横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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 なにやら日刊ランキング入りして戦々恐々としております。
 沢山誤字もあり、報告して下さった方もありがとうございます。
 これも皆様のお蔭と精進して頑張りました。


第六話 ネギの日記②

 

 

 二日目の欄は何度も書いたり消したりを繰り返され、とても読めるような感じではない。

 

 

 

 

 

 三日目の朝を迎えた時、前日のことを思い出した僕は暫く布団の中で悶えていた。

 まさか宮崎さんに告白されるなんて思いもしていなかったし、朝倉さんに魔法のことはバレるし、何か良く分からないクラスの催し物に巻き込まれて正座もさせられた。

 それに、き…………この後の文字は擦れて読めない。

 

 なんであれ、無事に朝を迎えた僕はどうしようもなく横島さんと話がしたくて事前に聞いていた電話番号にかけたのだが何故か出ない。まだ寝ているのだろうか。

 横島さんの家族であるシロさんとタマモさんに聞いてみようとしたら、何故かカモ君が見るに堪えない血袋と化していた。

 

「知っている、ネギ? 狼と狐は野生の世界において捕食者なのよ」

 

 下手人らしいタマモさんの背筋がゾクゾクとする薄い笑みが怖かったのだが、全く以て意味が分からないが触れない方が良い気がしたのでカモ君に黙祷しておいた。

 しかし、何故かエヴァンジェリンさんの姿も見当たらない。

 

「マスターは所用で出ておられますので、お気になさらず」

 

 従者である茶々丸さんに聞いてみたが、後になってもう少し詳しく聞いておけばよかったと後悔することになる。

 

「申し訳ないでござるが、親書はお任せするでござる」

 

 魔法のことを知らない木乃香さんと付き添う刹那さんはともかくとして、僕は親書を持って行かなければならなかったがその話をする前にシロさんからそう言われてしまった。

 これも後から聞いたことだが、シロさんとタマモさんが付いてこなかった理由は横島さんが関西呪術協会の出身で昔、殺生石から解放されたタマモさんが討伐される危機であったところを蛍さんと救ったことで溝があるらしい。

 横島さんの名は関西呪術協会にはあるがタマモさん的に好き好んで訪れたい場所ではないということは、話の端々から強く伝わって来た。

 そんなこともあってタマモさんは関西呪術協会に近寄りたくないってことで、シロさんはその付き合いのようなので付いて来てほしいと強要は出来ない。

 親書ぐらいは僕一人でも届けられるので、見届け人である葛葉先生と付いてきた明日菜さん、そしてカモ君で関西呪術協会に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 この修学旅行は呪われているのではないだろうか。僕はそう思い始めていた。

 大きな鳥居を潜って関西呪術協会の総本山に入ると、延々と続く石畳に葛葉先生が無間方処の咒法に囚われていると教えてくれなければ、一体何時まで歩くことになったか。

 咒法自体は葛葉先生が解いてくれたので簡単に進めたのだが、今までの子供染みた妨害も合わせて関西呪術協会の内部には僕に親書を届けてほしくない勢力もいるらしいので気は抜けなかった。

 屋敷に辿り着くと歓待された時は罠かとも思ったけど、違う組織の使者はよほどのことがなければ歓待しなければ面子に関わるとは後になって聞いたことだった。

 無事に長である木乃香さんのお父さんの近衛詠春さんと面会が出来て親書も渡せた。

 結局、妨害らしい妨害は子供染みたレベルに収まっていたので、僕は重い荷物を下ろせたようにホッとした。

 

 親書を渡した後、日が暮れるからと関西呪術協会に泊まることになったのは、僕達に危険が及ばないように配慮したのか単純な善意かは分からない。

 別室に通されて長さんと差し向かいで話すことになった。

 日本を二分する巨大組織の長の一人娘である木乃香さんがどうして魔法を知らないのかと聞いてみると、長さんからは魔法の危険から遠ざける為に何も話していないこと、今回の帰省で話す手筈になっているのだと教えられた。

