横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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まだだ。まだ連日更新は終わらんよ!




第七話 癒しの姫君は笑う

 

 

 

 激動の数日を経て、店に一度戻って来た横島は二人の客を迎えていた。

 

「ごめんな、二人とも。大変な時だったのに何も出来なくて」

「ええよ。赤ちゃんが生まれる時に来た方が怒るところや」

 

 客は客でも商品を買いに来たのではなく、店主である横島と話をしに来ていた近衛木乃香はホワホワと笑う。

 

「そうよ。私達にも連絡の一つぐらいくれたっていいのに」

「家族なのに後になって知らされた拙者らの身になってくだされ」

「慌ててたんだよ」

 

 と言いつつも、タマモとシロに連絡するのを完全に忘れていた横島は事あるごとに言われているので困った顔をする。

 

「赤ちゃんって男の子? 女の子? なあなあ、どっちなん?」

「ちょっとこのちゃん、食いつきすぎ……」

「やっぱ気になるやんか」

 

 ソワソワと以前ならば考えられないほど間近にいる幼馴染との距離感に慣れていない桜咲刹那が抑えようとするも、カウンターに両手を乗せて横島に詰め寄っていた興味津々な木乃香は顔だけ振り返る。

 二人に尻尾でもあれば振っているのが見えそうな雰囲気に横島は和んでいた。

 

「ふふん、蛍似の可愛い女の子だよ」

 

 生まれて来た我が子の自慢ならば延々と出来るが、そこは少し自重しておくことにする横島。

 孫が生まれると聞いて急遽駆け付けた横島家と芦家の両家共に、どちらのどこが似ているだのうちの表六玉に似てなくて良かっただの、数時間に渡る褒められているのか貶されているのか分からなくなる言葉を延々と聞かされては自重せずにはいられない。

 

「そこは本当よ。横島に似てなくて良かったわ」

「タマモちゃん、そんなこと言うたらあかんて」

「拙者としては先生似の御子の方が正直……」

「それは言わない方がいいのでは、シロさん」

 

 横島としても蛍似の美人になってほしいので自分に似てなくて良かったのだが、こうもあしざまに言われると怒りも込み上げてくる。

 

「お前らは荷物を片付けとけ!!」

「「は~い」」

 

 蛍の服と溜まっていた家事を片付ける為に帰って来たのだ。

 人を揶揄って来る狐と狼に怒鳴りつけ、改めて割り振らせた仕事を片付けに行かせる。

 

「蛍さんはまだ帰ってないんですか?」

「まだ病院だよ。本人は至って元気で家に戻りたいって言ってるけど、もう二、三日は休めって言ってある」

 

 ニコニコ、ニヤニヤ、と改めて刹那らに向き直った横島は、自慢はしないが笑顔が湧き上がってくるのが止まらない様子で上機嫌に答えた。

 

「普通、出産してから一週間は入院するもんなんちゃうの」

「魔法使いってのは体が弱ってても身体強化で動かせちまうからな。やっぱり家のことが心配になっちまうらしい」

 

 横島は自身への信用の無さに満面の笑みを苦笑に変えて椅子に深く凭れる。

 その為に時間を作って家事をしに帰って来たのだ。家主を揶揄って来る狐と狼には良い薬である。

 

「まさか木乃香ちゃんと魔法の話をする日が来るなんて思わなかったな」

「うちも横島さんと魔法のことで話すことが来るなんて思わんかったわ」

 

 そう言って木乃香と二人で苦笑を交わす。

 

「お父様もそうやけどなんで教えてくれへんかったん?」

 

 苦笑を収めた木乃香が不満げに訊ねて来る。

 

「う~ん、娘が生まれたばかりの俺としては詠春さんの気持ちも分かるわけだよ」

 

 自分が子供であった時代は分からなかったことも大人になってみれば分かることもあるというが、親になった今なら木乃香を魔法等から遠ざけようとした詠春の気持ちも分かるような気がする。

 

「魔法とかってのは昔も今も普通からはほど遠い。普通と違うってのは意外に負担が大きいんだ」

 

 横島自身は陰陽師であることに負担を感じたことはないので、どうしても曖昧な物言いになってしまうが半妖なので常に普通を意識して来た刹那が強く頷いている。

 

「どうして隠さなきゃいけないのかって思うだろ。異端ってのは常に弾かれる」

 

