横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

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第八話 狙撃手の進路相談

「あ~、今日も客が来ねぇ」

 

 料理上手の蛍の昼食を腹一杯に食べたことで、食欲が満たされたので睡眠欲が幅を利かせていた。

 昔の自分であるならば「性欲じゃー!」と盛りのついた猿のように異性を求めたが、蛍と出会ったことで少しは落ち着いてきたのか、永遠の煩悩少年と言われた頃と比べればがっつきさは無くなってきたように思う。

 その所為で昔馴染みには会う度に別人扱いされてしまうのは痛し痒しか。

 

『私はどっちのあなたも好きよ』

 

 蛍にそう言われたら他人の評価が気にならなくなってしまう自分が嫌いではない。

 

「ふふ、俺もお前が好きだぜ蛍」

 

 くわぁ、と脳内嫁に惚気た横島は大きな欠伸をして浮かんだ涙を拭いながら悩む。

 蛍は自分を十分に愛してくれているが、怠け癖なところがある自分がサボっていると怒る。

 前世の誰かさんのように殴る蹴るといった暴力行為はないが数日は口を利いてくれなくなる。最後は泣いて謝ってしまうのは大人の男としてどうかと思うが、

 

「邪魔をするよ。お~い、生きてるか?」

 

 最愛の妻にツレなくされるとそれだけダメージは大きいと自己完結していた横島の目には褐色肌の美女は映ってない。

 

「ていや」

「あいやぁっ!?」

 

 褐色肌の美女が脳内嫁にデレデレな横島に懐から出したグロッグ17のグリップの底で頭頂部を殴打され、思わず似非中国人のような悲鳴を上げてしまった。

 

「ぉぉぉぉぉぉぉ……っ?!?!?!?!」

 

 本当に痛い。ツボに入ったのか、洒落にならないぐらいの痛みに呻く。

 

「おっと、胸がポロリと」

「っ!?」

 

 痛みに呻きながらもその言葉に男としての本能が反応して顔を上げてしまった。

 

「間違えた。弾がポロリだった」

「詐欺やぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 ジャケットの内ポケットからグロッグ17を取り出した際に弾丸も取り出していた褐色肌の美女に、どこからかマイクを取り出した横島はシャウトをかます。

 

「蛍さんに言うぞ」

「何の用だい、真名ちゃんや」

 

 ある意味禁断ワードに一瞬で平静に戻った横島は褐色肌の美女改め、女子中学生に見えないことに定評がある龍宮真名の名を呼ぶと目の前にはグロッグ17が。

 

「ちゃん付けは止めろと言ったろ」

「イエッサァッ!!」

「私は女だ」

「イエス・マムゥゥゥゥ!!」

 

 と、毎回の漫才はここまでにして横島は平静に戻る。

 眼の良い横島には銃口から見える機構がどう見ても本物の銃にしか見えないので内心で恐怖していたのは秘密である。

 手が汗でビッショリって言うのも秘密ったら秘密なのだ。

 

「何用かな、マナマナ」

「その双子姉妹みたいな呼び方は止めろ」

 

 ネタに走らずにはいられない関西人で失礼と謝りつつ、話を本題に戻そうとする。

 

「で、何の用? 昔は可愛かったのにでっかくなっちゃった真名ちゃん」

「だから、ちゃん付けはと…………もういい」

「人間、諦めが肝心だよね」

 

 接している付き合いの長さは明日菜には劣るが、出会った時期は早い真名をおちょくることに命を賭けている横島に堪えた様子はない。

 

「そっちに送りたいよ」

 

 どれだけ冷静振ろうとも幼少期を知られているので、真名は頭が痛いとばかりに眉間を揉み解してやり難そうであった。

 

「これだけ騒いでシロタマが来ない上に、人の気配も無いということは全員で外出か?」

「そっ、で俺は店番があるからって留守番なの。慰めて真名ちゃん」

「はんっ、ざまあみろ」

「鼻で笑われたっ!?」

 

