横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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ちょっと短め。




第五話 ネギの日記①

 

 僕の名はネギ・スプリングフィールド。

 魔法学校を飛び級で卒業して、課題として日本の麻帆良女子中学校の先生をやることになった。

 ここに辿り着くまでには色んなことがあったけど今は割愛しておくことにする。

 

 一ヶ月と少し前に僕のクラスの生徒であるエヴァンジェリンさんに桜通りで襲われたことから始まった。

 魔法使いの見地から見れば小競り合いで終わった戦いは僕に強い恐怖を植え付けた。

 魔法使いの従者である絡繰茶々丸さんに拘束されて、エヴァンジェリンさんに後少しで血を吸われそうになったところを同居人の神楽坂明日菜さんに助けてもらった。

 数的には二対二なので一度は退いてくれたんだけど、また襲われるんじゃないかって僕は怖くて仕方なかった。

 その日の夜、友人であるアルベール・カモミール君(通称:カモ君)が来てくれたお蔭で悪夢に魘されずに済んだのは随分と助かった。ただ、話を聞いて逃げ出そうとしたので、ちょっと友達関係を考えようかなと思ったのは秘密である。

 

 次の日、明日菜さんに連れ出されてビクビクと怯えながら学校に行くと、エヴァンジェリンさんの方から接触してきた。

 僕は逃げ出そうとしたけど、明日菜さんに捕まえられていて出来なかった。

 周りの目もあったから襲って来ないだろうっていう推測も分かるのだけれど、体に刻み込まれて恐怖は中々抜けてくれない。

 何をされるのかとオドオドとしていると、なんとエヴァンジェリンさんが謝って来たのだ!

 

「すまんかった」

 

 僕からしたら本当に謝る気があるのか疑問だったけど、なんでも死んだお父さんと因縁があるらしい。

 授業もあったので詳しい話は聞けないまま、放課後にある場所に連れて行かれることになった。

 それが横島堂。

 最初はどんどん人気のない場所に向かっていたので今度こそ血を吸われると思ったのだけれど、明日菜さんは知っている場所だったようで驚いていた。

 横島堂には店主の横島さん、その家族だという僕の生徒でもあるタマモさんがいた。

 店に入った当初から高い魔力や気を感じていたから悪の居城かと思ったけど、よく観察すれば魔道具(マジックアイテム)の店であることが分かった。

 

「はっ!? エヴァちゃんと仲が良いタマモちゃんまでいるってことは、まさかこの横島堂まで手中に!?」 

「だからって落ち着けって、そっちの子供先生が話についてけてないぞ」

 

 横島堂のことを良く知っているらしい明日菜さんの混乱を横島さんが無造作に言霊で鎮めたのは驚いた。

 あまりにも無造作に放たれた言霊の余波で、同じように混乱していた僕の精神も落ち着いたけど、他人にそうと気づかせない自然さは僕にはとても出来ることではない。

 

「知らぬ顔もあるわけだし、まずは自己紹介といこうか。俺はこの横島堂の店主である横島忠夫。お兄ちゃんでも横島でも好きに呼んでくれていい。君のことはシロとタマモから良く聞いている。会えて嬉しいよ」

 

 噂の子供先生として、という枕詞が今までつくことが多かったが、明確にネギ個人に向けてそう言ってくれる人は今までいなかった。

 

「えと、ネギ・スプリングフィールドです」

「よろしく頼む」

 

 どこか面映ゆさを覚えながら教えられた通りに頭を下げて挨拶すると、子供相手にも関わらず横島さんは僕と向かい合ってくれているのを感じた。

 大抵の人は僕が子供と分かると上から見たり、どこか構えているような雰囲気を覚えるが横島さんはそうではない。自然なのだ、この人は。

 不思議な人だな、というのが横島さんの第一印象だった。

 

 

 

 

 

 その後のことは両親の写真を見せてもらったりして泣いてしまったので、この日記に記すのは恥ずかしいから書くのは止めておこうと思う。

 そうそう、この日記を書くようになったのも何時も失敗しては明日菜さんを始め、多くの人に迷惑をかけていたことを自覚してどうしたらいいかを横島さんに相談したことから始まっている。

 

「一朝一夕で完璧に成れるんなら先生はいらんわな。一日の出来事を日記に書いてみて、悪かったことを反省してこうしたら良かったんじゃないかって振り返ってみたらどうだ?」

 