 説明を聞いてもピンと来てない様子の木乃香が如何に『普通』の中で過ごして来たかが良く分かる。

 

「魔女狩りって知ってるか?」

「ヨーロッパで起きた魔女ってされた人達の裁判のことやろ。うん? 魔法使いがいるってことは本当に魔女を探すことに目的にしてたん?」

「その辺の話は俺も詳しいことは知ってるわけじゃないけど、この話の胆は少数が多数に弾かれたら成す術もないってことだ」

 

 歴史の裏側の事実に気付いた木乃香の意識を引き戻しつつ、人差し指を立てる。

 

「魔女狩りは昔は宗教や権力の暴走って見方が大勢を占めてたけど、今じゃ無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象であったと考えられている。分かるか? 彼らは魔法使いのことを怖いと思って迫害を始めたんだ」

 

 迫害の方法については、今更語ることではないので割愛する。

 

「魔女狩りの恐怖は魔法使いのみならず、裏の関係者を普通の人に弾かれたら生きていけなくなると恐怖させたんだ。現代でも魔法使いが魔法のことを秘匿するのは、この時の恐怖を忘れられないからってのが大きい。なんならエヴァに聞いてみるといい。魔女狩りの時代を生きた生き証人だからな」

「ほぇぇ、長生きしてるって聞いたけど、そんな昔からなんか」

 

 ちょっと木乃香の感心するポイントが違うような気もするが突っ込みはしない。

 

「今の時代でも他人と違うってのは弾かれやすいからな。木乃香ちゃんだって明日菜とかに大きい隠し事を抱えたまま一緒に過ごすのは疲れるだろ?」

「そんなことないもん。明日菜やったら受け入れてくれる」

「とはさ、木乃香ちゃんが小さい頃には分かんないわけだよ」

 

 む、とした雰囲気の木乃香が言い返してきたのを、当時の詠春の気持ちを考えながら告げると口を閉じた。

 

「生まれる前は無事に生まれてくれればそれで良いと思うし、生まれて来たら健やかに育ってほしいと思う。育って来れば幸せになってほしいって親の欲目で考えちまう。子供には勝手なことをと思われても、それだけ子供のことを想ってるんだよ、親はさ」

「…………そんなこと言われたら何も言えへんやん」

 

 卑怯な言い方ではあると百も承知だが、娘が生まれたばかりの横島としては当時の詠春の気持ちが分かるので親の目線で話をしてしまう。

 

「でも、せっちゃんのことは許せへん。魔法のこと知ってたらせっちゃんと離れ離れになることもなかったんやし」

「刹那ちゃんの個人的な事情が大半だから魔法のこと関係なくね?」

「横島さん!?」

 

 唐突な横島の裏切りに刹那が叫びを上げる。

 

「いや、半妖なことと自分の弱さが許せないってのは完全に刹那ちゃんの事情なわけで」

「そうやな。よく考えたら魔法関係で困った事なんてなかったかもしれんわ」

 

 そう言われてしまうとそうかな、と納得してしまった刹那は木乃香からも追い打ちを受けてズーンと肩を落とす。

 

「冗談やて、せっちゃん」

「お、おおおおおおお嬢様!?」

「このちゃん、やろ」

 

 落ち込む刹那を慰めようと抱き付いた木乃香。

 未だ接触には慣れていない刹那は簡単に許容量を超えて全身を真っ赤にして混乱し、昔の呼び方を唇が触れそうな距離で木乃香に訂正されて混乱を深めている。

 

「う~ん、実に百合百合しい」

 

 我慢して来た十年分の反動で接触を求める木乃香と混乱しながらも嬉しそうな刹那の背後に百合の華を幻視した横島は思わず呟いていた。

 

「横島さん、生まれて来た子には魔法とか教えんの?」

 

 恍惚な笑みを浮かべて鼻血を出して倒れている刹那を放置した木乃香に小悪魔な羽と尻尾が見えそうな感じである。

 

「うちはこういう職業だから秘密にするのは無理だし、あるってことは教えるよ」

 

 興味津々に聞いて来るので誠実に答える。

 家の中に工房もあるから隠し通すことは難しいので、子供に魔法等の存在を教えないという選択肢はない。

 

「ほんで、ある程度大きくなってから学ぶかどうかは本人に決めさせる」

 

 そこまで言ってから、ふと意志すらも確認してもらえなかった木乃香のことに気付く。

 

