某侯爵の一人息子(三十代独身)をやってます。   作:高任斎

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原作を勉強してたら、逸材のモブを発見した。(笑)
気が付いたら書き始めていました。


復讐に至る道。
1:私はモブだ、名前すらない。


 前世の記憶を持って転生する物語の場合、大きく2種類に分かれると思う。

 

 1つは、その世界に生まれた瞬間、もしくは幼少期から前世の記憶及び人格を保持して、赤ん坊や幼児時代から容赦なくブイブイ言わせていくパターン。

 そしてもう1つは、何らかのアクシデントなりイベントによる物理的、もしくは精神的衝撃によって記憶を取り戻すパターンだ。

 前者は、『子供がそんな無茶できるか!』という、読み手のツッコミ力を貯めることができる。

 つまり、物語に登場するキャラクターの『こんな子供が!?』の部分に対し、読み手のツッコミ力が否応なしに共振してしまうわけだ。

 そういう形で、読み手を物語の世界へと引き込もうとする……つまり、主人公が無茶をすればするほど、読み手のツッコミ力が上がっていくわけだから、無双系の物語に適していると言えるだろう。

 そして後者はというと。

 これは、どのタイミングで主人公に記憶を取り戻させるかを選択できる利点がある。

 状況を作って、そこに主人公をポイっと放り込む……つまり、『いきなり絶望』とか、『死亡フラグが多すぎぃぃ!』の状況から物語が始められる。

 穏やかな世界観の説明もなく、主人公の『え、これってどういう状況なの?』という戸惑いがそのまま読者に共感してもらえるし、主人公自身の理解や、ほかのキャラの説明がそのまま読者への世界観理解へとつながる。

 巻き込まれ型のお約束というか、スピード感あふれる物語の展開を目指すのに適したスタイルと言えるだろう。

 あと、放り込まれる主人公の状況が『悲惨であれば悲惨であるほど』読み手はワクワクする。

 もちろん、その状況を納得できる形で切り抜けないと……読み手がそっと離れていくけどね。

 

 まあ、ざっくりした分類だけど、前者が能動的な主人公を描きやすいのに対し、後者は巻き込まれ型の主人公というか、受動的な主人公を描きやすいかな。

 あくまでも、傾向程度のものだけどね。

 

 そういえば、現実は非情なんだよとばかりにそのまま主人公をバッドエンドに直行させる物語もあるらしいね。

 夢も希望もないよ、ホント。

 

 さて、ここまで話せばもう察しはつくと思う。

 私は前世日本人の記憶持ちの、いわゆる転生者だ。

 残念なことにというか、前者のパターンではなく、私が記憶を取り戻したのは、『母親に殺されそうになった』時だったりする。

 そしてこの世界は、銀河英雄伝説の世界、もしくはそれに近似した世界だと思う。

 原作のファンなら、かなり有名なキャラを連想したかもしれない。

 期待に添えず申し訳ないというか、ファンの方はホッと安心するかもしれないが、私が母親に殺されそうになったのは6歳の時のことだから、某キャラに転生とか憑依したわけじゃない。

 というか、あんな強キャラに私みたいな一般人が転生したら、色々と台無しになるだけだろう。

 私だって、原作キャラのファンの夢を壊したくはない。

 

 長々と勿体つけて申し訳なかった。

 私は、原作において、いわゆるモブキャラで、名前すらない。(笑)

 それにも関わらず、知名度は高いはずだ。

 名前もないのに知名度ってなんだよと思うかもしれない。

 じゃあ、私の父の名前を聞いてもらおうか。

 

 私の父は、ウィルヘルム・フォン・クロプシュトック。

 

 そう、原作本編のちょうど1年ぐらい前に起こる、帝国皇帝フリードリヒ4世暗殺未遂事件の犯人が、私の父親ということになる。

 原作外伝において書かれた、ミッターマイヤーとロイエンタールがラインハルトの旗下に加わるというビッグイベントにつながる事件だから、クロプシュトック侯という名に聞き覚えのある人も多いんじゃないかな。

 

 まあ正直なところ、私がこの世界で前世の記憶を取り戻し、最初に『クロプシュトック』と聞いたとき、ドイツの詩人を連想したんだけどね。

 

 でもそれって、父親が有名ってだけのことじゃないのって?

