書けらぁっ!
……で、追放ものって、どういうジャンルなの?
雪が融けて、また春が来る。
草木が芽を出し、動物が活動を始める。
生命の目覚め。
そして、今年もまた、魔獣が村を襲撃しにやってくる。
「さて、と」
遠目で、魔獣の数、種類を確認。
そして、村の職人からの、資材のリクエストと重ね合わせる。
ただ、撃退するだけでは足りない。
ただ、倒すだけでも足りない。
辺境の村にとって、魔獣は脅威であると同時に、貴重な資源でもある。
皮、鱗、爪、牙、骨、肉……種類によっては、血液もまた資源だ。
魔獣とは違うが、ウサギにはウサギに適した皮のはぎ方がある。
鹿には鹿の、熊には熊に適した方法。
四足の獣なら、背中の皮を傷つける殺し方は良くない。
部位によって肉質が変わるように、皮もまた部位によって使える大きさや用途が変化するからだ。
爪や牙は、折ってしまうと価値が激減したり、使えなくなる。
骨もそうだ。
毒をもつ魔獣は、それが肉に回らぬように、できることなら毒を使用させることなく、毒そのものを手に入れられるように倒す。
倒し方の選択。
それができる実力が、俺にはある。
努力はした。
血反吐を吐くような鍛錬もこなした。
しかしそれでも、やはり父と母の血を受け継いだ才能なんだろうと思う。
その、父も母も、今はもういない。
この辺境の村にやってくる前、両親がどこで何をやっていたのかを俺は知らない。
村の老人は、こんな辺境に流れてくるならば、それだけの理由があったのだろうと……言葉を濁す。
おそらく、両親の存在は村にとって厄介者だった。
しかし、両親の存在は、村に益をもたらした。
そんな奇妙な均衡が、両親をこの村に居つかせた。
この村は俺の故郷。
そして、村の大人にとっては、俺はどこまでいってもよそ者なんだろう。
10年、20年と、俺と同世代、年下の者が大人になり、村の中心となる頃、俺は本当に村に受け入れられることになるだろう。
それまでは。
俺は、村の役に立つ存在でなければならない。
俺の実力なら、村を出ても立派にやっていけると言う村の人間もいる。
その言葉が正しいのかどうか、俺にはわからない。
俺は、この村以外の世界を知らない。
村の向こうに、別の村がある。
そのまた向こうに、少し大きな村がある。
町があり、また村があり。
はるか彼方に、街があって……国の都があるらしい。
先代の村長が、一度だけ行った事があったそうだ。
知らない世界。
見慣れぬ魔獣を警戒するように、知らない世界に対する思いは、好奇心や憧れよりも恐怖が先立つ。
息を吸い、吐く。
右手の武器、左手の武器、腰と背中の、予備の武器。
さあ、狩ろうか。
村を守るため、村を富ませるため。
4年が過ぎた。
15歳になり、俺は子供ではなくなった。
でも、やることは変わらない。
春の襲撃。
夏と冬の定期的な間引き。
冬の狩り。
いや、ひとつだけ。
村の大人に言われて、弟子のようなものを取ることになった。
俺の両親が死んだ時は、幼いながらも俺がいた。
ならば、万が一俺が死んでしまったら?
代わりは必要なんだ、と。
粘つくような視線と口調でそう言われ、俺は頷くしかできなかった。
まあ、順調に育てば……俺はお払い箱なんだろう。
「……お人よしっスね、アラタにぃ」
「断れば、今すぐ出てけって話になるさ」
「アラタにぃがいなくなれば、困るのは自分たちっスよ?」
「俺がいなくても、村の大人連中で撃退はできるし、それなりに資源も手に入れられるんだよ……俺に任せれば、手間と被害が軽減されるってだけで」
俺がいなくなっても、俺の両親がいなかった頃に戻るだけの話しだろう。
「……俺は俺で、クソ兄が嫁さんもらって子供も生まれて、分ける畑も食い扶持もないからって、家族に放り出されたんスよ」
弟子と言うか、俺の5つ下、ケイの愚痴をおとなしく聞いてやることにした。
村は、少しずつ大きくなっている。
しかし、村が養える人数には上限があり、それを超えると村から放り出される者が出る。
その時のために、家族は金をため、村から送り出すときに渡す……なんてことができるのは一部だ。
そのまま放り出されるのも珍しくなく、命の危険があるとはいえ、俺の弟子にさせられたのはまだ幸運な部類か。
愚痴を聞き終え、俺はケイの頭に手を置いた。
「着の身着のままで放り出されたんだろ?とりあえず、服と武器をどうにかしようか」
「あー、たぶんアラタにぃからもらった服を着たら、この服を返せって言われる気がする」
