものとは思えないぐらい可愛くて美人でも仕方がない。

 

 ほんの気まぐれで助けた子猫。

 別に猫が好きってワケでもないんだが、なんというか、助けられるから助けた。

 その程度。

 まあ、その猫が……ペットだったらしい。

 

 ただ、真夜中にいきなり目の前に現れるのは勘弁して欲しかったが。

 でも、人間じゃないというのをそのまま信じる理由にはなった。

 

「みー」

 

 助けた猫が、てしてしと俺の膝を叩く。

 首筋をくすぐってやると、満足そうにゴロゴロとのどを鳴らした。

 

「さて、じゃあ『ニコポ』の能力を与えるための準備を……」

「あ、時間がかかるんだ?」

「いえ、それほどかかりませんよ。あなたの顔やら体型やら、作り直すだけですから」

「へー、作り直……」

 

 待てい。(震え声)

 

「……」

「……」

「……どのぐらい待てばいいの?」

「いや、うん、何もかも待ってほしいと言うか……その、作り直すってことは、俺、死んじゃうの?」

 

 彼女が、妖しく、美しく微笑む。

 

「人の身体なんて、所詮魂の入れ物に過ぎませんし」

「いや、いきなり顔から体型まで変化したらもう別人でしょ?俺の周囲、大騒ぎに……えっと、少なくとも両親はびっくりすると、思うんだ、うん」

 

 誰かが言ってた。

 人生において、本当に友達と呼べる存在は最高でも3人ぐらいしかできないって。

 だから、俺は大丈夫、きっと大丈夫。

 

「騒ぎになんかなりませんよ。そこは私の、不思議パワーで、周囲も普通に受け入れます」

「いきなりガバガバだな、おい!」

 

 正直、俺は微妙に不細工で、コンプレックスを抱えている。

 太っても、痩せてもいない。

 いわゆる中肉中背で、特に特徴はなく……目が大きいとか細目とかもなく、鼻はやや低く、口の大きさや形も普通なんだが……こう、ひとつひとつのパーツは普通の範疇だけど、微妙にバランスが悪いというか。

 好意的な評価としては、『味のある顔』。

 子供の頃は誰でもカワイイなんて言われがちだが、俺の子供時代は……大人たちはこう、残念そうな表情を浮かべて何も言わなかった、それが答えだ。

 

 顔にコンプレックスがあるからこそ、このままの俺というか外見で、ニコポかまして癒されたい。

 

「というか、不思議パワーでどうにかなるのなら、今の俺のままでニコポさせてください」

 

 彼女はぽんと俺の肩に手を置いた。

 

「人間、見た目が9割って言うよね?」

「何でそんなとこだけ、リアルなんだよぉぉ!」

「うーん、好意を持つ、あるいは恋愛感情を芽生えさせるなら、何かしら相手の心の琴線に触れる必要があって、優れた外見ってのはわかりやすいファクターなんだけど」

「マジレスはやめてください、お願いします」

 

 違うんだ、イケメンだからという理由のニコポは違うんだ。

 そこには夢も希望も、ロマンもないんだ。

 普通の顔、あるいは不細工。

 惚れる要素も、好意をもたれる要素もないのに……というのが、ロマンファンタジーなんだ。

 

 良くも悪くも、俺は自分の外見の悲哀を味わって生きてきた。

 もちろん、人格が優れているなんて口が裂けても言えない。

 でも、でも、イケメンに作り変えられてニコポのスキルを得たとしても、それは俺の敗北感を増幅するだけじゃないか。

 

「あぁ、美醜逆転……」

「微妙な不細工さだから、微妙なイケメンってオチだよね。人によっては好みとか、そういう感じの」

 

 彼女が、笑う。

 そして、ぞっとするような冷たい口調で、言った。

 

「つまりあなたは……モテたいんじゃなくて、ある種の復讐をしたいのね」

「復、讐……」

「今まで肯定されることがなかった容姿に魅了される……それを眺めて笑いたい、違う?」

 

 反射的な否定の感情。

 しかし、それを乗り越えて……彼女の声が、言葉が、すとんと胸に落ちた。

 

「は、はは……」

 

 手で、顔を覆う。

 引きつったような、笑いがこぼれる。

 

