横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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も、もう限界だぁ……っ!!





第十話 ネギの日記③

 

 僕、ネギ・スプリングフィールドは修行を舐めていた。というか、二人も師匠を取るべきではなかったと今は後悔している。

 

 中国拳法を教えてもらっている古菲さんの問題は良く力加減を間違うことにある。

 最初はともかく、身体強化や障壁を張ることで予防しているが、それに甘えて力一杯やるのは止めてほしい。

 教え方は丁寧でとても分かりやすい。武術に関しての理解度が無ければ、こうも分かりやすく人に教えることは出来ないだろう。普段の授業やテストでもその力を発揮してほしい物である。

 師匠(マスター)の合気道は感覚が良く分からないので、その点で言えば中国拳法を学ぶことを決めたのは英断だったのかもしれない。

 

 愚痴っぽくなるので次の話へと移ろう。

 

 師匠(マスター)の修行は単純に過酷を極める。

 正しく生かさず殺さずを地で行くような、僕の限界を見極めて常にギリギリまで負荷をかけ続けられていた。

 一時間が一日になる別荘で数日分の修行が出来て実際に強く成っているし、父さんの得意なコンビネーションも教えてもらっている。 

 こちらの欲しい物を理解していて、飴と鞭を使い分けられて手の平で躍らされているのが良く分かる。

 修行を見てもらう授業料として毎回献血程度の吸血を受けているので貧血気味になるのも少し困る。

 

 修行の疲労と貧血で学校の授業の方にも身が入らなくなってきているのも問題だった。

 修行後は眠たくなって翌日の授業の準備も出来ずに寝てしまうことが多い。その分、早くに起きるのでまだ準備は出来ているが、これ以上修行が厳しさを増せば早く起きることも出来なくなるだろう。そうなると授業に支障を来たしてしまう。

 慣れていくとは思うが、あまり酷いようならば周りに異変を気づかれるのでちょっとどうしようか考え中。

 

 とある日の放課後の修行中に、やはり異変に気付かれていたようで明日菜さん、木乃香さん、刹那さん、夕映さん、のどかさん、朝倉さんが師匠(マスター)の別荘にやってきてしまった。

 しかも僕が師匠(マスター)に吸血されている時にである。

 

「何やってんのよ、このロリババア吸血鬼!!」

「へぶぅっ!?」

 

 明日菜さんがアーティファクトのハリセンを取り出して師匠(マスター)の頭をバチコンと弾き飛ばす物だから混乱も酷かった。

 

「か、神楽坂明日菜……っ!? 真祖の魔法障壁をテキトーに無視するんじゃないっ!!」

 

 僕では傷一つ付けることも出来ない師匠(マスター)の強力過ぎる障壁を無かったように潜り抜けるのはハリセンの力なのか。でも、京都では妖怪を一撃で還していたと聞くし、検討の価値があり。

 なんて、明日菜さんと師匠(マスター)の暴動を見て見ぬふりは出来ないだろう。というか、他に止められる人がいない。

 ネギ・スプリングフィールド、地獄へ行きます!

 

 

 

 

 すったもんだでの末、打撲と吸血跡を増やしながら事態は解決した。

 僕の血と涙を代償として和解した後、夕食の時間に夕映さんが師匠(マスター)に向けて魂の咆哮を上げていた。

 

「あなたに分かりますか!! 幼稚園児に『なんで火も灯せないの?』と心底理解できない様子で純粋無垢な目を向けられて聞かれる私の気持ちが!!」

 

 横島さんの紹介で幼稚園児と共に教えてもらっているという話は聞いていたが、この叫びを聞いた僕はせめて最初ぐらいは手伝おうと溢れる涙を拭いながら思った。

 

「あのどチビに年上の凄さって奴を教えてやるのですよ!!」

 

 

 

 

 

 夜になってみんなが寝静まった後、何故か眠れなかった僕は師匠(マスター)から教えてもらった父さんの得意なコンビネーション―――――無詠唱の魔法の射手から上位古代語呪文である雷の斧へと繋げる連携の練習をしていると明日菜さんがやってきた。

