クリーブ兄貴として、暁の水平線に勝利を刻むぞ!   作:V-ACT

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だが私の中での一位は揺らがん!
世に兄貴のあらんことを。


兄貴、状況を把握する

ーーーー川内型軽巡洋艦一番艦 川内。

 

俺の記憶にはその名はないが、重桜艦の名前なのは判断出来る。

しかし問題はクリーブランドとしての記憶にその名があること。

川内とクリーブランドは軍艦時代に交戦、夜戦において姉妹艦達と共に最新式のレーダーで探知してからの集中砲火で航行不能にし、後に川内は沈んでしまったとか。

完全に因縁がある相手じゃないか……川内そのものは記憶がないみたいで良かったが、下手打てば敵対する可能性もあったぞ。

巡り合わせが良いのか、悪いのか……。

 

「川内がここを見つけてくれていて助かったぞ……」

 

「海上じゃ落ちついて話なんかしてらんないしね、燃料の減りも早いし」

 

内心色々と警戒していたが、道中特に何事も起きなかった。

現在は彼女があの状況になる前、移動中に発見していたらしい小島に俺達はやって来た。

二人揃って海から上がり、乾いた砂の上に軽く座ると陸に戻れた……と安心感が出てくる。

漸く人心地つけたので、しばらく黙って海を眺めてから話を切り出す。

 

「川内が一人で戦ってたのは、艦隊からはぐれたからなのか?」

 

「あはは、あれを戦ってたと言ってくれるんだ」

 

そう川内は自嘲混じりに言って苦笑する。

 

「じゃあ、完全に何もかも諦めてたのか?」

 

「……いや、隙を見て一矢報いようとは思ってた」

 

「なら十分だぞ、あの状況でそこまで戦意があったなら」

 

「ん、そっか……えへへっ」

 

どれだけ追い詰められても、戦う気持ちを捨てない。

良い戦士だ、流石は大和魂溢れる『重桜』のKAN-SEN。

 

「実は水雷戦隊で遠征に出ていたんだけど、回収資材を運搬中に奴らが……」

 

「ふむ、なるほど」

 

あんな見た目でって言うのは偏見だが、賢いやり方だ。

資材がどんなものかは知らないが、それを守りながらは辛かろう。

 

「結局資材無くすわ、中破や大破が続出するわでね……結果私が殿をやったってわけ」

 

「……決死の覚悟の殿か」

 

「そ……誰かがやんなきゃ、全滅してたかもしれない」

 

KAN-SENにとって、死は一度きりではない。

例え沈んでも艦船少女のコアたる『メンタルキューブ』になって、彼女らの『主』として登録された人物……つまり『指揮官』の元へ還り、データを元に再生される。

そうすれば綺麗に元のKAN-SENに戻るが、記憶には沈んだ時の痛みと恐怖が刻まれている。

それを幾度も繰り返せば流石に『失望』するやつもいるだろう。

つまり川内はそれを他の奴に味わわせたくなかったのだろう、戦士なだけでなく優しさもあるって事だ。

 

「良い娘だな、川内は……その姿勢是非見習いたいぞ」

 

「へ?……あっははは、でもそれは『艦娘』としちゃ当然の判断じゃない?」

 

……『艦娘』。

あれか、KAN-SENじゃアズールレーン被れな印象あるからって呼び方にアレンジを加えているのだろうか?

まぁ、戦争になっているのだから色々気を遣うのは理解できなくはない。

 

「当然と断じてやるにはかなり勇気がいるだろう、立派だぞ!」

 

「うっ……あんまそう真っ正面から褒めないでよ、照れるじゃん!」

 

羞恥で頬を染める川内、非常に微笑ましい。

彼女の言葉に「本当の事を言っただけだぞ」と笑って返してやると、川内は「あーもう!」とゴロリと寝転がる。

顔は見た目相応な感じですムスッしている。

 

「『深海棲艦』から海を取り戻すために、私達は戦ってるんだし……一つの迷いが戦いの終わりを遠ざけかねない限り、いつだって覚悟をしてるっての!」

 

まさかのまた新しい単語!

『深海棲艦』……もしかしてあの『異形』達の事なのか?

