クリーブ兄貴として、暁の水平線に勝利を刻むぞ! 作:V-ACT
ーーーークリーブランド級軽巡洋艦一番艦 クリーブランド。
初対面なはずなのに、何処かで聞き覚えのある名前。
それが私にとって良い名前なのか、悪い名前なのか……実のところ判然としない。
それは私の軍艦時代の記憶が曖昧で、彼女も私について特に言及しなかった事も理由にある。
けれど一番の理由は……彼女に触れたり、姿を見ているだけで……。
ーーーー胸の鼓動が速く、止まなかった事だ。
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『舞鶴鎮守府』、それが私の所属する鎮守府の名前。
京都府北部に属する港湾都市『舞鶴』、その港から少し離れた場所に建っている。
所属している艦娘の数は23人。
常時秘書官として補佐してる大淀や、給糧艦の間宮さん、工作艦の明石……そして新人で訓練中の二人を除けば実質18人が主力艦として稼働中。
私はその中でも第二艦隊の旗艦だ。
メンバーは吹雪型駆逐艦の吹雪、白雪、初雪、深雪、磯波で、共に遠征での資材の回収や哨戒が主な任務だ。
……本音を言えば主力艦隊として前線に出て、思う存分夜戦させて欲しかった。
けどその願いは叶わない。
ーーーー妹の神通や那珂が私より先に着任してて、改二として前線で活躍してたのだから。
『川内姉さん、着任をお待ちしていました』
『那珂ちゃん達川内型が揃えば、どんなことがあっても無敵だねっ』
着任当時から二人は私に期待してくれている、最初はそれが純粋に嬉しかったっけな。
でも自分が置かれている現実を知っていくたび、自分の中でらしくない感情がじわじわと湧いてくる。
自分が彼女らの姉である、なのに自分が一番弱い。
どんなに考えても、妹達の横に並び立って戦う
ーーーーこのままじゃ、置いていかれる。
一刻も早く、強くならなきゃ。
こうなったら自分が好きな夜だけじゃない、朝も昼も夕方も鍛えぬく。
とにかく早く、もっと早く!
強くなるんだ!
……そうやって必死に練度を高めてきたのに、最近漸く改二に至れたばかり。
結局妹達は私より先にいる。
私の鍛練はまだ
訓練が大好きな神通や、レッスンと称して努力を怠らない那珂に追い付けないのか?
一度私を第一艦隊に入れてもらえないかと、提督に具申した事がある。
けど答えは……。
『研鑽する姿勢は認めよう、しかし今のお主では過分に功を焦っている様に見える』
『……それが、何か……?』
『いつか、その身を滅ぼすぞ』
そうして入ることは許されなかった、神通や那珂がいる第一艦隊に。
……決して第二艦隊の仲間が嫌いなわけじゃない。
寧ろ私の願いを知って応援してくれた、優しい子達だ。
でも気づいてしまったのだ。
『川内さん!お帰りなさい!』
『結果は残念でしたが、きっと希望はあります!』
『まぁ、まったり生きましょう』
『初雪はまったりしすぎてる気がするけどな』
『わ、私も……地味なりに一緒に頑張ります』
『……あー、ありがとね!皆!』
ーーーー第二艦隊の皆が笑顔で迎えてくれた時、ホッとしていた自分に。
その日から結局私がやりたかった事が、分からなくなってしまった。
けれど未練から努力を重ねる事も止められず、第二艦隊の皆にいらぬ心配を掛けただろう。
そんな自分が……堪らなくイヤだった。
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「うひー、今日は資材大量だよぉ……!」
「あははっ、でも鎮守府の皆もこれ見たら喜ぶと思うなぁ」