 少し話をして、前から考えていた自分の立脚点を話してみようと思った。

 

 結局、起きていたらしい全員でということになってしまったけど、僕にとっては都合が良かった。

 僕の目的は両親を探すこと。

 六年前のことを考えれば、僕は自分の道に誰かを巻き込もうという気は無かった。

 魔法の恐れを知れば、きっと離れていく。そう思った。

 

 幼少期の自分、父を追い求めて無茶をした自分、望んではいけないことを望んだ自分。

 悲劇と英雄譚。

 出会いと別れ。

 託された物、願われたこと。

 

「今の話にあんたの所為だったところなんか一つもない! 大丈夫! ご両親にだってちゃんと会える!! だって、生きてるんだから!!」

 

 今まで誰にも言えなかったことを話し、他人の目から間違いを正される。

 そうなのだ。こうして文章として書き起こしてみると、自分の理屈に整合性がないことを自覚する。

 僕が父さんに会いたいからと悲劇を望んだとしても、そう都合良く起こるはずがない。言ってしまえばタイミングが悪かったのだろう。

 そう、僕が望む望まない限らず、あの悲劇は起きた。

 でも、その理由は何なのだろうか。

 あの日、石化が進むスタンさんが言っていた言葉を思い出す。

 

『大方、村の誰かに恨みでもある者の仕業じゃろう。この村にはナギを慕って住み着いたクセのある奴も多かったからな』

 

 村自体は百人程度の小さなもので、狙われる理由なんて父さん関係しかない。

 ただ、それにしたって父さん本人が行方不明なのは誰にだって分かっていたはずなのだ。

 

『召喚された下位悪魔どもの数、強力さ。相手は並の術者ではあるまい。うちの村の奴らが集まれば、本来は軍隊の一個大隊にも負けはせんはずじゃからな』

 

 特定の誰かを殺す為なのか、村ごと滅ぼすかは分からないが、殲滅する為に悪魔達は放たれている。

 あれだけの規模となれば個人では不可能。集団、それこそ国レベルの意図を感じる。

 

「任しときなさいよ、私がちゃんとアンタのご両親を探してあげるから」

 

 自分の思いと違って皆が両親を探すと言ってくれたことを僕は素直に嬉しく思う。

 でも、それだけだった。

 

 

 

 

 

 別荘を出て寮に戻ったところで、僕は妙な胸騒ぎを覚えた。

 部屋に戻って寛いで日記を書いていても違和感は消えず、気の所為であればそれで良いと辺りの様子を見に行くことに決めた。

 

 寮内を一周したら戻るつもりであったが、途中で村上夏美さんの悲鳴が聞こえて駆けつけると、玄関先で雪広あやかさんが倒れており、室内に入ると老年の男が那波千鶴さんを抱えていた。

 少なくとも僕はこの初老の男性に見覚えはない。

 女子寮という場所は本来、男子禁制である。僕はあくまで例外中の例外で、他の住居に移りたいと言ったら木乃香さんが泣きそうになるので保留中である。

 それはともかく成人男性が女子寮内に入る際は管理人さんが必ず同行するようになっている。

 この場に管理人さんの姿はなく、玄関のU字ロックが明らかに壊れていて、雪広さんが玄関前で壁に凭れて座り込んだまま意識が無く、そして先程の村上さんの悲鳴と腰が抜けたように床に座り込んで泣いている姿を見れば、招かれざる客であるのは一目瞭然。

 

「やあ、早かったね、ネギ・スプリングフィールド君」

 

 初老の男は僕の名を呼んだ。

 その時点で初老の男がただの不審者である可能性は排除された。

 

「那波さんを離して下さい」

 

 僕の危機意識が警報を鳴らしていた。

 村上さんら一般人がいても構うまいと杖を構えて威嚇する。

 

「焦らなくていい。今はまだ、彼女らに危害を加える気は無い」

「彼女『ら』?」

「聡明だね、君は。会話から少しでも情報を得ようとしている。ああ、そうだ。君の仲間と思われる数人の少女らを預かっている」

 

