横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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感想を頂いたたろさんよりネタを頂いたので出来ました。ありがとうございます。


最終話

 

 

 桜が舞う季節になろうとも横島堂に客は来ない。

 

「ま、卒業シーズンって理由もあるけどな」

 

 この一年間に来た知り合い以外で来た純粋な客が皆無であることは敢えて考えないことにする。

 

「シロもタマモも高校生か。色々と感慨深い」

 

 数日前に終わった卒業式のことを思い出し、この十年を思い出して遠い目をする横島。

 シロとタマモがいないと暇で独り言が延々と出てしまう虚しさに寂寥感を抱いていると、ドアが外から開かれて来客を示す鈴の音がカランコロンと鳴った。

 

「邪魔するぜ」

 

 もうぬか喜びはしないと決意しつつも、少しドキドキしながら笑顔を向けようとしてイケメンの登場に感情が抜け落ちて瞬時に真顔になる。

 

「ナギさん…………俺の喜びを返せ、コンチクショーッ!!」

「何言ってんだ、お前?」

 

 趣味なのか、上下共に真っ黒で決めたナギ・スプリングフィールドは横島の魂のシャウトに首を傾げながらカウンターに向かって歩く。

 

「何か用っすか?」

「柄悪いぞ。ってか、なんでそんなにつっけんどんなわけ?」

「いや、まあ、年上だった人が年下になってたら情緒不安定にもなるでしょ」

 

 あくまで冗談なので聞き返されると適当に答えてしまった。

 

「しゃあねぇだろ。十年もここの下で封印されてたんだし」

 

 体を乗っ取ろうとする造物主と共に十年間もの長き間、世界樹の根に封印されていたことで肉体年齢が止まってしまっていたので横島の方が見た目では年上になってしまっている。

 

「その所為でどう見ても十代半ばでネギを作った鬼畜野郎に……」

 

 ネギもネギで一時間が一日になる別荘を頻繁に使っている所為でナギとの年齢が近くなっているので、二人が並ぶと親子ではなく少し年の離れた兄弟に見える。

 

「ああ、ネギのクラスの子に兄貴じゃなくて親父だって言ったら変な目で見られてよ。魔法を知ってる子で助かったよ」

 

 元から性格的なものもあって年齢よりも若く見られることの多いナギは、その時のことを思い出して深い溜息をついた。

 

「アリカは気付いてないけど気苦労はあるんだ。分かるか?」

「俺の気苦労は気にしてくれないんすか」

「お前を? はっ」

「鼻で笑われた!?」

 

 言うほどには気にしているわけではないが横島にだって少しは思うところがあるのだ。

 

「冗談だって」

「冗談じゃなかったら呪いの藁人形に五寸釘の刑ですよ」

「止めろよ、おい。横島の呪いはシャレになんねぇんだから」

「十年前の時は凄い悶えてましたからね」

 

 まだ蛍と出会っていなかった横島は美人の嫁さんを貰って孕ませているナギに嫉妬して、魔法世界の勇名が轟く英雄を苦しませた過去がある。

 

「思い出すだけで心臓がキリキリするんだぞ。責任取れよ」

「男にそんなこと言われてもなぁ」

「それもそうだな」

 

 見解が一致したところで二人は同時に笑いだす。

 

「体は問題ないっすか、ナギさん」

「お蔭さんで絶好調だよ。寧ろ何の異常も無さ過ぎて怖いぐらいだ」

 

 二人でお座敷に上り、遂に購入した炬燵に入りながら喋る。

 

「つっても体はともかく霊体は年単位で様子を見て行かないと」

「へいへい、専門家様の言うことは聞きますって」

 

 ちょっと旬が過ぎたが炬燵のテーブルに置かれていたミカンを手に取って食べる。

 

「そういや、なんで今日はまたうち(横島堂)に?」

 

 三つ目のミカンの皮剥きに突入したところで、ようやくナギに来店の理由を聞く横島。

 

「未だにアリカはネギと会うと緊張しちまうみたいだから二人きりにしてきた」

「なんつうスパルタ……」

「もう再会してから半年以上経ってんだからいい加減に慣れても良い頃だろうに」

 

 親子らしく本質的な性格で似たところがあるネギとアリカの二人が見合いで初めて会った男女のように初々しいのは横島も何度も見てきているので、いい加減に荒療治も必要だとは思っていたのでナギを批判はしない。

 

「で、今度は俺の行く場所が無くてな。毎回、爺さんやタカミチのところに顔を出すのは気が引けるし、ネギのクラスの子達と会ってもあのテンションに着いていけねぇ。なんかエヴァの俺を見る目が怖ぇから、後は横島堂しかなかったんだよ」

「俺としては暇してたんで構いませんけどね」

 

