問題児たちと《偽物転生者》が異世界から来るそうですよ?   作:嘉多華

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間に合わないかと思いましたが、何とか書き終えることができました。
今回は作者お待ちかね、お風呂シーンですよ!
イオちゃんのちょっとした素顔もお披露目しちゃいますよ?


第11話 お風呂、そしてガールズトーク

 屋敷についた頃には既に夜中になってしまった。月明かりのシルエットで浮き彫りになる本拠はまるでホテルのような巨大さである。耀は本拠となる屋敷を見て感嘆したように呟く。

 

「遠目から見てもかなり大きいけど・・・・・・近づくと一層大きいね。どこに泊まればいい?」

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住むことになっておりますけど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ」

 

「そう。そこの別館は使っていいの?」

 

 飛鳥は屋敷の脇に立つ建物を指さす。

 

「ああ、あれは子供達の館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備の問題でみんな此処に住んでます。飛鳥さんが一二〇人の子供と一緒の館でよければ」

 

「遠慮するわ」

 

 飛鳥は即答した。苦手ではないけれど、大人数を相手にするのは御免なようだ。

 

「おい、イオ。オマエは向こうでいいんじゃねえか?」

 

「む、それはどういう事かな十六夜君。僕が子供っぽいとでも言いたいのかな?」

 

 茶化してくる十六夜に少しむっとなって言い返すイオ。十六夜はハッ、と鼻で笑い、

 

「ぽいって言うか、そのまんまだろ?」

 

「もう、ひどいな。十六夜君は」

 

 そう言って二人して笑いあう。まだ少しだけ無理をしているところのあるイオのために、ジンに発破をかけた時と同じように、こうやって茶化しを入れて空気を換えてくれようとしてくれるあたり、十六夜は軽薄な見た目と違うところがある。

 

 不器用とでもいうのか、それが彼の素なのかは分からないが、イオには十六夜の優しさにも似たその態度を割と気に入っていた。

 

 イオ達四人は箱庭やコミュニティの質問などはさておき、『今はとにかくお風呂に入りたい』という強い要望の下、黒ウサギは湯殿の準備を進める。

 

 しばらく使われていなかった大浴場を見た黒ウサギは真っ青になり、

 

「イ、イオさん! ちょっと手伝ってください!」

 

「へ? ちょ、ちょっと、ウサギちゃん!? どうしたの!?」

 

 と叫びイオの手を掴んで中に入っていった。

 

 黒ウサギに連行されていくイオの姿を見ながら三人は思った。きっと、それはもう凄惨なことになっていたのだろうなと。

 

 掃除自体は水路を治したのと同じイオのマジックですぐに終わったが、お湯を張るのに時間がかかると言う事で、四人はそれぞれにあてがわれた部屋を一通り物色し、イオだけちゃっかり荷物の片づけを一瞬で終わらせたりした後、来客用の貴賓室に集まった。

 

『お嬢・・・・・・ワシも入らなアカンか?』

 

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」

 

「ま、さすがに動物と同じお風呂に入る訳にはいかないから、さっきついでに三毛猫用に新しいお風呂も作っておいたよ」

 

『お、ホンマかそれ? それは助かるわ』

 

「三毛猫がありがとうだって。私からもありがとう、イオ」

 

「うんうん。どういたしまして♪」

 

 二人と一匹の会話を見ていた十六夜が呟く。

 

「・・・・・・ふぅん? 聞いてはいたけど、オマエは本当に猫の言葉がわかるんだな」

 

「うん」

 

『オイワレ、お嬢をオマエ呼ばわりとはどういう事や! 調子乗るとオマエの寝床を毛玉だらけにするぞコラ!』

 

「駄目だよ。そんなこと言うの」

 

 傍目にはニャーニャーとしか聞こえない猫の声に耀は反応する。その様子は傍目から見ると不気味にも見えた。飛鳥は聞きにくそうに質問する。

 

「出過ぎたことを聞くけど・・・・・・春日部さんに友達ができなかったのはもしかして」

 

「友達はたくさんいたよ。ただ、人間じゃなかっただけ」

 

 それ以上の詮索を拒否する声音に、飛鳥は口を塞ぐ。

 

(ふーん。ていうことは耀の友達で人間なのは飛鳥だけってことなんだ・・・・・・これ知ったら二人はどう思うのかな?)

