某侯爵の一人息子(三十代独身)をやってます。   作:高任斎

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穏やかなお話。(笑)


4:フェザーンの日々。

 フェザーン。

 うん、初めて見た時に、なんというか地球っぽいって思った。

 いや、なんというか……他の貴族の領地を実際に目にしたことがなかったからわからないんだけど、少なくともクロプシュトック領というか星ってさ、すごく機能的な開発をしてるんだ。

 資源の採掘に適した場所。

 農業に適した場所。

 工業地帯。

 よく言えば、無駄なことはしないって感じ。

 悪く言えば、領地の星そのものが、工業製品みたいな印象を与えてくる。

 もちろん、そんな単純な話じゃないし、都市計画みたいなものとも少し違うんだけどね。

 前世の記憶がある私としては、クロプシュトック領の星は、美味しいところだけを選んで食べているって感じを受ける。

 父に言わせると、ほかの貴族の領地に比べたらかなり発展してるらしいけどね。

 ああ、そうそう。

 クロプシュトック家においては貴族同士の付き合いがほぼ消滅したから、いわゆる『交際費』がほとんど必要なくなった。

 貴族の『交際費』ってさ、すごいんだよ。

 例えば、パーティ。

 今はこんなだけど、名門貴族、クロプシュトック家のパーティとなると、どれだけの貴族を招待しなきゃいけないか想像つくかい?

 しかも、自分の領地じゃなく、オーディンの邸宅で開催しなきゃいけないことも多い。

 ……そりゃあ、自分の領地でやってもいいけど。

 仮に、小規模だけど貴族200家を招待したとしようか。

 その200家が、それぞれ護衛付きの宇宙船でウチの星にやって来たらどうなると思う?

 宇宙港の設備はもちろん、大気圏外で駐留させとくにも限度があるし、当然それを迎えるたびに警備も必要で……しかも、それだけの数の私設軍が動き、集結するのって物騒な話だよね。

 まあ、面倒な上に費用がものすごくかかるとわかってくれたらいい。

 みんなが集まりやすい、オーディンでやるのが一番だと思うだろ?

 基本的に、首都ってのは国の中心に位置することが多いからね。

 それでも、辺境の貴族には負担が大きすぎて……パーティを開催するどころか、参加できないこともあるそうだ。

 つまり、パーティを開催するってのは、『ウチの家、こんなに力がありますよ』って宣伝みたいなもんさ。

 あと、貴族に社交の場を与えるって役目もある。

 自分でパーティを開けない、人脈もない貴族……自分の傘下というか、グループに属する連中のために、パーティを開いてそういう場を与えてやるんだ。

 これは、自分を頼りにして集まってくれてる貴族たちに利益を与えることも意味する。

 前世日本人的に言うと、金の切れ目は縁の切れ目さ。

 パーティを開けないような貴族は、頼りにならないってね。

 実際、豊かで力を持ってる貴族じゃないと、大勢の貴族を招待するパーティなんか開催しないし、できない。

 ああ、もちろん小規模なものとか、ごく限られた親しい関係どうしの私的なパーティは別だよ。

 あと、女性のドレスとかアクセサリーの費用が馬鹿にならない。

 下手をしなくても、御婦人方は見栄のためにドレスをパーティごとに新調するらしいからね。

 仲の悪いご婦人が、お互いに意地を張り合うと、旦那は地獄だってさ。

 まあなんにせよ、クロプシュトック家はそれなりのパーティを開催する貴族の格と資金も持っていたからね、『交際費』も半端な額じゃなかったみたいだ。

 その膨大な『交際費』を使って、領地経営というか、領地開発。

 ブロック経済の、公共投資みたいなもんだね。

 フェザーンや、オーディンで無駄金を使わなくなった分、否応なしに内需は拡大するよ。

 結果、この10年ほどでデータはもちろん、見た目としても領地は発展してる。

 なんだろう……前世日本人として色々と考えさせられたよ。

 

