「遅い!」
事前に連絡のあった時間より早く黒部研究所の予定場所に到着した伊奈帆とユリカ、エルエルフとキラ、総士。
「手短にお願いね。この後娘達とお寿司なんだから」
白羽所長は苛立たしげに、彼等を迎えた。
「全く、剣之介くん達も一緒に来れば良かったのに」
「ならば早速」
エルエルフが電子端末を開く。
「現在、エフィドルグ製の戦艦を流用した観測によって敵の動きを完全に把握出来ているわけだが」
「あれだけの数で一気に降下されたら守備隊でも無理なのよ」
「その守備隊は全て下がらせてほしい」
「え……」
驚く所長を無視してエルエルフはユリカに視線をおくる。
「えっと、ナデシコで戦闘となるとディストーションフィールドの展開は避けられません。既にGAUSの重力制御に影響が出ることは確認されています」
「歩兵やドワーフも下げてほしい。騎士ユニコーンと太陽騎士ゴッドがいればカクタスの相手には充分余裕がある」
「つまりその……」
「研究所から職員全員を退避させる事をすすめる」
数分後に、ユリカはエルエルフと話す。
「あんな言い方で良かったのかな……」
「あれでいい。責任感が強い相手を逃がすには、足手まといとハッキリと理解させてやるのが一番だ。それに」
「籠城戦をするつもりはないものね。揚陸城が落下する場所にわざわざいる必要もないから」
コーヒーを飲み干して、エルエルフはユリカに尋ねる。
「今作戦、勝率は?」
「……四割……かな」
ムエッタと小春が風呂から出ると、ムエッタは満足気に由希奈に声をかけた。
「小春、随分と育ったな」
「まあね。育ち盛りだし」
一息入れてから。
「私と剣之介……身体的成長って無くなってるんだよね」
「ソフィーと茂住もな。死ななければいくらでも長生きできる」
「でも小春とか、他の人達とは同じ時間を過ごせない」
ムエッタは黙りオルガの顔を思いだす。
「我々だけではあるまい」
二人の会話が聞こえていた剣之介が加わる。
「ヴァルヴレイヴ隊とは同じ時間を過ごせる。騎士どの達はどうかは知らぬが……あまり悲観するのはやめた方がいい」
話していると、玄関の方から話し声が。
「お母さんかな?」
「寿司ではないのか?」
「……」
ムエッタは先程の会話を深く考える事になった。
「あなた達お帰りなさい。元気に帰ってくれたのが何よりの救いよ」
白羽洋美が娘を抱き締める。
「剣之介くんもムエッタも、よくぞ戻ったわ」
「ご心配をおかけした」
「また会えて嬉しい」
一通り挨拶を済ませて、茶の間に腰を落ち着かせる。
「で、彼方達。結婚する気なんでしょ?」
剣之介と由希奈がお茶を吹き出す。
「ちょ、お母さん!」
「だって茅原くんの動画は世界中に配信されてるのよ?」
「あ……うん」
すると意を結して、剣之介が姿勢をただす。
「御母堂、由希奈を我妻に迎え入れたく……つきましてはその許しを」
「別にいいわよ?」
あっさりとし過ぎていて、思わず固まってしまう。
開いた口が塞がらない剣之介は姿勢をただす事もなく、土下座のまま動けない。
「やっと寿司が来たのう」
届いた寿司をテーブルに置く和尚と、小皿と箸を並べる小春。
「由希奈」
「あ、はい」
「お醤油」
「……いやいや、親子の一大イベントだよ!?もっとこう……」
「神妙に剣之介くんを試して意地悪した方がよかった?」
小声で「うっ」と声をあげてしまう剣之介の横で、由希奈は溜め息をつく。
すると洋美は。
「何年も前から家族じゃない。そりゃあ高校生の頃に通信で求婚は皆で聞いてたけど」
「それは掘り返さないでほしかった……」
「とっくに認めてたし許してたわ。今更騒いでたら、それこそ私が世界中から大ブーイングの的よ」
話ながらそれぞれがムエッタの表情に気づいていた。
「なんだこの美しい食べ物は……」
目を輝かせていたムエッタは、その数分後にワサビという洗礼を受けることになった。