問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ? 作:嘉多華
六人と一匹は暖簾の下げられた店前に移動し、耀は一礼した。
「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」
「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むものだもの」
「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」
「あはは、三人とも諦めないねえ」
「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。・・・・・・ところで」
白夜叉は微笑を浮かべるがスっと真剣な表情でイオ達を見てくる。
「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」
「ああ、名前と旗の話か? それなら聞いたぜ」
「なら、“魔王”と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「・・・・・・では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」
黒ウサギはドキリとした顔で視線をそらす。もしコミュニティの現状を話さない不義理な真似をしていれば、自分はかけがえのない友人を失っていたかもしれない。
「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」
「“カッコいい”で済む話ではないのだがの………全く、若さゆえのものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」
予言するように断言された耀と飛鳥は言い返そうとするが言葉が見つからないのか、それとも同じ元魔王の白夜叉の威圧感に黙ってしまう。
「あれ、僕には言ってくれないの?」
「おんしはなんというか、殺しても死ななそうな雰囲気がするからな」
「あらら、まるでゾンビみたいだねそれ」
呆れたように返す白夜叉の言葉に苦笑を返す。
改めて白夜叉は飛鳥と耀の二人に告げる。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力をつけろ。小僧と、その少女はともかく、おんしら二人の力では生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」
「ご忠告ありがとう。肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のギフトゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」
「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。・・・・・・ただし、黒ウサギと依桜をチップに賭けてもらうがの」
「嫌です!」
「OK! のぞむところだよ!」
「望まないでください!」
楽しそうに了承するイオ。よほど気が合ったらしく、この短時間に白夜叉とこんな冗談を言い合える中になるとは黒ウサギも予想していなかった。
白夜叉は拗ねたように唇を尖らせた。
「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ? 三食首輪付きの個室も用意するし」
「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから! って、十六夜さんもイオさんも『その手があったか!?』という顔しないでください!?」
「待ってて、白夜叉! 僕が絶対に実現させて見せるから!」
「させませんよ!?」
怒る黒ウサギに笑うイオ、十六夜、白夜叉。そのまま一行は無愛想な女性店員に見送られながら“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇外門支店を後にした。
白夜叉とのゲームを終え、“サウザンドアイズ”の支店から半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。その門を見上げると、コミュニティの旗は掲げられていなかった。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この浜辺はまだ戦いの名残がありますので………」
「戦いの名残? 噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
先程の一件により機嫌が悪い飛鳥。プライドが高い彼女からしてみれば見下された事実が気に食わなかったのだろう。まあイオからしてみれば自分の実力を正しく把握できていない時点で白夜叉と同意見なのだが。
しかし、イオの機嫌はそれ以上にわるかった。
(ノーネーム、廃墟という言葉。それじゃあ、まるで)
躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。すると、門の向こうから乾いた風を感じた。砂塵が舞い、視界を遮る。微かに見える景色は―――廃墟同然の荒れた大地だった。
「っ、これは………!?」
その景色を見た瞬間、イオの頭の中ではかつての自分の生まれ育った場所の光景と重なって見えた。
最悪な過去を思いだし、イオの表情はすぐさま真っ青に染まり、ガタガタと体が震え出す。幸い、イオは他の四人の後ろに居たため彼女の変化には誰も気付いていない。
込み上げてくる吐き気を必死に我慢して息を殺す。
街並みに刻まれた傷跡をみた飛鳥と耀が息を呑んでいるのが分かる。十六夜はこの光景にスっと目を細めながら木造の廃墟に歩み寄り、囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと残骸は音も立てて崩れていった。
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは――――今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」
十六夜の言う通り“ノーネーム”の街並みは何百年の時間が経過して滅んだように崩れ去っているのだ。とても三年前まで人が住んでいたとは思えない程の有様だ。
「・・・・・・断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
十六夜はあり得ないと言いながらも目の前の廃墟に心地よい冷や汗を流している。
飛鳥と耀も廃屋をみて複雑そうに感想を述べた
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「・・・・・・生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
二人の感想は十六夜よりも重く感じた。
黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
大がかりなギフトゲームの時に、白夜叉見たくゲーム版を用意するのはこれが理由だ。
力のあるコミュニティと魔王が戦えば、その傷跡は醜く残る。魔王はそれを楽しんだのだ。黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進んでいく。飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続いていく。
だが、十六夜だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。
「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
十六夜がそうつぶやいた瞬間、イオの中で何かが壊れる音がした。
(今こいつはなんていった? 面白い? これが、私《・》が過ごした故郷が、面白い!?)