 友人の結婚式のダブルアタックとかさあ……前世日本のジューンブライドって、夏のボーナスをご祝儀にあてるって前提じゃねえのって。

 

 うん、馬鹿なことを考えたと思うよ。

 まあ、そんな事を考えるぐらい……フェザーンという星は、私の前世の記憶を刺激するぐらい全体的に開発されているように見えたんだ。

 正確には、フェザーン星系の第2惑星らしいね。

 そのあたりはどうでもいいことさ。

 だって、私の原作知識はそんなことまで覚えちゃいない。

 つまり、確かめようがないんだ。

 こうなってますと説明されたり、資料を見たら、そういうものなのかと納得するしかない。

 ただ、フェザーンという星全体の発展は……なんと言えばいいのかな、恵まれたというか、自然の豊かなところというか……たぶん、かつての地球の環境に似た星だからってのもあるだろう。

 地球教が、この星に目をつけたのは……そういう部分もあるかも知れない。

 居住可能な星にも、いろいろ幅があるからね。

 そのまま居住可能な星もあれば、膨大な時間と資本をつかって、テラフォーミング(笑)しないと居住できない星もある。

 まあ、そういう星は大抵資源を採掘するだけで終わるよ。

 効率的じゃないからという理由で。

 そして、利益が上げられないなら放棄というか放置される。

 データ上は、『開発次第で居住可能』な星ってことになるけど。

 うん、ざっと資料に目を通したけれど、やはりフェザーンは恵まれた星と表現するのが一番しっくりくる。

 

 そんな恵まれた星、フェザーンに私が訪れたのは、帝国歴の468年の夏頃だ。

 今思えば、この頃はもう銀英伝の英雄の一人であるラインハルトが、この銀河に生まれてたってことになるのかな。

 確か、原作本編の帝国歴487年頃に20歳ぐらいだったから、そういうことになるはずだよね。

 当時は、そんな事を考えている余裕はなかったなあ。

 その気になれば、ヤンの父親を探し当てることができたかもしれないね。

 探し当ててどうすんだよって言われたらそれまでだけど。

 正直、原作本編で語られない部分なんて、何がその通りで、何が違っているのかなんて全然わからないからね。

 原作知識をおろそかにしようとは思わないけど、それを探しあてて何をするのかって話になるし。

 当時はもちろんだけど、聞き覚えのある存在を耳にするようになった今でも思うよ。

 

 この世界は、本当に私が知る銀英伝の世界なのかってね。

 

 近似的な世界であることに関しては、もう疑ってはいないけど。

 正直、だからどうしたって感じることのほうが多いんだよ。

 例えば、原作の設定をそのまま信じるならば、フェザーンにはこの一つの星に20億近い人口を抱えていたことになるよね。

 まあ、当時は、原作開始の約20年前だから、もう少し少なくなるのかな。

 でも、そんなことを考えても仕方がないことだろう?

 私にできるのは、まずは、資料なりデータを信じること。

 その上で、資料やデータに矛盾がないか考えるぐらいのことだ。

 

 私の目に見えるもの。

 フェザーンはよく発展している。

 私のいるフェザーンの都市には、活気が感じられる。

 まずは、これだけわかれば十分さ。

 すべてを知ることができれば便利かもしれないけど、すべてを知ることができない以上、自分の目的に沿った知識を手に入れていくべきだ。

 

 

 さて、私がフェザーンにやってきた目的は、情報収集のため。

 可能ならば、情報収集のネットワークを作るというか、その下準備。

 と言っても、わりと出たとこ勝負のいい加減なもんだよ。

 おおまかに言うと、クロプシュトック領から、100人程フェザーンに連れてきた。

 大学に進学させる者。

 技術的な専門知識を手に入れさせる者。

 役人になる勉強をさせる者。

 商売を始めさせる者。

 

 理想を言えば、フェザーンで商売を立ちあげる。

 その商売の規模が大きくなれば、帝国の首都オーディンはもちろん、自由惑星同盟に支店というか、窓口を作っても不思議はない。

 要するに、情報をやり取りできるネットワークが欲しかったんだ。

 そもそも、オーディンで何が起こっているかもろくにわからない状態で、復讐もへったくれもないだろ?

