横島堂へようこそ   作:スターゲイザー

9 / 16
皆様、感想と誤字報告、本当にありがとうございます。


な、なんとか毎日投稿継続……!




第九話 文学少女は戸惑う

 

 

 客が来ること自体が珍しい横島堂に今日も客以外がやってくる。

 

「へい、らっしゃ…………て、どうしたよネギ!?」

 

 もう普通の客が来るのを諦めていた横島は、頬を赤く腫れさせたネギが店内へと入ってくるのに実に驚いた。

 

「こんにちは、横島さん」

「呑気にこんにちはじゃねぇよ。どうしたんだ?」

 

 びっくりしたとかというレベルではない。

 愛用の椅子から飛び跳ねるようにして立ち上がり、歩いて来るネギの下へと駆け寄る。

 

「はは、明日菜さんにブタれちゃって」

「明日菜に?」

 

 割かし感情が高ぶると真っ先に手が出ることは、明日菜のことを良く知る横島としては納得してしまったような、余計に分からなくて首を捻らざるを得ないような、微妙な心境である。

 

「取りあえず治しちまおう」

 

 ぶっくりと腫れているネギの頬に添えるに触れた手に文珠を出して、『治』の文字を刻んで発動させる。

 

「あ……」

 

 文珠が発動して発せられた光が一瞬だけネギの視界を覆い、温かな熱が滲んで来るような不思議な感覚の直後、頬の痛みは消えていた。

 

「痛く、ない」

「ん、久しぶりだったから不安だったけど上手くいったみたいだな」

 

 横島の手がどけられ、ネギは自分の頬を触ってみると熱も持っていないし腫れている感じもない。

 

「横島さん、何をしたんですか?」

 

 ネギには横島が何をしたのかが分からなかった。

 治してくれたのは分かるが、その方法が皆目見当もつかなかったのである。

 

「ふふん、それは如何にネギでも教えてやるわけにはいかんのだよ」

 

 本気で分からないらしく知りたそうなネギを煙に巻いた横島は笑みを収めてお座敷の方へと勧め、二人でつっかけと靴を脱いで差し向かいで座る。

 

「で、なんで明日菜に叩かれたんだ?」

 

 明日菜は自身の身体能力を十分に熟知しており、喧嘩するにしても相手に怪我させないように注意している。

 幾ら魔法使いといっても、見た目通りの子供であるネギの頬が赤く腫れあがるほど殴ったり叩いたりすることはないはずである。

 

「実は、明日菜さんに仮契約の解消を申し出たらいきなり」

 

 こうパーンと平手で張られたポーズをするネギに横島は一つ頷く。

 

「そこだけ聞いても叩かれる理由が分からん」

「僕も何で叩かれたのかが分かりません」

 

 殴られた理由が分からないのに怒るよりも困惑している方が多そうなネギの頭を慰めるように撫でる。

 

「女性は尊重してるつもりなんですけど……」

 

 まだ撫でてほしそうだが手が疲れてきたので下ろし、腕を組んで考える。

 

「女心は秋の空って言うしな。男には理解出来んもんがあるんだろう」

「横島さんでもですか?」

「昨日怒ってると思えば今日は笑い、明日は泣いているとかな。年食っても余計に分からんようになるだけだぞ」

 

 過去のことを思い出しているのか、遠い目をしている横島にネギがかけられる言葉はない。

 

「というか二人は何時の間に仮契約してたんだ?」

「京都で、関西呪術協会が襲われた際に所謂、緊急事態ということで」

「ああ、アーティファクト目当てか」

「足止めの妖怪達に囲まれている中で何の力もない明日菜さんを残して行くことは出来ませんでしたからカモ君の提案で止む無く。仮契約をすれば魔力供給をすれば明日菜さんの身体能力もあって、ある程度の自衛も出来ますから」

「ああいう奴だから自分で火中に飛び込んでおいて、どうしようって助けを求めたんだろ。面倒かけてすまん」

「いえ、明日菜さんの果断さが無ければ動けてなかったでしょうし」

 

 謝罪合戦を止めて、仮契約をしたのは緊急事態への対策なのかと納得した横島を見たネギは次の話へと移ることにした。

 

「麻帆良に戻ってくるまでは仮契約をした認識が僕にも薄くて、エヴァンジェリンさん――――師匠(マスター)の弟子入り試験で古菲さんの指導を受けている時に、明日菜さんが刹那さんと剣を打ち合っているのを見てハッとしたんです」