「別に詠春さんのやり方が間違ってるわけじゃないぞ。俺ん家とは事情が違うわけだし」

「分かってるから大丈夫やって」

 

 木乃香は気にしなくていいと笑顔を浮かべる。

 

「お父様は関西呪術協会いう大きな組織のトップで、うちはその一人娘。魔法のことを知れば学びたくないなんて選択の自由も無かったやろうし、今こうして選ぶことが出来るんやから誰も恨んでなんかないで」

「このちゃん、ご立派になって……」

 

 父は自分のことを想って言わなかったのだと分かっている、と笑顔で告げた木乃香の背後に後光でも差しているかのように刹那が今にも拝みそうな顔をしている。

 このままでは木乃香を教主に新たな宗教を立ち上げそうな刹那を見て話しの転換を図る。

 

「修学旅行で何があったのか教えてくれるか? エヴァやネギ君には病院で聞いたけど、詳しいことまでは聞いてねぇんだ」

「え、ネギ君、病院に行ったん?」

「学園への報告や次の授業の準備で忙しくなる前に挨拶だけって言ってたぞ。律儀な奴だろ」

 

 赤ちゃんが生まれたばかりで慌ただしいだろうと自重していた木乃香は、ネギが真っ先に病院に行っていたことに驚きながらも少し不満げだった。

 

「絶対に赤ちゃんを見たかっただけやと思う」

 

 むぅぅ、と頬を膨らませて不満も露わな木乃香を宥める刹那。

 実際に麻帆良に戻って来てからのネギは忙しそうなので、どちらも本音ではあるだろうと刹那は思った。

 

「ところで、横島さん」

 

 随分距離が縮まったな、と微笑ましく二人を見ていた横島に一言言いたかった刹那はポケットから一枚の紙を取り出す。

 

「お、式神ケント紙か」

「はい。旅館を開ける際に使ったのですが」

「もしかしてストリップしたアレ?」

「はい」

 

 怒りとも困惑ともつかない微妙な表情を浮かべる刹那に、旅館で何が起こったのかを知る木乃香は理由に思い当たった。

 

「ストリップ?」

「襲撃があった日に旅館に身代わりとして残して行ったのですが、何故かストリップを始めたんです」

 

 まさに呆然とするとはこのことである。

 善意で渡した式神ケント紙が仕出かしてしまったことに謝罪の念を抱きつつも、なんとなくその原因となる大元に想像がついてしまった。

 

(作ってた時、溜まってたからなぁ)

 

 身重な妻に頼むのも気が引けるが健康な男ならば溜まってしまうものもあるわけで。

 少女達の手前、下世話な話になるので何がとは言わない。そして天地神明に誓って横島忠夫に浮気をしたという事実はない。

 つまりは、考えるだけならばタダなので、その欲求というか欲望というか邪欲というか邪というか、そんな感情が作っている時に式神ケント紙に反映されたのかもしれない。

 

「失敗作だったか。ごめんな、これは即刻破棄しよう」

 

 なんであれ、この世に残しておいて良い物ではない。

 在庫も合わせて、結婚して麻帆良に引っ越しする際に泣く泣く別れを告げた我が青春のお宝達のように廃棄せねばならなかった。

 

「しかし、またリョウメンスクナノカミか」

 

 預かった式神ケント紙を厳重に封印処置し、話も素早く変える。

 

「二十年前にお父様やネギ君のお父さん、十年前は横島さんと蛍さんで封印したんやっけ」

「そうそう、十年周期で蘇る風習でもあるんかね」

「まさか……」

 

 と刹那は否定しつつも、実際に二十年前に始まって十年毎に蘇っているので二の口が告げなくなった。

 

「まあ、話を聞いた限りじゃ完全復活した感じじゃないみたいだし、良かったじゃないか」

「良くなんてありませんよ…………え? 完全復活って」

 

 自分達ではどうにも出来なかったリョウメンスクナノカミが完全に蘇ったわけではないという言い方をした横島に刹那の目がピタリと止まる。

 

「完全復活すると、あのでっかい巨体がググンと縮むんだよ。それでもまだ五メートル近いんだけど、パワーもスピードも増すんだから手に負えない」

 

 十年前のことを思い出した横島はブルリと体を震わせた。

 