 僕はそれを聞いて常にポケットに入れるようにしている仮契約カードを取り出して明日菜さんとのどかさんに連絡を取りたい衝動に駆られた。

 

「嘘だと思うなら別に構わんよ。人質がいるということは、この勇敢な少女がいれば分かるだろうからな」

 

 那波さんがいるから僕は動けない。

 初老の男は背を向けているので先制攻撃を加えることは可能だが、こうして見ているだけでも明らかに僕を超える武技を持つ立ち姿に下手な攻撃は那波さんを傷つけるので二の足を踏んでしまう。

 

「無事返して欲しくば、今から三十分後に学園中央の巨木の下にあるステージに来たまえ」

 

 僕が躊躇っている間に初老の男の足下から幼い女の子の甲高い笑い声と共に水が突如として湧き上がる。

 

「私はヴィルヘルムヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。仲間の身を案じるなら周りに助けを請うのは控えるのが賢明だと言っておこう」

 

 そう言ってヘルマンは水へと沈み、この場からその姿を消した。

 

「くっ」

 

 気圧されていたことを認めざるをえない僕は村上さんに話を聞こうとしても混乱して話が出来ず、部屋の中にもう一人見覚えのある黒髪の少年――――犬上小太郎君の姿に目を見開いた。

 

 

 

 

 少しして、僕は一人(・・)でヘルマンに指定された場所へと杖に乗って向かう。

 学園中央の巨木の下にあるステージを視界に収め、ステージ上で何故か下着姿で水蔓のような物に縛られて立っている明日菜さんの姿を見た時、僕は詠唱を始めていた。

 

「風の精霊17人、縛鎖となって敵を捕らえろ――――戒めの風矢!!」

 

 万が一、弾かれても明日菜さんやその後ろにいる水牢に囚われている木乃香さん達に被害が及ばないように魔法を選んだ。

 

「うむ、いいね」

「あうっ!?」

 

 ヘルマンが手を掲げると不可避の障壁のようなものに弾かれた。

 実際には明日菜さんの完全魔法無効化能力を使って掻き消されたのだが、この時の僕には判別がつかなかった。

 

「さあ、これで奇襲は出来ないぞ。全力で挑んで来るがいい」

 

 奇襲は意味をなさず、全力で戦うことを望むヘルマンを睨む。

 

「まずは前座だ」

 

 ヘルマンが指をパチリと鳴らすと僕の左足に何かが巻き付き、突如として背後に誰かが現れたのが気配で分かった。

 

「っ!? 戦いの歌っ!」

 

 右足の力を抜いて自分から前方に倒れ込みながら、師匠(マスター)から伝授された身体強化魔法を発動させる。

 後頭部の髪の毛が何かの所為で吹き飛ばされるのを感じながら、身体能力任せで左足に巻き付く何かを引っこ抜く。

 

「光の一矢!」

 

 比較的無詠唱で放てる魔法の射手を放つも避けられた。

 前方に倒れ込む勢いそのままに階段から落ちるが長椅子に杖を突きさし、体を浮かしてそのまま大きく跳び上がる。

 杖ごとステージよりも高く跳んだ僕はそのまま宙を飛び、後方を振り返る。

 

「誰!?」

「スライムという種類の魔物だよ。分かりやすく言えば私の協力者だ」

 

 二体の人型のスライム娘は空を飛べないのか、射程外にいる僕を恨めし気に見上げている。

 

「なら、ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 

 敵であるならば僕が遠慮する理由はない。

 

「来たれ雷精、風の精、雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!」

 

 一方的に攻撃できる利点を使用して最大の魔法を放つ。

 

「――雷の暴風っ!!」

 

 スライム娘はヘルマンが女子寮から消えた時と同じように水に沈んで姿を消して。その直後、観客席上段に雷を纏う小型竜巻が突き刺さる。

 

「聞いていた話よりも随分と荒っぽい」

 

 当然、そんなことをすれば吹っ飛ばされた長椅子がヘルマンの方へと飛んで行く。

 

「でも、目晦ましにはなったでしょう」

「ぬっ!?」

 