「なにか思うことがあったと?」

「明日菜さんが普通? からちょっと離れているところはあると思いますけど、京都でああいうことがあったから少しでも戦えるようにって習い始めたのかなと思いました」

「実際にそう考えたようだぞ。うちに来た時にあの時は怖かったとか、みんなの足手纏いにしかならなかったってグチグチ言ってたし」

 

 デレデレした顔でベビーベットに寄り掛かって雪姫を構っていたので本気にはしていなかったのだが、刹那に剣を習うぐらいならば本人も結構気にしていたのだろう。

 

「魔法を知っているだけの明日菜さんがあんな事態に何度も巻き込まれることなんてもうないだろうし、あくまで緊急事態に対応する為に仮契約をしたので、事態は無事に解決出来たから契約を続行しておく必要はないと僕は考えました。で、そのまま伝えたら怒って」

「いきなり殴られたと」

 

 今のところ、ネギが語った中でおかしいと感じるところはない。

 仮契約の利点は、本契約と違って面倒な手間をかけずに契約も契約解除も出来ることなので、緊急事態の為に仮契約をしたのだからそれが終わったのなら契約解除をしようとしているところに不備はない。

 

「取りあえずその時の状況を知らんことにはなんも言えんな。今日は何をしてたんだ?」

 

 刹那に剣を習っていた明日菜は、勝手に仮契約の解除を決めたネギに対して怒りはしても殴るまでいく子ではないと横島は知っている。

 殴るに足る理由というか、そこまで咄嗟に手が出るほど怒らせた理由を知らなければならない。

 

「今日は朝に長さん、木乃香さんのお父さんから貰った父さんの手掛かりを返してもらいに行きました」

「待て」

 

 いきなりの予想外の行動に、横島の理解力が及ばなかったので止めに入る。

 

「もう一歩手前からだ。その手掛かりは何で、誰に渡したんだ」

「あ、すいません。分かりませんでしたよね」

 

 自分には既知であっても他人には分からないことを失念していたネギ。

 

「父さんの手掛かりはこの学園の地下の地図だったんです。何故、この学園の地図だったのかは分かりませんけど暗号で書かれていて直ぐの解読は出来ませんでした。弟子入り試験や先生としての仕事もあって多忙だったので、図書館島探検部という広大な図書館島地下を探索する専門の部なら何か分かるんじゃないかと思ってクラスにいる部員の綾瀬夕映さんに預けてしまったんです」

「そりゃ……」

「ええ、魔法使いの父さんが調べていたものですから、一般人に任せるにはあまりにも軽率だったと夜になってから気づきました。それで次の日の朝、つまりは今日になってから返してもらいに行ったんです」

 

 自分で気づいたのなら横島が多くを言う必要はないと判断して、ネギに話しを進めるように促す。

 

「それで実はもう一人と仮契約をしていて、これは僕の意志でしたわけではないんですけど」

 

 もじもじと頬を赤らめたネギが指をすり合わせている。

 ショタコンの趣味の女性ならば垂涎物だろうが横島にその気は無いので続きを待つ。

 

「修学旅行の二日目の夜にクラスの人達がゲームをしていたんです。その、僕の唇を誰が先に奪うかという」

「…………捥げればいいのに」

 

 ボソリとゲーム内容を聞いた横島が小声で呟いたのは、一人で赤くなって身を縮めているネギには聞こえなかったらしい。

 

「で、僕に告白してくれた宮崎のどかさんが偶然、そういう形になってしまって」

 

 怒りを通り越して御仏の如き悟りを開いている横島に気付いた風もないネギ。

 

「話を戻しますと、父さんの手掛かりの地図を返してもらいに行った時にのどかさんがアーティファクトを出して夕映さんに見せていて、そのアーティファクトには読心系の機能があったみたいで僕が魔法使いだということが二人にバレてしまったんです」

「なんと間が悪い」

 

 詳しく聞けばネギにはのどかと仮契約をした自覚も無かったので、全てはあのオコジョ妖精がいらぬ気を利かせてしまったらしい。

 

「魔法は秘匿が原則ですが、僕は問答無用に記憶を消すなんてことはしたくありません。ですので、一度事情を説明した上で仮契約の解除と、可能であれば一部の記憶消去を行おうとしたんですけど……」

「皆まで言わんでもいい」

「泣きそうになられると告白してくれた手前、強引に出ることも出来なくて」

「そういや、宮崎のどかちゃんってネギが告白されたっていう子だったか。そりゃ好きな奴との繋がりが出来たら自分からは切ろうとはせんだろ」

 

