高任斎の一発ネタ集。    作:高任斎

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ぺろっ。
うん、このわざとらしい〇ろう味。

『異世界』現代風ファンタジーです。(震え声)


61:追放されたおっさんと、悪役令嬢。(混ぜるな危険)

 先日までの、重く湿った空気はどこへやら。

 からりと乾燥した空気は、どこか肌寒さすら感じてしまう。

 台風が、夏という季節の残滓を根こそぎ吹き飛ばしてしまったらしい。

 

 あらためて、空を見上げる。

 

 台風一過、か。

 青く澄んだ空。

 対照的に、私の心は淀んでいる。

 

 霞ヶ関(の一部)を襲った嵐。

 こちらの影響は、台風一過……などという、わけにはいかないだろう。

 一日で通り過ぎる気象現象の台風と違って、こちらは静かに3年ほどかけた暗闘が行われ……先月になって一気に表面化した。

 まあ、表面化する時点で、勝負がついている。

 とはいえ、半年、いや、おそらく1年以上後を引くことになる。

 

 ……追い出される私が考えても仕方のないことだが。

 

 

 派閥だの、天下りだの、何の意味があるんだか。

 学生の頃は、そんなことを思っていた。

 しかし、いざ官僚の下っ端になってみれば……中立などと言うスタンスが許されない現実が待っていた。

 

 仕事は、人と人とのつながりだ。

 与えられる仕事、その繰り返しの中で、人とのつながりが構築されていく。 

 それは否応なしに、派閥に属さないと仕事そのものができないことを思い知らされる。

 本人の気付かぬうちに、どこかの派閥に組み込まれているなんてのが大多数で、ごくわずかな例外、いわゆる異能の持ち主だけが、中立であることを許される。

 そして、きわめて優秀で、かつ政治的バランス能力を持つ人間は、自分で派閥を選ぶことが許される。

 その、どの派閥を選ぶかという選択そのものが、トップ候補としての踏み絵でもある。

 この現実を飲み込めない人間は、遠からず精神を病んで姿を消す。

 

 成績が優秀だったから官僚になった……そういう人間は、同僚の仕事の下請けマシーンになるか、自らここを去るケースが多くなる。

 

 私は、どこにでもいる普通の優秀な人間どまり。

 ただ、少し、いやかなり出世と言う意味では運が良かった。

 もちろん、出世ではなく、人生とか、人として運が良かったかと言われると疑問だが。

 

 

 毎年毎年、普通の優秀な人間がやってくる。

 その一方で、各分野のトップに上り詰めるのは……3~5年の世代で1人程度。

 普通の優秀な人間の中の、異能の持ち主や、異常な優秀さを見せる人間を見出すためには、派閥抗争と天下りによって、組織内を循環させる必要がある。

 システムとして最善とはいえないだろう。

 ただ、これをやらないと、現状より悪くなるのは明らかだ。

 優秀な人間が腐ると、その破壊力は目もあてられない惨状を引き起こす。

 

 そして、私が属する派閥は敗れた。

 ごく少数の野望と、多数の生き残りの本能の戦争の結果。

 まあ、いつかめぐってくる順番がやってきただけ。

 

「よう」

「……やぁ」

 

 苦笑いで返す。

 

 勝者と敗者。

 いや、そんな大した話でもない。

 自分の上が勝ったか負けたかであって、自分個人が勝負に敗れたという実感はない。

 生き残った派閥の人間と、敗れた派閥の人間。

 前者の少数は出世の道が開け、多数は現状を維持できる。

 後者の多数はルートからはずれて窓際へ追いやられ、少数は……ポストを開けるために追い出される。

 私は、その少数の中の……まあ、下っ端のほうだ。

 

「残念だったな」

「そうでもないさ……運良く、能力以上の出世のレールを走らされていただけだからな」

「そう卑下するもんでもないだろう」

「卑下したくもなるさ」

 

 私の属する派閥の敗北が決定的になった時点で、妻は娘を連れて出て行った。

 早い話、妻の存在が私の能力に下駄を履かせていただけの話。

 

