子供たちをかばった俺を、トラックが見事にセンタリング。
なお、シュートを決めてくれる味方も、狙うべきゴールも不明。
目が覚めたら白い空間ときた。
トラック。
人助け。
目が覚めたら白い空間。
満貫だろこれ。
異世界転生、チート付き決定。
俺が突き飛ばした子供たちは無事だったのかとか、何も悪くないトラックの運ちゃんはどうなるのかとか、そもそも俺が死んだことには変わりはないだろとか、両親とか友人たちへの申し訳なさはもちろん、何も解決してないことから全力全開で現実逃避したいんだよ、言わせんな。
……などと、お約束の紆余曲折を経た俺は今。
ショートカットで、ややスレンダー体型の、外見年齢は美少女以上、美女未満の眼鏡美人に、のし、と土下座体勢の頭を踏まれていたりする。
むしろご褒美というわけではないが、感触からして靴を履いていないあたりに優しさがうかがえるので一安心。
「……落ち着いたかな、ご客人」
あぁ、美人は声まで美しいなあ。
「客人を迎える作法の斬新さに、多少動揺しております」
「それは良かった。実は私も、想定外の闖入者に少々取り乱してたりするからな」
「……想定外と申したか」
「おお、申した申した。申したとも」
……声が笑ってるというか、『想定外の闖入者』の一語からすると、神様転生チート付きの線は消えたんじゃね、これ。
「えーと、突然お邪魔して、すみません?」
「よいよい。暇つぶしというか、新鮮な刺激は大歓迎よ」
ぐりぐりと、乱暴なのにどこか優しさを感じさせる踏みつけを経て、俺は土下座から解放されたのだった。
「それで、ここはどこなんでしょう?」
「ふむ、強いて言うなら、『どこでもない場所』かの」
どこでもない場所。
それを聞いて俺が連想したのは、某宗教における聖母様の立ち位置。
いや、なんかの作品のうろ覚えなんだけどね。
それにしても、若い女性なのに言葉が古めかしいというか、『のじゃロリ』とも違うというか、外見がロリじゃないから『ロリババア』でもないわけで。
まあ、見た目通りの年齢じゃないのはなんとなくわかるけど。
「ちょいと、調整する。記憶を借りるぞ」
「へ?」
女性の手が俺の額にあてられる……微かな違和感、そして熱を残して、手が離れていった。
「あぁ……うん?妙な発達段階を経た世界……というか、そもそも、知識が貧弱……」
「やめてください、(心が)死んでしまいます!」
土下座した。
なお、頭は踏まれませんでした。
「あぁ、つまり俺の言う『世界』はたくさんあると。そして貴女は、それを見守るだけの、管理人というか、監視員みたいな認識でオッケー?」
「うむ、おおむねそんな感じで良い」
「貴女は、ずっとこの場所で?」
「うむ」
「それって……」
「うむ、めちゃくちゃ暇だ!なので歓迎するぞ、客人よ」
俺は曖昧な笑みを浮かべながら頷き、あえて疑問を口に出した。
「それで、俺は何なんでしょう?」
世界のどこでもない場所で、俺がいる。
トラックにひかれた俺と、ここにいる俺。
肉体と、魂と、何らかのつながりがあるものなのか?
というか、異世界転生はありませんか。
できればチートもらって、気楽に生きていきたいです。
「うむ……確信は持てんが、概念保存の法則が働いたんだろう」
なんか、聞き覚えがありそうでない単語が出てきた。
エネルギーでも質量でもなく、概念保存の法則?
「ふむ……客人のいた世界では、人は簡単に死ぬ生き物だの?」
「つまり、簡単に死なない世界があると?」
「混ぜ返すな……頭を強くうてば死ぬ、胸を刺されれば死ぬ、血を失いすぎれば死ぬ、ちょっとした段差に落ちて死ぬ」
「すいません、最後の、某ゲームの主人公混じってませんか?コウモリの糞で死ぬ主人公とか、別のゲームの噴水に落ちて死ぬ海賊とか」
女性はちょっと困ったように笑った。
「客人の世界のゲームや小説やアニメは面白いのう」
「文化が世界を超えましたか」
「まあとにかく……人を一人殺すのに、トラックはオーバーキルといえば察しがつかんか?」
「ああ、そりゃ、まあ……?」
「客人の命を奪うのに、トラックを必要とした……質量やエネルギーではなく、概念としてのオーバーキル。トラックという概念につり合いが取れる『何か』を、世界が必要とした」
その、つり合いを取るために生み出された『何か』が俺?
生み出された余分な『何か』が世界からはじき出されるなら、トラックによる異世界転生はあり得る?
つまり、その『何か』が大きければ……チートなどの能力となって付随する?
「まあ、めそめそ泣かれても困るが、無駄に前向きすぎるのも考えものだのう……普通は、状況を認識できずに発狂しそうなもんだが」
サブカルに汚染された民族ですから。
「うむ、世界間の移動がないとは言わぬが、客人にそれはない、以上!」
「またまたぁ」
「この、『世界のどこでもない場所』に、好き好んでずっといるとでも思うたか?」
「……何かやらかして、罰でもくらっているので?」
「自我に目覚めた時から、この姿でここにいた」
「うわぁ……」
彼女は、妖しく、怪しく、微笑んだ。
逃がさんぞ。
トラックにひかれて、元いた世界とは別の場所で、美人といっしょ。
あれ?
そう考えると、悪くはない……のか?
もしかすると、彼女も別の世界でトラック(のようなもの)にひかれてやってきたのかもしれない。