 

 一人心配になるイオ。この二人なら、彼女の本当の事を知っても友達でいてくれるかもしれないが、それでも少なからずショックを受けることだろう。十六夜に関しては何となくイオが普通の人間じゃないことに感づいているような節があるが、いかに彼とてそれを正確に把握してはいないはず。

 

 隠している秘密のどこまでを話すべきで、どこまでを話さないべきなのかの線引きに、イオは悩んでいた。

 

(ま、おいおい少しずつ明かしていけばいいよね)

 

 結局いつものように先延ばしにする結論に至ったところで、廊下から黒ウサギの声がした。

 

「ゆ、湯殿の準備が出来ました! 女性様方からどうぞ!」

 

「先に入らせてもらうわよ、十六夜君」

 

「俺は二番風呂が好きな男だから特に問題はねえよ」

 

 女性三人はまっすぐに大浴場に向かう。貴賓室にはイオと十六夜の二人になり、

 

「―――それじゃ、外《・》の《・》事《・》は頼んだよ」

 

「ああ、任せておけよ。話はつけておいてやる」

 

 それだけ言い合い、イオも大浴場に向かうのだった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 

 女性四人は大浴場で体を洗い流し、湯に浸かって寛いでいた。大浴場の天井は箱庭の天幕と同じらしく、夜空には満天の星が見える。

 

 黒ウサギは上を向き、長い一日を振り返るように両腕を上げて背伸びしていた。

 

「本当に長い一日でした。まさか新しい同志を呼ぶのがこんなに大変とは、想像もしておりませんでしたから」

 

「なに? それって僕に対するあてつけか何か?」

 

「め、滅相もございません!」

 

 バシャバシャと湯に波を立て否定する黒ウサギ。耀は隣でふやけた様にウットリした顔で湯に浸かり、そのままの顔で呟いた。

 

「このお湯・・・・・・森林の中の香りがして、すごく落ち着く。三毛猫もゆっくりしてるかな?」

 

 三毛猫は、イオが作った特製のお風呂に入っているのだが、あいにくここからは見えない位置にある。猫とはいえ、男である三毛猫のためにとイオが気を使ったのだ。

 

「そうですねー。水樹からあふれた水をそのまま使っているので三毛猫さんも気に入っていると思います。浄水ですからこのまま飲んでも問題ありませんし」

 

「うん。・・・・・・そういえば、黒ウサギも三毛猫の言葉が分かるの?」

 

「YES♪ “審判権限”《ジャッジマスター》の特性上、よほど特異な種でない限り黒ウサギはコミュニケーション可能なのですよ」

 

 そっか、と耀は返事する。ちょっぴり嬉しそうだったのは気のせいではないだろう。

 

 飛鳥はつやのある髪を纏めなおし、夢見心地で呟く。

 

「ちょっとした温泉気分ね。好きよ、こういうお風呂」

 

 右手を上に伸ばし、左手でそれをさする。それだけで素肌が綺麗になる錯覚があった。

 

「水を生む樹・・・・・・これもギフトなのよね?」

 

「はいな。“ギフト”は様々な形に変幻させることができ、生命に宿らせることでその力を発揮します。この水樹は“霊格の高い霊樹”と“水神の恩恵”を受けて生まれたギフトでございます。もしも恩恵を生き物に宿らせれば、水を操ることのできるギフトとして顕現したはずデス」

 

「水を操る? 水を生むのではなく?」

 

「それもできなくはないですが、霊樹みたく浄水にするのは難しいです。それに水樹は無から水を生むのではなく、大気中の水分を葉から吸収して増量させているのが正しい解です。完全な無から有限物質を生むとなると、それこそ白夜叉様や龍ぐらい自力がないと」

 

「うんうん。普通はそうだよねー。簡単に見えて実はかなり高難度だし」

 

 水芸~と言いながら、人差し指から水を出すイオ。跳ねてくる水の冷たさから、それが確実にお湯ではないことが分かる。

 

 続けて片手の指すべてから水を出し、両手を合わせてかなりの威力の水圧を生み出して、水鉄砲と叫びながら風呂場の桶を次々と打ち抜いていく。

 

 その姿を見て、黒ウサギははぁとひとつため息をし、不思議に思った飛鳥が黒ウサギに質問する。

 

「あら、もう驚かないのね?」

 

「はい。正直もう、イオさんならいまさら何ができたとしても驚きませんよ」

 

 これだけたくさんのものを見せつけられれば、と最後に黒ウサギは呟いた。それには飛鳥と耀も同感だった。たった半日ほどしか一緒に行動していなかったが、その間に散々予想外のものを見せつけられたのだから、いまさら無から水を生み出したところで驚きはしない。

 

 指水鉄砲で遊んでいるイオを横目に満天の空を見上げながら、飛鳥はふっと思いついたように呟く。

 

「龍、ね・・・・・・それもギフトゲームで手に入れたの? 龍のゲームはどんなゲーム?」

 

「そ、それは流石にわかりかねます。黒ウサギがコミュニティに入ったころには既に台座に飾られていましたから」

 

「あら残念。明日のギフトゲームの参考にしようと思ったのに」

 

「まさか! “フォレス=ガロ”がそんなたいそうなゲームを用意することなど不可能でございますよ。相手のコミュニティの存続がかかったゲームですから、得意分野の“力”を競うものになると思いますが、飛鳥さん達なら問題ないでしょう。よほど運に頼ったゲームでない限りは心配無用です」