「……いっそ、すがすがしいな、それは」
両親が死んで、一人きりで過ごす家に、ケイを迎えることになった。
「武器を構える。魔獣を見る。動きに合わせて、素材を損なわないように、殺す。以上だ」
「……たぶんだけど、アラタにぃは弟子を取っちゃいけないタイプだと思うっス」
「もちろん、最初からうまくやるのは無理だ。斬り過ぎたり、ミンチにしてしまったり、破壊してしまったり……そういう失敗を重ねて、手加減を覚えていくんだ」
両親が俺に教えてくれたように、俺もケイに教えていく。
「いや、違うっスから!それ、アラタにぃじゃなきゃ、死ぬための指導っスよ!」
……魔獣の習性と、武器の使い方から教えることにした。
「ちょっ、アラタにぃ。この武器、重くて持てないっスけど」
……魔獣の習性と、身体作りからはじめよう。
「……食い扶持が増えたっスけど、大丈夫っスか?」
俺は、畑を持たない。
狩りの獲物を、畑を持つ村人と交換して麦を手に入れる。
あとは、野山で野草や木の実を拾ったり……うーん。
「悪いな、獲物の肉が中心の食事になると思う」
「いや、むしろ大歓迎っスよ」
「……肉ばかり食ってると、身体を壊すと聞いている」
狩りは、獲物を倒しておしまいではない。
処理もそうだが、運搬もある。
ケイという人手が増えた分、多く持ち帰ることができるようになった。
とはいえ、肉を処理するのにも限界がある。
村人と交換できるのもそうだが、干し肉を作るにしても、そうするために必要なものがでてくる。
つまり、食えるだけ食え。
「……この肉、村のガキどもに食わせていいっスか?」
……うまくやれ。
いいか、うまくやれ。
意味はわかるな?
ケイが頷く。
よそもの扱いの俺より、村の中にいたケイの方がそのあたりはよくわかっているだろう。
そして、それはケイへの評価を良くすることにもなるはずだ。
「……ほんと、お人よしっスよね、アラタにぃは」
「俺の両親も、この村に生かされてた面はあるんだ。そこから目を背けるのは公平じゃないだろう」
そして1年、ケイはうまくやった。
たぶん、うまくやったのだろう。
いや、うまくやりすぎた……。
村という、小さな世界。
当然、その世界の中にも秩序がある。
よそものの俺を下に見ることで保たれる秩序があるように、家族というさらに小さな世界の中で、上下関係を決めることで保たれている秩序もある。
ケイが肉を食わせてやりたいと思ったガキどもは、その多くが村の中で下に見られている家の子供であり、家の中で下と扱われている……つまり、村から出ていく将来が待っている子供たちだった。
「……ごめん、アラタにぃ」
「まあ、弟子のやったことは、師匠が責任を取るのが筋だ」
息を吸い、空を見上げた。
雲が流れている。
村を出て、知らない世界に。
恐怖はある。
それでも、心が軽くなったように思えるのは気のせいか。
草原があり、森があり、川があり、山がある。
そこに獲物がいるならば、俺はどこでも生きていられる。
そう、思おう。
ケイがいる。
弟子の前で、不安な表情は見せられない。
「荷物は持ったか?」
「うん」
ケイが、村を振り返る。
「村の連中はどうでもいいけど……ガキどもは、どうなるかな」
頭をなでてやる。
この1年で、ケイは少し背が伸びた。
まだ伸びるはずだが……あまり大きくなれないのかもしれない。
「どこへ、向かうの?」
「そうだなあ……」
日が昇る方角には、村がある。
日が沈む方角には川があり、そこを越えると荒野が続いている。
川に対して左の方角には山があり、川はその山から流れて……どこに向かって流れていくのか。
「獲物を追いながら、考えるとしよう」
アラタ16歳。
ケイ11歳。
長い長い、旅の始まりであった……。
高任:「えっと、物語上多少は仕方ないとは思うんだけど、突然追放されるって、仲間内でコミュニケーション取れてないよね?いわゆる、空気が読めないタイプなの?」
知人:「いや、あくまでも主人公が仲間やグループから追放されたところから始まる物語のこと。だから、主人公のタイプはそれぞれよ。復讐に走るもよし、新天地でスローライフするもよし……」
高任:「自由契約になったプロ野球選手が、別の球団と契約して無双する感じ?」
知人:「うん、間違ってはいない、間違っては」
高任:「ほーん」
知人:「悪役令嬢もの、追放もの、そしておっさんもの……これがここ数年のウェブ小説の3大ムーヴ……な〇う限定かも知れんけど」
つまり、次の話はおっさんもの。(目逸らし)