 そうか、そうなのか。

 ああ、うん、そりゃ、モテないし、相手にもされないわ。

 

 彼女を見る。

 最初の微笑とは違う、ぞっとするような笑みを浮かべている彼女。

 

「そういうドロドロした人間の感情って、好きよ」

 

 妖しく、惹き込まれるような響き。

 人ならぬ彼女。

 もしかして、悪魔よりの存在なんだろうか。

 

「そのままのあなたなら、最大レベルのニコポは無理ね。ううん、良くも悪くも平凡なだけに、最低レベルにならざるを得ない」

「……レベル?」

「器を作り変えて渡そうと思ったニコポなら、相手の女性はその場で腰が砕けて、股を開くレベル」

 

 それはニコポと言うより、マジカルの分野ではなかろうか。(震え声)

 というか、それはそれで情緒がないと言うか。

 

 あぁ、でも低いレベルなら……最初は勘違いかもと思う程度で、少しずつ少しずつ心が傾いていく……そんな過程を楽しむのはロマンだと思います、はい。

 

 

 

 そうして俺は、ニコポ(レベル1)を手に入れた。

 ちなみに、最大レベルは256らしい。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、最低レベルってことは、使ってるうちにレベルが上がったり……」

「しません」

「……効果が薄いだけ、とか?」

「それもありますが、条件が厳しくなる感じかしら」

「……と、言うと?」

 

 彼女は、俺に向けて言った。

 

『あなた自身の付加価値を高めることで、スキルを使用できる相手も増えるし、効果も多少高くなる』

 

 ん?

 

 言葉が耳に届いたが、心にまで届いてこない。

 首を傾げる。

 

「そうね、たとえば自分より力が強い相手に勝とうと思ったら、優れた技や、運の要素が必要となってくる、そうよね?」

 

 わかる。

 なので、頷く。

 

「力の差が大きければ大きいほど、必要とされる技術や運の要素は多大なものとなる」

「あ、え、それって要するに……俺が大きく劣っていて、レベル1の技術では勝負をひっくり返せないとか、そういう……」

「ほら、スポーツ選手とか、大富豪とか……同じような容姿、人格でも、ハードルの高さが変わるのはわかるでしょう?」

「……何でそんな世知辛いんですかね」

「大丈夫、不思議パワーで、努力すれば能力が上がるようになるから」

「え、俺の時代が来る感じ?」

「才能や成長率はそのままで、ただ限界突破というか、上限をなくすの。地道に成長し続けることができるわ」

 

 ……それ、リアルのとき〇モじゃないんですかね。

 

 

 

 

 

 

 雨の日も、風の日も。

 小雪が舞った冬の日も。

 1日30時間という、狂ったトレーニングの毎日。

 

 え、1日は24時間だって?

 ほら、不思議パワーだから。

 時の小部屋みたいな場所で、あらゆる分野の勉強と鍛錬に明け暮れるが、所詮俺の才能は凡人レベル。

 本当に、地道にしか成長しない。

 

 しかし、そんな生活を続けて1年。(現実の時間)

 

 最初にスキルの効果が現れたのは幼女だった。(目逸らし)

 おまわりさん、来ないで。

 

 

「どういうことですかね?」

「幼い子供だから、相対的にあなたの能力が高いのよ。おそらく、あの子の周囲にも、さほど優れた大人がいないんでしょうね。狭い世界、そして少ない経験の中で、あなたは優れた存在であり……付加価値によって、ニコポが発動したのよ」

「……幼女に抱きしめられて通報されるとか、罰ゲームなんですが」

「でも、前に向かって進んでいる実感は持てた、そうでしょ?」

「それはまあ、確かに……」

 

 納得はできる。

 しかし、同時に恐ろしいことに気づいた。

 

 たぶん、俺の付加価値とやらが高まり、対象のそれを超え、一定以上の差をつけることでニコポを発動させることができるようになるという感じなんだろう。

 それはつまり、世間的に評価の低い相手からニコポが通用しだすってことではなかろうか。

 

 ああ、そういえばあの幼女……ちょっと不憫な感じだったかもしれない。

 だからこそ、転んだときに、自然に助け起こしていたのだが。

 そして、大丈夫だぞ、と笑いかけたら……。

 

「ちょ、このスキル、パッシブなの?常時発動タイプなの?」

「……笑わなければいいんじゃないかな」

 

 

 ……1日30時間というスケジュールの中に、ポーカーフェイスの鍛錬が追加された。

 

 

 そしてまた、1年(現実)が過ぎ、俺はなんとか1(ながれ)大学に合格することができた。

 やっぱこれ、と〇メモ世界に侵食されてないか?