 まあ、形だけの結婚、形だけの夫婦、そして、形だけの家族だ。

 

 押し付けられた見合い。

 それは、私だけでなく妻にとってもそうだった。

 何もかもが面倒で、しかし仕事の幅が広がることに歪んだ喜びを覚えていたのは事実。

 

 家に帰るのは、年に数回。

 仕事の忙しさと、家そのものへの疑問と、そして彼女に対する誠実さと。

 私は、彼女と性的な交渉をしたことがない。

 つまり、娘の存在は……そういうことで、彼女の両親もそれを承知だ。

 当然、娘も私が本当の父親でないことを知っており……意外と言えば意外だが、娘と私の関係は、それほど悪くない。

 というか、娘と妻の仲があまり良くない。

 

 

『パパも大変よね、ママみたいなの押し付けられて』

 

 私のプレゼントを受け取りながらそう言ったのが、10歳の誕生日だ。

 少しばかり、早熟の気があるかもしれないと、当時は思った。

 

 私と妻の関係が仮面夫婦に過ぎないことを、私の両親は知らずに逝った。

 妻の家系とは、所詮住む場所が違う。

 知らないままの方が良かっただろう。

 実家は兄夫婦が継いでいる、憂いはそう多くない。

 

 まあ、良くも悪くも、私という人間はどこか壊れている。

 いや、昔から壊れていた、だな。

 

 

「……奥さん、出て行ったんだって?」

「わかっていて、聞くなよ」

 

 苦笑を浮かべる。

 

「ここを追い出される人間に利用価値はないさ」

「それは、奥さんの両親の意向だろ?」

「元々仮面夫婦だからな……下手すりゃ、別の男と再婚させる気かもしれん」

 

 壊れているのは、私だけじゃなく彼女もだろう。

 彼女の両親が、あるいは家そのものが、彼女を壊した。

 

 

「前置きはいい。本題はなんだ?」

「……雇われ社長をやってみないか?」

「わけありか?いや、わけありだよな?」

「期間は2年……任期満了前に、責任を取って退陣ってとこだ」

「敗戦処理か」

 

 おそらく、創業者一族の隠れ蓑か、泥をかぶせたくない誰かの代役。

 

 外部から社長に就任して半年、マスコミの前で10年も前の不祥事の謝罪を繰り返す……なんてのはこういうケースもある。

 

 外部の人間だから思い切った内部監査ができ、それで過去の不祥事が見つかったというよくある筋書き。

 不祥事発覚後の世間へのアピールのために、社内改革の断行……外部の人間だから、それがやれる。

 不祥事という泥と、社内の恨みを一身に背負う、文字通りの敗戦処理係。

 

 なるほどな。

 妻と娘に出て行かれた、独り身の男に回すちょうどいい役柄ってことだ。

 

 まあ、当然……それなりの見返りは提示される。

 良くあるのが、不祥事の泥をかぶってから数年後、別の企業や分野で何らかのポストを与えられるいうもの。

 一昔前は、ストレートに金銭というのも少なくなかったのだが、今は企業の金を自由に動かすのが難しい時代になっている。

 それ故に、社長という立場を利用して報酬を渡すなどの、工夫が必要になる。

 

「直接、じゃないよな?」

「ワンクッションはさむ……まあ、半年か。来年の4月の新人事にあわせてってとこだろうよ」

 

 直接の天下りは、さすがに露骨過ぎる。

 ここを出て、別の組織なり企業なりで別の肩書きを得てから、落下傘候補よろしく敗戦処理に挑む、か。

 あくまでも、官僚出身というスタンスだ。

 

「で、どうする?」

「……二つ返事で引き受けるのと、まずは資料をよこせって言われるのと、どちらが安心できる?」

「引き受けない限り資料は見せられん、と言うしかないな」

「……実質、選択肢はない、か」

 