 慰めてもらおうと思ったら死体蹴りを食らってしまった気分である。

 シクシクと泣き真似をしていると、肩に手を置かれた。

 

「また不倫したのか?」

「あれは真名ちゃんが仕出かした冤罪じゃないか!!」

 

 物凄く良い笑顔で言われたので、肩に置かれた手を振り払って指差す。

 

「昔の話だろ。気にするな」

「うちの家庭を壊しかけておいてなんと他人事な……っ!?」

「他人事だからな。いいから仕事をしろ」

 

 横島が慌て騒ぐ姿が実に愉悦と顔に出ている真名は懐から一枚の紙をカウンターに置く。

 

「修学旅行で使った装備の補充と転移魔法符の購入に来た」

「ああ、結構頑張ってたらしいから色付けとこう」

 

 仕事は仕事と気分を入れ替えた横島は紙を受け取って、おおよそ予想通りなのに頷く。

 

「助かる。今度、サービスしてあげよう」

「物理的なサービスするお店は止めてね! 家で真名ちゃんの晩酌ぐらいなら受けるから嫁さんに誤解を与えるようなことはNO!」

 

 こうやって揶揄った後に値引きをしたら若いねーちゃんがいる店に連れて行かれて証拠写真を匿名で家に送りつけられ、横島家弾劾裁判が開かれたほどである。

 被告人・横島忠夫、裁判官兼被害者・横島蛍、検事・タマモ、弁護人・シロという絶対に勝てない勝負だった。

 死刑という名の離婚届に判が押される寸前に証拠写真が偽証であると真名も証明しに現れてくれたが、これぞまさに自作自演である。

 

「いい加減に傭兵なんて危ない仕事は止めて、ただの学生になったらどうだ? コウキもきっとそれを望んでいるぞ」

 

 真名が修学旅行の戦いに参加したと聞いて、そろそろサイクル的に装備の補充に来る頃だと思っていたので用意していた一式を取り出してリストと見比べながら世間話のように言う。

 

「悪いが、私は命を拾われた時にコウキの理想に人生を捧げると誓っているのでね」

「救われた命を危険に晒している方がコウキ的には嬉しくないと思うんだが」

「私だってコウキが望んでいないのは分かっているさ」

 

 微妙に横島と真名では論点が違うのだ。

 

「『子供達に笑顔を』がコウキの理想だ。嘗て私が救われたように、私も笑顔を浮かべられない誰かを笑顔にしたいんだよ」

 

 死者の願いを背負っているのではなく、喪われた者の代償行為でもなく、ただ純粋に自分にしてもらったことを他の人にもしたいと思っている。

 

「もう十分に笑顔にしてるよ、武蔵麻帆良の足長おじさん」

「むっ、知っていたのか」

「龍宮さん達に相談されてな」

「全く父さんも母さんも……」

「それだけ娘の将来を心配してるってことさ。毎年定期的に小包をどこかに送ってるから犯罪やってるんじゃないかって」

「そっちの心配か!? 娘を少しは信用してほしいな、そこは!!」

 

 毎年、武蔵麻帆良の養護施設に多額の寄付金を差出人不明で届けている足長おじさんは身内に信用されてなくて吠えた。

 

「傭兵をやって金の入りが良い割には倹約して質素な生活で、特に貯金が溜まっているという話も聞かないから心配にもなるって」

「それにしたって犯罪はないだろ、犯罪は」

 

 見た目で言えば金ではなく美人を表に使っての方向の犯罪を真っ先に疑った横島は、このことは墓に持って行こうと口にはしなかった。

 

「大体、殊更に吹聴することでもない。仕事で出会ってしまった引き取り手のない子供達を預かってもらっているんだ。金ぐらいしか私に出来ることはない」

 

 スナイパーとしての腕しか誇れる物はないと卑下する真名に嘆息する横島。

 

「彼らに必要な物は分かってるんだろ?」

「現地に本当に必要なのは、根本解決。つまりは教育だ。更に経済、状況を改善するには金と組織が必要だ。幾ら稼いでも足りん」

「じゃあ、今やってるのも対処療法に過ぎないにも関わらず、諦めているわけだ」

「そういうわけではないが……」

 

