アルドノアメイン回
「諸君らの獅子奮迅足る戦果、実に見事。敵ながら称賛に価する」
「……ザーツバルム伯爵……」
エフイドルグと言えど記憶を保持した存在。それが近い間柄の人物であればなおのこと言葉を聞いてしまう。
「単刀直入に言おう。我々は劣勢を理解している。エフイドルグは殲滅されると見ていいのだろう?」
ザーツバルムのディオスクリアから伊奈帆達の機体へ強制的に通信を入れてきた。
「しかし我々とて再び生を与えられた以上は、それを無駄に散らせる気はない。そして、生前なし得なかった事もある」
溜め息を吐いたのは伊奈帆だった。
「それで?あなた方は降伏してくれるのですか?」
「そのつもりで声をかけた」
「……」
「ただし、これは強制力のあるものだ。故に」
ディオスクリアがエネルギーフィールドを展開し、抜刀。
「戦闘になれば迎え撃ち、人質にするまで」
それに対してスレインが。
「それは火星騎士の教示に反する行為です!」
「やむを得ず、だ。スレインよ」
敵側にも現れたタルシス。その乗り手は勿論クルーテオ。
「……伯爵!」
「やり残したことが山程ある。お主への贖罪。我が息子が結婚した事、居城や領地の安否など」
彼の台詞を遮る鞠戸。
「ふざけんな!俺はその機体、そいつを許せないんだよ!」
鞠戸のアレイオンがデューカリオンを指さす。
「仲間を……親友を殺されてる。いくらエフイドルグの擬物だとしても、目の前に出てきた以上無視できるわけがねぇ!」
「まって下さい鞠戸大尉」
再び伊奈帆が。
「……あなた達は僕らがしようとしている事も把握しているのでしょう?」
「我が君、アセイラム姫殿下の力を借りようと言うのだろう」
驚きもしない。
「僕らがそれを成し遂げれば、あなた方のそれは、動けなくなる。それでも人質に取れると?」
「それは無理だろう。順番が逆なのだよ。我らの無事を確実なものにできればよいのだ。騎士と言えど人、死ぬべきではない現状。そして擬物の命でもこの世に戻れた事を利用すべきだと判断したまで」
「……エフイドルグの複製体である事を受け入れた上で?」
ユキが騎士達に問う。
「当然だな。さぁ選べ。この場で己を通して抵抗し命を落とすか、略式的な人質として我らを受け入れてアセイラム姫殿下の元へ向かうか」
ザーツバルムの台詞に追加するのはクルーテオ。
「……姫殿下の政略結婚については異議があった。我が息子が相手と言えど自らが愛した者と添い遂げてほしかったのだ。そして……」
「横に並ぶべきはスレイン。お前が相応しいと思っている」
「なっ……!?」
スレインが驚愕したのはザーツバルムやクルーテオの台詞だけではない。
伊奈帆が銃口をおろしたのだ。
「……既にセラムさんを利用して裏切った身だ。二度目はないと判断する。」
「そ、それは左目が?」
「いや、僕自身」
スレインが困惑するのを無視して、伊奈帆は。
「この場での戦闘行為は行わない。そしてあなた方は降伏し、機体を降りた上で城の中で待機していてください。下の階層では」
「騎士達のカタフラクトが落ちているのだろう、取り謀ろう」
「えぇ……」
はて、どちらの勝利だったのだろうか。
伊奈帆から見れば火星騎士を降伏させて捕虜にするだろう。
ザーツバルムから見ればこの場で伊奈帆達により安全を確保し、お互いを見逃すことでいい結果を見出だした。
少し考えてからどうでもよくなった。
何よりも、だ。
「さぁ、スレイン。姫殿下の所に向かうのは君だ」
「……君も来てくれ」
「僕が?」
「その、監視役じゃなかったか?」
「まぁ……いいけど」
スレインと伊奈帆が機体を降りると、下にはザーツバルムとクルーテオが。
「姫殿下は既に洗脳から解き放たれている。エフイドルグは無能ゆえに最も強力な鍵を城内に残したまま、この地に来た」
「そして、彼女を救ったのは……竜宮島から響いた歌声だ。彼の者の力は果てしなき何かがあったと言える」
それだけ聞ければ充分だった。
火星騎士達がそれぞれ機体から降りて顔を見せる。
トリルラン伯爵を睨み付ける韻子。
オルレイン伯爵から目を背ける鞠戸。
それぞれ思うところがあったものの、お互いに傷つけあう事はなくその場が収まる形となった。
「アセイラム姫!」
貴賓室の奥には銃を持ったまま固まるアセイラム姫が。
「よかった。元気そうで」
「スレイン……それに伊奈帆さん……!」
二人が並び立ち助けに来てくれた。
その光景に涙を浮かべて頬笑むアセイラム。
「……二人とも……本当に……信じていました……」
アセイラムがスレインに近づこうとすると、彼は一歩退く。
「僕は……自分は、レムリナ姫に忠誠を誓った身です。そしてアセイラム姫殿下をお慕いしていながら、殿下より与えられた銀仮面を外して御身の前に現れた。……あなたのような人が罪人に触れるべきではありません」
スレインの言葉に、伊奈帆が口を挟む。
「罪の償いは、それなりに果たされつつあると思うけど」
「そうですよスレイン。私たちは友人としてこうして再会できた。今はそれを喜びましょう。」
一瞬、伊奈帆とスレインが目を会わせる。
先程のザーツバルムの台詞を思い出したのだ。
「と、とにかく姫殿下。」
「アルドノアを」
「そうですね。では参りましょうか」
数分歩いた先にはアルドノアチャンバー。
アセイラム姫や一部の起動権限を持つ存在がアルドノアドライブを停止させる事が出来る場所だ。
「スレイン。君はどうやって起動因子を?」
「……界塚だって。ましてや君は地球の」
「それより二人とも」
アセイラムが誤魔化すように。
「始めましょう」
アルドノアチャンバー。
かつてスレインが伊奈帆に銃を向けた場所と同じような作りをしている。
「アルドノアドライブからの信号をアナリティカルエンジンを通してナデシコへ。オモイカネから各揚陸城、さらにはジェネシスやエルトリウムに……」
伊奈帆が呟きながら左目に手を当てる。
「お願いします。」
「はい……」
アセイラムが右手を差し出す。
「眠れ……アルドノア!」