某侯爵の一人息子(三十代独身)をやってます。   作:高任斎

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今更ですが、独自解釈です。(笑)
それと、後半にちょっとショッキングな場面があります。
具体的に言うと、主人公が母親に殺されそうになるシーン。
ご注意ください。


2:クロプシュトックの絶望。

 さて、どこから話そうか。

 結局、30年前の皇帝の後継者争いのことから話すしかないのか。

 本編でも、外伝でも少し語られていたけど……まあ、我慢して聞いてくれ。

 

 

 前皇帝はオトフリート5世、歴代で言うと第35代になるのかな。

 現皇帝のフリードリヒ4世は、この前皇帝の次男にあたる。

 長男はリヒャルトで、当然皇太子だった。

 そして3男が、クレメンツ。

 

 この、長男のリヒャルト皇太子と、3男のクレメンツとの間に後継者争いがあったわけだが。

 クレメンツ側の謀略で皇太子に弑逆未遂の罪を着せ、粛清させることに成功。(帝国歴452年)

 しかし、この皇太子の大逆罪が冤罪だったことが判明、それを仕掛けたクレメンツが今度は処刑された。(帝国歴455年)

 まあ正確には、処刑されたんじゃなくて同盟に亡命しようとしたところで、謎の死を遂げたらしいが。

 

 そして、放蕩生活で借金つくりまくって、周囲から馬鹿にされまくってた次男のフリードリヒ4世が、棚ぼた勝利、ファイナルアンサーってやつだ。

 しかも、オトフリート5世が死んでこのフリードリヒ4世が皇帝になったのって、帝国歴の456年なんだぜ。

 タイミング悪すぎぃ!

 発覚するのが後1年遅かったら、3男クレメンツが皇帝になってたってことだろ。

 

 ちなみに、クロプシュトック侯が支援していたのが、3男のクレメンツ。

 そりゃあ、本来の後継者である皇太子に冤罪着せて処刑させちゃったグループにいたわけだから、お仲間の主だったメンツは粛清の嵐よ。

 一応、その冤罪事件には関わりがなかったということで、父は処刑はされなかった……けど、現皇帝サイドからすれば、そんな存在を近くに置いておくわけにもいかない。

 

『おう、お前中央からハブるから。二度とその顔見せんなよ』

 

 で、明確な処罰はされなかったが、新年の挨拶もできない状態の、中央追放状態ってわけ。

 

 

 

 もちろん、これは原作の登場人物の主観で語られた背景だ。

 見る人間が違えば、主観は異なる。

 私は子供だったから、当事者とは言い難いけどね。

 でも全力全開で当事者だった父から恨みのこもった話も聞けたし、それを私なりにフィルターをかけて、クロプシュトック家から見た、歴史的な背景を語ってみようか。

 もちろん、父も私も神様じゃないから事実とは言えないし、あくまでも別の視点から見た背景でしかない。

 それでも、歴史ってやつはいろんな面から光をあてて語られるべきだと私は思う。

 

 そもそも、なぜ後継者争いが起こったか?

 ここから語らなきゃ、問題の根っこは見えてこない。

 ちゃんと長男の皇太子がいるんだ。

 父もそうだが、なぜ多くの貴族連中が『3男のクレメンツを次期皇帝へと担ぎ上げる工作をしなければいけなかった』?

 そう言われて最初に考えるのは、『そもそも長男の皇太子が愚鈍』だったってケースかな。

 その次に、単なる権力争いってとこか。

 

 仮に、『単なる権力争いだった』としたら、『放蕩生活を送ってる次男』を担ぎ上げたほうが、色々と便利じゃないかとは思わないか?

 酒と女をあてがって、その下で好き勝手できる方が……権力志向の人間にとっては、便利な存在だろう?

 無論、父親からほぼ勘当されていたとは言っても……後継者争いなんて、表面化するまで何年もかけて行うもんさ。

 つまり、その状態に至るということが、そもそもおかしい。

 支援者が、そんなことはさせないよ。

 本人に、最初から『その気がなかった』というのが一番正しいだろう。

 最初から、支援者を拒否した……その見方が一番しっくりくる。

 父は今の皇帝のことをボロカスに罵るけどね、私としては、有能とは言えなくても愚鈍ではないと思う。

 好意的に解釈すれば、兄弟で争いたくない……優しい人間だ。

 完全にやり方間違ってるけどな。

 

 そういう意味では、3男のクレメンツ。

 支援者が大勢ついて、しかも本人にも争うつもりがあった。

 父には悪いが、あまり褒められた態度じゃない。

 仮に長男が愚鈍で、帝国の未来を憂いてのこというなら、自ら臣下としてそれを支えるという態度もありだろう。

 どうあがいても、『皇帝になりたがっていた』ということだけは確かだ。

 