 その理由は、学園長も語っていた関東と関西の不和にあるそうだ。

 大昔から陰陽師を中心とした西と、後からこの国にやってきた魔法使いを中心とした東では仲が良くないらしい。

 キリスト教の伝来と共に魔法使いが日本にやってきて、関西呪術協会の前身である陰陽寮は既得権益を切り崩されて、今では東と西で分裂する事態にまでなっているのだと。

 とはいえ、互いの棲み分けは出来ていたし、組織の面子はともかく個人間での交流は見逃されていた。

 問題は、二十年前にとある鬼神が解放された時には魔法使いが収め、十年前は魔法使いと陰陽師が封じたこと。そのどちらも封印を解除したのが魔法使いであることを聞いた。

後継ぎたる木乃香さんが関東魔法協会の御膝元にいること、今の長も娘婿だということが関西呪術協会としては面白くないと感じている人も少数ではないけどいるようだ。

 なので、和平は望まれているが、関東魔法協会から申し込んで関西呪術協会が受け入れるという形が必要になる。

 今までの悪戯は関西呪術協会の妨害行為であることは明白、とはいえ嫌がらせの範疇で留まっているなら特に問題にはしないらしい。僕達としても胃には来ているが実害らしい実害は今のところないので気にしていないと言っておいた。

 

 木乃香さんのことに関しても可能な限り魔法等に関して教えない方針だったらしい。

 では、何故教えることにしたのかというと、刹那さんとの仲や僕がいること、個人的な知り合いだというエヴァンジェリンさん、それに横島さんがいることが理由らしい。

 どうしてなのかは教えてくれなかったが、組織っていうのは面倒だなと思った。

 明日、学校側に許可を貰って木乃香さんに一度帰省してもらって、その際に話すということだった。

 なら、今日はもう何も起こらないだろうと安心して食事をして風呂に入り終わった後だった。

 

 襲撃を受けた。理由は良く分からないけど、風呂上りに廊下を歩いていたら体の半ばが石化していた長さんがいた。

 長さんは開口一番、旅館から木乃香さんが攫われたらしい。

 木乃香さんが攫われたことが分かったのは、関西呪術協会にいないはずの刹那さん達が白い髪の毛の少年を追って来て判明したことだ。

 僕がみなさんから聞いた時には、葛葉先生以下、関西呪術協会の主だった人達は石化されている。のんびり風呂に入っている間にそんなことになっていて気が付かなかったなんて僕はなんて鈍いんだ。

 長さんの石化していく姿を見た時、昔の光景が頭を過ったけど過去のトラウマに囚われないように自己暗示を繰り返して話を聞く。

 

「木乃香を攫った白い髪の少年は格の違う相手だ。もう直ぐしたら最強の援軍が到着する。君達は此処で待つ……」

 

 最後まで言い切ることなく、長さんは完全に石化してしまった。話の流れから、恐らく長さんはその白い髪の少年にやられたのだろう。

 援軍が到着するということだが、木乃香さんを放っておくことなど僕には出来ない。

 戦えるのは僕、刹那さん、シロさん、タマモさん、長瀬さん、龍宮さん、古さん。

 正直に言って僕は自分以外の人達がどれだけ戦えるかどうかを知らない。妖怪であるというシロさんとタマモさんが多分、強いだろうという推測しか立てられない。

 木乃香さんを助けたいというのは僕の思いでしかなかったから、みなさんに待っていてもらおうと思ったが。

 

「何言ってんのよ、ネギ! 木乃香を助けるわよ!!」

 

 と、一番一般人である明日菜さんが先を切って、突如として光が立った池の方に止める間もなく向かってしまった。

 みなさん唖然としてしまって、明日菜さんの足が速すぎてハッと気づいて後を追って追いついた時には無数の妖怪に囲まれていた。

 どうやら妖怪達は追っ手を警戒して足止めに残されていたらしく、突破するのは難しそうだった。

 

「ここは仮契約っきゃねぇ!!」

 

 とは、時間を稼ぐ為に僕が張った風花旋風・風障壁で対策を相談している時にカモ君が言い出した。

 空を飛べる僕が先行するにしても、なんの力もない明日菜さんを残していくには不安が大きい。

 それを聞いたカモ君が明日菜さんを見て言い、短い懊悩の果てに明日菜さんは覚悟を決めたらしい。

 

「これは緊急事態だからノーカンで!!」

 

 二、三分しか障壁は持たないので選択を迫られた明日菜さんは木乃香さん救出を優先して僕と仮契約をした。

 まだまだ不安は残るが、残る人は多いので寧ろ危険なのは先行する僕の方だ。

 障壁が解けた後、雷の暴風を放って道を作り、杖に乗って空を飛んで先行する。

 背後が気になりながらも全速力で光が立っている池の方に向かっていると、何かに撃ち落とされた。

 地面に落ちた先には学ランを着た犬耳の少年がいて、従者がいないので魔法使いの僕では戦いにくい近距離で襲い掛かって来られて時間を取られる。

 

「全力で俺を倒せば間に合うかもしれんで。来いや、腰抜け魔法使い!!」

 

 挑発と分かっている。ここで倒さなければ後を追ってきて挟撃される可能性もある。

 危険性を承知で僕は。

 