 行き場所がないという結果だけを見ると家を追い出された中年男性の悲哀のように聞こえるだけに、最近常備するようになったナギの藁人形を取り出そうとしたが自重することにした。

 

「二人は今、京都にいますけど、ネギと一緒にイギリスに帰るんすか?」

「ああ、あっちには魔法世界のゲートもあるしな。流石に何時までもプータローってわけにもいかねぇし、ネギの代理ってことで動くことになるだろうな」

「寂しくなるっすね」

「生きてるんだ。会おうと思えば何時だって会えるさ」

 

 流石は英雄様、普通ならば恥ずかしくて言えないような台詞を素面で言えるとは。ただ、食べたミカンが思いの外、酸っぱかっくて顔を顰めていては恰好良さも何もないのだが。

 

「ネギも今更、大学に入って色々と学びたいなんてよくやりますよ」

「俺も同感だけどな。ま、やりたいってんならさせてやるのが、今まで何も出来なかった俺達に出来る精一杯のことだしな」

「にしても経営学やら色んな学部をハシゴする気なんでしょう? 俺からしたら正気とは思えん所業ですわ」

「まあ、学んだことは魔法世界にも活かせるって張り切ってるぞ」

 

 勉強が嫌いな横島とナギと違って、ネギは苦どころか楽しいと感じるタイプなので本人は至って前向きらしい。

 

「気負い過ぎてません?」

「どころか、やる気に満ちてる。色々とプランを立ててるようだから本人の好きにやらせるよ」

 

 血沸き肉躍る戦闘よりも机の上で理論を組み立てる方が性に合っているとは本人の談だが、とことん父親に顔しか似ていない息子である。

 

「俺としちゃ仮契約してる女の子達に何の相談もせずに決めちまったことだけは怒ったぞ」

「大半は応援してくれてるし、良いじゃないすか」

「にしたって不義理過ぎるだろ」

 

 三学期になって3-Aが卒業した後のネギの今後を気にした少女達が勇気を出して聞いた時に、「イギリスに帰ります」と言った後の騒動で京都から呼ばれたナギとしては思うところがあるようである。

 

「まだ入学が決まったわけじゃないすから、決まってから話そうとしてたんすよ」

「流石、相談されてた奴は言うことが違うよな」

「自分が相談されなかったからって人を僻むのは止めて下さいよ」

 

 ナギがこの件で根に持っているのは親の自分に何の相談も無かったこと、この一点に尽きる。

 

「一言ぐらいあったっていいだろうに」

「驚かせたかったらしいですよ。飛び級の試験ってのは先生をやりながらだと大変だったらしいから受かる自信もなくて受かってから話そうとしてたらしいし」

 

 少女らの驚き様はナギの比ではなく、てんやわんやの大騒ぎになって影響はネギの相談を受けていた横島まで波及したのだが、これには触れないでおく。

 

「ようやく一緒に暮らせるようになるからいいけどよ」

 

 ナギを落ち着かせたのはイギリスに戻ることになれば、それを理由にして一緒に暮らせる口実に出来たことである。

 

「誰かさんがNOを突きつけた所為で京都で暮らす羽目になるし」

「だから、それは闇の魔法で魂に影響を及ぼすネギが傍にいたら霊体が肉体にしっかりと定着しないからって説明したでしょうに。電話や手紙は何の問題もないんだからそう責めないで下さいよ」

「うるせぇ」

 

 ミカンの皮で溢れるテーブルの上に顎を乗せたナギが唇を尖らせる。

 ナギも事情を理解はしているが感情が納得するかはまた別問題なのだ。

 

「けっ、今度ジャックに横島が手合せを望んでるって言ってやる」

「なに筋肉ダルマを人にけしかけようとしてやがる」

 

 明日菜によって完全なる世界から帰還した後、横島が造物主を成仏させたと聞いてその実力に興味津々なジャック・ラカンをけしかけようとする大人げないナギに、ミカンの皮を潰して汁を飛ばす。

 

「いてっ!? 目に入っただろうが」

「良い薬になったでしょ」

 

 かなり痛くて悶えるナギの近くから、やり返されないようにミカンの皮を回収する横島。

 

「…………実際さ、横島がどんだけ強いのか俺も興味があるわけよ」

 

 イケメンは涙を流しても様になる姿に唾を吐きたい気持ちになりながらティッシュを渡していると、神妙な面持ちのナギがそんなことを言い始めた。

 

「どんぱち嫌い」

「これだもんな……」

 

 バトルジャンキーなジャック・ラカンやその気があるナギと違って、横島は戦うこと自体が好きではない。

 必要ならば自ら戦いもするが、対話などで避けられるならまずそれを選ぶ。

 