 さて、長男が愚鈍だったかどうか。

 もちろん私も、父に聞いてみた。

 

『まずまず、水準以上の能力をお持ちの方だったと思うし、周囲からもそう思われていた』

 

 いや、それなら普通に皇太子を支持しろよ。

 素で、ツッコミいれたわ。

 

 まあ、当時子供の私には、そこが限界だったわけだ。

 当然、その先の事情がある。

 

 先帝オトフリート5世。

 かの人が皇帝になったとき、帝国財政は借金まみれだったらしい。

 それで、超緊縮財政をとって、宮廷費用なんかも削りに削りまくったそうな。

 その政策の是非はともかくとして、今の皇帝、フリードリヒ4世の借金まみれの逸話ってのは、ここに理由がある。

 皇帝の息子といえば、貴族との付き合いも普通にあるだろうに……お小遣いというか、交際費すらろくに与えなかったそうなんだ。

 まあ、そうじゃなきゃ酒場のツケが払えないなんて状況が生まれるはずがないもんな。

 

 ただ、この先帝様、帝国財政の赤字をどうにかしようと熱中してるうちに、手段が目的に変わっちまったようだ。

 一言で言うと、ドケチになっちまったそうなんだ。

 赤字は解消されつつあるのに、超緊縮財政そのまんま。

 イゼルローン要塞建設も、軍事費削減のために建設させたとされている。

 まあ、建設させたはいいが、費用がかかりすぎて責任者を自殺させてるけどな……無茶苦茶だとは思うが、予定金額を大幅に超過したってことは、『皇帝の機嫌を取るため』に甘い建設計画や、費用見積を立てた誰かに責任があるのは確かだろう。

 それが、建設責任者と一致してるかどうか……は、今の俺にも知るすべがない。

 

 これだけ説明したら、なんとなく見えてくるだろう?

 長男の皇太子は、皇帝の機嫌を損ねるわけにはいかないから、それなりにいい子を演じるさ。

 慎ましい生活を送って……まあ、自分が皇帝になったらどうするかまでは不明だが。

 さて、そんな皇太子を見た他の貴族はどう思う?

 

 このままの方針で、帝国は経営されていくのか?

 

 私の父、クロプシュトック侯を含めた貴族たちが、3男のクレメンツを次期皇帝にするべく工作を始めたのは、権力を握るためというより、まずは『景気浮揚』を目指しての……悪く言えば、このままじゃやっていけないとか、やってられるかって思ってた貴族が多かったと言える。

 超緊縮財政によって帝国全体の金の動きが鈍化したんだろうってのは想像できるし、父が言うには、貴族への支援が激減というか消滅状態になっていたそうだ。

 そりゃあ、ただでさえ領地開発において不利な辺境星系なんかは……不満がたまっただろうし、将来へのおそれがあったんじゃないかな。

 つまり、そういう連中に担がれるクレメンツは、『父親のやり方に強い不満を持っていた』と同時に、『自分の生活も、帝国経営も派手にやらかす』つもりでいっぱいだったと推測できる。

 ああうん、父のクレメンツに対する評価は話半分で聞いてる。

 意気豪壮にして、英雄の……はいはい、となりの芝生は青いし、思い出は美しいよね。

 

 これで大分わかりやすくなってきただろう。

 皇太子と3男の後継者争いの根本は、次代の帝国経営の方針の違いによる争いだ。

 

 私に言わせれば、『お前らちゃんと話し合え』ってとこだ。

 水準以上の能力を持ってるなら、その皇太子だって、方針ぐらい転換するわ。

 そういう意味では、やはり権力争いという面もあったんだろう。

 そして、不利な連中が無理をするのは世の常。

 皇太子を謀略で葬らんしちゃった。

 そうしたら、それを暴かれて、反対に葬らんされちゃった。

 ああ、謎の死じゃないよ。

 こっちには、全力で当事者だった父がいるんだ。

 その場にいなかったとしても、殺されたという情報ぐらいは手に入れてるさ。

 まあ、その情報の正誤を否定されるとどうしようもないけどね。

 

 さて、誰がやったのかな?

 

 まあ、それを言い出しても意味がない。

 でもちょっと待ってくれ。

 クロプシュトック侯爵家は、建国時から続く名門貴族だ。

 皇太子を葬らんしちゃう策謀と無関係なんてことがあると思うか?