「帰ったらしばらく引きこもろう」
「いやいや、風呂くらいは入っとけよな!?」
「潮風が目に染みるぅ……」
あの日から時は流れて、数か月……。
日課と化した鍛練を終えた時、執務室への呼び出しがあった。
今回提督が第二艦隊に出した指令は、南西諸島海域の資材回収任務。
既に何度も通っている、私たち第二艦隊の十八番と言える海域。
「川内さん」
「何、吹雪?」
「頼りにしてますね!」
私が第二艦隊で一番仲が良いのは吹雪だと思う、『長女』同士って事も関係してるかも知れないけど……何事も一生懸命な吹雪は、見ていて放っておけない気がしてくる。
でも同時に彼女含めて他の吹雪型の子も、私を頼ってくれている。
それもあってか、腑抜けたつもりはないけども……第一艦隊に入りたいと言う私の欲求自体は、段々と薄まり出していた。
「……うん、まっかせて!」
笑顔で資材を運ぶ彼女らを先導して護衛しつつ、私は周囲の警戒は怠らない……。
いつもと変わらない道のりで、いつもと変わらない仕事。
それに対して吹雪型の皆は少々気が緩んでいる様子。
一方で私は日々の鍛練の甲斐あってか、気が抜けずに普段と違う妙な違和感に気がつけた。
「ねぇ、何だか海が静かすぎない?」
「え?」
「どう、でしょうか……?」
私のすぐ後ろにいた、吹雪と白雪が分からないと首を捻る。
それは初雪や深雪、磯波も同じみたいで肩を竦めたり困惑の表情を浮かべている。
「気のせいなら良い、けどどうも嫌な予感が抜けないのよ……」
「だったら私達も警戒をーーーー」
吹雪がそう言い掛けた時、背後で爆発が起こった
こういう時の嫌な予感は当たるものだ、当たってほしくはなかったが。
「磯なーーーーうぐぅ!?」
「何処から!?」
「……索敵出来た、でも最悪」
不意を撃たれて磯波が大破し気絶、それに驚いた深雪も撃たれて中破。
私も撃たれた状況から辺りをつけたが、初雪も気づいて敵を発見できた様だ。
彼女が指を指した方向には、悪夢の様な光景があった。
軽巡ホ級の中でも最強である、金のオーラを放ったflagshipが一隻。
そして僚艦として赤いオーラを放った軽巡ヘ級elite、四隻。
「どうしてここにあんなのが……今まで遭遇した事なんて無かったのに!」
「……狙ってたんだと思う」
「え?」
「川内さんはともかく、私達は油断しきってたじゃん?そう言う事だよ」
海域の解放が出来たとしても、深海棲艦は諦めてなどくれない。
寧ろ以前より大きな憎しみを伴って、私達を滅ぼしに来るのだ。
「総員、撤退!!」
『は、はい!』
急いでこの場を離脱しないと、間違いなく全滅だ。
だから私は旗艦としての役目を果たすため、声を大にして撤退命令を出す。
だが私はこの時気づくべきだった、艦隊としては中途半端な数で来ている奴らの目的に。
『ーーーー』
「は?」
「川内さん、危ない!!」
艦隊や大破している磯波に気をとられている隙を突かれ、水面下からの奇襲をしてきた駆逐ハ級eliteに私は気づけなかった。
そんな私を守るために吹雪が身を呈し、大破してしまった。
「キャアアッ!?」
「吹雪!くっそおおおぉっ!!」
『オオオォォォ……!?』
怒った私は奴に雷撃を叩きこみ、一撃で沈めた。
すぐさま虫の息となっている無惨な吹雪を抱き抱え、声をかける。
「吹雪、意識はある!?」
「は、い……けど、これじゃ、私……」
こんな辛い時まで彼女は一生懸命で、寧ろ自分が足手まといになることを恐れている様子だ。
……背後では深海棲艦の艦隊が、殲滅しようと迫っている。