 横島さんの言うことは尤もだった。

 僕は先生だけど、その前に子供なのは変えようがない。かといって、失敗しないように縮こまっていては先生として信用されることも無い。

 失敗しないようにするのは大切だけど、失敗から何を学ぶのか。それが大切なんだ。

 横島さんとはまだ短い付き合いではあるが彼の懐の深さやシロさんやタマモさんへの対応、明日菜さんが砕けた様子で話している様子から今までじぶんの周りにはいないタイプであった。

 僕も似たような年代の男の人とは同級生などの父親を見る機会はあったが関わることはなかった。

 年が近いらしいタカミチに関しては最初に友達になろうと言われたので、そういう意識にはならず、また父親代わりになろうとはしていないことを察していた。

 お父さんと面識があったこともそうだが、今まで誰も言ってくれなかった母のことを教えてくれたことも多い。

 直に生まれて来る赤ん坊の兄になってくれと頼まれたことも僕の気持ちを高揚させた。

 

 

 

 

 

 日記を書き始めてから僕の気は沈んでばかりだ。

 何も失敗しない日なんてないってぐらいに、誰かに迷惑をかけてばかりいる。それでも周りの人が見捨てないでいてくれるのは僕が子供だからだ。

 魔法が原因なんかじゃなくて、僕が未熟だから。

 こんな僕が先生をやっていていいのだろうかと毎日思わない日は無くて、新学期が始まる前日に横島堂に行って相談してしまった。

 

「常に反省して成長しようとしているネギ君なら良い先生になれるさ」

 

 つまりは今は良い先生じゃないと言われているようなもので、落ち込んでいると苦笑して頭を撫でてくれた。

 

「誰だって最初から良い先生なんていない。君もまだまだ未熟なんだ。生徒達と一緒に頑張って成長するんだ。俺も応援してるから」

 

 その言葉に励まされて頑張ろうと思う僕は現金なのかもしれない。

 応援してくれる人がいるなら頑張ってみよう。精一杯やってみて、駄目なら駄目でそれでいいのかもしれない。

 そうして僕は修学旅行の日を迎えた。

 

 

 

 

 

 修学旅行の日、僕は興奮してあまり寝付けず、寝起きも早かった。

 明日菜さんには小学生が遠足を楽しみにしているみたいだと言われ、教師の自分が何をやっているのかと反省はしたが両親の別荘が京都にあると分かっているので気分の高揚は抑えきれない。

 アーニャ曰く古物マニアでもあるので日本の古都である京都や奈良に行けるのも嬉しいし、学園長から関西呪術協会への親書も預かっているので使命感に燃えていたのもある。

 後になって聞いたことだけど、元々のこの親書を届ける役割は東の魔法使いと結婚した横島さんが勤めることに内々で決まっていたらしいけど、奥さんの蛍さんの出産が近いことから見送られたらしい。

 これも後になって思ったけど、修学旅行のついでに親書を届けるのは失礼じゃないのか。

 実際には親書というよりも学園長から義理の息子への手紙だったらしいので、そこまで鯱張る必要も無く、西の長さんの盟友だったお父さんの息子である僕の顔見せっていう理由もあったらしいけど。

 日記を書くようになって、後になって事実関係を精査したら分かったことだった。

 文にして残すと後で考察も出来るので、日記の大切さがまた分かった瞬間だった。

 

 修学旅行は波乱の連続だった。というか、始まる前から波乱だった気がする。

 駅での集合だったのだけれど、エヴァンジェリンさんが寝坊して遅刻しかけるし、第6班の班員にまさか幽霊がいて人形で参加するなんて誰にも聞いていなかった。

 なんでも相坂さよさんは3-Aの教室に憑りついている地縛霊らしく、修学旅行に参加できないのを不憫に思ったエヴァンジェリンさんやタマモさんが恐山に行って幽霊が憑りつける人形を作ったらしい。

 恐山に行ったのは横島さんらしくて、人形はエヴァンジェリンさんが夜なべして作ったとかで、人形のさよさんはとても嬉しそうに話してくれた。

 友人思いの人達を叱ることは出来ず、電車は無事定刻通りに出発した。

 この時点で修学旅行の行く末を案じているような波乱な始まりだった。

 

 京都行きの新幹線の中ではみなさん楽しそうにしていて、なかでも学業でなければ麻帆良の外に出られないエヴァンジェリンさんと60年ぶりに外に出たというさよさんは特にはしゃいでいた。窓の外を指差してはタマモさんに鬱陶しがられていて、茶々丸さんが二人を微笑ましそうに見ていた。