 マスコミに袋叩きにされ、嫌われ者になりながら社内改革。

 これが俺の天下りだ。

 この敗戦処理には能力も必要で、ここでやらかすと後がない。

 

 まあ、こんな話が来るだけマシ……。

 

 ピンと来た。

 

「この話、妻の実家筋からか?」

「……お前への、詫び料だろうな」

「手切れ金、の間違いだろう」

「かもしれん」

 

 つまり、これで完全に無関係、か。

 

 息を吐き、空を見上げた。

 

 これを引き受ければ、待っているのは嵐のような日々だ。

 私の心のよどみを吹き飛ばすのには、それが必要だろう。

 

 ……ちょうどいい、か。

 

「受けるよ」

「そうか」

 

 わずかな沈黙を経て、ポツリと呟かれる。

 

「少し、お前が羨ましいよ」

「まあ、そっちが安泰なのも2年か3年程度だろうしな」

 

 派閥争いの勝利。

 その勝利の効力は、驚くほど短い。

 

 災害大国と呼ばれるわが国だが、ここ、霞ヶ関だって負けちゃいない。 

 

 外交判断。

 国家を取り巻く状況の変化。

 選挙。

 

 いつだって、嵐は起こりうる。

 ここを去る私が属した派閥が、数年後には返り咲くなんてこともざらだ。

 ただ、そうなったとしてもそこに私の席はない。

 

 この蒼天の下、私は霞ヶ関という魔境を去り、別の魔境に身を投じる。

 そんな私を『羨ましい』という、こいつもたぶん壊れている。

 

 風が吹く。

 しばし、その感触に心を傾けていた。

 

 

 

 

 

「ははっ」

 

 企業の資料の一部に目を通し、思わず、笑いがこぼれた。

 こりゃひどい。

 

 時刻は、深夜を通り越して明け方だ。

 敗戦処理が始まるまで、あと半年もない。

 時間は有限、やるべきことは多い。

 提供された資料を読み込みつつ、その資料が本当に正しいかどうかの調査も始めなければならない。

 もちろんと言うか当然と言うか、私の敗戦処理の裏側を知る、企業の人間は一部に限られる。

 

 外部の人間だから、内部の人間関係を無視して強権をふるえるというのは、ある意味で真実だが、間違いでもある。

 まず、私はあくまでも雇われの社長であり、雇い主であり、スポンサーの意向にそぐわない行為は厳禁だ。

 ここで重要なのは、スポンサーの意向が私にはっきりと知らされないことにある。

 もちろん、スポンサーそのものも。

 創業者一族の依頼なのか、国主導のものなのか、あるいは……などなど。

 

 私は、『提供された』資料を読み解くことで、スポンサーを推測し、その意向を汲み取った上で適切な行動を取らねばならない。

 実際、不祥事を全てぶちまける……なんてのは、大抵のケースで悪手だ。

 不祥事を発表する時点で、何らかの対処の目処が立っていなければならない。

 マスコミがすっぱ抜く企業の不祥事の多くは、政治闘争によってもらされた情報がほとんどだ。

 

 対処の目処が立っていない状況で発表されると、被害は拡大する。

 それは、敵対勢力にとってはマウントをとる格好の材料だからこそ、政治闘争に使われるわけだが。

 

 一刻も早く真実を……などというお題目で被害をこうむるのは、多くのケースで国民だ。

 もちろん、本気でどうしようもないというか、国民に周知させることが目的のケースもあるから、一概には言えないが。

 

 

 夜が明け、仮眠もそこそこに人に会う。

 政治も仕事も、人を動かすことが本質だ。

 人間1人ができることは限られており、どれだけ多くの人間を動かすことができるかが、仕事の総量を規定する。

 

 異能の持ち主や、きわめて優秀な人間は、書類で、言葉で、それを理解し、人を動かすことができるが、私はその境地に至ることはできない。

 泥臭く人に会い、その求めるところを知り、動かそうと試みる。

 結果、私ができる仕事の総量は、彼らに劣ることになる。

 

