横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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思いついたままに。


追憶編

 

 

 

 昔のことを思い出すと身悶えするような羞恥を覚える。

 何も知らず、状況に振り回されながらも楽しかった日々だと言えるだろう。

 色んな物が足りなくて、あまりにも未熟で考え足らずの子供だった。

 

「でも、だからこそ、変わろうと思ったのだろう」

 

 あの頃と殆ど変わらない愛しき妻が微笑みながら言った。

 

「…………人は容易く折れる生き物だ。私もそんな人間を大勢見て来た」

 

 そうなのかもしれない。

 この道を選んだ方が自分は楽だからと、周りのことも考えずに破滅へと突き進んだ人もいた。

 一人や二人じゃない。数えられないほどの大勢の人達だ。

 

「君の歩んできた道は平坦じゃなかった。普通の人なら挫けてしまいそうな苦しく辛いものだったね」

 

 万事上手くいくなんてことの方が珍しかった。

 計算していても発生する予期せぬ事象は必ず起こった。人が意図的に起こしたこともあったし、偶然が積み重なった結果によるものもあった。

 もう終わりだと諦めてしまった時もあったけれど、叱咤激励してくれる仲間がいたからこそ歩みを止めることなく進んできた。

 

「私のお蔭だって? 止めてくれ、そんなこと言われたら照れるだろ」

 

 苦笑の気配に照れを感じて面映ゆくなった。

 

「笑えるほどに色んなことがあったな」

 

 そうだ、本当に色んなことがあった。

 人生は麻帆良にやってきてから波乱万丈なまでに落ち着ける時が無い。

 

「退屈はしなかっただろ」

 

 楽しかった。そのことに疑いはない。

 思い悩んだこともあるし、迷い惑ったこともあるけれど、少なくとも一人でウジウジと壁の隅に蹲っていることも出来ない。

 

「その頃のことは、あまり私は関わっていなかったから知らないな」

 

 それでも色んな時に助けてもらったことには感謝している。

 

「修学旅行の時ぐらいだろ。それにしたってその他大勢の一人と思っていたんじゃないか」

 

 あんなに目立っていたのにその他大勢はない。

 

「目立つ外見だったのは否定せんが、これも血筋の所為だ」

 

 人間と悪魔の子供だっていうのは聞いている。だけど、そのことを聞いたのは随分後になってからだ。

 

「大体、あのクラスには私以上に目立つ外見は山ほどいただろ」

 

 否定は出来ない。

 

「ほら見ろ。やっぱり私はただの一生徒に過ぎなかったじゃないか」

 

 属性てんこ盛りだったくせに良く言う。

 

「当時のことを思い返せば否定は出来んが今は大分マシだろ…………早乙女の影響を受け過ぎじゃないか。それとも長谷川か?」

 

 日本のサブカルチャーは中毒性があるのがいけない。

 

「まあいい。しっかりと話したのは学園祭の頃だったか」

 

 必殺仕事人の姿に感銘を受けたのであります、隊長。

 

「だから隊長は止めろと言うに」 

 

 冗談を真に受ける姿は相変わらずで、よほど隊長と呼ばれるのが嫌なのだろう。

 子供達には隊長と呼ばれても怒りはしなかったのに自分の時だけは怒られるのは解せない。

 

「名前で呼んでほしいんだ」

 

 赤い顔をしてそんなことを言うもんだから隊長呼びが止められないのである。

 

「よし、分かった。魔力で赤くならないように身体を調整しよう」

 

 無理はしない方がいいと思う。冗談もこれで最後なのだから流してほしい。

 

「洒落になってないよ…………昔の可愛い姿はどこに行ったんだか」

 

 物凄く鍛えられましたから。特に横島さん関連で。

 

「横島か、今となっては懐かしい名前だな」

 

 いやいや、つい昨日も横島の名を継いだひ孫が見舞いに来たばかり。

 あの家とは付き合いは長いし、ガッツリ親戚関係なのに懐かしいと言われても説得力が皆無である。

 