「流石は神様の分霊。何度、死を覚悟したことか。大きい内に倒せて本当に良かったな」

「倒したのは鶴子さんですから……」

「ああ、あの人か。十年前も手助けしてくれたし、バトルマニアだから物足りないって言ってたんじゃないか?」

「言ってました。千草が抑えてなければ完全体になってたのにと悔しそうに」

「そやそや、横島さんは天ヶ崎千草さんのこと知ってんの?」

 

 聞かれると思っていた横島は、どう答えたものかと思案する。

 

「十年前のちょっとした時期だけ俺が教えてたことがあってな。弟子ってほどガッツリ教えたわけじゃないけど、なんか慕ってくれて時々連絡も取り合ってたから驚いたよ」

「洗脳されてたって話やけど」

「分かりやすく言うなら暗示の類で自制の箍を外したって感じだな。薬か魔法の類かまでは聞いてないけど、そんな感じだって聞いてる」

 

 恐らくは木乃香達も知らされていない話も詠春から聞かされている。

 千草は実際にはかなり酷い薬と魔法の併用で、暫くは療養を続けなくてはならないらしいが、このことは子供達に教えることでもないので口には出さない。

 

「なんでも俺が東に移ったのを恨んでいたらしいからな。殆ど年賀状の挨拶ぐらいしかしてこなかったし、もっと気にかけるべきだった。すまん」

 

 なんでも横島が東に移ったことを恨んでいたらしいので、洗脳されたとはいえ今回の事件を起こしてしまったらしいので、原因の一端を担うかもしれない横島は被害者の木乃香に謝る。

 

「悪いのは、あの魔法使いの子の所為なんやろ。横島さんが謝らんでも」

 

 木乃香は顔の前で手を横に振って気にしなくていいと言う。

 

「薄らとやけど、あのお姉さんにごめんなって謝られたのを覚えてんねん。お姉さんだってやりたくてやってる感じじゃなかった」

 

 自信があるわけではないがと前置きを置いて、木乃香は記憶を思い出すように目を閉じた。

 

「うちを誘拐したことで引くに引けなくなったって言ってたし、逆にうちが攫われへんかったらあんな大事にもならへんかったんやから謝るんやったうちの方や」

 

 事件後に会わしてもらうことは出来なかったけど、千草の気持ちに木乃香は同じ女として強い共感を抱いた。

 

「全部悪いのはあの白い髪の少年魔法使いです。それでいいじゃないですか」

 

 結果として、刹那が言うように悪いのは木乃香を誘拐して千草を洗脳した少年魔法使いだと結論が出た。

 

「別荘では大した収穫が無かったんだろ。お袋さんのことも詳しくは教えてくれなかったらしいし、俺と会った時は普通だっただけどネギは落ち込んでないか?」

「寧ろ息堰切って早く一人前にならなって張り切ってんで」

 

 子供は大人の前では見栄を張るもの。同居している木乃香の目は誤魔化しようがないから本当に落ち込んでいなくて一安心する。

 

「ほんで戦い方を学ぶいうてエヴァちゃんに弟子入りしようとしてるって明日菜が言ってた」

「死ぬ気か、アイツ」

 

 エヴァンジェリンの別荘でストレス発散に付き合わされたことがある横島は彼女のドS振りを良く知っているので、無謀な選択をしたネギを哀れんでしまった。

 

「え、ネギ君、死ぬん?」

「いや、言葉の綾なんだが、あのドSロリに師事しようなんてどんな趣味してんだか」

「言葉がおかしくありませんか?」

 

 純粋にネギを心配している木乃香に対して、横島の心配していることが微妙に違うような気がした刹那が突っ込みを入れた。

 

「まあ、ネギの趣味は横に置いておくとして」

 

 見た目が同年代の遥か年上がネギの好みと心のノートに書きながら話を進める。

 

「強くなることが一人前の道なんて子供の考えることだな。青い青い」

「実際子供ですし」

 

 目先のことに囚われる実に十歳の子供らしい考えが酸いも甘いも知った横島は微笑ましく映る。

 

「しかし、そんなに生き急いでどうすんのかね」

「別にそこまで気にしなくてもいいんじゃないの、他人のことなんだし」

 

 そこで器用なタマモはシロより先に自分の役割分を終わらせて茶々を入れる。

 

「拙者も先生の二番目で良いから、女として見てもらいたい故、早く大人になりたいでござる」

「お前ね」

「シロはこんなもんでしょ」

 