しかし大破二隻を抱えた今の状況では、速力が足りなくて追いつかれてしまうだろう。
ーーーーとなれば、取るべき答えは一つ。
私は通信機で鎮守府にいる提督に繋いだ。
「……こちら第二艦隊旗艦、川内」
『ん?何かあったのか川内』
「敵艦隊と遭遇、奇襲により大破二名……よって撤退戦を開始します」
『何だと!?深海棲艦にしてやられたか……今すぐ救援をーーーー』
「提督」
提督は……『彼女』は私達に厳しく真面目だけど、何処か抜けていて甘いところもある人だ。
だから助けを呼べば無駄に終わるであろうとも、救援を出すだろう。
だから……。
「私が殿をやります、臨時の旗艦は白雪に」
「川内さん!?」
『……川内、お前まさか』
「これしかないんです、提督……flagshipやeliteの艦隊相手に全滅を避けるには」
何も出来ずに全滅するか、一隻を犠牲に他の命を守るか。
この中で改二は私だけ、時間稼ぎに適任だ。
だから……仕方ないんだ。
「提督」
『……何だ?』
「神通と那珂に伝えてください、期待に応えられなくてごめんって」
『ッ!せんだーーーー』
もう時間がないため、有無を言わさず通信を切った。
……本当は嫌だけど、覚悟は出来ている。
「白雪、後はお願い」
「川内、さん……」
「深雪に初雪、磯波が起きたら説明はよろしくね」
「……はい」
「うぅっ……はい……!」
皆を見回し、最後に腕の中の吹雪を見る。
彼女の瞳から涙が零れた。
「せん、だい、さん……」
「吹雪、守ってもらっておいて……ごめん、でも無駄にはしない」
その言葉を最後に、吹雪を白雪に渡して皆から離れる。
「さぁ……行って!!」
「ーーーー撤退!!」
白雪の命令を受け、吹雪型達はしっかり撤退していった。
深海棲艦達はもうはっきり視認できるし、互いに砲撃が届く距離だ。
つまりここを抜かせてしまうと、皆がやられる。
「行かせない……行かせるもんかぁ!!」
沈む恐怖に負けじと己に渇を入れ、全速力で敵艦隊に疾走する。
早速砲撃が飛んで来るが、当たりはしない。
こちとら鍛練だけは欠かさずやって来た自信がある。
簡単にこの命、くれてやるものか。
一隻でも多く倒してみせると、私は奴らに掛かっていった。
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ああ、やはりこうなるか……。
決死の覚悟で軽巡ヘ級elite一隻をなんとか沈めれたが、その隙を突かれて艤装が中破。
結果速力が低下、魚雷はもらうまいと必死に避けているが、砲撃には曝されている。
生かさず殺さずの状況下になったのに気付き、奴らは狩りを楽しむハンターになった。
必死に逃げる私を嘲笑いながら、砲撃をバカスカ撃ってくる。
ーーーーこのままじゃ、済まさない!
私は奴らに更なる一矢を報いるべく、逃げながら様子を窺う。
だがこっちはボロボロで、奴らは私から目を離さない。
残念なことに付け入る余地がないのだ。
夜戦だったならなんて『たられば』を考えてしまうほどに、心に余裕がなくなっていく。
同時に鍛えた体力も底をつき始め、減速した刹那で横っ腹に一発受ける。
痛みと衝撃でよろけ、海面に膝を着く。
若干、身体が沈みだしている気がする。
『ーーーー』
足を止めた私に対して奴らは一斉に砲身を向けてくる、遂にとどめを射す気らしい。
魚雷は、まだある。
一矢報いるために残していた数発。
怖い、けど刺し違えればもう一隻くらい……!
そう思って足に力を入れたつもりだったのに、震えるだけで立てなかった。
……このポンコツッ!!