 クレメンツを皇帝にしようとするグループの中心人物の一人だぞ。

 もちろん、皇太子を葬ったことで、今度は内部における権力闘争が始まったのは父も認めてた。

 でも、それまでは……ほぼ一致団結していたと考えるべきだろう。

 相手は正当な皇太子……こちらが不利だったんだからさ。

 その上で改めて考えよう。

 仮に無関係だとしても、それを名目に粛清というかなくしたほうが後腐れがないって思わないか?

 

 原作には出てこなかったが、この後継者争いに加担した貴族……核となる家とその取り巻きという感じに、皇太子と3男にそれぞれ200や300の貴族が加担したんだ。

 そして、多くの家が取り潰しになった。

 最初は、皇太子による弑逆未遂の罪。(冤罪)

 これに絡んで、皇太子側の貴族が処刑された。

 そして、3年後にクレメンツ側の謀略が発覚して……クレメンツ側の貴族が処刑される運びになったわけだ。

 

 額面通り受け取るなら、クレメンツ側に復讐したい皇太子側の貴族は、いなくなってるんだよ。

 うん、原作知識で言うならあの老人の仕業か、もしくはフリードリヒ4世にも、見えない支援者がいた。

 さらに、処刑された皇太子側の貴族に何らかの縁を持つ貴族が、ひっそりと牙をむいたのかもしれない。

 

 なあ、なぜクロプシュトック家が取り潰されなかったか……不思議に思わないか?

 貴族連中は、婚姻関係でつながりを持つことが多い。

 そして、貴族としての格のつり合いを取る組み合わせで婚姻する。

 私の母親の実家も、それに見合った格を持っていた。

 もちろん、婚姻関係を結ぶぐらいだから、それ以前からも仲の良い関係だった。

 だから、3男クレメンツを担ぎ上げるグループで、一緒にやっていた。

 

 もちろん、母の実家は潰された。

 

 もう一度言おう。

 なぜ、クロプシュトック家は取り潰されなかったか?

 なぜ、母が私を殺そうとしたのか?

 

 後継者争いに絡んで、多くの貴族が争った。

 しかも、皇帝になるのは『あの』フリードリヒ4世。

 周囲から侮蔑されまくってた放蕩息子なんて、皇帝の威厳を伴うと思うかい。

 先のことはともかく、不安定なスタートになるのは目に見えているさ。

 皇帝というか、当時の帝国中枢にいた権力者が、後継者争いの余波を広げたくないと考えるのは当然だよね。

 クレメンツ側の謀略が発覚したのは、帝国歴455年のことだ。

 発覚から処分までは、いくらかのタイムラグが生じるし、死なばもろともで反乱を起こした貴族もいる。

 そして、フリードリヒ4世が皇帝になったのは、帝国歴456年だ。

 つまり、先帝のオトフリート5世は456年に亡くなってる。

 この貴族の処分に関して、先帝の意思が大きく働いた……とは思えないんだよね、タイミング的に。

 次代の、フリードリヒ4世の治世を支えるために急遽集められた連中と、当時国政に関わっていた連中の合作案かなと思ってる。

 

 貴族の家というのは、いろんな縁でつながっている。

 後継者争いに参加した連中を全部ぶっ殺して、それでおしまい……と思ったら、思わぬ恨みを買ってました、なんてことが普通に起こりうる。

 実際、皇太子についた貴族の関係者は、ほぼ処刑されている。

 まあ、これは自分の身を守るために、クレメンツ側の貴族がそうさせた側面もあるけどね。

 これは父も認めた。

 しかし、やっぱりというか皇太子側の貴族と何らかのつながりを持っていた貴族が、色々と暗躍し始めたらしい。

 誇り高い(笑)貴族だからね、復讐は正義なんだ、きっと。

 それを踏まえたうえで、今度は、クレメンツ側の貴族を処分しなくちゃいけなくなった。

 皇太子側の貴族と親しかった連中の恨みは、クレメンツ側の貴族へと向けられた。

 だとすると、クレメンツ側の貴族に親しい連中の恨みは、皇帝に向かうだろう。

 フリードリヒ4世の治世次第では、皇太子側の連中の恨みも皇帝に向かいかねない。

 どうすればいい。

 ああ、こうしよう。

 貴族の恨みを、皇帝ではなく、別の何かに向けさせよう。

 

 おそらく、クロプシュトック家は、生贄の1つに選ばれた。

 父の意見に、私も同意する。

 

 視点を変えてみようか。

 私の母の視点だ。

 同じように3男クレメンツ側についていたのに、自分の実家は潰された。

 父が死んだ、母が死んだ、兄が死んだ、妹が死んだ、甥っ子が死んだ、姪っ子が死んだ、一門の家の人間が大勢死んだ。

 

 ねえ、あなた。

 裏切ったの? 