 ヘルマンが飛んで来る長椅子を殴り飛ばしている背後に着地した僕は小太郎君から預かっていた小さな瓶を無防備な背中に向ける。

 

「封魔の瓶!!」

「えっ……ひゃぁああああああああああああああ?!?!」

 

 小太郎からヘルマンが元は封魔の瓶に封印されていた悪魔で取り返そうとしていたと聞いていた僕の目論見は明日菜さんの悲鳴と共に辛くも崩れ去った

 

「ふむ、実験は成功のようだね。放出型の呪文に対しては完全に無効化する」

 

 ゆっくりと振り返ったヘルマンがニヤリと笑って言ったその言葉に、僕は明日菜さんが魔法無効化能力者であるのだと確信し、なんらかの方法で能力を使われているのだと察した。

 

「少し驚かされたが、この程度で終わりではあるまい。もっと私を楽しませてくれよ?」

 

 背後に苦し気な吐息を漏らす明日菜さんの気配を感じながらヘルマンと向き合う。

 

「いいえ、その前に終わります」

 

 戦う準備を始めたヘルマンの背後に音も無くスーツを着た女性が現れ、手にした野太刀を鞘から抜き放った。

 

「神鳴流奥義、斬鉄閃!」

 

 背後からの強襲にヘルマンは反応したが回避しきれなかった。

 斬られたヘルマンの腕が宙を飛ぶ。

 

「テメェ!」

「させないデス!」

「邪魔はさせんで! 来いや、狗神!」

 

 体勢の崩れたヘルマンを追撃すべく一度は斬り下ろした野太刀を切り返すのを止めんとスライム娘が飛んだが、ステージ横から瞬動で飛び出した小太郎が狗神を呼び出して妨害する。

 

「悪魔パンチ!」

 

 回避よりも反撃を試みたことで野太刀はヘルマンの脇腹を薄く割いたに留まり、突然の伏兵に大きく距離を取る為に上段の観客席に飛び移る。

 その近くに小太郎君の狗神に追いやられたスライム娘もやってくる。

 

「明日菜さん」

 

 その間に明日菜さんの能力を強制的に使っていると見られる異質なペンダントを外した僕は魔法で水蔓を吹き飛ばす。

 次いで木乃香さん達が囚われている水牢も破壊して葛葉先生と向き合っている片手の無いヘルマンを見る。

 

「――――子供ならば脅しに素直に従うものと思っていたが、まさかあの状況で助けを求めるとは」

「その子供相手に人質を取るような相手の言うことなど聞く理由がありません」

 

 何時も優しい葛葉先生は氷のような冷たい目でヘルマンを見据えている。

 

「兄貴は誰にも連絡しちゃいねぇ。したのは俺っちだぜ。だから、兄貴は約束を破っちゃいねぇ」

 

 小太郎君の学ランから顔を出して肩に乗ったカモ君が自慢げに言った。

 

「成程、これは一本取られた」

 

 監視されている可能性を考え、僕はカモ君にだけこの作戦を伝えると直ぐに部屋を出て単独行動をしていた。

 部屋に残ったカモ君は小太郎君と情報を擦り合わせ、信頼の出来る大人――――タカミチはおらず、葛葉先生に連絡を取ってくれたのだ。

 これは後から聞いた話だが、京都での事件で加担した小太郎君は投獄され、術が使えないように処置されていた。それを葛葉先生が解いて、隠れながらステージに近づいて強襲する作戦だった。

 僕が雷の暴風なんて大魔法を使ったのは二人の接近に気付かれないようにするためでもあった。

 出来るならばこの奇襲で倒してしまいたかったが、最低限の目標である人質の奪還は果たせたので良しとする。

 

「全ての絵を描いたのはネギ君か。子供と侮ったことを謝罪しよう。実に見事だった」

「謝罪なら巻き込んだ明日菜さん達にして下さい。僕が目的なら最初から僕の所へ来ればいいでしょ」

「それでは私が面白くない。が、これならばその方が良かったかもしれんな。予定外のことばかりが起こる」

 