 いやいや、『クロプシュトック侯』の名前を知ってる人なら、私の父が何故そんな事件を起こしたか……30年以上昔の因縁はともかく、直接のきっかけぐらいは覚えているんじゃないかな?

 そう。

 皇帝の後継者争いのレースに破れて、帝国中枢から追放されること30年。

 そもそも現皇帝のフリードリヒ4世を侮蔑しきっていた父は、その弟を担いで皇帝後継者レースに参加していたわけだからね。

 中央には復帰できないというより、『あんな愚か者に頭など下げられるか』ってのが本音だろうね。

 それでも、帝国建国時から続いてる名門貴族だからね……無茶はできない。

 おとなしく領地経営に精を出していたわけだ。

 

 そこで、後継者の一人息子が戦死。

 一人息子は独身で、子供もいない。

 帝国中枢からは追放されてるから、養子の手続きとかも無理……かな。

 

 あ、クロプシュトック家、オワタ。

 もう何も怖くない。

 よーし、パッパ頑張って、積年の恨みを晴らすために皇帝暗殺しちゃうぞ。

 息子よ、ヴァルハラで会おう。

 

 ややフランクに説明したけど、原作からうかがえる背景はこんな感じかな。

 そして、後継者の一人息子……これはつまり私のことだね。

 どうかな。

 名前すらないモブだけど、存在感とか知名度はなかなかのもんじゃないかな?

 だって、前世日本人の私だって、『私』のことは覚えていたからね、ハハハ。

 私の原作知識なんて、小説オンリーだよ。

 アニメは見てないし、ゲームもやってないしね。

 とてもじゃないけど、ディープなファンとは言えないだろう。

 

 しかし、外伝を読んでいて良かったよ。

 本編が始まる前に死んじゃった人間というか、死んでしまう『私』としてはね、何らかの手がかりがあるというのは、暗闇の中に光を見つけた気分だった。

 

 私が死んでから、父が下げたくもない頭を下げ、賄賂を贈りまくって、ブラウンシュバイク公爵の邸宅で行われるパーティで皇帝の命を狙う流れだから……。

 皇帝暗殺未遂から、メンツを潰されたブラウンシュバイク公が復讐のためにクロプシュトック領に攻撃。

 ここで、ミッターマイヤーが軍規を乱す貴族を射殺した……からの、ロイエンタールとラインハルトの出会いと救出だ。

 この直後に、ベーネミュンデ夫人による暗殺未遂……ミッターマイヤーとロイエンタールが早速活躍する流れで阻止したわけだけど、これが確か5月。

 軍規がむちゃくちゃで、クロプシュトック侯爵の討伐に1ヶ月近くかかったはずだから……つまり、暗殺未遂事件は3月ぐらいに起こったと推測できる。

 だったら、私はそれ以前の戦いで死んだはずだ。

 

『戦死』、だからね。

 

 まあ、とりあえず素直に解釈したい。

 ラインハルトがミッターマイヤーを救ったとき、確か地位は大将だった。

 ミッターマイヤーとロイエンタールは少将。

 

 原作本編は、ラインハルトとヤンが、初めてぶつかり合う……アスターテ会戦だったよな?