 刹那さんと木乃香さんの間に座ったシロさんが物凄く助けを求めるような目で見て来た理由は分からないけど、総じて普段の騒がしい3-Aらしさに溢れていたように感じた。

 カエルが現れるまでは。

 108匹のカエルはどこかから現れて、失神者続出で対応に大慌てだった。

 アーニャみたいにカエルが苦手な人も多く、泣き叫ぶ人や怖がって暴れる人多数で問題のカエルを捕まえることが中々出来なかった。

 そんな時だった。

 

「アゥオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン―――――――――ッッ!!」

 

 古さんを筆頭にカエルが平気な人もいて、混乱している人を鎮めながら捕まえていると突如として犬の雄叫びのようなものが響き渡った。

 古来より犬の遠吠えには魔力が宿るというけれど、僕が感じたのは気だった。

 遠吠えが聞こえた方を振り向けば、何故か桜咲さんに頭を叩かれて悶絶しているシロさんの姿があった。

 シロさんは人狼という妖怪らしくて、カエルを捕まえるよりもこの方が早いと後で釈明を受けた。

 桜咲さんがカエルの正体を西の呪術である式符と見破ったのを聞いて、自分ならば捕まえる手間を省くことが出来ると考えたらしい。

 確かにカエルはシロさんの遠吠えで符に戻ったのだが、遠吠えは物理現象にまで作用した所為で新幹線は緊急停止。僕達のクラスの人だけが乗っていた7号車は失神者続出だったので、あわや修学旅行中止なんて話も出てしまった。

 タマモさんがシロさんはカエルを追い払おうと犬の物真似をやっただけと誤魔化し、修学旅行を中断されたくないエヴァンジェリンさんやシロさんが人狼族であることを知っている茶々丸さんや明日菜さんなど、勿論僕も擁護することで誤魔化し切った。

 結局、一時的な機械の異常ということで新幹線は運転を再開。カエルは姿がないので気の所為という結論になり、無事に修学旅行は続行することになった。

 

 

 

 

 

 京都に着いてからも騒動は尽きることがなかった。

 清水寺で悪ノリした生徒らの扇動とタマモさんに煽られたシロさんが飛び降りたりしたことから端を発して問題ばかりが起こる。

 雪広さんは失神しかけるし、シロさんは妖怪なだけあって怪我は全くないのだが心臓に悪いことこの上ない。

 恋占いの石は、なんでも横島さんが好きらしいシロさんが物凄く煩悶しながら挑戦して、途中で迷って懊悩の末に地面を叩いたら大きな穴を開けてしまって方々に謝罪する羽目になったり。

 これに関しては誰かが事前に掘った悪質な落とし穴だと分かったので問題にはならなかったが胆が冷えた。

 ここまで書くと問題の大半はシロさんの所為で起きているような気もしたけど、恋占いの石の後に行った音羽の滝に仕掛けられた酒の匂いを嗅いで生徒達が誤って飲むのを回避できた。

 よくよく考えたら新幹線の遠吠えはカエルの除去を目的に、恋占いの石の落とし穴は過失はない。清水寺の飛び込みに関しても周りに扇動されたからで、自分から率先して悪いことをしたわけではない。

 この日記を書いている時に改めて整理してみれば、後で頭ごなしにシロさんを注意したことは謝らなければいけないだろう。

 

 旅館に着いてからは大きな問題が起こることはなく、賑やかに食事を食べて各班ごとに部屋に別れて休むことになる。

 騒がしい3-Aなので部屋ごとに別れても騒々しいのは変わらない。

 新田先生や僕の親書の見届け人として同行している葛葉先生が見回りをしている間、僕は風呂に入ることになった。

 生徒達の時間が終わった後なので急ぐ必要はないのだが、カモ君と満天の星空を見ながらゆっくりするのも悪くないけれど僕は日本で言う烏の行水というやつらしいので長く入ることはない。

 そろそろ出ようというところで何人かの生徒達が乱入してきて大変だった。本当に大変だった。

 女子生徒達だから騒ぎに気付いた新田先生も踏み込めず、シロさんと明日菜さんが物理行使をして助けてくれなかったらどうなっていたか本当に恐ろしい。

 後で分かったことだけど、お風呂場が大混乱の時、タマモさんとエヴァンジェリンさんは音羽の滝の酒を回収して酒盛りをしていたらしい。

 

 この夜も3-Aの騒ぎは一向に収まる気配も無く、僕が早めに床につかせてもらった後も大変だったとは翌朝に新田先生や機嫌の悪い葛葉先生が教えてくれた。

 

 

 

 

 

 二日目のことに関して、とても記せるものではないので勘弁してほしい。

 

 

 




ネギの日記という体裁で、ところどころで会話文も混ざる感じです。


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