コミュニケーション能力に不安がある。
笑い声がすると、自分が笑われているのではないかと不安になる。
自分に自信がない。
エトセトラエトセトラ……。
視線は自分の足元へ。
自分の思っていることを、人生で経験したことを、ありったけの勇気とともにぶっつけた。
「いくらチートもらっても、異世界でうまくやっていく自信なんてないです」
人が生きていくのに必要なのは、能力じゃない。
いや、もちろん最低限の能力は必要だろう。
それでも、重要なのは、人とつながるための能力、コミュニケーションだ。
それは、世紀末ヒャッハー世界だったとしても、たぶん変わらない。
……多少、重要度が下がる気もするが。
臆病だと、笑いたければ笑え。
自分から信用するとかそういうのはどうでもいい。
まず、信用されたい。
信頼されたい。
それも、無条件の信頼だ。
その前提があってようやく、俺はコミュニケーションの第一歩を踏み出せる。
とにかく、声を荒げたり、話の途中でさえぎったり、否定したり、暴れたりせず、最後まで、ちゃんと、俺の話を聞いてくれれば……たぶん、きっと。
そうやって最後まで話を聞いた上で、それを否定してくれるのなら、納得できるし諦めもできる。
俺は、善人ではないが、悪人でもないと思う。
俺を無条件で信頼してくれるような人が相手なら、悪いことをしようなんてことは思わない。
今までそういう機会が無かったからなんて言われたら否定は出来ないが、たぶん、そんなことはしないと思う。
……言いたいことは言ったと思う。
たぶん、俺の話を聞いてくれたんだろうとも思う。
さすが神様、それだけで感謝だ。
それでも、顔は上げられない。
顔を、反応を見るのが怖い。
「なるほど」
びくり、と身体が震える。
「あなたに必要と言うか、あなたが生きていくのに必要なのは、なでポスキルね」
……は?
はぁぁぁぁ!?
俺が。
俺が、人の頭をなでるとか、できるわけ……。
顔を上げる。
その、視界が歪む。
神様の、女神様の顔。
その口元。
邪悪な笑い(俺主観)とともに、俺の意識はふっ飛ばされた。
赤ん坊にできることは少ない。
身体がうまく動かない。
言葉もしゃべることができない。
目も見えない。
ぼんやりとした明るさを感じ取れる程度。
痛いとか苦しいとかはなく、心地よいか不快か、その2つが現れては消えていく。
赤ん坊らしく振舞いたくても、どういう振る舞いが赤ん坊らしいかわからない。
(たぶん)両親が怖い。
変な子供とか思われて、捨てられないだろうか。
虐待されないだろうか。
無視されるならまだいい。
育児放棄とかされたら死ぬ。
何もできないのに、意識だけがあるとか、拷問か。
無限に思える思索時間。
その無限の時間を、ネガティブな思考で埋め尽くしていく。
まだ、この世界がどんな文化レベルなのかもわからない。
それでも、少しずつ少しずつ、世界が色付いていく。
目に見えてくる何か。
耳に聞こえてくる何か。
自分が発する声。
自分に向かってかけられる言葉。
触れてくるもの。
目が見えてくる。
片言の言葉。
2人の男女。
ああ、両親か。
母の手が伸びてきた。
頭をなでられる。
その瞬間。
頭の奥、深いところで効果音のようなものが鳴ったのを感じた。
ちょろーん。
不安がかき消され、心が満たされていく。
まま、だいすきー。
「まあ、無条件に優しい世界なんてものは存在しませんが、無条件の信頼を寄せられて、それを無碍にできる人間ばかりが存在する厳しい世界なんてのもないですからね」
女神は微笑み、新たな生を歩み始めた赤ん坊に向かって、祝福を投げた。
テンプレを逆転させてみるのはお約束。
ただ、この『まま、だいすきー』も年を重ねると大惨事になりそう。
たぶん、頭なでられると誰にでもついていく、アホの子のキャラになりそう。
……この手のお話で連想するのは、八神君の家庭の事情なんだよなあ。
まあ、マンガじゃなくドラマのほうに転生したら何も起こらないだろうけど。(震え声)