「君の相手をしている暇はない!」

 

 光系統の魔法で目を眩ませて無視して先に進むことを選んだ。

 

「待てや、腰抜けっ!」

「遊びでやってるんじゃないんだよ! 戦ってほしかったら後で好きなだけやってやるよ!」

 

 目が眩んでいるであろう犬上小太郎君の叫びを背中に受けながら、僕は木乃香さんの救出を最優先として動いた。

 不思議と小太郎君は後を追って来なかった。

 小太郎君に僕の気持ちが伝わったのか、それとも誰かが足止めしてくれているのかは分からない。

 気にしている暇もなく、池の畔から光を発している中心に向かうと、遠目ながらも白い髪の少年と黒髪の着物を着た女の人が見えた。

 なんらかの術を行っていると見て、僕は魔法の射手を放って牽制する。

 運良く使い魔らしい羽の生えた異形の化け物は倒せた。池にも魔法の射手が落ちて水煙も立って目くらましにもなっている。

 

「わぁあああああああああああっ!!」

 

 長さんを石化させた少年を侮ったりはしない。

 杖を先行させて回り込み、不意を打って拳に魔法の射手を込めて放つが。

 

「…………期待外れだよ」

 

 何を期待されたのか知らないが、僕の策はまだ終わっていない。

 溜めておいた遅延呪文を発動させて白い髪の少年を拘束することに成功する。

 

「やった! エヴァンジェリンさんの教えのお蔭だ」

 

 エヴァンジェリンさんにとっては戯れ程度の教えを吸収して、白い髪の少年の拘束に成功したが木乃香さんを贄として何かが起き上がる。

 

「さあ、リョウメンスクナノカミの復活や!」

 

 女陰陽師の声と共に封印されていた神様の分霊が蘇る。

 

「魔法使いがなんぼのもんや! 兄ちゃんを奪った東なんか滅んでまえ!!」

 

 僕は放てる最大の魔法である雷の暴風を放つが傷一つつけられない。しかも、捕まえた白い髪の少年も拘束から脱した。

 魔力はまだあるがリョウメンスクナノカミと白い髪の少年の両方に対処することは僕には出来ない。万事休すと思われた。

 そこに妖怪達を倒したみなさんが駆けつけてくれて、刹那さんが背中から白い翼を出して木乃香さんを助けに行き、他のみんなで白い少年に立ち向かう。

 白い少年はみんなで闘っても倒せないぐらい強くて。

 

「結界弾、ファイア」

 

 永遠とも思える時間の果てに、救援に駆けつけてくれた茶々丸さんの声が聞こえたところで、白い髪の少年は円形の力場のようなものに閉じ込められた。

 

「このちゃんは助けました!」

 

 その直後、刹那さんも無事に木乃香さんを助けることが出来た。

 後は逃げきることが出来れば万事解決と言うところで。

 

「なんか、あの大きいの暴れてない?」

 

 そうなのだ。木乃香さんがいなくなったリョウメンスクナノカミが突如として暴れ出したのだ。

 恐らく木乃香さんの莫大な魔力を使って召喚し、使役していたので制御盤を失った暴走を始めているようで、辺り構わずに破壊を始めてしまった。

 

「こういう時の頼みのエヴァはどうしたの!」

 

 逃げるしかない僕達の中でタマモさんが叫んだ。

 そう、そうだ、お父さんに敗れたけど優れた魔法使いであるエヴァンジェリンさんならばなんとか出来るはず。

 希望を持ってエヴァンジェリンさんの魔法使いの従者である茶々丸さんを見る。

 

「マスターなら今朝から蛍様が産気付いたと麻帆良に戻られています」

 

 茶々丸さんの冷静な言葉で冷や水を浴びせられる。

 

「え? よりにもよってこのタイミングで?」

「はい」

「連絡は?」

「マスターは携帯電話を持っておられませんので」

「じゃ、じゃあ、うちの家の方に…………先生も病院に行ってるはずでござるよな」

 

 赤ん坊が生まれるのは素直に喜ばしい事なのだが、タイミングと言うものがある。

 

「白い髪の少年を拘束している結界弾も間もなく解けます」

 

 結界弾の残り時間を告げられ、パニックになった。 

 今この場で大火力があるのはネギのみだが、効かなかったのは誰もが見ていた。

 

「ねぇ、ネギ先生。こう、みんなの力を集めて大きな力を発揮とか出来ない?」

 

 タマモさんの出来るはずのない提案に僕は勢い良く首を横に振る。

 分かりやすい絶望である。

 

「神鳴流奥義」

 