 メインの目的としてはこれ。

 他のは、人材教育と言いつつ……うまくいけばいいなあ、ぐらいのもんだね。

 父は今ひとつわかってないみたいだったけど、フェザーンで生活させていろいろ学んだ人間が全員、クロプシュトック家に忠誠を誓うと思うかい?

 失望したくないからね、私はいいとこ1割だと思っている。

 特に、商売目的で夫婦や家族で連れてきた人間はどうかな。

 帝国内の、ほかの貴族領での待遇と比べるなら、それなりに自信はあるんだけど……初めて見たフェザーン、知識として入ってくる自由惑星同盟のあり方は、たぶん、彼らの目には眩しく映ると思うんだよ。

 人間の評価ってのは、初めて触れた文化に対して、高評価~反発~統合という流れで評価を定めていくけど、刺激が強すぎた場合は振り切っちゃうことがあるからね。

 

 まあ、それはそれで仕方ない。

 100人なんて人数を連れてきたのは、私の存在を隠すためでもあったんだから。

 役人見習いに、軍人見習い、そして一発旗揚げを目指す商人志望……フェザーン研修という名の集団の中に、私は紛れ込んだわけだ。

 前世日本人の感覚というか価値観が大いに役立ったと思いたいね。

 貴族ロールと、平民ロール、呼吸をするように自然に演じることができた……これはある意味私に備わった特殊スキルと言えるのかもしれない。

 復讐という目的を思えば、これは強みと言えるだろう。

 

 我々は、付き合いの深かったフェザーン商人の助けを借りつつ、複数のグループに分かれて共同生活を始めた。

 田舎から都会に出稼ぎにやってきた気分だったね。

 フェザーンの拠点なんていい方は大げさだけど、家を手に入れたりもしたし、ああ、私はアパートの一室に、3~4人で共同生活とかしてた。

 なんというかね、面白かった。

 ほんの少しだけ、復讐のことを忘れていられた気がする。

 

 一応、私は故郷で仕事もなく家も継げない……そんな立場の仲間(護衛)と語らって、フェザーンで一発旗揚げを夢見るグループの一員(笑)って感じ。

 もちろん、夢を支えにして、バイトで生活費を稼いだりしてたわけだ。

 あはは、新しく商売を始めようとしてる人間なんて、人手が必要なのに決まってるだろ。

 見事なマッチポンプだね。(笑)

 

 ああ、バタバタした生活だったなあ。

 あっという間に時間が過ぎていくんだ。

 そうそう、自由惑星同盟にも足を運んだんだ。

 戦争は数だよ、じゃないけど、商売は資本だよってのは、ある意味間違ってないね。

 まあ、あまり大きくすると今度は妨害とか入ってくるから、あくまでもそこそこを目指す、だけどね。

 金が絡むと、人は魔物だからね……敵を作りすぎるのはよくない。

 ただし、そこそこの商売を、複数だ。

 情報の取捨って問題が出てくるけど、やはり情報源は複数確保するに越したことはない。

 

 そう、ハイネセンを訪れた時は、ちょっと感慨深いものがあったね。

 アーレ・ハイネセンの像も見てきたよ。

 気分は観光客だったさ。

 ただ、その際に訪れた、自由惑星同盟においていわゆる辺境と呼ばれる星系で見た光景には、あまり愉快じゃないものもあった。

 まあ、同行してた仲間(護衛)の1人に『帝国も、同盟も、平民としてはあんまり変わらないんですね』なんて言われたときは、帝国の貴族の私としては、苦笑するしかなかったね。