「どうしても、子供達は名前で覚えてるから横島の名はあの男のイメージが強すぎてな」

 

 その通りなので全然否定が出来ない。

 

「大体、あの男は昔から隠し事が多すぎるんだ。その所為で私達がどれだけ苦労したことか」

 

 それも否定できない。けど、随分と助けられてきたことは事実ではないか。

 

「そうなんだが、悪行を知っているだけに素直に受け入れられん」

 

 受け入れられんって。まあ、麻帆良祭の武道大会で最強クラスの力を持っているのを見た時はぶったまげたけど。

 

「強い癖に戦うのは好きじゃないとか言い出すんだぞ。全く以て理解出来ん」

 

 やりたいことと出来ることが比例するわけではないから少し理解できる。

 実際、自分だって父やラカンさんのように戦うのが好きなわけではないし。

 

「その言い方、横島そっくりだぞ」

 

 そうだろうか。そういえば、似たことを麻帆良祭の時に横島さんが言っていたかもしれない。

 

「その内、謎の覆面Xとか名乗り出すんじゃないだろうな」

 

 流石にそれはない。

 第一、あの人がその偽名を名乗るきっかけになった人が言うことではないのではなかろうか。

 

「とんちきな名前を名乗れと言った覚えはないんだがな。あの男は変なところで遊び心があり過ぎるんだ」

 

 忍んでない忍者みたいに、あれで本人は変装しているつもりだからツッコミどころが多かった。

 

「全くだ。まあ、後年に至っては楓も忍者だと認めてくれたがな」

 

 楓さんは自分達の活動に参加し、故郷の甲賀の里も説得してくれて多くの忍び達が働いてくれた。そんな最中では今まで認めなかった忍者であることも何故かしぶしぶ気に頷いていた。

 

「今でもあそこまで認めなかった理由は分からんのだがな」

 

 あれはあれで一種の芸風というやつなのかもしれない。

 

「そんな芸風は捨ててしまえ」

 

 今では甲賀も良き友、良き仕事仲間。今後とも良き関係を続けて行ければ安泰である。

 

「関係を長続きさせるためにはお互いの努力が必要になる。夫婦関係や家族関係と一緒さ。努力を続けていくとも」

 

 もう先のない自分には見届けることは出来ないけれど心配はしていない。

 

「そこは心配してくれ。私だって挫けるかもしれないんだぞ」

 

 仲間も多いのだからみんなと一緒にやっていけると信じている。死ぬ人間が心配しているなんて言えば余計なシコリを残してしまうから言わないようにしていた。

 

「信頼されていると喜べばいいのか、一人では無理だと思われていることに悲しめばいいのか」

 

 笑えばいいと思う。

 

「だから、サブカルチャーの影響を受け過ぎだと言うのに」

 

 そんなに呆れないでほしい。

 第一、笑うのは悪いことではない。笑う門には福来る、という言葉もあるのだから笑っていて損になることはない。

 

「損得で感情を動かせるほど器用な人間ではない」

 

 外向けには出来るのに。

 

「それはそれ。これはこれというやつだ。好きな人の前では素直でいたいんだよ」

 

 素直なことに逆に驚いた。

 

「今まで素直じゃなかったからね。最後ぐらい素直でいようと決めていたんだ」

 

 その素直さをもう少し超さんにも分けて上げたら彼女も大分、楽になっていたのではないかと愚考する。

 未来に帰れなくて死んだ目をしていた超さんを無理に引き止め、彼女は自らの知る未来にしないように奮闘していた姿を知っているだけに、この思いやりがあれば随分と変わっただろうに。

 

「あいつはあいつで誰かさんの子孫らしく内罰的なところがあったから、扱き使われている方が楽だったろうよ」

 

 未来の世界とは明らかに違う流れになったと確信できた時の超さんは確かに大きな荷物を下ろせたと肩を撫で下ろしていた。

 

「一度だけ超に私を恨んでいるかと聞いたことがある」

 

 走り抜けた甲斐はあったと最期は笑っていたから、決して不幸な人生ではなかったのだと思いたい。

 