 肩を落として俯くネギを見れば、どういう結末になったのかは言われなくても分かる。

 京都から戻って来てから告白されたと相談された時に出て来た子の名前を思い出した横島は納得をしつつも、怒られているつもりなのか正座しているネギに女難の相が見えていたが口には出来なかった。

 

「一応、地図には図書館島地下に父さんの何らかの手掛かりが残されているのは分かったんですけど、行くって言えば二人が付いて来ようとするのが見えたので取り止めたら行きたいと言われ、その場は師匠(マスター)の修行を理由にどうにかはなったものの、二人も修行場所に一緒に行くことになってしまいました。行ったらいったで、師匠(マスター)には呆れられるし、明日菜さんにはアンタって馬鹿じゃないのって怒られるし」

 

 一層、肩を落とすネギから中間管理職の悲哀が漂ってくるようで、十歳の身空でそのような雰囲気を漂わせる哀れさが際立つ。

 

「修行後に明日菜さんにのどかさんと同じように仮契約の解除を申し出たら怒って殴られてしまって。その後、避けられているようで探しても見つからないんです。もしかしたら横島堂に来てるかなと思ったんですけど」

「…………もしかして、明日菜に仮契約解除の話をした時、のどかちゃんも一緒にいたんじゃないか?」

「ええ、僕の後ろに。でも、どうして分かったんですか?」

 

 なんとなく明日菜の怒りの理由が分かってしまったような気がする。

 

「明日菜にのどかちゃんと仮契約していたことと、契約解除をしてないことを言ったら怒ったんじゃないか?」

「なんで分かるんですか!?」

 

 寧ろこの状況で分からないと言った方がどうかと思った横島は突っ込みを入れずにネギを落ち着かせる。

 

「いや、まあ、大変だな、ネギは」

 

 のどかには泣き落としに合うし、明日菜には同じことをしたら恐らく問答無用に殴られたのだろうネギのことを思えばそうとしか言えない。

 

「ネギ、明日菜は大人だと思うか?」

「僕に比べれば大人だと」

「でもな、俺から見れば二人とも子供なんだよ」

 

 恐らくネギも言葉が足りなかったのだろうが、明日菜は言葉ではなく手を上げてしまったのはいただけない。

 明日菜が怒った理由が弟を想う気持ちか、女としてのそれかは別にして、手を出してしまっては何の意味もない。

 

「明日菜が刹那から剣を習っている理由を聞いているか?」

「いえ、直接は。京都でのことが怖かったとか足手纏いだったのか嫌だったのかなとは思ってますけど」

「まあ、それもあるだろうけど」

 

 直接は聞いてない以上、言葉を交わしていなければ二人の認識がすれ違ってしまうのは仕方ない。

 

「今まで明日菜は自分より下が出来たことが無い」

 

 要約するとそれが理由なのだが、伝わるように細かく話す。

 

「中学の美術部も半分幽霊部員なようなもので、学校でも寮でもクラス単位で動くことが多い。家族にしたって高畑さんや俺んちで年上しかいない。家ではシロとタマモは動物形態でしか会ってないしな。つまりは年下相手の接し方に慣れていないんだよ」

「はぁ……」

 

 良く分かってなさそうな顔のネギに話しを続ける。

 

「分かるか、その中でネギは初めて出来た自分よりも年下なんだ。初めてこの店に来た時に言ってただろう、『じゃあ、ネギは私の弟ね』って」

 

 あの明日菜がそう言ったので記憶に強く残っていた横島とは違い、まだネギにはピンと来てないらしい。

 

「幾らのどかちゃんに押し切られたとしても、明日菜にはそんなこと分からないだろ? 明日菜はこう思ったんじゃないか、自分は駄目でのどかちゃんは良いのか、と」

「あ」

「別にのどかちゃんに押し切られたネギを責めているわけでもないし、押し切ったのどかちゃんに責任があるわけじゃない。まあ、明日菜としては自分だけ疎外されたら面白くはないわけだ」

 

 問題自体はそれほど難しい事ではない。人類が今まで何度も繰り返した悪癖ともいえるのだから。

 

「誰の所為かって言えば、言葉が足りなかったネギと話をすることなく手を出した明日菜にあるんだろうな」

 

 のどかに押し切られたからといって別個の対応をしたネギ、のどかの姿を見て同一と捉えた明日菜。

 他人であるならばすれ違うことは多々有り、認識をすり合わせるには会話をしてずれを埋めるしかない。二人はそれを怠った。

 