 縁と運。

 私の仕事がどうなるか、出来が満足できるかどうかは、私が誰と出会うことになるか……が重要になる。

 かつての上司が言うところの、運任せの人材。

 そこが、私の限界。

 

 まあ、出会った人間を馬車馬のように働かせて使い捨てていくのが瞬間最大風速となるんだろうが、それをやるとブラックのそしりを受ける世の中だ。

 やらないとは言わないが。

 

 

 関係者、あるいは関係者になるだろう人間と会い始めて数週間、企業の専務の1人が目の前にいる。

 創業者一族に連なる1人で、若い女性。

 

 それはいい、いいのだが……。

 まだ21歳で、専務に就任したのが今年の4月というのが、かなり厄い。

 

 不祥事発表に際して、雇われ社長を生贄にするだけでは弱いと考えたのか。

 一族の1人を、こういう形で生贄に差し出したとすれば、考えていたよりもハードな天下りになる。

 

 そうすると、ただ仲介しただけとはいえ、妻の実家筋としては……ここで完全に私につぶれて欲しい、あるいは過去という縁そのものを叩き潰したいと考えている可能性がある。

 だからといって、嵌められたとか、罠というわけでもない。

 この件をきちんと処理すること、成功させて欲しいと考えている人間がいるのも確かだからだ。

 

 成功させて欲しい人間がいるならば、失敗して欲しい人間もいる……それは世の常だろう。

 単純な反目ではなく、右手で握手し、左手にはナイフを構え、足を踏みつけあう……どこにでもある人間関係。

 そうしたいろんな立場の、いろんな思惑が混ざり合って、魔境が生まれる。

 

 能面のような彼女の顔を見つめ、私は軽く、ジャブを放った。 

 

「……このたびは、貧乏くじを引いたようで」

 

 びきり、と彼女の表情が崩れる。

 うん、若い。

 演技でなければ、ただの裏のない生贄。

 

 元々は、本家に近い分家の娘で……中学に上がる前に本家に養子に出され、政略的な結婚の駒にされた。

 まあ、婚約どまりだったが、それも彼女が専務に就任するのと前後して解消されている。

 正直、笑うしかない状態だろう。

 

 平手の一発や二発、罵声程度は甘んじて受けるつもりだったが……上流階級の教育は侮れない。

 

 ひきつった笑み。

 かすかに震える肩。

 しかし、それだけだ。

 

 ……元妻も、こんな風に壊されていったのだろうか。

 

 かすかに憐憫の情を抱き、あらためて彼女を見つめる。

 

 霞ヶ関で思い知らされた、私の限界。

 それ故に、この手の人間の心に忍び込む技術には、そこそこ自負がある。

 

 たぶん、彼女はこの仕事を進める上でのキーパーソンになる。

 そんな予感。

 

 空気を変える。

 態度を変える。

 口調を変える。

 

「なあ、お嬢さん」

 

 悪魔の囁き。

 

「誰に復讐(ざまぁ)したい?」

 

 

 私は、壊れている。

 仕事のためなら、それほど手段は選ばない。




追放されたけど、実は結構有能。
婚約破棄された、悪『役』令嬢。
復権と、ざまぁの可能性。

よし、どうやらこのお題は、完璧にマスターしたと言えるな。(目逸らし)


個人的には、ざまぁって、もっとこう、情念とか怨念がドロドロに純化した、コールタールよりも黒い何かのほとばしりに、美しさを感じます。
悪役令嬢も、そそのかされてヒロインを〇してしまった取り巻きに向かって、『あら、〇してしまったの?そこまでしなくても良かったのに』などと、微笑みながら……最後は優しく抱きしめて『大丈夫よ、あなたは私がちゃんと守ってあげる……まずは身を隠しなさい。落ち着いたら、私だけに居場所を教えるのよ、悪いようにはしないわ』……みたいな。

知人:「それ、悪役令嬢じゃなくて、悪の令嬢や」
高任:「なんでや!?スチュ〇ーデス物語のアレとか、完璧な悪『役』令嬢やんけ!」
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