頬を涙か、血か……温かな液体が伝った。
同時に流れた走馬灯、死は目前。
ーーーー瞬間、爆音。
「え?」
『!?』
頭が事態に追い付いていない。
分かるのは、目の前にいたホ級flagshipとヘ級eliteが同時に爆沈した事だけ。
混乱して呆然とする私の前に舞う影、それは私を颯爽と担ぎ上げる。
ーーーーと、同時に胸の鼓動が速くなった。
そして次に目に入ったのは、離れ行く深海棲艦二隻。
怒り狂った奴らは砲撃したけど、あまりの速さにあっという間に見えなくなった。
何が起こってるのだろう。
目の前で起こった非現実的な事に、私はただただ疑問を浮かべるが答えはでない。
それはその筈、答えは私を担いだ存在しか知らないのだから。
「ふふ、これが『愛』と努力の成果ってやつだな!」
不意に移動が終わり、隣から女の子の声が聞こえた。
なんと言うか、明るくて自信たっぷりって印象がある。
天龍……とは違うかもだけど、聞くだけで安心感が出る声。
ただ、いつまでもこのままって言うのはちょっと……。
「えっと……降ろしてもらって、大丈夫?」
「あっ、うん」
お願いしたら、えらく素直に降ろしてくれた。
ん……もう足に震えはなく、何とか海面に立てるみたい。
だから私は一旦落ち着いて、私を救ってくれた女の子の姿をみる。
身長は私より低いけど、駆逐艦よりは高い。
長く鮮やかなブロンドをサイドテールにし、夕立改二を思わせる紅眼が爛々と輝いている。
紺と白の服の上に真っ白な外套を纏い、黒を基調として赤いラインが入ったミニスカートを履いている。
靴はスニーカーのようなデザインの艤装で、ソックスは派手に星を散りばめた模様だ。
……しかし、何だろうこの既視感?
「そんなにジロジロ見られると、照れるぞ……」
「ハッ、ご、ごめんね!助けてくれた相手に失礼すぎたわ!」
失礼ながら彼女をしばらく観察してしまったけど、お陰で漸く頭が追い付いてきた。
私は沈むはずだった所を、この子に助けられたんだ。
途端に深い感謝の気持ちと共に、速まっていた胸の鼓動が更に速さを増した気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女に出会ってから、私は感情を揺さぶられっぱなしだ。
自分の行動を全面的に認めて嬉しくさせてくれるし、恥ずかしげもなく誉めちぎって照れさせてくるし、とんでもない代物を出して驚愕させてくるし、おまけにそれを軽くポンと渡してくるし。
信頼してくれているのかもしれないし、自分の実力に自信があるんだろうけれど……無防備過ぎて、ただでさえ速い鼓動がなお止まない。
「私、どうしちゃったのかね?」
『ダイジョーブ?』
『キヲシッカリモテ』
『トニカクシンコキュー』
ふと呟いた独り言に妖精さん達が心配してくれる。
アドバイス通り、深呼吸をしたら段々と鼓動が治まってきた気がする。
けどそれは彼女がこの場にいないからだろう。
「クリーブランドって、何者なんだろう?」
『テキ?』
『ミカタ?』
『ドチラデモナイ?』
敵はない、敵ならば私を助けたりしない。
味方ではあると思う、あくまで現状はだけど。
そして、本質的にはどちらでもないんだと思う。
何故そう思うのか……それはきっと右手の薬指に見えた、指輪のせいかもしれない。
ーーーー彼女にも、帰る場所がある。
何故右手の薬指にはめているかは知らないけれど、あれは間違いなく『ケッコンカッコカリ』の証だろう。
そんな彼女がどうしてこの海域に『一人』でいるのか、何処の鎮守府の子なのか……。
謎が多いから、色々心の中で勘繰ってしまう。
「知りたい」
彼女をもっと知りたい。
その強さ、頼もしさ、暖かさ……それは何処から来ているのか。
それはやっぱり指輪のーーーー。
「……知りたくない……あれ?」
そう口にして自分で驚き、困惑した。
矛盾したココロ。
その正体には、この時の私では気づきようがなかったのだった。
第二話投稿から、想定以上に見ていただけていて嬉しい限りです!
ちょっち遅くなりもうした。
許してください!何でも許してください!(傲岸不遜)
今回は兄貴視点では見えないし感じ取れない、川内視点の話でした。
次回は兄貴と川内が並び立つ戦闘となります。
のんびりお待ちくださいませ~