 同盟の民主主義については、役人の経験がある者は理解が早かったかな。

 結局、集団の経営というか、人の支配形態だからかな。

 もちろん、さっぱり理解できない者も多かったけど……理解できないというより、理解したくないって感じだったかも知れない。

 ただ、そういう人間でも時折鋭い見方をするから、私もハッとさせられたことがある。

 

 クロプシュトック領から連れてきた人間の反応は、一応は予想通りというか、最初はみんなフェザーンの文化に触れて興奮してたけどね、実際フェザーンで生活していくための勉強やら苦労を重ねるうちに反動が来た。

 金を手にして姿を消した人間もいた。

 でもまあ、これは想定内。

 最初にその気があれば自由に生きて行けって言っておいたから別に、放っておいた。

 何人かはすごすごと帰ってきたけど、特に罰することもしなかったよ。

 金で感謝や忠誠心を買えるなら安いもんだ。

 実際、この時に帰ってきた人間に、命を救われたこともあるんだ。

 情けは人の為ならずって言葉を実感したよ。

 そして、これが意外と多かったんだけど、クロプシュトックに帰らせた者も出た。

 いろんな意味で適応できなかったのか、『帰りたい』って反応だね。

 フェザーン商人との取引の際に、人をやり取りすることができるからね。

 継続的に、十数人ぐらいの規模でこちらに新しく連れてきたりもしてたんだ。

 フェザーンの空気を吸った人間がクロプシュトック領へと帰っていく。

 それはごくわずかな交流に過ぎないけれど、原作にはない刺激と変化を生んだのかもしれない。

 それを確かめる(すべ)はないけれど。

 

 フェザーンは、そして自由惑星もそうだけど、『実力と運次第でのし上がるチャンスがある』場所だ。

 しかし考えて欲しい。

 どちらかが欠ければ、惨めな思いを味わう可能性のある場所でもある。

 前世日本人の記憶で、こんなネタを思い出したよ。

 

『学校の試験で何がわかるんだ』って意見に、『仮に、人間性まで含めた総合的な試験が行われたとして、それで落ちたら立ち直れるか?』って。

 まあ、人間が生きていくには、言い訳が必要なんだって、ひどいオチさ。

 変化と進歩が人間社会にとって必要なものなのはわかるけど、それは、戦争における『いかに効率よく味方を戦死させるか』って理屈と同じなのかもしれない。

 私としては、どちらも理解はできるとしか言えないね。

 

 そうそう、残るのはいいとこ1割なんて思ってたけど、人間ってのは思ったより保守的なんだなってことがわかった。

 まあ、これは帝国の人間だからって部分もあるのかもしれなかったけど。

 忠誠に関してはどうだろう?

『クロプシュトック領に生まれてよかったです』と言ってくれる人間は結構いたけど……まあ、父を認めてくれた気がして嬉しかったとだけ言っておく。

 

 考えてみれば、フェザーンやクロプシュトック領、自由惑星同盟の間を行ったり来たり……移動距離に関してはなかなかの数年だったと思う。

 なんとなく、地元と東京を往復し続ける前世日本の政治家を連想してしまったよ……三つ子の魂百までってのはこのことかな。

 帝国の貴族が、領地経営に集中できないのは距離の壁もあるんだろうね。

 場所によっては、オーディンとの往復で2ヶ月かかるんだ。

 何かあるたびにそんなことを繰り返してたら、1年の大半は宇宙船の中ってことになる。

 オーディンならオーディン、自領なら自領に腰を据えて……ってなるのは自然だと思うよ。

 

 さて、そんな私のフェザーン暮らしにも転機が訪れた。

 フェザーン100周年にむけて……なんて話題がちらほら出始めた時期だったかな。

 残念ながら、原作の細かい部分は記憶になかったから、そうなんだと思うしかなかったけど。

 帝国歴で言うと、471年。

 

 同盟へと亡命しようとしてた、帝国貴族との出会いだった。 

 

 




たぶん、彼が最も幸せだった日々。
次話の投稿予定は不明。
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