なお、駅伝の名称や歴史は、記憶のみで書いてるので間違ってる可能性があります。
駅伝と聞いて、最初に連想するのは箱根大学駅伝だろうか?
昭和の頃ならともかく、いや、昭和末期以降は……おそらく最も知名度の高い駅伝大会であろう。
それ故に、ものすごく誤解されているが……。
箱根大学駅伝は、『地方の大会』である。
全国の大学が参加する、参加できる大会ではない。
大学駅伝で、全国大会は2つある。
1つは、全日本大学駅伝対抗選手権。
そしてもう1つは出雲駅伝。
どちらも、全国の大学、各地区の代表が参加して競われる大会である。
この2つに箱根駅伝をあわせて、男子の3大大学駅伝と呼ばれているが……歴史、知名度ともに、箱根駅伝が独走しているのが現状である。
箱根駅伝は1920年、大学駅伝選手権は1970年ぐらい、出雲駅伝に関しては、平成に入って1989年か90年あたりが初開催。
そして、知名度が低いと言うか、関係者かマニアでもなければ知らないであろう地方の大会があって、関西地区なら丹後大学駅伝、九州なら九州大学駅伝対抗選手権など。
各地域の大会、あるいは選考会で好成績を上げた学校が代表となって……推薦枠もあるが、全国大会に挑むわけだ。
もう一度言う。
中国地方や九州地方、あるいは関西、北陸やら東北北海道の大学の陸上部員に、『なあ、おまえんとこ箱根駅伝出ねえの?』などと無邪気な笑顔で質問しないように。
大学陸上競技、特に長距離部門において関東地区のレベルが高いのは確かだが、いくら実力があっても、オリンピックで金メダルを取れるような選手がそろっていたとしても、絶対に箱根駅伝には出られません。
箱根駅伝に出たいのなら、関東学連に所属する大学に入学するしかない。
……まあ、名門校だと、一般入部が認められない学校もありますが。
このあたりは、高校野球の名門校と同じ。
と、いうわけで……箱根駅伝の大学だけじゃなく、中学駅伝、高校駅伝、実業団駅伝など、様々な駅伝の大会が存在しているのだが、それがどこで行われているかを把握している人は少ない。
箱根駅伝は、テレビ放映を通じて知名度を上げ、ブランドイメージを確立した……いわば時代の波に乗った勝ち組の大会であるが、すべてがそうして波に乗ることはできない。
むしろ、埋没していく方が多い。
駅伝は、開催するにあたって、ものすごく苦労が多い。
現代機器の助けを借りてなお、必要なのは圧倒的なマンパワー、そして開催地域の住民の理解。
人口分布の変遷、交通量の変化……時代の流れは、かつてそれを是として環境を、否に変えていく。
知名度がなければ、自分には無関係としか思えなくなる。
自分とは無関係なら、自分にデメリットを与えるものは排除したい。
ある意味、人として自然な心の動きだ。
積極的につぶすわけではなく、『迷惑』で『メリットが見えない』から『続ける意味はない』よね、と、そんな感じの意見がまとまると、ぷちっとつぶされる。
マラソンにしても、『道路を走る意味ないよね?交通の邪魔にならないように、競技場を約42キロ分ぐるぐる走ればいいじゃん』という意見は少なからずある。
駅伝に限らず、スポーツの大会や、文化的催しなど、そんな程度のものだ。
知名度を上げるというのは、現代社会ではビジネス面だけではなく『守る』ために必要なものといえる。
前置きが長くなったが、これは……日本のある地方で開催される、時代の流れに乗ることができず、むしろ押しつぶされる形で廃止が決まった駅伝大会を舞台に、語られる物語である。
『1区走者、
午前4時30分。
季節は晩秋、あたりはまだ真っ暗だ。
真っ暗だが、そこかしこで人が動いている気配を感じる。
レースの開始時間、第1区のスタートが朝の8時。
俺だけじゃなく、他のチームの第1走者もみな準備を始めている時間帯。
競技の始まる4時間前には目を覚まし、準備を始める……とはいえ、同じ陸上競技でも長距離選手のそれと、短距離や跳躍の選手とでは準備に適した時間帯は違ってくる。
もちろん、個人差も含めて、だ。
俺の場合は、じっくりと身体を起こして体温を上げ、そこから軽い栄養補給。
散歩、アップ、栄養補給、瞑想、散歩。
車で言うところの、暖機運転を続けながらスタートを待つ……少し面倒な体質だ。
実業団選手になってからしばらくして、マラソンには向いていない体質だと宣告された。
この国の長距離選手は、トラック競技からマラソンへ……というルートが求められるところがある。
トラック競技に比べて、マラソンの人気が、いや認知度が高いせいと言うべきか。
マラソンには向いていない。
その宣告は、俺の競技者としての寿命が残り少ないことを教えてくれた。
あれから数年。
まだ、正式な発表はされていないが、俺の所属する実業団陸上部の解散が決まった。
俺の長距離選手の寿命よりも、実業団チームの寿命が先に尽きた。
笑うしかない。
会社の経営不振ではない。
いや、大きく分類すればそうなる、か。
野球、ハンドボール、陸上競技部……実業団チームを抱えるためのコスト。
費用対効果……便利な言葉だ。