 シロちゃん大胆、なんて木乃香は内心で思っているが、常日頃から横島への想いを口にしているのを耳にしてきた刹那は苦笑するばかりである。

 

「あ、そや。お父様から横島さんに基礎を教えてもらいなさいって言われたんやけど、横島さんがうちに魔法や陰陽術を教えてくれんの?」

「俺、陰陽師。魔法、無理」

「なんで片言なん?」

 

 特に理由はないが、理由を付けるならば関西人のノリであると内心で言った横島はコホンと咳払いをする。

 

「それはともかく。俺は陰陽師であって魔法は殆ど使えんから教えることは出来ない。けど、木乃香ちゃんの莫大な魔力は放っておくのは惜しい。てなことで、蛍にと言いたいところなんだが」

 

 詠春から連絡を受けているので力の使い方と基礎、陰陽術を教えるのはやぶさかではない。

 横島も多少、魔力は扱えるが折角の莫大な魔力を放っておくのは惜しい。ここは魔法使いである妻の蛍に教えてもらうのが良いが問題がある。

 

「蛍の魔道具作成は育児休暇ってことでお得意先に納得してもらってるからいいけど、子育ても忙しくなるだろうから流石に蛍が魔法を教えるってのは厳しいだろう」

「タマモちゃんとシロちゃんは?」

「拙者らが使っているのは妖気でござるから魔力は使えんでござるよ」

 

 そこで木乃香はシロの言い方に疑問を感じた頭を横に捻った。

 

「『妖』気ってどういうことなん?」

 

 刹那や他の者達はただの気なのに、タマモとシロは妖気と言ったことに着目した木乃香の疑問である。

 

「言い方の問題よ。私ら妖怪が使う気と人間が使う気は別物なの」

 

 タマモは横島とシロを指差した。

 

「純粋な人間の気は霊気、妖怪はそのまま妖気って言ってるわね。ほら、微妙に違うでしょ」

 

 違いを分かりやすくするために、横島とシロはその腕に気を纏う。

 

「ほんまや、感じが違う。どう違うって聞かれたら言葉に出来ひんけど」

「最初はそんなもんだって。直に分かるようになるさ」

 

 両者の手の気を見比べて違いには気づいても言語化は出来ない木乃香はむんむんと唸る。

 

「半妖のせっちゃんはどっちを使ってんの?」

「私は人間寄りですので霊気ですね」

 

 ふむふむ、と面白いことを聞いたと頷いている木乃香から話を向けられた刹那も二人と同じように手に気を纏う。

 

「じゃ、じゃあ、半妖のせっちゃんは霊気と妖気を同時に使えるハイブリットな戦士に……っ!?」

「そんな都合よく使えませんよ」

「人間としての側面が強く出てるなら霊気、妖怪としての側面が強く出てるなら妖気になるだろうから霊気と妖気を同時に使うのは多分、無理じゃないかしら」

 

 長年悩んでいた半妖をネタにされた刹那がげんなりとしているので、しっかりとタマモは木乃香の勘違いを訂正しておいてあげた。

 

「浦飯幽助ばりに霊気と妖気の混合弾とか、どちらとも異なる黄金のオーラとかは?」

「木乃香殿はアニメの見過ぎでござる」

 

 アニメのネタが分かってしまう時点でシロも同じ想像をしたと言っているようなものである。

 

「話を戻すぞ」

 

 このままでは話が進まないので横島が本筋に戻す。

 

「魔法の腕で師匠を選ぶってんなら、やっぱりエヴァだろう」

「実力を疑っているわけではないですが彼女は元賞金首ですし、師として大丈夫なのですか?」

 

 弱い者が高額賞金首になるなどありえない。刹那も実力を疑ってはいないが、生粋の悪として名を馳せたエヴァンジェリンに人を教える力があるのかと疑問を覚える。

 

「あれで面倒見は良い奴だぞ。一度懐に入れたらとことん甘いし」

 

 木乃香がエヴァンジェリンに師事した場合はネギよりも酷いことにならないだろうと、横島が内心で考えていると突如として店のドアが外から力一杯開かれた。

 

「横島、いるかっ!!」

 

 バン、と開いたドアが反動で戻ってくるのをピタリと抑えたエヴァンジェリンに、そちらを見た横島はゆっくりと口を開いて。

 