 

 私は最初から一人息子だったわけじゃないんだ。

 弟がいた、妹がいた、姉がいた。

 母に全員殺された。

 みんな子供だったからね。

 立ち上がることもできない妹を。

 生まれたばかりの弟を。

 使用人を殺し、寝ていた姉を。

 まあ、このあたりは後で聞いた話だけどね。

 使用人の立場からすれば、手を出しづらい相手ではあるよなあ……今更だけど同情する。

 

 私は、物音と、血の匂いで目が覚めた。

 刃物を構えた母の目を見て、前世の記憶が弾けた。

 必死だったよ。

 6歳だぜ。

 体格差はいかんともしがたい。

 それでも、前世の記憶による混乱がそうさせたのか、『母を他人と感じる気持ちが』私の命を救った。

 混乱していたし、恐怖もあった。

 でも、実の母親に殺されそうになっているという動揺は感じずにいられたんだ。

 もちろん、混乱が収まり……母との思い出が整理されるまでの間だったけどね。

 

 そして最後は母が自殺。

 貴族の自殺は、毒を煽って……という価値観の世界で、父と、そして私の目の前でヒステリックな笑い声を上げながら刃物で首を切った。

 穢らわしい裏切り者って、父や私を罵ってね。

 

 ……ひどいもんだったよ。

 屋敷の中に、血の香りが充満してるように思えてね。

 別の場所に移動しても、鼻の奥でね、血の匂いがするんだ。

 ああ、でも、どこか他人事に思えた私はまだ幸福だったかもしれない。

 父にとっては、地獄だっただろうな。

 

 あとは、わかるだろう?

 母がそう思ったように、帝国の貴族は、処刑されなかった生贄を裏切り者と判断した。

 直接グループに参加してなかったとしても、何らかの情報は伝わるものさ。

 中央から追放?

 甘いね。

 事実上、貴族社会からの追放さ。

 貴族は良くも悪くも誇り高い。

 仲間を売って自分だけ助かる……そんな相手と交友関係を持ちたいと思うかい?

 例の処刑で、親しかった仲間やグループを軒並み失ったクロプシュトック侯爵家には、交友関係を持つメリットがほぼなくなった。

 ただでさえ、中央の権力者からは睨まれている存在だからね。

 付き合いと言えるような関係を持てるのは、一門のみ。

 それだって、機会を見つけて離れていく。

 その度に、父の背中が小さくなっていくのがわかるんだ。

 誇り高い父にとって、裏切り者だと、蔑みの視線を受けるのは耐え難い屈辱だったはずだ。

 さすがにそれは聞けないよ、私は息子で、たった一人残された家族なんだ。

 

 これでようやく、私も理解した。

 原作の『私』になぜ子供がいなかったか。

 ははは、結婚相手なんかいるわけないじゃん。

 一門の誰か、もしくは平民ならどうかって?

 前世日本人の感覚としてはそうなるんだろうけどね、それをやった瞬間、『クロプシュトック侯爵としての格がオシマイ』になる。

 父に、そんな選択はできないし、原作の『私』だってそうだろう。

 原作では領地経営に力を入れたとか言ってったっけ?

 そりゃそうさ、ほかにやることないもん。

 背中を丸めて、意識は内側へ内側へ……。

 30年前の恨みを良くも……と、気軽に言ってくれるなよ。

 現在進行形なんだよ、父にとっては。

 

 母が家族を殺しまくった屋敷。

 父は、ずっとそこに住み続けているんだ。

 もちろん、清掃はしたよ。

 血の染みや、匂いなんてするはずがないんだ。

 それでもね、私の目は、あの時の血だまりを映すことがあるよ。

 私の鼻は、いまだに血の匂いを感じることがある。

 そんな屋敷で、父はずっと住んでいる。

 

 そういえば、原作の『私』が何を思って軍に属したんだろうか。

 それは、私にはわからない。

 ただ、私は迷うことなく軍人を目指したよ。

 前世日本人?

 前世一般人?

 関係ないね。

 

 だってほら。

 復讐のためには、力が必要だろう?

 レベルを上げて、物理で殴らなきゃ。

 

 

 

 ああ、私はモブだ、名前すらない。

 それでも私は、クロプシュトック侯爵家の人間だ。

 父の恨みを、母の狂気を、姉の痛みを、弟や妹の悲しみを。

 

 その資格はあるはずだ。

 成功するとか失敗するとか、そういう問題じゃないんだよ。

 

 




なんだかすごいことになってきちゃったぞう。(他人事感)
今度は主人公に優しい物語を書きたいとは、一体なんだったのか。(笑)
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