 中学生に聞くには重すぎる話ではあるだろう。

 しかし、このままでは真名はコウキの理想に囚われたまま戦場で闘い続けることになる。

 コウキとはそれほど深い付き合いではなかったが、気の良い男だったので真名の将来の相談ぐらいには乗ってやらねば浮かばれないだろう。

 

「俺だって少ないが寄付はしてるし、彼らのことを気にしているのは真名だけじゃない。必要なことは分かっているのに真名はそこで止まっているつもりか?」

「もう一歩踏み出せと? しかし、それでは目の前の悲劇を見逃すことになる」

「言葉遊びになるけど、真名が一歩を踏み出せなければ将来の悲劇を止められないかもしれないぞ」

 

 目の前の悲劇は確実に起きているから放っておけないし、将来の悲劇は起こるかどうかも分からない。

 全部、横島が言った通りに言葉遊びでしかない。

 

「私にどうしろと言うのだ?」 

 

 とはいえ、真名だって現状では横島の言う通りの対処療法でしかないので、手が届かない場所の方が殆どだ。

 

「根本解決に必要なことは自分で言っただろ」

「教育、経済、金と組織か。だが、一人では……」

「その為にスポンサーを見つけるなり、出来る人間を見つけたり育てないといけないわけだ」

 

 個人では自ずと限界がある。組織ならば個人の何倍にも手を広げられるが、同時にやるべきことも多角的に増えていく。

 

「今までは個人で良くても、人を使うとなれば真名自身にも今とは違う能力が求められてくる。学校っていうのは、そういう能力を育てる場所だ。自分には出来ないって諦めるんじゃなくて、試行錯誤して、出来る奴をスカウトするとか、やるべきことは今でも山ほどあるぞ」

 

 と言いつつ、横島の中では次々に案が生まれていた。

 

「同じクラスのあやかちゃんや千鶴ちゃんとかの会社はかなり大きいだろ。ああいう会社はイメージも大事だから二人を味方につけて、会社に利益があると思わせることが出来たならスポンサーになってくれる可能性も高い」

 

 知り合いに頼ろうというのはあまり良くないのだが、必要ならば使えると判断したら身内だってこき使うべきである。

 

「そうか二人を……」

 

 横島の言葉に琴線を刺激されたらしい真名は少し考え込む。

 

「聞いている限りでも君達のクラスは人材の宝庫らしいじゃないか。十分に活用すべきだと俺は思うよ」

 

 商売人の観点から見れば3-Aは人材の宝庫で、正直に言って横島は何度スカウトしようかと考えたこととか。

 

「例えば?」

「誰でも考えるのが超ちゃんだわな」

「私も真っ先に思ったが、アイツはこっちの手綱に入る奴じゃない」

「それは使い様だ。ああいうタイプは目的とかが一致すれば協力してくれるタイプだから、そうだな例えば利用し合うぐらいが丁度良い」

「こちらに価値が無くなれば切られるだけだぞ」

「価値を示し続ければいい。そうすれば良い関係になれるよ。考える前からやる前から無理だと諦めるのは真名の悪い癖だな」

 

 麻帆良が誇る超鈴音に関してはここまでにするとして、次に横島が思い浮べたのは寡黙な料理長だった。

 

「次は五月ちゃんだな」

「む、それなら私にも分かるぞ。四葉が店を出す際の出資とかをすればいいんだな」

「そうそう。あの味なら確実に客は来るしな。長い目で見れば系列店とかも出せるだろうし、長い期間で利益を出せる」

 

 一番、3-Aの中で大物になりそうな人である四葉五月に関しては真名にも簡単に想像がつく。

 

「後は、聡美ちゃんの発明品のスポンサーになったり、茶々丸ちゃんを秘書とかにすればかなりの戦力になるし、ちうちゃんのゴニョゴニョ……」

 

 最後辺りは言葉を濁されたので何を言っているのかは分からなかったが、横島に色んな案があるのは分かった。

 