「いないよ。帰ってくれ」

「そうなのか。じゃあ仕方ない――――――って、何を言っとるか貴様!!」

「いや、つい大阪人の癖で」

 

 いるかと聞かれたらいないと答えてしまうのが大阪人のクオリティである。

 思わずの漫才に付き合ってしまったエヴァンジェリンがつかつかと歩み寄って来て怖い形相で掴みかかってくるので、つい本音がポロリ。

 

「いいか、私は揶揄われるのが大嫌いだ」

「人を振り回すのは好きだと」

 

 ゴツン、と首元を掴まれて振り回されたことを揶揄すると頭突きされてしまった横島ダウン。

 

「で、何の用なのよ、エヴァ。私達は忙しいのよ」

「私には物凄く寛いでるようにしか見えんがな」

「忙しいでござるよ、毛繕いに」

 

 掃除・洗濯、その他諸々をして汚れた毛を繕っているお座敷で動物形態になっている二匹に冷たい目を向ける。

 その後ろで木乃香が二匹を撫でたそうにウズウズしている。

 

「で、ほんまに何の用だ?」

 

 数秒の悶絶から復活した横島が訊ねると、何故かエヴァンジェリンは腕を組んで胸を張った。

 木乃香は最終的に刹那に羽を出してもらってモフモフさせてもらうことで満足してしまった。

 

「横島よ、試験官をやれ」

「お帰りはあちらです」

「何故だっ?!」

 

 本気で分かっていない様子のエヴァンジェリンに、「主語が足りないぞ」と注意する。

 

「なんの試験をやるのか、というかなんで俺が試験官をやるのか言えって」

「それもそうだな」

 

 ちょっと精神的な余裕を欠いていたことを自覚したエヴァンジェリンは一瞬でマインドリセットし、平静を取り戻す。

 

「実は一昨日、坊やが私の家を訪ねて来て弟子になりたいと言ってきたのだ」

 

 木乃香に聞いた通りにネギは行動しているらしいが横島には既に結末が見えて来た。

 

「悪い魔法使いにモノを頼む時にはそれなりの代償が必要だ。まずは足を舐めさせ、我が下僕として永遠の忠誠を誓わせてから弟子にしようとかとしたら神楽坂明日菜が邪魔をしてくるし」

「明日菜、グッジョブ」

 

 実に不満そうなエヴァンジェリンに対し、未来ある少年の前途を守った明日菜を褒めるタマモ。

 

「最終的に今度の土曜日にテストしてやるということになったのだが」

「その試験官を俺にやれってか」

「そうだが、まだ続きがある」

 

 予想が外れた横島が意外そうな顔をしていると、エヴァンジェリンは実に忸怩たる思いを抱いているのだという表情をする。

 

「話をした翌日のことだ。偶々、朝に散歩していると中国拳法の修行をしている坊やを見つけたのだ」

 

 もうこの時点で横島は察しがついた。

 見た目通りのところがあって、これでこの少女は中々に嫉妬深い。

 

「私の教えを乞いておきながら、アイツはバカイエローに中国拳法を習っていたのだ! これが許せるか、ええっ!!」

 

 意気込むエヴァンジェリンに対して、色々な師がいた経験がある横島は微妙に共感できないが頷くしかない。

 

「そこにいたバカピンクが挑発なんぞしてくるから、弟子入りテストの内容をこちらが指定した相手に一発でも攻撃を当てることが出来れば合格という話になってしまったのだ」

 

 本当に子供っぽい、とバカピンクである佐々木まき絵の挑発に乗って魔法使いの試験が別物になっているので、その場にいた全員のエヴァンジェリンを見る視線が優しくなる。

 

「言っておくが、私は佐々木まき絵の挑発に乗ったから試験を変えたわけではないぞ」

 

 生暖かい視線に気づいて言い訳をすように胸を張るエヴァンジェリン。

 

「私に教えを乞いたいと言った口で、私に何の許しも得ずに他の者に教えを受けたことが我慢ならん」

「まあ、エヴァにしたら自分を軽んじられたようなもんだもんな」

 

 時に子供っぽい面もあるが、これでプライドの高いエヴァンジェリンの性格を考えればネギの選択は悪手と言えなくもない。

 

「他の奴ならば即弟子入りはなしとなってもおかしくはない。寧ろチャンスを残した私は寛容な方だ」

 

 遊びで弟子を取ることなどないエヴァンジェリンはネギの真剣さを感じ取り、バッサリと切らずに試験を与えてやっただけ温情ものだと告げる。

 