「ネギはどうしたい? 仮契約云々のことは別にしてだ」

「喧嘩したままは嫌です」

「じゃあ、話して分からない奴じゃないからしっかりと膝を付き合わせて話をしてみろ」

 

 そう言って、背後にある家に繋がる通路の方をチラリと見る。

 実は少し前に明日菜が来ており、ネギが店に入ってくる直前まで店にいたのだが通路の方に隠れていたので、今頃事態の裏側を知って自分の勘違いに気付いて悶えているだろうなと笑みを隠す。

 

「そういえば、シロさんとタマモさんは? 今日は姿を見ていませんが」

「ああ、雪姫の夜泣きでダウンしてるよ」

 

 なので、明日菜の対応は蛍に任せてしまっている。

 

「赤ん坊は夜だろうが構わずに泣くからな。交代であやしてるけど、あの二人の場合だとなんでか雪姫はハッスルすることが多くてな。今頃、雪姫と一緒に昼寝中じゃないか」

 

 子狐、子犬モードであやすのが一番大人しいのだが、そうすると雪姫は寝ないで遊ぼうとしてしまう。

 今も手作りした大き目のベビーベッドで一人と二匹でご就寝中なのである。

 

「昼寝してるなら遊びに行くのは止めといた方が良いですね」

「下手に起こしちまったら二匹の鋭い爪が飛んで来るぞ。第一、うちのお姫様にそんな辛気臭い顔を見せるんじゃない」

 

 冗談を交えて言うとネギは少し笑い、その辛気臭い顔をさせている張本人が後ろでガタゴトと音を立てていた。

 

「起きたんですかね? じゃあ、ちょっと様子を見に」

「いやいや、鼠でも入り込んだんじゃないか」

「まさか」

 

 明らかに冗談と分かる言葉に笑ったネギに、後ろの明日菜の慌て様が面白くて忍び笑いを漏らす横島。

 

「聞いたぞ、弟子入り試験ではボコボコになっても諦めなかったって。二人も師匠がいて修行の方は大変じゃないのか?」

 

 そろりと気配が遠ざかって行くのを感じながら、明日菜が逃げる時間を稼ぐ必要もあったので世間話のついでに聞く。

 

「両方大変です」

 

 鼠が入り込んでいるってのは冗談だと思っているネギは充実している顔で答えた。

 

「古さんには力加減を間違えてよくぶっ飛ばされているし、師匠(マスター)には血を吸われて貧血気味になりますけど、強く成れている実感がありますから頑張れます」

「お前…………どっか頭打って変な性癖にでも目覚めてないか?」

「性癖ってなんですか?」

「いや、こっちの話だ」

 

 どこか変な感じに頭打ってないかと心配になった横島が訊ねても、性癖の概念がネギには分かっていない様子であった。

 純真無垢その物の目で見られると、自分が穢れた大人になったようで良心がチクチクと痛む。

 

「失礼します」

 

 性癖とは何かを聞きたそうなネギが口を開きかけたところで、どこかの誰かのようにパーンと店の扉が開かれた。

 

「おっ、らっしゃ」

「夕映さん? それにのどかさんも」

 

 今度こそちゃんとした客かと横島が腰を上げようとした瞬間、客の姿を見たネギが二人の名前を口にする。

 

「探しましたよ、ネギ先生。朝の話の続きをしましょう」

 

 夕映の目から逃れるように横島の背に隠れたネギ。その姿を目にした夕映は勇ましい笑みを浮かべてお座敷の前まで歩み寄り、見知らぬ横島に気後れしている様子ののどかが隠れられてはいないがその後ろに立っている。

 

「朝の話の続き?」

「実は魔法を教えてほしいって言われてて」

 

 咄嗟の反応で隠れてしまったネギは出るに出れなくなりながら、顔だけ振り返った横島の疑問に答える。

 それを聞いた横島はネギがうっかり魔法バレをしてしまった子がこの子かと見当をつける。

 

「ネギ先生」

「ぼ、僕は魔法学校を卒業したばかりで修行中の身なので人に教えるなんて、とても出来ません」

「ならば、魔法関係者と思しきあなたでも」

「俺、陰陽師。魔法、無理」

 

 前にもこのようなことを言ったことがあるような気がしたが、明日菜と同年代とはちょっと信じ難い見た目の少女の少し鼻息の荒い押しの強さに横島はそれだけしか言えなかった。