「あの造物主? でしたっけ。には単純に相性が良かっただけすから」

 

 横島は単純な実力ならば麻帆良祭で衆人環視などの制約があるアルビレオ・イマにようやく辛勝出来る程度の強さしかない。

 ナギやラカンとガチンコでやれば、色んな手を使えば負ける気はしなくても、彼らの望む戦いではきっとないだろう。

 

「魂とか霊体とか、そういうものを相手にすれば俺は大体の相手に負けない」

 

 昔取った杵柄というか、前世の能力というか、素で強い造物主には死にそうな思いをしたが神域の能力も所詮は能力でしかない。

 対応策は色々とあった。

 

「呆気なく助けてもらった俺としちゃ感謝しか言えねぇけどよ」

「何言ってんすか、物凄く苦労したんすよ」

「人が死を覚悟したことを苦労だけで済ますんだから、お前も大概だよ」

 

 周りから見たらどっちもどっちである。

 

「あれ、もう行くんすか?」

「二人のことも心配だし、様子を物陰から見にな。後、超ちゃんと会う約束もしてるし、いい加減に動かねぇと」

「超ちゃんと?」

 

 予想外の名前に横島の目が点になった。

 

「火星のテラフォーミングについての地球の各国家や企業との折衝が終わったみたいでな。その経過報告を纏めて俺が魔法世界にも送らなきゃなんねぇ」

「ああ……」

 

 結局、真名の手に落ちたことを諦めて魔法世界と旧世界の融和に走り回っている超の激務を思い出して少し哀れむ。

 

「実質、カンニングみたいなもんだから成功は約束されてますけど、よく地球側が受け入れましたよね」

 

 資金や人材を出す割に火星の権利については魔法世界側の方が大きいと聞いていたので横島には不思議だった。

 

「火星が成功した後には他の星やらをテラフォーミングした時の優先権を約束してるらしいぞ。他にも色々と理由はあるんだろうけど」

 

 詳細については恐らく知らない方が良いのだろう。

 学生をしながらも世界中を走り回るのはかなり大変らしく、茶々丸が秘書として大部分の手助けをしているとは横島も聞いていた。

 

「まあ、一店主の俺には関係のない話っすわ」

 

 真名も帯同して人脈を広げているらしいが、横島堂の店主以外の仕事をする気はないので完全に他人事である。

 

「引っ張り出すぞ、コラ」

「ネギに言いつけますよ」

「くっ……人の痛いところを」

 

 麻帆良祭と魔法世界のそれぞれに関わったこと自体が珍しい事なのだ。

 今の横島は一家の大黒柱であり、横島堂の店主以上の仕事を回されても困る。

 

「また何か困ったらうちに来て下さい。相談ぐらいには乗りますよ」

 

 何も無ければずっと横島堂を営んでいるだろうからと立ち上がったナギに軽く言った直後、また外からドアが開かれた。

 

「お兄ちゃん、何やってるのよって…………あら、ナギじゃない」

「おい、明日菜。横島はお兄ちゃんで俺は呼び捨てかい」

「ナギはナギでしょ。それよりみんな待ってるわよ」

 

 やってきた神楽坂明日菜はナギをぞんざいに扱いながら未だ座ったままの横島の腕を引っ張る。

 

「私達の卒業を記念してご飯を奢ってくれるって言ったじゃない。忘れちゃったの?」

「あ、いけねぇ。今日だっけか?」

「そうよ。約束の時間になっても来ないから迎えに来たの」

「悪い悪い」

 

 よっこらせ、とおっさん臭い声を漏らしながら立ち上がり、放っておかれて不貞腐れているナギの姿が目に入る。

 

「ほら、ナギも不貞腐れてないで行くわよ。ネギもアリカも来てるから」

「俺、知らなかったんだけど」

「元々、ネギの送別会も兼ねて二人を驚かせようって思って計画したんだから知ってるわけないじゃないの」

 

 ナギの腕も取ってお座敷を下りる明日菜。

 腕を引っ張られるナギと横島は靴を履いて為すがままである。

 

「みんな、待ってるんだから走るわよ!」

 

 百年の務めを果たした後、事前に渡されていた文殊をマーカーとして横島に迎えに来てもらった明日菜は今日も弾けるような笑みで生きている。

 

「行きますか」

「だな」

 

 元気な少女に引っ張られ、男二人も笑って横島堂を出て行く。

 

 

 




ご都合主義の極みですが、みんなハッピーエンドで終わりました。

アリカも生存していてナギも元気、魔法世界の救済にネギはもっと勉強するらしい。
超は犠牲になったのだ、この作品のな。

ではでは、今度こそ最後です。

と言いつつ、ネタが出来たら投下するかも。





尚、この世界のネギは真名と結ばれたらしいです。

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