「茶々丸でも良いのだが、どうせだからお前が完膚なきまでに叩き潰せ横島」

「断る」

 

 横島にネギを痛めつける理由などないのだから、試験官を引き受ける必要もないので断る。

 

「俺に子供を痛めつける趣味はない。他を当たってくれ」

 

 エヴァンジェリンが望んでいるのは完膚なきまでの蹂躙である。引き受けるはずがないと何故分からないのか。

 

「あの子供の心をへし折るにはお前が一番適任だ。現実を教えてやれ。そしてこの私を虚仮にした恨みを晴らせ!」

 

 物凄く私怨丸出しの個人的な事情であった。

 

「でも、あの理屈っぽいネギ先生ならエヴァ殿の合気道よりも中国拳法の方が向いてるんじゃなかろうか」

「そうですね。合気道は感覚を掴むことが大切ですし」

 

 ネギの擁護をするわけではないが武道を嗜むシロと刹那は己が意見を口にする。

 

「なんであれ、試験をするってんなら公平にやって評価してやれよ。まさか悪の大魔法使いであるエヴァンジェリン様が前言撤回なんてしないよな」

「むぅ」

 

 そう言われれば誇り高いエヴァンジェリンも返す言葉がない。

 

「…………ちっ、仕方ない。試験官は茶々丸にやらせよう」

「本当かな? 実は直前になって卑怯なこと言い出すんじゃ」

「真っ当公平に試験はする。女に二言はない」

 

 揶揄う気満々のタマモに聞かれて前言を撤回出来る状況に追い込まれたエヴァンジェリンがハッキリと言い切った。

 

「そうだ。エヴァ、木乃香ちゃんの面倒も見てくれよ」

「何?」

「折角の魔力だし、蛍は子育てがあるから面倒見れないから頼む」

「私だって雪姫の面倒を見ないといけないんだぞ」

「そこをなんとかっていうか、詠春さんから面倒見てくれって連絡来てんだろ」

 

 自分の話だと思った木乃香が眉をピクリとさせたが、他にもっと気になったことがった。

 

「雪姫って、もしかして赤ちゃんの名前なん?」

 

 エヴァンジェリンが面倒を見なければいけないと言った時に名前に心当たりが無かったので、唯一該当しそうな人物かとワクワクした顔で聞く。

 

「エヴァがどうしても自分で名付けるって聞かなくてな」

 

 フッと何故か髪の毛を掻き上げた横島。理由は特にないし恰好良くも無い。

 

「この五月に『雪』姫ですか?」

「普通に違和感があるでござろう」

「ううん、五月やと何がええんやろ」

「っていうことで、横島は延々と考えたあげく、生まれた子が雪のお姫様みたいに可愛かったって蛍が決めちゃったのよ」

 

 ああなる程、と要は考え過ぎてドツボに嵌っていた横島と違って、その時の感性が合った蛍が決めてしまったという経緯があったらしい。

 

「修学旅行の途中なのにわざわざ麻帆良に戻ってきてくれたことと、物凄く心配してくれてたのもポイントが高かったみたいよ」

 

 修学旅行二日目の朝方に産気づいた蛍にパニックを起こした横島が、事前に産気づいたら自分に連絡するように言われていたので電話するとエヴァンジェリンは速攻で戻って来た。

 しかし、産気づいていた蛍を見てパニックを起こし、人が混乱していたら逆に冷静になるというが横島が逆に平静に戻って行動が出来た面もある。

 

「蛍も言ってたけど」

 

 と、エヴァンジェリンを動かす簡単な方法を思いついた横島。

 

「もしも雪姫が魔法を習いたいって言ったらエヴァに頼もうと思ったのに、師匠経験が無い人に頼むのもな」

「さあ、近衛木乃香。これからは私を師匠と言うのだぞ。言っておくが、私は厳しいぞ」

 

 あっさりと弟子入りを認めたエヴァンジェリンに関西人である刹那がずっこけた。

 

「軽い。軽すぎる……っ!」

 

 しかし、こんな人なら任せても大丈夫かもと刹那は思ったのである。

 

「よろしくお願いします、師匠(マスター)

 

 これも礼儀と頭を下げる木乃香と胸を張るエヴァンジェリンの姿を生暖かい目でタマモとシロは見るのだった。

 

 

 

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