だとしたら『セイレーン』とは別種の人類の敵の出現!?

どうなってる!?もしかして俺が死んでる間に時代が飛んでたりしやしないだろうな!

むむむ……『艦娘』の呼称も川内の言い方的に一般的な様子だし、マジその線ありえてきたな。

 

「わ、分かったわかった!だからそう拗ねないで……あっ、そうだ」

 

装備に『アレ』が入っていたのを思い出して取り出す。

 

「何それ?」

 

「応急修理装置T3、知らないのか?」

 

「えっと……応急修理要員なら知ってる」

 

「私は逆にそんな設備装備知らないな」

 

……要員?

いや、まさか、小さい整備員を艤装に積んでるとかそう言う……。

 

『ウオースゲー』

 

『ハジメテミルー』

 

『ドコサンダコレー』

 

「!?」

 

気がつくと川内の艤装から小人の様な愛らしい生き物が出てきていて、俺の持つ応急修理装置T3を興味津々で見つめていた。

 

「な、なぁ……その子達って?」

 

「ああ、私の艤装の『妖精さん』だよ……もしかして、見たことないの?」

 

「う、うん……まぁ……」

 

……何だろう、この奇妙な感覚。

最初こそ噛み合っていたと思っていた歯車が、時間が経って発生していた僅かな歪みで円滑に回らなくなったような……そんな感じ。

 

「と、とりあえず今私はこれ使わないから……川内が装備しときなよ」

 

「えっ、でも私工作艦じゃ……」

 

「大丈夫、艦種問わず装備できるからさ!」

 

名前から勘違いされがちだが、別に工作艦じゃなくても装備できるんだよなこれ。

前世では大変お世話になりました。

 

「……そうなんだ、じゃあ借りよっかな……そういえばこれってどう使えば?」

 

「装備するだけで15秒毎に総耐久の1%を回復する上に、総耐久を最大“500”上げる優れものだぞ!」

 

「ーーーー」

 

『ーーーー』

 

おぉ、もう……。

川内と『妖精さん』達が、絶句してしまっている。

俺はそっとしておこうと、逃げるようにその場を離れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

川内が回復に努めているであろう間に、俺は離れて一人情報を整理していた。

彼女が自らを呼称した『艦娘』、彼女を襲っていたセイレーンの様な異形『深海棲艦』、彼女の艤装から現れた『妖精さん』。

俺と彼女らにある情報の噛み合わなさは異常だ。

特に応急修理装置T3の説明をした際の絶句具合は、明らかにカルチャーショックを受けた人間のそれだ。

 

「一応当たりはつけたけど……」

 

ここまでの情報から推測をすると、自分の中で仮説が出てくる。

 

一つ目は先程思い浮かんでいたものだが、死後に遥か未来で生まれ変わった説。

呼称にこそ差はあれど、似た存在がいる辺り共通点があるのだ……可能性はある。

惜しむらくは『妖精さん』と言うイレギュラーの説明がつかない事だが。

 

二つ目……これはかなり突拍子もないが、現状一つ目より可能性が高い説。

それは、異世界に来てしまった説。

脈絡がなさすぎると思われるだろうが、案外そうでもない……『セイレーン』を知っているのならば。

奴らの正体は未だ判明していないが、謎ゆえに解釈はアズールレーン内でも多義に渡った。

外宇宙の生命体、未来の超兵器、死者の怨念……そして異界からの使者。

そう解釈できるような怪物と戦争をしてきたんだ、異世界の存在を眉唾物と断じる事なんざ俺には出来ない。

 

……これ以上はまだ情報が足りないから精査できないが、念頭に置いておいた方が良さそうである。

 

「少なくとも、安穏とした時間はまだまだ来そうにないな」

 

ため息混じりに歩きながら、見つけた知らない木の実を咀嚼してみた。

 

「スッッッッペェッ!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの後食糧になりそうな物を探したが、満足できる様な物は何もなく、逆にコンディションが下がったんじゃないかって気分で最初に着いた砂浜まで戻ってきた。