近年、テニスや卓球、バドミントンなど……チームではなく、個人を支援する企業が増えたのも、その一環だ。
選手だけでなく、監督やコーチ、トレーナーを抱えなければならないチームは、割に合わない。
名の知れた選手個人のスポンサーとなって、宣伝効果を狙う。
つまり、企業にとって、選手を育てる時代は過ぎた。
世界で戦える選手を、あるいはその見込みのある選手だけに金を注ぐ。
良く言えば効率的、悪く言えば使い捨て。
まあ、このぐらいの愚痴を吐く権利が俺にもあるだろう。
空を見上げた。
薄闇。
考えてみれば、駅伝には出場するチームがそれぞれ区間の数だけ選手をそろえる必要がある。
学生ならともかく、実業団の駅伝大会は……消えていく時代なんだろう。
駅伝には、チームが必要だ。
しかし、さっきも言ったように……チームを抱えるのは、企業にとって割に合わない。
チームに所属する14名の選手のうち、会社が支援する選手は2名のみ。
別の実業団に移籍が内定したのが1名。
残りの11名は……事実上、引退ということになる。
知らず知らず、笑いがこぼれた。
今年で最後になる駅伝大会を、解散が決まった実業団チームが走る。
7区間、7人の選手。
俺を含めて、行き先が決まらなかった者ばかり。
俺が選ばれたのは実力か。
それとも、ここが俺の出身地だからか。
一応、現状ではチームで5、6番手の実力ぐらいかな、と思ってはいるんだが。
まあ、事実上のクビを言い渡されるような選手でも、全員がそれなりの実績を持っている。
実績がなければ、実業団まで競技を続けてこられないからな。
いわば、俺たちはエリートの落ちこぼれ、なんだろう。
そんな苦味を噛みしめながら、俺は故郷の道を走るのか。
夜が、明けていく。
始まりの朝。
終わりの朝。
5分前。
1区のスタート地点。
たすきを縛り、長さを調節して身体にフィットさせる。
ちょっとしたことだが、後半になるとたすきがずれる感触が、気を散らしたりする。
長距離選手にとって、レース中に考えるのは、ペースのことだけでいい。
余計な思考は、スタミナを奪う。
ただ、それだと2流どまりだと言われたが。
技術ではなく、駆け引きに思考を割く余裕が生み出せないのは、突き詰めると才能の差だと。
ふと、高校駅伝のことを思い出した。
たすきが汗を吸って、うまくほどけなかった。
たぶん、あれで2秒程ロスした。
区間5位。
3位とは2秒差だった。
あれがなければ、俺の進路は、未来は変わっていただろうか。
1分前。
このレースで、俺の進路は、未来は変わるだろうか。
10秒前。
俺が、周囲が、身構えていく。
時計をチェックする。
号砲。
飛び出す者。
目標の選手の後ろに付く者。
選手の数だけ思惑が飛び交い、交差する。
風は微風。
先頭で影響を受けるより、集団の中でもまれるストレスの方が大きいか。
この大会、レベルの上下はそこそこある。
レベルの違う人間がそばにいると、リズムが狂う。
それを狙って、先頭でペースを落とす……という作戦が取れなくもない。
最初の1キロを、3分10秒で入った。
遅い。
視線が飛び交う。
頷き合う者がいる。
言葉に出さない交渉、駆け引き。
さりげなく、ポジションを取る。
3人。
5人。
俺は、極端なペース変化に弱い。
じわりと、あげた。
一番先に飛び出した格好。
ついてくる。
背中の気配。
次の1キロを3分5秒。
その次の1キロを3分ちょうど。
弱い者は振り落とされ、強い者には少々物足りない、そんなペース。
道の脇に、ぽつりぽつりと、人がいる。
箱根駅伝のような、華やかさはない。
地方の、田舎の駅伝大会だ。
交通整理の人員も多くはない。
応援する者も、まばら。
……故郷だからわかる。
応援する人間の半分以上は、サクラだ。
旗を渡され、選手を応援してあげてくださいと、頼まれる。
それでも、子供の頃にこの大会を見て、走り始めた者もいる。
俺の5つ上の先輩も……最終区間にエントリーされていたはずだ。
5キロを、15分20秒で通過した。
背中の圧力。
ペースを上げろという言葉が聞こえてくるようだ。
応じるにせよ無視するにせよ、意識すればリズムが乱れる。
繊細さと鈍感さの両方が必要と言われる所以。
足音。
苛立ちが聞こえてくる。
それぞれの思惑。
俺はこのレースが最後だが、ただの調整に過ぎない者もいる。
好きに走れよ。
俺に期待なんかするな。
心の中で呟き、俺は駆けていく。
7キロ地点を通過。
残り5キロと少し。
焦れたのか、俺の背中から抜け出した。
それを追う者が4人。
ほぼ予想通り。
俺は、追わない。
いや、追えない。
追えば、つぶれる。
また、笑いがこぼれた。
中継ポイント。
そこがゴール。
そこで、俺の競技者としての寿命が尽きる。
少しでも長く現役である事を望みながら、1秒でも早くたどり着こうとしている。
最善を。
最速を。
それを放棄した瞬間、俺は競技者として終わる。
道は続いている。
俺の終わりに向かって。
俺の、ラストランは、もうすぐ終わる。
というか、一発ネタで書く話とちゃうわ!(逆ギレ)
機会があれば、もうちょっと練り直して最終区まで書いてみたいです。