 誰かの声が辺りに響き渡った。

 神鳴流と聞いてみなさんが刹那さんを見たけど、木乃香さんを抱えているのでキョトンとした顔をしている。

 

「――――極大・雷鳴剣っ!!」

 

 直後、総本山を覆い尽くさんばかりの閃光が奔って轟音が轟いた。

 走って逃げていたネギ達が背後からの衝撃に思わず転ぶほどで、明日菜さんなどは火山が噴火したかと思ったらしい。

 振り返ると、そこには殆ど何もなくなっていた。

 

「こ、これほどの威力…………ま、まさか!?」

 

 唯一形を留めていたリョウメンスクナノカミは大半が焼き尽くされながらも再生しようとしている。その最中、刹那が何かに気付いたように震えていた。

 

「神鳴流決戦奥義」

 

 今度はネギにも分かるほど強大過ぎるほどに力が高まり、感じた力の方に目を向けると池の畔に人影が見えた。

 

「――――真・雷光剣っ!!」

 

 雷光が奔った直後、僕の記憶は数秒間途絶えている。

 

 

 

 

 

 数秒間の記憶の断絶後の話をするとしよう。

 リョウメンスクナノカミを一人で倒したのは刹那さんの知り合いという剣のお師匠さんである青山鶴子さんだったらしい。

 英雄であるお父さんの盟友の長さんを差し置いて神鳴流で歴代№1ではないかと言われているほどのお人らしくて、僕がお会いした時はとても穏やかで優しい人だったのだけれど、何故か刹那さんは借りて来た猫みたいに大人しかった。

 長さんが言っていた最強の援軍は鶴子さんらしく、一度は逃げた白い髪の少年も不意打ちを仕掛けて来たけどあっさりといなして倒してしまった。

 

「あれは本体が操ってる人形みたいなもんですな」

 

 あの強さでも本体が遠隔操作していた人形みたいなものらしいと鶴子さんは言っていたが、満身創痍な僕達は碌に聞いちゃいなかった。

 関西呪術協会に戻るとそのまま翌朝まで眠ってしまったのだ。

 あくる日、事件の後始末の後に長さんに事情を聞いてみると驚くべきことが分かった。

 

「今回の主犯と見られる天ヶ崎千草には洗脳の跡が見られました」

 

 驚きながらも別荘に連れて行ってくれたが、その後のことについては多くを語ってくれることはなかった。

 別荘でも両親について大した情報は得られなかったが、長さんから父さんの手掛かりのような物を貰った。

 

「ネギ君のお母さんのことですか? う~ん、私が話していいものか」

 

 長さんに思い切って母のことを聞いてみると知っていることは否定しなかった。

 

「一応、私達の仲間内ではネギ君が一人前になるまで教えないという決め事があるんですよ」

「そうなんですか……」

 

 と、僕が落胆していると木乃香さんと刹那さんが子供の気持ちを無視するのかと強い口調で言ってくれたお蔭で少しは教えてくれた。

 

「多くは語れません。今のネギ君が受け止めきれるかは分かりませんからね」

 

 と、前置きを置いた。

 

「二人が本当に愛し合っていたことは事実です。そしてナギは世界を敵に回してでも彼女と共にいることを選んだ」

 

 そう語る詠春の表情は高い天井近くの窓から差し込んだ太陽の光で見えなかった。

 

「周りが何と言おうとも真に称えられるべきは彼女であり、偉大であったと僕は思います」

 

 それ以上、詠春は語ることなく、母のことを知るには一刻も早く一人前にならないといけないと僕は心に決めた。

 やはり魔法使いとしての技量も上げなければならず、僕が知っている中で最も優れている魔法使いである父に近いエヴァンジェリンさんに師事するのが一番良いのかもしれない。

 それに長さんから預かった父さんの手掛かりの地図を解き明かす必要もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――と、今日はここまでにしておくかな」

 

 帰りの新幹線の中で修学旅行の出来事を記したネギはパタンと日記を閉じる。

 

「ふわぁ、僕もちょっと眠るかな」

 

 大騒動の修学旅行は無事とは言い難いが人的被害は軽微だったのでネギも気楽である。

 クラスの者達は皆、疲れ切って夢の中で、ネギも一休みしようと目を閉じようとして。

 

「麻帆良に戻ったら生まれた横島さん達の赤ちゃんに会いに行ってみようかな」

 

 ホクホク顔で戻って来たエヴァンジェリンさんから聞いたことを思い出し、笑みを浮かべる。

 

「僕はしっかりとした兄に成れるかな。いや、頑張って成るんだ」

 

 横島とした約束を思い出して、心地良い夢の中に浸るのだった。

 

 

 


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