 

「いい大学に入ったことで、特定の層の女性に対してあなたの付加価値が増大したわ」

「……日常的に出会うのは、同じ大学に通う女性と思うんですが?」

「まあ、そうなるわね」

「俺、この大学だと間違いなく下から数えたほうが早いポジションだと思うんだけど」

 

 というか、たぶん周囲はみんな俺なんかより才能があって優秀なはずだ。

 

「がんばれ、がんばれ」

 

 スケジュールが、1日わずか72時間のものに変更された。

 

 目に見えて成長したりはしない。

 ただ、1ヶ月、3ヶ月、半年と時間が経過し、ふと振り返ると、自分の成長を確かめられる。

 じれったいが、地道に、じりじりとした歩みを続けていく。

 

 やることは多く、周囲は優秀。

 だから、少し油断していたかもしれない。

 

 

「……ぁ」

 

 ひっつめ髪に黒縁めがね。

 大学生と言うより、会社のお局様ルック。

 そんな彼女の、目元が赤らむのがわかった。

 

 成績は優秀だが、容姿的な偏差値が低め。

 しかし、発動条件がそろうほどか?

 

 戸惑いを隠せないまま、彼女が足早に立ち去った後で……現れる。

 

「彼女、勉強以外はからっきしね。運動はもちろん、自炊してるのにわりとメシマズで……生きていくのに苦労しそう」

「……なあ、俺のスキルって、ある種の地雷発見器になってないか?」

「スキルはスキルでしかないし、道具のようなものよ。それをどう使うかは、持ち主しだいね」

 

 ……常時発動タイプなんですが。

 

 彼女が、楽しそうに言う。

 

「接客業のバイトとかしてみない?ほら、スマイル、スマイル」

「……無差別ニコポ連打とか、興味がないといえば嘘になるけど、厄介ごとを背負い込みそうな気がしてならない」

「んー、そう単純じゃないのよ」

「と、いうと?」

 

 俺の問いに、彼女が簡潔に答えた。

 

「1流大学生であることを知るか知らないかで、あなたの付加価値は変動するもの」

「……ちょっ!?」

「人間、見た目が9割って、そういうことよ」

 

 スポーツ選手、金持ち、エリート……それを知っているか知らないかで……。

 

 運動ができても、それを知らなければ意味がない。

 勉強ができても、それを知らなければ意味がない。

 

 手で顔をおおった。

 俺の付加価値は、俺が決めるんじゃなく相手が決める。

 つまり、初対面の女性に、俺のニコポとか無理なんですね、チクショウ、わかりたくない。

 

「あなたの願いは、あなたの容姿を肯定しない女性をニコポして、ある種の復讐を遂げたいというもの。つまり、対象は、あなたの知り合いでなければならない。違うかしら?」

 

 彼女を見る。

 ただただ、微笑を浮かべた彼女を見つめる。

 

 俺の願いの、急所をえぐってくる彼女。

 

 ああ、うん、確かにそうだ、そうなんだろう。

 俺のそれは、無邪気な『モテたいんじゃよぉ!』というものではなく、どこか暗いものを伴った欲望だ。

 初対面ではなく、俺の容姿を肯定しない……できれば否定するお高い女性をメロメロ(死語)にして、それを笑い飛ばしたい、そんな感じだ。

 ねじれた欲望、性格なんだろうけど、そうすることで俺は、あらためて生きていくことができるような気がする。

 

「ははは……」

 

 笑いがこぼれる。

 ニコポのような笑いではなく、もっと別の、おぞましい何か。

 

 

 その日から、俺は少しずつ交友関係を広げ始めた。

 優秀ではないが、今の俺は平均的な学生ではある。

 最初は、『何だコイツ』的に思われても、話をすれば、遊びにいけば、俺という存在が『ある種のオールマイティ』であることがわかってくる。

 その場その場で、誰かのフォローができる。

 友達としては、便利な存在だろう。

 