 あの時ラインハルトは上級大将で、3個艦隊に包囲されかけながら、2個艦隊を叩きのめしたことで元帥に昇格したはずだ。

 とすると、『私』が死んだあとに、もう一つ戦いを挟んで大将から上級大将に昇進した、か。

 

 だったら、ラインハルトが『中将』か『少将』だった時の戦いで、私が戦死した。

 

 ここまではほぼ一直線に推測できたんだけど……ラインハルトが少将だった時の戦いに、なんか覚えがあった。

 イゼルローン攻防戦で、相手がミサイル艦使って、要塞内への侵入を試みたとかそんな感じ。

 2000か3000の分艦隊を率いるラインハルトが、それを見破ったとか……そんな戦いがあった気がする。

 准将なら、精々200~300隻ってところだから、たぶん、少将の時に参加した戦いだと思うんだけどね。

 

 なんにせよ、私の原作知識なんてそんなもんで……中途半端な原作知識に頼りすぎても意味ないし、でもおろそかにするのも怖い。

 そもそも、名前もないモブの、しかも原作本編で描かれる前の出来事だ。

 何が正しくて何が間違っているかなんてはっきりわかるはずがない。

 暗闇の中、必死に生きていく。

 それって、当たり前のことだ。

 前世でそれなりに、人生の酸いも甘いも噛み分けたつもりだ。

 そう思って、精一杯生きてきたよ、これでも。

 

 

 

 

 ところで。

 これまでの説明で、みんなはおかしく思わなかったかい?

 

 中央から追放されているとはいえ、名門貴族の後継者、しかも一人息子が、戦場に赴くってなんだろうとか。

 もちろん、帝国貴族は戦場に赴くってお題目はあるけどね、それが守られているとは言い難いし、一人しかいない血筋に関しては当然お目こぼしなんかもあるよ。

 まあ、『この高貴たる自分が反乱軍ごときに……』なんて自信満々の連中もいるけど、一応は少数派だ。

 つーか、取り巻きが命懸けで救おうとするしね。

 指揮官というか、旗艦がやられる戦いなんて、そうそうあるわけじゃない。

 つまり、それなりの貴族は、死ぬ確率が低い場所で戦うために地位が上がっていく……はずだ。

 なのに、『私』は戦死した。

 中央から追放されて、それでも名門貴族の後継者で一人息子が戦死する戦い。

 

 しかも、地位はともかく、ラインハルトが『少将か中将』で参加した戦い。

 

 その戦いで、『私』はどこにいたんだろうねえ?

 

 ははは、ごめんね。

 名もないモブについて、そんなこと考えたりはしないよね、普通。

 まあ、当事者としては、考えざるを得なかったんだ。

 そして、この世界で、『クロプシュトック侯爵の息子として』生きていかなきゃいけなかったし、曲がりなりにも30代まで生きてきたんだ。

 色々と知らなかったことを知ったし、見えなかったものも見えるようになった。

 

 

 

 なあ、『子供の頃、母親に殺されかかった』なんて、原作には当然描かれなかった内容だよな。

 どうしてそんなことが起こったと思う?

 主人公や脇役が、それぞれの人生を送ったように、名も無きモブも、モブなりの人生を送ってきたんだ。

 取るに足らない人生だからなんて言わないでくれ。

 そこそこドラマティックな人生を送っているつもりなんだ。

 

 聞いてくれるかな?

 いや、聞かせるよ、つーか、聞け。

 名も無きモブの魂の叫びを聞け。

 そして、クロプシュトック家の絶望を知ってくれ。

 

 原作から30年前の、皇帝の後継者争いで何が起こり、どういう処分がなされたのか?

 名門貴族の一人息子なんて、いい身分じゃん……なんて思うなら大間違いだ。

 私がなぜ、一人息子になってしまったと思う?

 私がなぜ、独身のままだと思う?

 本当にいい身分なら、そんなことにはならないさ。

 ははは、今の私には『父が皇帝をぶち殺したくなる気持ち』がよくわかるよ。

 30年前の恨みじゃない。

 30年間に渡って積み重ねられた恨みだ。

 

 

 

 ……こんな事を言うなんて、この世界でずっと生きてきて少し疲れたのかもしれない。

 少し長い話になるが、頼む、聞いてくれ。

 

 




【悲報】主人公、原作小説とアニメでクロプシュトック事件の時期がずれることを知らない模様。
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