すると話し声が聞こえた。

咄嗟に身を隠したが、良く確認すると話し声の元は川内だった。

どうやら応急修理装置T3で全快しているようで、艤装の故障や服の破けた所どころか、身体の汚れ一つ無くなっている。

ちゃんと装置が機能した事に安堵しつつ、川内の様子を観察する。

 

治った艤装から通信機を使用している様で、それで元々の所属先に救援を呼んでいる。

俺と二人でいた時は気丈に振る舞っていたが、恐怖や不安は当然あったらしく、仲間との通信で安心したのか瞳に涙が滲んでいる……。

あの様子を見ただけでも、彼女を助けて良かったと思えた。

暫く話した後に通信を切ったので、それに合わせるように彼女のもとへ向かった。

俺の姿を確認すると、川内は焦って涙を拭うと大変魅力的な笑顔を見せてくれた。

 

「ありがとう、クリーブランド!貴女は私の恩人……ううん、恩艦だね!」

 

ーーーー少し、ドキリとした……。

 

「ど、どういたしまして……無事に仲間の元に戻れるみたいだな」

 

「うん、ここの座標も伝えたし……同じ艦隊の子がきっとここを覚えてるから」

 

「そっか……」

 

どうやら俺の役目はここまでっぽいな。

あとは迎えが来たら応急修理装置T3を回収して、川内とはさよならって感じだろう。

……クリーブランド()達に帰る場所は無いが、異世界説が外れてれば俺は敵国のKAN-SEN……恐らく受け入れては貰えんだろう。

 

「……クリーブランド」

 

「ん?何だよ」

 

「クリーブランドって……今一人なの?」

 

何だ藪から棒に。

しかもそんなしんみりした感じで。

 

「そうだな、とりあえず帰る場所はないって言えるぞ」

 

「そっか……理由は、深くは聞かないわ……」

 

「ん……」

 

正直ありがたい。

俺の事情はかなり特殊だからな、説明受けても推測だらけでちんぷんかんぷんだろう。

 

「……うちの鎮守府に来ない?」

 

「え?」

 

「クリーブランドって見るからに外国艦でしょ、実はうちってちょこちょこ外国艦いるのよ」

 

「だ、だから大丈夫ってことなのか……?」

 

「そう!」

 

なん、だと……!?

そんな場所があるってのか、いや異世界説が当たってるならあり得ないわけではないのか。

寧ろ俺の常識で動こうとするのが、実は間違っているってことなのか……。

 

「行って、良いのかな?」

 

「良いに決まってる!なんたって私の命を救ってくれたんだもん、皆歓迎してくれるよっ!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「そう!」

 

熱くなっているのか、川内が突然ぐんぐん近づいてくる。

い、いや……恩義を感じて信頼してくれているのかもしれないけど、すっごい近い!

 

「わ、分かったよ!分かったから落ちつくんだ!それ以上は恥ずかしいぞ……」

 

「えへへ、やった!となると皆に嬉しい知らせが増えちゃったな!」

 

漸く離れてくれた川内を横目に、胸を押さえる俺。

これ反応しているのは俺なのか、嫁さんなのか……フランクなユニオン国民より、さらに距離感が近い彼女に完全に振り回されている。

と、ここで唐突に艤装が展開。

 

ーーーーま た 電 探 か 。

 

「相変わらず心臓に悪いぞ……川内、もしかしたら迎えが来たかもーーーー」

 

そこまで言った刹那、砲撃音が響いてきた。

即座に俺が顔を上げると、川内も聞こえていたらしく海へ注目している。

 

「敵……?」

 

「こっちへの攻撃とするには遠い、恐らく戦闘中だな」

 

「うちの……『舞鶴』の仲間かも!」

 

結論に至ったと同時に川内も艤装を展開、互いに頷きあうと海上に出る。

万が一彼女の仲間で無くとも、助太刀に入らない道理はない。

俺も川内も、やる気十分だ。

 

「夜戦じゃないけど、今の私は誰にも止められないよ!」

 

「迷いはない、前進あるのみ!」

 

一見対照的な二隻の軽巡が、仲良く海上を颯爽と駆けだした。

 




次回は皆大好き戦闘回……じゃないです。

クリーブランドに命を救われた川内の視点、その心情となります。

お楽しみに!
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