 男の知り合いが増えれば、女性と知り合うきっかけも増える。

 もちろん、いろんなタイプがいた。

 

 その中の1人。

 ああ、彼女だ。

 彼女がいい。

 

 そう思える、女と出会った。

 

 絵に描いたようなお高い女性で、プライドが高く、権威主義。

 正直、仲間内でももてあまし気味のポジションにいるっぽい。

 周囲から、あまり好かれてはいないように思える。

 

 俺を見て鼻で笑い、俺を紹介した男に『付き合う相手は選んだほうがいいのでは?』とその場で言ってしまえるレベルだ。

 

 これを堕とそう。

 彼女を堕とそう。

 

 それはつまり、彼女にとって価値のある分野の能力を伸ばせば、俺の付加価値が高まるってことだろう。

 顔と血筋は無理筋だ。

 しかし、絡め手は使える。

 彼女が評価、信頼、あるいは尊敬する誰かが俺を評価すれば、彼女の俺の見方に影響を及ぼすこともできるだろう。

 

 情報収集。

 戦略方針。

 個々の戦術を設定。

 努力目標。

 

 あとは、鍛錬だ。

 

 1日の鍛錬は、1週間に及ぶスケジュール。

 気が狂った、密度の濃い日々を過ごしていく。

 

 それと同時に、それとなく『彼女のような女性が好みだな』と、友人に伝えておく。

 友人連中がそろって、『いろんな意味で彼女はやめておけ』と止めるのが笑えた。

 曰く、『相手にされない』『仮にアレと付き合っても、苦痛でしかない』『男にとっての地雷』などなど、彼女の評価は散々だった。

 

 だが、それがいい。

 そういう女だからこそ、ニコポで堕とす、堕としていく価値がある。

 

 彼女に対して急接近するようなことはしない。

 遠ざけず、しかし必要以上に近づかない。

 丁重に扱うが、唯々諾々と従うことはせず、時には苦言を呈して怒らせることもする。

 

 顔と血筋が無理なら、物理を上げて金で殴るのは基本だ。

 交友関係も利用しつつ、学生起業。

 優秀な人間のフォローと言うか、マネジメントというポジション。

 そして、落ち着いたら手を引き、また別の人間の手助けをする。

 

「……あなた、自分がトップに立つという気概はないの?」

 

 そんな風になじられたが、組織としては俺のような人材には価値がある。

 一度だけならともかく、いくつもの起業に関わり、まとめ、流れに乗せた実績は、明らかに俺の評価に下駄を履かせた。

 

 そうなると、俺はもう、うかつには笑えない。

 俺が笑いかけるのは、彼女に対してだけだ。

 まだ、ニコポは発動しない。

 それでも、俺は不意打ちのように、彼女に向かって笑顔を見せる。

 

 鍛錬、学業、ビジネス。

 忙しい日々が楽しい。

 日々の生活に張りがある。

 

 時間を作っては、彼女に会いに行く。

 

 明日か。

 1ヶ月後か。

 1年後か。

 あるいは、次の瞬間か。

 

 ニコポが発動する瞬間を、俺は夢見る。

 

 そして……。

 

 

 

「あなたには、感謝しているわ……あなたは、いつもあなたでいてくれたから」

 

 作ってるよ、めっちゃ作ってるよ。

 仮面をかぶりまくってるよ。

 

「正直、あなたの顔は嫌い……特に、あなたの笑っている顔は大嫌い……でも真面目に何かをしている姿は、それほど嫌いじゃない」

 

 なんでやねん。(震え声)

 

「……ねえ」

 

 そして、彼女が笑った。

 いつもの、おざなりなものではなく……。

 

「私、あなたのことが好きなのかもしれないわ」

 

 彼女の笑顔が……とても笑顔で。

 ああ、だから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦難の日々が続いた。

 彼女と結ばれるための、高いハードル。

 現代の民主的な社会においてなお、家格や血筋の問題は避けられない。

 

 ああ、でも俺には……。

 

「言ったでしょ、スキルはスキルでしかなく、道具に過ぎないって。それをどう使うかは……あなたしだい」

 

 ニコポ(レベル1)、か。

 

 そしてまた、鍛錬の日々は続いていく……。

 

 

  




日常のどたばたにするには、ネタが弱いというかありふれていたのかなぁ。
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