 

 杞憂だと笑い飛ばす黒ウサギの言葉に、飛鳥がとたんに嫌な顔をして聞き直す。

 

「運に頼り切ったゲームなんてあるの?」

 

「YES! ギフトゲームもピンキリですから。純粋な“運気”を試すギフトゲームはあまたに存在します。代表的なのはサイコロを使ったゲームでしょうか?」

 

 そこまで言って、二人はふと思い至る。二人でまだ水鉄砲で遊んでいるイオを振り返り、

 

「・・・・・・うにゅ?」

 

「「彼女がいれば絶対に勝てそう」」

 

 二人同時に呟き、複雑そうに顔を歪める。運に任せるようなゲームのはずなのに、イオがいるだけでなぜか負ける未来が予想できない。そんな決闘、華がないにも程がある。

 

「ギフトゲーム、か。私は楽しければそれでいいと思ってたのにな。コミュニティの事を思うと無茶はできないわね。春日部さんはどう思う?」

 

 話題を耀に振る飛鳥。何の話? とすり寄ってくるイオの事はとりあえず黒ウサギに押し付けている。

 

 すっかり湯船でふやけていた耀はハッとして答える。

 

「私はとにかく勝てればいいと思う。勝てば私たちも楽しい、コミュニティも嬉しい。一石二鳥」

 

「耀さんの言う通りでございます! ゲームを楽しむのは一流のプレイヤーの条件ですよ」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

「ねえねえ、さっき僕を見て何の話してたの~?」

 

 飛鳥はフォレス=ガロのギフトゲームを無償で引き受けたことを、今になって気にしていた。“全財産を賭けろ”とでも吹っかけておけばよかったのだ。

 

 黒ウサギはなおも縋り付いてくるイオを押し放しながら、話題を変えるように二人に近づく。

 

「ところでところで御二人様。こうして裸のお付き合いをしているのですし、よかったら黒ウサギも御二人様の事を聞いてもいいですか? ご趣味や―――故郷の事などナド」

 

「「!?」」

 

 飛鳥と耀の二人は、大変なことを口走った黒ウサギに驚愕する。

 

「ちょっと、黒ウサギ! なんてことを言い出すのよ!」

 

「無神経すぎる」

 

「へ? いったい何のこと――あっ!」

 

 黒ウサギもそこで思い出す。

 

 故郷の事。それは今この場所、特にイオの目の前で基地にするべきではないk賭場だった。つい先ほど、“ノーネーム”の惨状を見て錯乱したイオの言葉から、あれはきっと彼女の故郷を思い出してのこと。それなのに、自分は無神経になんてことを言ってしまったのかと動揺する。

 

 別に黒ウサギも忘れていたわけではない。ただあの後のイオの姿があまりにも普通だったため、一瞬気が抜けてしまっていた。

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの、イオさん?」

 

 縋り付いた状態で静かにうつむいてしまったイオにどうやって声を賭ければいいものかと悩んでしまう。すると、

 

「えい」

 

「なぁ!?」

 

 今まで俯いていたイオが、突然顔を上げて黒ウサギの胸を鷲掴みした。驚いた黒ウサギは慌ててイオから飛び退く。

 

「突然何をするのですか!?」

 

「おお、予想以上にすごい感触だよ・・・・・・」

 

 真っ赤になって抗議する黒ウサギを無視して、感触を確かめるようにわしわしと手を動かすイオ。予想外の反応に飛鳥と耀も驚きを隠せなかった。

 

 そんな三人の顔を一度見まわしたイオは、

 

「あっはっは、別にそんなに気にすることないよ、みんな? 僕はもう大丈夫なんだから」

 

 そう言ってイオは飛鳥を振り返り、ウインクする。

 

「飛鳥のおかげでね♪」

 

 今までの子供のような態度とは一転して、どこか大人びた表情で微笑んでくるイオに飛鳥は照れてしまう。そんな飛鳥にイオは続けて言った。

 

「でも、次は絶対にあんなことしないでね?」

 

「え?」

 

 何を言い出すのかと不思議に思う三人。

 

「次、ああいった状態になった僕にはみんな絶対に攻撃はしないこと。できれば近づくこともしないでほしいんだけど、それは言っても無理そうだしね」

 

「ど、どうしてそんなことを言うのかしら?」

 

「どうしてって、それは―――」

 

 そこでイオは言葉を切り、

 

「―――もしかしたら次は、殺しちゃうかもしれないからね」

 

 今まで見たことないような冷たい笑みで、そう言うのだった。

 




という訳で、ほとんど一話ますまるお風呂で使い切りました。
どうしても無邪気に遊ぶイオちゃんを書きたい! という思いから、寝る前に何とか書き上げて見せましたよ。
次回は作者が思う第二の主人公である、ジン=ラッセル君と十六夜君の話です。
お楽しみに~!
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