時代は変わったなあと思います。
TRPG、通称、テーブルトーク。
文字通り、仲間が集まってロールプレイング(役割を演じて)して楽しむ遊びだ。
プレイヤーは、自分が演じるキャラを作る。
熱血漢がいいか?
物語の主人公は、多かれ少なかれ、そういうところがあるね。
憧れるし、演じやすくもあるだろう。
知的な教授を演じてみたい?
気をつけろよ、キャラのステータスは高くても、頭のできは本人の能力に準じてしまうぞ。
心優しきバーバリアン?
おっと、通だね。
気は優しくて力持ち、でも知恵はあっても学がないということを忘れちゃいけない。
理論的に説明できないことを、もどかしく感じるかもしれないよ。
ふーむ、なんだか面倒くさそうって?
そこがいいんじゃないか。
まあ、異論は認めるけどね。
コンピューターのプログラムに制御されるゲームと違って、こちらの行動を判定するのはゲームマスターである人間だ。
ある意味融通が利くし、別の意味ではもどかしいぐらい無理ができない。
森の中で迷子になり、ひたすらマップ上をうろうろしながら、『木に登って高いところから眺めるとかできないのかよ!』と癇癪を起こした人もいるだろう。
木に登ればそれが解決するかどうかではなく、木に登って、それを確かめられるという満足感があるんだ。
まあ、往々にして『はるか彼方まで、森が続いているように見える』とか、『じゃあ、木に登れるかどうか判定しようか』などと返されるんだけどね、ハハハ。
まとめると、自由を楽しみ、不自由を楽しむゲームだ。
仲間と相談して、知恵と勇気を出し合って、物語をつむいでいく……共同作業。
「……というわけで、素人がとっつきやすい、野球の試合をサイコロで判定するシステムを作りたいんだが」
「いきなり何かと思えば……」
ため息をつく。
俺が連れてこられたのは、テーブルトーク研究会。
「ガチ体育会系で、ガチのオタクって人種は貴重なんだよ」
「あぁ、まあ、それは同意する。俺の感覚で言うと、オタクってなるもんじゃなくて、業のようなものだしな。たぶん、生まれた時からそうなる運命に近い感じ」
「わかる」
「わかる」
「わかる」
研究会の部員と、手を握り合う。
しかし、野球をサイコロでねぇ……となると、2人でプレイする感じなのかね?
サインプレーや、盗塁、エラーは、処理が面倒になるからすっ飛ばすか。
投げて、打つ、その結果。
ああ、昭和の時代の野球ゲームのノリで行くしかないだろ。
いや、投手プレイヤーが投げて、打者プレイヤーが打撃判定するのは、慣れてないと間違いなく飽きが来るな。
たぶん、打者判定で試合を進めて、ギャラリーと一緒に盛り上がるシステムがいいだろ。
とすると、大き目のボードに判定シートを拡大コピーして貼り付けて……は、後で考えることか。
「6面ダイスは厳しいな」
「え、最初から10面ダイスを想定してたんだけど?バランス調整と計算がしやすいし」
「素人さんは、まず10面ダイスに戸惑うと思うわ」
「いや、逆に『こんなサイコロがあるんだ』と興味を持ってくれるかもしれない」
喧々諤々。
オーケイ。
まあ、メリットとデメリットは、コインの裏表だ。
バランス調整は後からするといってもな、最初にある程度はかせをはめる必要があるか。
打率は、2割5分から3割5分の間。
10面ダイスだと、2割か3割かの区分になるから、クリティカルとファンブルは必要か。
「あまりシステマティックにすると、淡々と進んで本人はもちろん、ギャラリーも楽しめないと思う」
「ああ、それもそうか……1対0の緊迫した投手戦を、野球を初めて見る子供が楽しめるかといったらまずないしな。8対7のゲームが、一番楽しいと、どこかの大統領も言っている」
「へえ」
正確には、2回の逆転劇を含んだ8対7のゲームには、全ての要素が詰まっている、だったか。
8対7というスコアであるなら、1点も入らなかった回が存在するわけだし。
しかし、ギャラリーか。
ギャラリーを楽しませるには……やはり、ヤマとオチが必要なんだよな。
んー。
「どうした?」
「いや、打者9人に別々の判定作るのはやるほうも見るほうも煩雑になるから、クリーンナップとそれ以外、あるいは上位打線と、下位打線にわけたほうが……」
「……プレイヤーがキャラを選ぶのはどうだろう?」
「というと?」
「あらかじめ、複数人の選手のシートがあって、そこから3人分選ぶとか」
ああ、はいはい。
打順で言うと、1~3番から1人、4~6番から1人、7~9番から1人、みたいな。
そして、モブとネームドで区別して、判定を行う、と。
「なら、ネームドにはそれぞれ、左投手に弱い、とか、軟投派が苦手とか設定して、対戦相手がどの投手を選ぶかで有利不利が出てくる感じに」
「おう、なんかカードゲームじみてきたぞぉ」
「……軟投派って何?」
「そこからか、おい」
「いや、素人の目線ってのは、そういうもんだぞ」
「野球のルールを、みんなが知ってると思うなよ」
「俺、いまだにサッカーのオフサイドとラグビーのオフサイドの違いがわからん」
「いや、ラグビーにオフサイドがあることを知ってる時点でたいしたもんだ」
ふむ、1がファンブル(致命的失敗)、10がクリティカル(会心の一撃)なんだけど、これが特別という意識を持たせるために、ダブル判定のシステムでいこうと思う。
というか、ぶっちゃけバランスをとるためだけどな。
「ほう、続けて(眼鏡クイ)」
いや、クリティカルが出たらホームランとか、たぶん最初はともかく途中でだれる。
1人もランナーが出なかったとしても、1試合で27人、ああ、倍か、60回からの判定を繰り返すわけだから。
ホームランバッターとアベレージバッターの区別もつけたいしな。
なので、クリティカルが出た場合、長打判定にする。
二塁打から本塁打まで……ああ、そこでファンブッたら、打球がランナーに当たったとか、観客が身を乗り出してキャッチしたとか、鳥に当たって落ちてきたとか、こう、何でやねんっと突っ込める結果にしよう。
なので、2~9の間は、ヒットかアウト。
1のファンブルは、三振とか、ダブルプレーとか、デッドボールとか、だな。
さっきも言ったけど、打率は2割5分~3割5分、出塁率4割程度に抑えないと、試合が終わらんよ。
攻撃してるほうはいいかもしれないが、やられてるほうがたまらんだろ。
あとは、ホームランか三振か、みたいなネタキャラを放り込むぐらいか。
学祭の出し物にするなら、多少アバウトにしたほうがいいだろうね。
というか、カードゲームの方がやりやすいかもしれんな、野球をゲームのシステムに落とし込むのは。
そうして、できたシステムは、叩き台。
もちろん、理論上の確率計算をして、どのあたりに収束するかを求めるのだが。
これをもとに、ひたすらサイコロを振って、振って振って振りまくって、テストプレイの繰り返し。
「おかしいでござるよ!確率が理論値に収束しないでござる!」
「計算間違ってないか?」
「合ってる、何度計算しても合ってるんだ!」
「じゃあ、なんで打者3順なんてするんだよ!」
「こっちは、5回が終わって37対1だぜ!」
「おーい、漫研のやつに頼んだ、プレイヤーキャラのイメージカードが出来上がったぜ」
「「「「「どれどれ?」」」」」
僕たちは、泣き、笑い、騒ぎ、無駄話をしながら、サイコロを振る。
だって、楽しいから。
まあ、ひとりでやるゲームも面白いんですけどね。
それぞれ別の味わいがあります。