 

「ほう、陰陽師も実在したのですね。あなたにも二、三聞きたいことはありますが、今はネギ先生の説得を手伝って下さい」

 

 絶対に二、三で収まりそうにない雰囲気を醸し出しつつ、夕映は完全に横島の背に隠れてしまっているネギを見る。

 益々と目を輝かせている綾瀬夕映に引き気味の横島は面倒臭いタイプだと第一印象が定まってしまった。

 

「横島さぁん」

 

 背中越しで顔が見れなくても泣きそうになっているネギの声を聞けば、面倒臭いからといって獲物の前に餌として放り出すのは可哀想なので放っておくわけにもいかない。

 

「初対面なのに名前も名乗らない子に頼まれてもな」

「むっ、これは失礼しました」

 

 熱意は買うが不躾である。

 不快であるとは口にせずに安易に言葉に織り交ぜると、夕映は察し良く不躾さを理解して一歩引いた。

 

「遅れました、ネギ先生のクラスの綾瀬夕映です。挨拶もせずに申し訳ありませんでした」

「俺はこの横島堂の店主の横島忠夫だ」

「み、宮崎のどかです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

 

 頭が悪いわけではないと第一印象を修正した横島は、しっかりと頭を下げて平静に戻った夕映の後ろから宮崎のどかが頭を上げて来るのを見て少し微笑む。

 

「どうやら話では魔法を教わりたいようだが」

「ええ、少し興奮して不作法を見せてしまい、すみませんでした」

「いやいや、熱意は買うよ」

 

 自己紹介を挟んだことで冷静さを取り戻した夕映の態度に感心した横島は真剣に考えることにした。

 

「魔法を教えられる人なら俺が紹介しようか?」

「いいんですか!? 是非、お願い」

「但し、共に習うのが幼稚園児になるけど構わないかな?」

 

 詳しい話を聞く前に目を輝かせて即決しようとした夕映は、続いた言葉に固まった。

 

「俺の知り合いの娘さんが魔法を習い始めたところでね。君が望むなら先方に確認してみるが」

 

 蛍が生まれてから、魔法を知る、もしくは魔法使いらの父親で構成された『父親の会(仮名)』の飲み会に呼ばれた横島は、そこで出会った弐集院光のことを思い出していた。

 弐集院には幼稚園ほどの娘がいて、魔法を習い始めたばかりであることを聞いていた。

 先輩父親にアドバイスを沢山受けていた横島は、まず彼のことを思い浮べた。同じ会に出ていたガンドルフィーニが子供に魔法のことを教えるべきかどうかを悩んでいることも一緒に。

 

「…………自分の身長の低さは自覚していますが、流石に幼稚園児と机を共にするのは」

 

 勘弁、という顔をしている夕映の身長は確かに明日菜と同級である中学三年生としては低いかもしれない。

 

「幾ら学園都市っていっても麻帆良には魔法学校まではない。魔法とか感覚的な物が多いから早ければ早い方が良いから、親が教えることが多いから遅くても小学生ぐらいだろう」

 

 表向きの一般的な学校ばかりで魔法学校は麻帆良にはない。となれば、親か縁者などが子供に教えるパターンが殆どである。

 

「魔法生徒ってのもいるけど、大体はネギのように魔法学校を卒業した者や、幼い頃から親や知り合いから教わってきた者だから君ぐらいの年代で一から学ぼうという者は殆どいない」

「つまりは、初歩の初歩から学ぶならば親から教わる子と一緒に学ばなけれならない、ということですか」

「まあ、そうなる」

 

 この場合、例外を議論しようとしても横島には答えられないので、一定の理解をしてくれた夕映は話が早くて助かる。

 

「その親だって所謂、魔法の教師免許があるわけじゃないから、本気でその道に進む気があるなら魔法学校に入学することも考えた方が良い。ネギだって本気なら学園長に話を通すぐらいはするだろ?」

「え、ええ、夕映さんにその気があるなら」

 

 話のスケールが大きくなってきたというか、自分の考えている領域外にまで及んでいることに夕映は僅かに目を泳がせた。

 

「そこまでする必要があるのですか?」

「魔法の感覚は幼い頃から身に着けることが多く、思春期を超えると時間がかかることが多い。どんなスポーツでもそんな面はあるだろう」

「先に始めていたから優れているわけではないでしょうに」

 

 その通りである、と横島は夕映の反論に重く頷いた。

 