 僕が強い口調で言ってもヘルマンはフッと笑った。

 

「このスライム娘も本来ならばもう一体いたのだよ。ネギ君を確実に誘き寄せる為に横島堂という店主家族を人質にしようとしたのだが、侵入者避けの結界が張ってあって消滅させられてしまった。この私ですら迂闊には手が出せない結界を張れる者など貴重だぞ。予定を変えて少女達を適当に見繕わなければならなくなった」

 

 横島堂には赤ん坊の雪姫もいる。それを分かった上で誘拐しようとしたのかは不明だが、あまりにも自分勝手な理由であった。

 それを聞いた僕は横島さんらが無事なことに安心し、ヘルマンの身勝手な理由で拐われた少女らの気持ちを思って怒る。

 

「あなたは……っ!」

「理由が気になるのだろう、何故そこまで自分を狙うのかと」

 

 怒りを逸らすように言葉を重ねたヘルマン。

 

「依頼主の希望は、君とカグラザカアスナが今後どの程度の脅威となるかの調査と、調査の結果に関わらずネギ・スプリングフィールドを殺せ、だそうだ。随分と恨みを買っているじゃないか、ええ?」

 

 揶揄してくるヘルマンに、誰かに死んでほしいと望まれていることに背を泡立てながらも僕は退かなかった。

 

「舞台を整え、演出したのはぶっちゃけ私の趣味だ。現に君は燃えただろう」

「そんな理由で木乃香さん達を誘拐したんですか?」

「誰かの為でなければ、君が戦わないと聞いたからだ。致し方ない事だよ」

 

 血液が頭から滑り落ちていく感覚が襲って来た。

 

「だからって……」

「これは私の持論だが、戦う理由は須らく自分の為であるべきだ」

 

 ニヤリと笑うヘルマンを異様な影が覆う。

 

「誰かを超えたい、強く成りたい、金の為、女を手に入れる為、己の中から生まれた欲求や感情に根差したものであれば理由は何でもいい」

 

 帽子のつばで隠れていた目の鋭さを増してヘルマンが嗤う。

 

「六年前はただ震えて守られているだけの君が、怒りや悲しみをバネにしてこんなに強くなったのだから喜ぶしかあるまい」

「え……?」

「ああ、分からないかね? 君に会ったのもよく覚えているよ。私もあの時、あの村にいたのだからな」

 

 興奮しているのか饒舌なヘルマンの表情は、極上の獲物を前にした狩猟者のようであり、鮮やかな食虫花が毒を滴らせるかのような、おぞましくも禍々しい笑みであった。

 

「改めて自己紹介しよう」

 

 一端、深く帽子を被って一瞬顔を見せないようにして楽しげに笑いながら帽子を脱いだ。帽子に隠された顔が再び全員の前に現れた瞬間、そこにあったのは違うものだった。

 

「私の名はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。六年前の冬の日、君達の村を滅ぼした悪魔だ」

「……!? え……」

 

 捻れた一対の角が伸びる、どこからどう見ても人の顔ではない異形に明日菜さんが小さく声を漏らすのが聞こえた。

 

「はっはっは、喜んでもらえたかな。いい顔だよ、ネギ君。その表情だ。いやぁ今時、ワシが悪魔じゃーと出て行っても若い者には笑われたりしてしまうからねぇ。これだけでもこの街に来た甲斐があったというものだよ」

「……ッ!!」

 

 その姿を見ただけで、六年前のフラッシュバックにネギの呼吸と心臓が一瞬確実に止まって全身が凍りついた。

 

「あ…………あなたは…………」

「そうだ。私は君の仇だ、ネギ君。ふふ、また再会できるとは、あの老魔法使いにはしてやられたと思ったが感謝しなければな」

 

 その顔を見たネギは息を呑み、呼吸さえも忘れたかのようにじっと見つめている。下ろした帽子の向こうにあった顔は、初老の老紳士といった顔ではなく彼の記憶に焼きつけられたあの夜の悪夢。その象徴的な存在。

 

「君の心の叫びを聞かせてくれ」

 

 僕は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの記述はない。

 

 

 


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