「横島さん、私の共同経営者にならないか?」

「断るっ!!」

 

 手っ取り早く良案を幾つも持っていそうな人間を、まずは引き込んでみようと誘ってみたら力一杯に断られてしまった。

 

「何故だ? 言われた通りに誘ってみたのに」

「俺を利用をしようっていう魂胆が丸見え。嫌に決まっとろうが」

 

 こき使おうという気持ちが顔に書いてあったので受け入れる方がどうかしている。

 誘い方は失敗だとリテイクを要求すると、真名は思案気に顎に手を当てて視線を漂わせる。

 

「よし」

 

 数秒考えた後に横島の顔を見て何か思いついたらしい真名は、何故かジャケットを脱いでカウンターに置いて黒のタンクトップ姿になると、暑くもないはずなのに首を振ってファッサァと音がせんばかりに髪の毛が広がった。

 そしてダメ―ジジーンズに覆われた膝をカウンターの上に乗せて横島に向かって身を乗り出す。

 その際に、横島側のカウンターの端に両手をついて腕で自慢の胸を強調するのも忘れない。

 

「ねぇ、横島さん」

 

 声色を意識して変えて呼びかけられた横島の心臓がドキンと跳ね上がった。

 横島の好みを熟知した真名に抜け目はない。

 

「実は私、困ってるの」

 

 演技など容易いもの、とばかりに瞳をウルウルと潤ませた真名はゆっくりと顔を近づける。

 良い匂いなどせん、良い匂いなどせん、良い匂いなどせんと三度心の中で唱えた横島の目は、強調された胸の谷間と化粧気はないのにプルンプルンな唇に釘付けである。

 

「な、なんでありましょうか」

 

 容姿だけで言えば、横島の好みである年上の女系の色気で迫ってくる真名に声が震える、目が移ろう。

 

「助けてほしいの」

「なにをでありましょうか」

「分かっている癖に、卑怯な人」

「うひぃっ!?」

 

 頬を長く冷たい指でなぞり上げた横島の口から奇声が迸る。

 分かっている癖に聞き返す時にしっかりと色っぽい流し目を忘れない辺り、こう横島の好みをあまりにも熟知し過ぎな手口は見事と言えた。

 

「私を助けてくれたらこの体はあなたの物に」

「はい、アウトぉっ!」

「何故だっ!?」

 

 したくもないのにタンクトップの胸の部分を下に引っ張ってチラ見せまでした真名の選択は正しいが、その時の直接的すぎる言葉が駄目である。

 

「ここはもう少し引っ張るとか、相手から言質を取るようにしないといけないのに、直接的に言っちゃ駄目だわ」

「くそっ、焦り過ぎたか」

 

 一瞬で平静に戻って、ウルウル瞳も収まって横島から身を離した真名は悔しそうに舌打ちをする。

 

「方法は悪くないけど、ここは体を武器にしつつも、ご褒美は与えないか、餌は釣ったままにするのが正しいやり方だな」

「この段階で釣られるような奴なら信用には値しないか」

 

 つまりは他の者の色仕掛けに簡単に引っかかるということで、結構危なかった横島はうんうんと頷きながらバクバクと跳ねる心臓を沈めようと深く静かに深呼吸を繰り返す。

 

「安い女と見られたくもないし、まあ今回の色仕掛けはここまでにしておくとしよう」

 

 ジャケットを着ながら再戦を誓う真名に再び心臓がドキンと高鳴る。

 

「今回?」

「私は本気になれば障害があろうとも必ず踏破して目的を遂げてみせるぞ」

 

 どういう意味なのかイマイチ計りかねる言葉である。

 

「さて、今回は色をつけてくれると言っていたのだし、十分に期待してもいいのだろう?」

 

 なんだか尻の毛まで毟り取られる感じがするのは横島の気の所為だろうか。

 妖艶に笑う真名に心臓がドキドキとして止まらなかった。

 

 

 

 

 ちなみに、尻の毛まで毟り取られなかったことが逆に怖かった横島であった。

 

 

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