それまで必死で耐えていた、心の中にたまった不安。それを必死に隠すためにもできるだけふざけたキャラであり続けてきた。
後悔、不安、絶望、悲しみ。そういった様々な負の感情が、過去の思い出と共に浮かび上がりイオの心を支配していく。
「面白い? これが? この程度の惨状がなんだっていうの? こんなのその気になれば平気で人は生きていけるじゃない。ふざけたこと言わないでよ!?」
突然喚きだすように叫ぶイオ。
黒ウサギは自分たちのコミュニティの惨状がこの程度、なんて評価をされたことに怒りを感じ、後ろを振り返る。
「いくらなんでも、そんなことを言わないでくだ―――っ!?」
何も知らないくせに勝手なことを言うイオに抗議しようとするも、彼女のその尋常ではない表情に戸惑い、何も言えなくなる。
今までの明るく、楽しそうにニコニコと笑顔を浮かべ続けていた彼女の姿はそこにはなかった。今にも倒れるのではないかと心配になるぐらいに真っ青な顔で、その瞳は焦点があっていないのか激しく揺らめいていた。
「じゃあ、あんたは生きるために人を殺したことがあるの!? たった一欠けらのパンを手に入れるために、毎日毎日ゴミの中を漁ったことがあるの!? 自分が殺した死体を売り払って一食分にも満たない食事を手に入れたことがあるの!? 生きるために常にだれかに殺されないように夜もろくに眠らずにおびえ続けたことがあるの!?」
錯乱状態のまま、誰に言うでもなく吐き捨てるように次々と叫び続ける。
それを十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギの四人はただ茫然と見つめることしかできなかった。たった数時間の付き合いだけで彼女の事がどれだけ知れたのかはわからないが、少なくとも彼女がこうなることなど誰も予想だにしていなかった。
どんな時でも笑顔で楽しそうにしていた彼女と同一人物とは思えなかった。
そんな中をイオはただただ心が告げるままに叫び続ける。
「あの場所に比べたらこんな光景、全然ましだよ。少なくとも、誰かに殺されるんじゃないかなんて考えなくて済む。あの場所がここと同じだったなら、僕は、私《・》は―――!?」
最も心の奥深くにある、今までの中で最も最悪な事実。どんなに後悔しても、あまりにも遅すぎた現実。彼女をここまで追い詰めた原因にもなったそれは―――
「―――私は、お父さんを殺さずに済んだのに!?」
父親殺し。生きるために、生き残るために絶対に越えなければならなかった、彼女にとっての最大の罪。あの時の自分では気づくこともできなかった罪。
この世で最も愛した父親を、自分の手で、自分の意志で―――殺したこと。
「―――っ、イオ!」
「な!?」
飛鳥は気づいたら、イオの頬を叩いていた。ほかの三人がそれを見て慌てる。頬を叩かれたイオは、かつてのようにその眼に殺気を込めて飛鳥を睨み付けようとする。
「っ!?」
「もう、いいわ。もう大丈夫だから」
殺気を叩きつける前に、イオは飛鳥に抱きしめられていた。
子供をあやすように、優しい手つきで背を撫でられる間隔。自分を優しく包み込んでくれる温もり。母親に抱きしめられたならこんな感じなのかな、と母親のぬくもりを知らないイオは思った。
飛鳥はイオが完全に落ち着くまでずっとそうして抱きしめ続けていた。
イオちゃんのもといた世界についての話はすでに考えてあるのですが、個人的にかなり暗すぎるし、かなり残酷な描写やちょっとした性的な描写がほんの少しあるので、ここで書いていいものなのか迷っています。
R-18指定にしたほうがいいのかなぁ?