「笑うだけであいつは何も言わなかったが。そうだな、そうだといいな」 

 

 あの世というものがあるのなら、先に逝って聞いてみるとしよう。

 

「残念だがタマモ曰く、天国だとか地獄はなくて輪廻転生らしいぞ。第一、死んだ超じゃなくて、こっちには生きている超がいるだろうに」

 

 生まれたばかりの赤ん坊に何を聞けと言うのか。

 大体、これだけ環境が変われば同じ名前の別人のようなものではなかろうか。

 

「どうなんだろうな。時間移動した時間軸の違う同一人物なんて前例もないし」

 

 やはりタイムマシンは余程の例外が無い限りは禁止にしていたほうが無難だろう。

 

「作った本人が言うことではないな」

 

 出来てしまった物は仕方ない。だから、悪くなんてないのだ。

 

「一体、イギリスの大学で何を学んできたんだか」

 

 学と人脈と必要なら躊躇わない思いきりの良さ。

 

「人脈に関しては大分助かったから否定できないんだが、思い切りの良さではなくて思い付きで突っ走る阿呆なだけではなかろうか」

 

 遊び心を身に着けた言って欲しい。

 

「物は言い様だな」

 

 これでも弁舌の魔術師と噂されたのだから、大体の相手には負けるつもりはない。

 

「国連でそんな仇名を付けられたのは後にも先にも君だけだよ」

 

 必要だったから汚名も引き受けたのだ。

 

「私達からすれば物凄く頼もしかったよ、魔術師殿」

 

 金を引っ張ってくる的な意味だとしても人に感謝されるのは心地良い物である。国連の人間には蛇蝎の如く嫌われたけど。

 

「万人に好かれる者なぞいないさ」

 

 笑おうとして、笑えなかった。どうやらもう時間は残されていないらしい。

 

「そうか。あの子達は呼ばなくていいのかい?」

 

 別れは先に済ませてある。

 もしかしたら最期の時に立ち会えなかったと思った時には見るようにと魔道具も用意してあるから準備に抜かりはない。

 

「本当に準備が良いね。頭が良いんだから自分がいなくなった影響も考えてほしいものだ」

 

 人は生まれれば、何時かは死ぬものだ。

 吸血鬼になるかと言ってくれたエヴァンジェリンさんには悪いけれど永遠に興味はないし、百を超えれば人として十分に生きたと思う。

 

闇の魔法(マギア・エレベア)を捨てなければ、もっと長く、もしかしたら永遠に近い時間を生きれたというのに」

 

 あの時には闇の魔法(マギア・エレベア)が必要だったけれど、必要でなくなったから捨てたまでだ。

 欲しかったのはみんなを守る力で、戦わなくなったから暴走しないように封印したまで。確かにあのまま育てていけば永遠に近い時間を生きれたかもしれないけれど、人として生きてきたのだから最期が近いからといって人であることを捨てられない。

 

「私を置いていく気か?」

 

 結婚式で言っただろう。死が二人を別つその時まで共にいると。

 置いていくのではない。例え死しても魂は何時までも傍にいる。

 

「都合の良いことを」

 

 横島さん達を見てきたから言えることだ。

 

「…………分かった。私も精一杯生きるよ。先に待っててくれ」

 

 それは約束できない。僕が死んだら再婚してね、真名。

 

「そんなこと言わないでくれ」

 

 …。

 

「なあ」

 

 ……。

 

「ネギ」

 

 ………。

 

「ネギっ」

 

 …………。

 

「ネギ!」

 

 ……………。

 

「ネギっ!」

 

 ………………。

 

「ネギぃっ!」

 

 …………………。

 

「勝手だよ。言いたいことだけ言って」

 

 ……………………。

 

「ネギ、私は再婚なんてしないよ」

 

 ………………………。

 

「―――――――さよなら、私が愛した、ただ一人の男」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、ノーベル平和賞も受賞した白き翼の創設者である龍宮ネギの死亡の報道が世界を駆け巡った。

 

 

 




今わの際に話す真名とネギのお話。
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