「でもな、この分野はスポーツなんかよりも持って生まれた才能に左右される面も多い。君に才能があるかどうかは分からないけど、一般的な考え方をするならスポーツとそう変わりはないんじゃないか」

 

 スポーツを始めるには中学三年生というには一般的に考えれば遅い。その理屈は魔法にも当て嵌まるのだと横島は言う。

 

「やっぱりネギ先生に教わるのは一番手っ取り早いではないでしょうか?」 

「それは君の理屈だろう。君はネギのことを、ちっとも考えていない」

 

 あまりこういうことは言いたくはない横島だが、どうにもネギは甘すぎる面がある。

 子供だからと舐められる面もあるし、押し切られてしまったら受け入れてしまう優しい面がある。

 

「……っ!?」

「言いたいことはあるだろうが、少し待ってくれ」

 

 反論はあるだろうが手を前に出して制止する。

 言い合いは不毛でしかないし、まずはネギの理由を明らかにしてから考えてもらっても遅くはない。

 

「ネギの立場を考えてくれ。先生で自身も上を目指す魔法使いだ。ここまでは君達もいいな?」

 

 これは当然、少女らも分かっているようなので頷きを返してくる。

 

「まずは先生としてだ。英語の教科と担任だっけか。子供ではあっても先生であるなら当然仕事がある。分かっているだろうけど、学生とは立場が違うからやることは多い」

 

 指を一本立てて分かりやすく示す。

 

「続いて魔法使いとして」

 

 二本目の指を立てる。

 

「ネギ自身、魔法学校を卒業して修行中の身だ。謂わば半人前、現にとある人物に弟子入りしている」

「エヴァンジェリンさんですね。古菲さんにも中国拳法を教わっていると聞きました」

「知っているなら話は早い」

 

 ならば、どうして分からないのかと疑問に思うのだが、得てして人間は目の前に餌を吊るされたらそれ以外は目に入らなくなる。それほどに夕映にとって魔法とは魅力的に見えたのだろう。

 

「考えてみてくれ。ネギには君に魔法を教える余裕はあるのか? 仮に余裕があったとして、君はネギが先生で魔法使いだからとそれを強いるのか」

 

 ぶっちゃけて言えばネギにそんな暇も余裕もねぇだろうって話なのだが、ここまで言って分からないほど夕映は察しが悪いわけではないようだ。

 

「………………」

 

 黙って俯いてしまった夕映の後ろでのどかがあわあわと慌てている。

 

「横島さん」

「分かってる」

 

 もっとぶっちゃければ迷惑だと言っているに等しいので横島は困ったように頭を掻きつつ、言い過ぎではないかと思っても自分のことを気にしてくれていることに嬉しさを隠し切れていないネギを見ることなく夕映を注視する。

 

「俺は何も魔法を学ぶななんて言う気も、何も知らなかった頃に戻れとも言わない」

 

 前置きを置いて、顔を上げた夕映の目を見る。

 

「忙しいネギに教わっても中途半端にしかならない。君自身、中途半端に終わってしまうようなら最初から学びたいなんて思ってないだろ」

 

 何が正しいのかなんて横島にだって分からない。ただ、このままネギが押し切られてはどっちにとっても中途半端にしかならない。それは決して良い事ではないと思うのだ。

 

「そうです」

 

 半ば項垂れるようにして頷いた夕映。

 

「魔法をただのファンタジーと捉えて浮かれていました。ネギ先生に無理なお願いをしてすみませんです」

「いえ、そんな……」

 

 迷惑だなんて思っていない、とはここまで横島に擁護してもらったネギが言っていいことではないので言葉を濁してしまう。

 そんなネギと頭を下げる夕映を見比べるのどか。

 

「冷静になって考えてみても、やはり私の気持ちは変わりありません」

 

 夕映は自分はまだ魔法の世界に進むと決意できているとはいえないと言い、覚悟も足りていなかった。しかし、夕映のあくなき探求心と知恵欲は抑え難い。

 

「例え幼稚園児と共にであろうとも学ぶ覚悟はあります」

「分かった」

 

 と、横島は重く頷き、にへらと笑った。

 

「弟子入りの話は向こうにはまだしていないから、学園長を通して話してみて駄目だったらゴメンな」

「こんだけ言っといてそれかい!!」

 

 軽すぎる言葉にアーティファクトを呼び出してハリセンを持った明日菜が突っ込みを入れ、横島はぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 この後、明日菜とネギは無茶苦茶話をした。

 

 

 





最後が締まらない。それが横島クオリティ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。